映画『スティルライフオブメモリーズ』永夏子 インタビュー
【写真】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』永夏子インタビュー

映画『スティルライフオブメモリーズ』
永夏子 インタビュー

その場に生まれたものを大事にする現場に自然に飛び込みました。

矢崎仁司監督最新作『STILL LIFE OF MEMORIES(スティルライフオブメモリーズ)』が7月21日(土)より全国の劇場で順次公開されている。

安藤政信が演じる主人公、春馬は新進気鋭の若手写真家。彼の写真展を見た女性からある撮影を依頼され、次第にその撮影にのめり込んでいく。その依頼とは、自分の性器を撮ってほしいというものだった。

この日本映画史上初のスキャンダラスなテーマは、女性器を様々なアングルからクローズアップで2000枚も撮影したことで知られているフランスの画家・写真家アンリ・マッケローニと自らを撮らせ続けた彼の愛人が過ごした2年間に触発されて企画された。それを矢崎仁司監督が気品漂う映像美で描いた。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』メインカット

春馬に自分の性器を撮るよう依頼する女性、怜を演じた永夏子さんに出演のきっかけや作品への思いを聞いた。

―― 本作に出演することになったきっかけをお聞かせください。

キャスティングプロデューサーの斎藤さんが私の出演する舞台を観に来てくださって、終演後に「映画のオーディションがあるのですが、いかがですか」と声をかけてくれました。監督がどなたかなど詳細をうかがわないまま、「やります」とお返事しました。

【写真】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』永夏子インタビュー

―― 演じられた怜は主人公の春馬に自分の性器の撮影を依頼します。戸惑いやためらいはありませんでしたか。

まったく知らないままオーディションを受けに行き、そこで「ヌードのシーンがあるので、それができる女優さんを探しています」と説明を受けました。私はもともと矢崎監督の作品が大好きで、その矢崎監督の最新作のヒロインオーディションです。「ヌードが必要であれば」と自分の中で自然な流れで受け入れ、戸惑いはなかったです。

女優という仕事に人生を掛けると選択した以上、いつかはヌードになる話があるかもしれない。そう思っていたので、「親に何と言おうかな」ということはありましたが、自分が大好きな監督の下でやらせていただけるのであれば、絶対出たいという気持ちでした。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― オーディションではどのようなことをしたのでしょうか。

矢崎監督のアトリエ的作業場に女優が一人一人順番に呼ばれて、面接のように話をしました。監督のほかに助監督さん、カメラマン、プロデューサーなどのスタッフの方もいました。グループで入って、カメラが回っている中で「よろしくお願いします」みたいな、よくあるオーディションではありませんでした。

そのときの気持ちはドキドキよりワクワク。もちろん緊張はしましたけれどね。自分をPRするのではなく、一つ一つの時間を心に刻む気持ちでした。

最終的に松田リマさんと2人でオーディションを受けました。紙に書かれたリマさんが演じる夏樹と私が演じる怜のシーンを渡されましたが、前後の情報がなく、ボートに乗り合わせて会話しているというもの。夏樹は春馬の彼女、怜は撮影の依頼者という設定は2人とも分かっていたので、女同士の探り合い、嫉妬といった雰囲気のシーンかと思って、ちょっとピリッとした空気でお芝居を進めました。すると監督が、「違う、違う。このボートの上はとっても心地がいい空間なんです」とおっしゃったのです。リマさんと私は「気持ちいいってどういうことなんだろう」とキョトンと顔を見合わせてしまいました。

実際にそのシーンを撮影したとき、ボートの上は本当に心地がいい空間でした。監督が考えている夏樹と怜を体現でき、そのシーンが完成したと思えました。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― 怜は地味な印象でしたが、永さんは華やかな雰囲気をお持ちですね。今日、お目にかかったとき、ちょっとびっくりしました。

私は髪型やメイク、服装で気づかれないくらい印象が変わります。「この役、永さんだったの?」といっていただくことも多い。役者というのはインパクト勝負みたいなところがあります。自分にはキャラがない、覚えにくいなど、それが一時期とてもコンプレックスでしたが、いろいろな役をやらせていただく中で、これが自分の強みだと思えるようになりました。

今回の作品でもたくさんの取材を受けていますが、毎回、印象が違っているかもしれません。あえてやっているわけではないのですが、それが役に活きるといいなと思っています。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― 役作りはどのように行ったのでしょうか。

ロングのトレンチコートにサングラス、ロングヘアーをなびかせて、妖艶な感じで春馬を惑わすミステリアスな女。監督が初めにイメージしていた怜です。

矢崎組は衣装合わせで、役者が自分の私服を全部持ってきて、監督に見せるのが恒例とのこと。「怜が着ないだろうと思う服でもいいから」と言われ、大きいガラガラ3つくらいにカジュアルからワンピースまで掛けて持っていき、監督やスタッフに着て見せました。「これは違う」、「これは近い」など、衣装合わせやディスカッション、台詞合わせをしながら監督も一緒に怜はどういう人なのかを考えて、作っていきました。

