第28回 東京国際映画祭「歌舞伎座スペシャルナイト」

歌舞伎座 スペシャルナイト

第28回 東京国際映画祭「歌舞伎座スペシャルナイト」

東京国際映画祭では、昨年から東京・東銀座にある歌舞伎座で「歌舞伎座スペシャルナイト」と銘打ったイベントを開催している。2回目となる今年は、第2回SAMURAI賞授賞式をはさみ、最初に片岡愛之助による歌舞伎舞踊「雨の五郎」の上演、最後は黒澤明監督の白黒映画「虎の尾を踏む男達」を上映した。

SAMURAI賞授賞式
吉永小百合もサプライズゲストで祝福!

SAMURAI賞授賞式

「SAMURAI賞」は、新しい映像表現を切り開いてきた映画人の功績を称えるもので、今回の受賞者は山田洋次監督と香港のジョン・ウー監督。
山田監督は「東京国際映画祭には第1回から参加している。今回素晴らしい賞をいただき、光栄に思っている」といいつつも、「僕はSAMURAIのような勇ましいものは撮ってこなかったので、ジョン・ウー監督の方がふさわしいんじゃないか。心からお祝いしたい」と、アクション映画を持ち味とするウー監督にエールを送った。
そのウー監督は、「私はある時期世界中の映画、ことに日本の映画を勉強しまくりました。ことに日本の映画には素晴らしいものが多い。今回は最も尊敬する日本映画の師と一緒に受賞でき、本当にうれしい」と山田監督を讃え「愛や人間性こそ映画の普遍的なテーマ。これからの全人生も、映画にささげたい」と語った。

そこへ、二人の受賞を祝うために駆けつけたサプライズゲストの登場!
1人目は「るろうに剣心」シリーズなどの大友啓史監督。ウー監督の大ファンであるとともに、アメリカに留学時代「僕も映画をつくりたいんです」と声をかけたときウー監督が「まずはいい脚本を書きなさい」とアドバイスを受けたエピソードを披露。ウー監督も大友監督に「いい映画監督になってくれてうれしい。これからもたくさん映画をつくってください」と微笑み合った。
2人目は吉永小百合。12月12日公開の最新作「母と暮せば」で、山田監督作品への出演は5作目となる。「私にとっては山田学校の校長先生であり、人生の師匠。撮影の合間にいろいろなお話を楽しくしていただき、映画のこともそうですが、社会のこととか、歴史のことなどもひとつひとつ心に残って、監督についていこうと思わせてくれます。いつまでも山田学校の生徒でいたいです」と思いを述べた。
山田監督も、「吉永小百合さんは一緒にいると、大事なことをちゃんと言わなきゃいけない、ウソをついちゃいけない気持ちにさせられる。だから、ついつい一生懸命、いいことを言っちゃうんですよ」と顔をほころばせた。
 

歌舞伎舞踊「雨の五郎」
愛之助が力強く、華やかに登場!

片岡愛之助

SAMURAI賞授賞式に先立ち、片岡愛之助が歌舞伎舞踊「雨の五郎」を披露。昨年(第一回)の市川染五郎の次に起用された愛之助は会見で「東京国際映画祭とのコラボで踊らせていただき、役者みょう利に尽きます。今回は海外の方、初めて歌舞伎をご覧になる方が多いと思い、いかにも歌舞伎というイメージと、言葉が難しいので見て分かりやすいものをという思いで『雨の五郎』を踊りました」と語った。
蛇の目傘を差した曽我五郎は、白塗りにきっぱりとした隈取が鮮やかで、たった一人舞台に立つだけで劇場中が華やいだ。恋する人に思いをはせるしっとりとした踊りもあり、二人を相手に豪快な立ち廻り(殺陣)もあり、もちろんクライマックスでは大きく見得を切り、小品ながら見どころ満載だった。「言葉の壁はあるかもしれないけれど、歌舞伎座にはイヤホンガイドもあるし、そんなに難しいものではないんです。また、座る席によって舞台が違って見えるので、1階、2階、3階、あるいは正面、横、と場所を変えて、何度も御覧になってください」と日本の伝統芸能である歌舞伎をアピールした。

 

映画「虎の尾を踏む男達」
黒澤明監督が歌舞伎「勧進帳」を映画化したら、どうなるか!?

虎の尾を踏む男達
「虎の尾を踏む男達」  ©1945 東宝

その愛之助も「歌舞伎を見たことがない方でも楽しめます」とわかりやすさ、面白さを強調した黒澤明監督の映画「虎の尾を踏む男達」は、歌舞伎の「勧進帳(かんじんちょう)」をベースにした白黒映画だ。1945年9月、終戦からたった1カ月という時期に作られたこの映画は、GHQ(アメリカの進駐軍)の検閲により上映がいったん却下されたが、同じ占領軍として来日していたアメリカ人でも日本の芸術に理解のある人々が尽力して公開成ったという歴史的にも国際交流や芸術理解にとって意義深い作品だ。今回はニュープリントの35ミリで上映した。

「和製ミュージカル」「コメディ」などと説明されることもあるが、映画ならではのテクニックを使いつつ、みどころである、弁慶が白紙の巻物を見ながら勧進帳を読む場面や、弁慶と富樫が丁々発止で問答を切りこみ合う「山伏問答」の場面などは、舞台そのままに様式美を残し、歌舞伎を見慣れた人間にもまったく違和感がない。一方で歌舞伎には出てこない「本物の合力(ごうりき)=荷物持ち」を狂言回しとして登場させ、庶民の目、つまり何もわからない私たち観客の目で状況を説明させている。この役を演じているのが名コメディアンのエノケン、榎本健一だ。エノケンの表情豊かな演技は外国人の観客にも大うけで、字幕がつかない場面でも、彼の一徒手一投足に笑い声が響いていた。
緊迫感を増幅させる大胆なモンタージュは今見ても斬新で、映画としての芸術性は高い。また、「マクベス」を「蜘蛛の巣城」に、「リア王」を「乱」に、とシェイクスピア作品を翻案して映画化した黒澤らしく、幻想的なラストシーンは「リア王」や「テンペスト」を思わせ、抒情豊かに余韻を味わうものとなっている。
弁慶が仏法を唱えるシーンでは、両手で結んだ印がラグビーの五郎丸選手の手の形を思わず連想させ、脈々と流れる日本の文化の永遠性さえ感じられる特別な夜となった。

映画作品情報

原題:「虎の尾を踏む男達」
監督/脚本: 黒澤 明
製作: 伊藤基彦
出演: 大河内傅次郎、藤田進、榎本健一
1945年 / 日本 / 58分 日本語 モノクロ
配給: 東宝株式会社
©1945 東宝

[記者: 仲野マリ/スチール撮影: Tomoyuki Uchida]

この記事の著者

仲野 マリ

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

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