クランクインの3日くらい前のことです。監督の中で何かが閃いたのでしょう、「髪を切ろう」、「眼鏡をかけよう」とおっしゃったのです。その場でヘアメイクさんがクロスをかけて、切ってくれたのですが、監督が「もうちょっと短く」、「ちょっとこっち側が重い」など細かい指示を出して、あえて長さがバラバラ。そういう経緯があってあの怜のルックスができあがり、本番では最初の設定とはまったく違う怜になっていました。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― 性器はお母さんとの繋がりの象徴のように感じました。

性器は自分が母から生まれてきたときの通り道。それが自分にもついている。でも、自分の性器をまじまじと見ることはない。性器は自分探しの象徴でもあったと思います。性器に執着してアンリ・マッケローニに興味を持ったのも多分、そういう特別な思いがあったのでしょう。美術館のキュレーターをしているのも、本当は自分がアーティストになりたかったけれど、自分には母に勝るような才能がない。それでも美術に携わっていたいからではないかと思いました。

―― 母親と怜の関係について、永さんはどう思われますか。

監督は正解を提示されない方。そこについてあまり教えてくださらない。母親と確執があったと思う方が多いと思いますが、私は超えられない憧れの存在が母親であったと考えています。

母親は画家で、自分のヌード写真を持っているような奔放な女性です。本物のアーティストだと思っていたのでしょう。そういう母親の元に生まれ、普通とは違う愛情の受け方をして育ったから、母に対する憧れと母を超えられない自分への葛藤がある。

こういった思いが火山のマグマのように怜の中でずっと渦巻いていたのが、春馬の写真を見たときに解き放たれた。「この人に撮られることで自分を表現できる」と直感して、行動に出たのだと思いました。

最後に夏樹の乳房に口をつけるシーンがあるのですが、「母乳で育っていないから、母性を知りたかったのではないか」など、いろいろな解釈をいただきました。しかし、監督からは「ここで、ただ夏樹の乳房に口をつけるんだ。そのとき怜がどんな顔をするか見たい」としか言われませんでした。

女性にとって母親は特別な存在です。もちろん男性にとっての母親も特別だとは思いますが、女同士の親子というのは、男性とは違う特別さがあると思っています。言葉にするのは難しいのですけれどね。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― 怜の母親は画家で、アトリエには自画像が残されていましたが、口が描かれていません。今は植物人間のような母親が、実はかつては口うるさく怜に指示を出していた。そのことへの反発で、怜が塗りつぶしたように見えました。

その解釈は初めて聞きました。対立ではなく、極度のマザコンということですね。

設定としては母親が自画像を完成させないまま、植物人間状態になってしまった。怜にとって母のアトリエは踏み込めない場所だったけれど、春馬を連れて行くことでアトリエに入ることができ、自分の創作活動をする。そして、母親の口に紅を差すことで、母親の自画像を完成させる。

この映画はご覧になった方によっていろいろな解釈、意見が出てきます。私としては1枚の写真や絵を美術館でふらっと見たような感覚の2時間であってほしいですね。美術館は絵がたくさん並んでいますが、それを見るペースも、何を思うかもは強制されません。写真や絵は黙ってそこにあるだけ。見る側が捉えたものが全てです。そういう作品ではないかと思っています。その写真や絵の作者のような気持ちで、いろいろな方の感想を聞くのがすごく楽しみです。

―― 作品を通じて、怜は大きく変わっていった気がします。

変わったというよりも怜がこれまでずっと閉じ込めていた何かを、春馬によって引き出されたと思っています。自分の中に渦巻いている、自分でもわからない衝動とか信念といった何かを、春馬のフィルター越しに見る。それによって自分自身を認め、母を超えるということではないと気づけたのかもしれません。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― 春馬と怜の関係についてどう思われますか。

春馬と怜は2人じゃなきゃダメなんだという気持ちで創作活動をしています。彼の才能と自分の衝動が混ざり合っていくことが喜びで、それはアーティスト同士のセッション。もちろん、怜は春馬を男性としても素敵だと思っている。でも、魂ががっちり抱き合える人と、男女で抱き合える人は違うという感覚が自分自身にあるのです。

春馬が怜に激しく襲い掛かるシーンがありますが、脚本では静かなシーンでした。身体を求めた春馬を怜がたしなめ、春馬を抱きしめて、頬を伝う涙にキスをするといったト書きが書かれていましたが、現場で変わったのです。矢崎監督と安藤さんはとても自然体で、その場に生まれたものを大事にされます。私もそこに自然に飛び込みました。

ご覧になった方が今、脚本を読んだら、「全然違う話じゃないか」と思うくらい現場で変わりましたし、撮っていないシーンが12シーンもあるのです。「あのシーンなくて大丈夫なの?」と思ったりしましたが、完成品を見たら、「ああ、これが『スティルライフオブメモリーズ』なんだ」となっていました。私にも初めての感覚でした。

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』場面カット

―― 以前は小林夏子の名前で活動されていました。名前を変えたきっかけや新しい名前に込めた意味をお聞かせください。

昨年8月の誕生日に名前を変えました。舞台ではすでに永夏子として出ていますが、映画ではこれが初めてです。「永遠」ってすごく素敵な言葉だなと思って、「はるか」という意味のある「永」をつけました。小林夏子は本名ですが、本名では永遠はないと思いますが、永夏子という名前をつけたことで、永遠になれる気がしたのです。

私はこれまで、プライベートでも水着を着ないくらい人前で肌を露出することはありませんでした。小林夏子では恥ずかしくても、永夏子だったら思い切り自分の殻を破れる。そして、それが女優としての次のステップに導いてくれる。そんな思いもありました。

―― 今後、演じてみたい役はありますか。

どんな役でもやってみたいですね。自分に近い役はすっと入ってきて、やりやすい。一方、「これ、私がやるんですか」というくらい、自分にない役をいただいても、役を通して自分という人間に気づかされ、終わってみると今までと違った自分になっている。その繰り返しで今までやってきました。

怜をやり終わった自分はきっと、クランクイン前とは変わっていると思います。見ていただいた方の感想をうかがうのがとても楽しみです。

―― 最後に、シネマアートオンラインの読者の皆様にメッセージをお願いします。

[インタビュー: 堀木 三紀 / スチール撮影: 平本 直人]

© Plasir / Film Bandit 

プロフィール

永 夏⼦ (Natsuko Haru)

1983年東京都⽣まれ。慶應義塾⼤学卒業。LDH出⾝。現在は舞台を中⼼に、映画、テレビドラマにも積極的に出演。映画の代表作に『さよなら、東京。』(2012年/原廣利監督) 、『あなたがここにいてほしい』(2013年/澤口明宏監督)、『眠れる美⼥の限界〜the limit of sleepingbeauty』(2013年/⼆宮健監督/ゆうばりファンタスティック映画祭2015 審査員特別賞受賞)、『幸福のアリバイ〜picture〜』(2016年/陣内孝則監督)など。『BIRD SONG』(Hendric Willemins 監督)が2018年公開予定。

【写真】永夏子 (はる なつこ)

映画『スティルライフオブメモリーズ』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『STILL LIFE OF MEMORIES (スティルライフオブメモリーズ)』ポスタービジュアル

《ストーリー》

東京のフォト・ギャラリーでは、新進気鋭の写真家、春馬(はるま)の個展が開催されている。山梨県立写真美術館のキュレーターの怜はたまたま入ったギャラリーで、春馬の写真に心を奪われる。ギャラリーを出るとき、すれ違った春馬の眼差しに心を惹かれた怜は、翌日、春馬に連絡をとり、撮影を依頼。「何も訊かないこと」「ネガをもらうこと」を条件に、自分の性器を撮ってくれと怜は春馬に切り出す。突然の依頼に戸惑う春馬だったが、アトリエが夕陽につつまれたとき、春馬は怜の性器に向かってシャッターを切る。次の週も怜から撮影依頼が入る。

 

春馬は、いままで自分が撮っていた植物写真と女性性器写真の関連に気づき、怜がこのような写真を依頼する謎を解くため、しだいに撮影を待ち侘びるようになる。

二度目の撮影が終わったとき、これでもうこの女に会えない……と思った春馬はひそかに怜のあとを尾ける。怜は山梨県立写真美術館に入ってゆく。そこでは怜が企画した評論家・四方田犬彦による「芸術史における女性性器の表現」についての講演が行われていた。

 

春馬は四方田のレクチャーを聞き、怜が春馬の写真と出会った瞬間、自分の体を使ってマッケローニと同じことをしようと思い立ったことを知る。一方、約束を破り、自分の素性を探った春馬にいったんは腹を立てた怜だったが、「やっと自分の被写体を見つけた」「作品を完成させたい」という春馬の真摯な思いに魅せられ、撮影を再開する。

春馬には夏生(なつき)という妊娠中の彼女がいる。やがて怜の存在を知ることになる夏生は、春馬と怜の創作作業に立ち入れない自分に対し、しだいに歯がゆさを募らせていく。春馬、怜、夏生。交錯する3人の愛は、果たしてどこへ向かうのか――。

 
出演: 安藤政信、永 夏子、松田リマ
伊藤清美、ヴィヴィアン佐藤、有馬美里、和田光沙、四方田犬彦
 
監督: 矢崎仁司
製作: プレジュール+フィルムバンデット
プロデューサー: 伊藤彰彦、新野安行
原作: 四方田犬彦「映像要理」(朝日出版社刊)
脚本: 朝西真砂+伊藤彰彦
写真: 中村 早
撮影: 石井 勲
照明: 大坂章夫 
音響: 吉方淳二
美術: 田中真紗美
衣裳: 石原徳子
ヘアメイク: 宮本真奈美
編集: 目見田健
助監督: 石井晋一 
キャスティング: 斎藤 緑
企画協力: 生越燁⼦
配給: 「スティルライフオブメモリーズ」製作委員会
2018年 / 日本 / カラー / 5.1ch / 107分 / 映倫区分:R-18
© Plasir / Film Bandit
 
2018年7月21日(土) 新宿K’s cinemaほか全国順次公開!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @stilllife1
公式Facebook: @スティルライフオブメモリーズ

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