映画『スティルライフオブメモリーズ』
主演・安藤政信インタビュー
大ヒットするような作品ではないかもしれないけれど、
“異物”として残って欲しいと思っているんです。
矢崎仁司監督最新作『STILL LIFE OF MEMORIES(スティルライフオブメモリーズ)』が7月21日(土)より全国の劇場で順次公開されている。
主演の安藤政信が演じる春馬は新進気鋭の写真家で、ある日作品を観た女性から「自分の性器の写真を撮って欲しい」という撮影依頼を受け、次第にその撮影にのめり込むようになる。
これはフランスの画家であり写真家であるアンリ・マッケローニが女性器を題材とし愛人を撮影し続けた2年間に触発された矢崎監督によって企画され、気品漂う映像美によって表現された作品である。
自分の作品を観た怜(永夏子)から、自身の性器を撮るよう依頼される写真家の春馬を演じた主演の安藤政信さんに、自身の写真に対する思いへの話も織り交ぜながらこの作品について話を聞いた。
―― この役の話が矢崎監督から来たときにどのように感じたかを教えてください。
映画の話を頂く時は、その監督のことがすごく好きで、監督と一緒にいたいというということで決めたりすることが結構あるんです。矢崎さんは『ストロベリーショートケイクス』(2006年)から自分のことを役者としても人としてもすごく愛情をもって接してくれている人だったので、脚本が来た時はまず最初に矢崎さんとやれるということが嬉しく、とても久しぶりだったので再会したいという気持ちがありました。あと脚本を読んだときに、なんだかもう本当にきれいだなと思ったんですよ。単純に。
なので矢崎さんと会ったときにはもう本当にすごくきれいな脚本だと思いましたと伝えました。矢崎さん自身のすごく繊細な気持ちというか、時間だったりとか風景だったりを、ひとつひとつ細部に渡って大切にしたいという思いが脚本に出ていたんですよね。自分も写真を撮るときにこういう気持ちだったりするなと思ったんです。脚本を読んで共感して、抱き合って再会したくらい俺はもう“本当にやりたいと思っています”ということを伝えましたね。
この作品では二人の女性が全てをさらけ出して自分に向かってくるという、言ってみればハードルの高いことをやろうとしている訳で、その女性の覚悟を自分はしっかりシーンとして成立させてあげたいということと、これは責任重大ですねみたいなことを監督に言った気がします。そこからはみんなと一緒に毎回毎回いろんなシーンを作り上げていきました。
―― この物語の軸となる、安藤さん演じる春馬が性器を撮影しているシーンの演技にはどのように取り組まれたのでしょうか。
監督の演出はもちろん入りますけど、台本とか芝居のリズムを決めちゃうと絶対オッケーは出ないんです。それをきちっと自分の中で汲み取って動いて、自然に動き出した空気を撮るということを大切にしています。
撮影中はずっと延々と性器を撮り続けていましたし、その・・ほんとに性器に20時間位ずっと向かい続けていたんで、不思議な感覚になってくるというか、麻痺してくるというか・・・なんだかよくわからなくなってくるんですよね。家に帰っても、穴があると性器に見えてくるんですよ、ずっと見ているから。ペットボトルの蓋が逆になっていて、穴が空いている方がこっちに向いていたんだけどそれも性器に見えたりとか。その当時撮った自分の写真作品も結構その影響を受けていて、外で大量の赤い椿をみつけたんだけどそれを撮ったときにやっぱり大量の性器に見えたし、この映画の中にある死の匂いみたいなものが写っていたんですよね。
―― それでは、普段安藤さんが作品として写真を撮る時はどのように被写体の方とコミュニケーションを取っていらっしゃるのでしょうか。
自分は演技の時とカメラを持っているときだけはちゃんとコミュニケーションが取れると思っています。自分が写真を撮るときは、自分がいろんな監督に演出されている時のように気持ちを伝えながら撮っていくというか、映画のシーンのようにかつ自然に撮りたいなと思っています。結構厳しい要求とかもしたりとかして、友達からもすごいドSだなとか言われたりもしますが(笑)。
作品に関しては、この前ロシアのフォトグラファーに自分の写真がすごく好きだと言ってもらって、ロシアのマガジンから役者としても写真家としても取材を受けたんです。そして自分の写真作品もその雑誌に載せてもらい、この前作品のプリントを見せた時も2時間ぐらいずっと見てくれていて。自分の作品をすごく面白いと思って丁寧に見てもらうのはやっぱりめちゃくちゃ嬉しいなって思ったんですよね。
映画の話だと俺なんか自分の作品全然観ないんだけど、丁寧に観ていたら嬉しいんだろうなーって思いました。
―― 影響を受けた写真家はいらっしゃいますか。また、どんな写真がお好きですか。
写真を撮りたいと思っていた20年くらい前、『キッズ・リターン』(1996年)を撮り終えた後に、シンディー・シャーマンの展示をカメラマンに誘われて観に行ったんですよ。その作品がすごく素敵だなと思って、影響を受けたんです。自分で自分を演じてセルフポートレートを撮っていることに興味を持ったし、自分がそのとき感じていた”これから役者として演じていく”と言う気持ちと重なったんですよね。彼女の手法でいうとシチュエーションを考えて自分で撮るっていうのがちょっと映画的だなと思って、それをミックスして自分も撮りたいなと思ったんです。それと、叙情的に女性を撮りたいなということも思っていて、撮り続けています。女優さんとかも撮っているんですが、いい写真だし、いい顏しているんです。絶対取材で見せないような顔を撮っていますからね。そういう顔を撮るってことがすごく大事だと思っているんです。
なんですかね、写真はすごく惹かれるんです。写真家の友達が多いので普段は撮っているやつを撮るっていうこともしていて。みんないい顔していると思いますよ。この前もミカ(蜷川実花氏)に「私、安藤くんの写真好きだな」って言われて。全然お世辞じゃないと思っているんで。ははは、 素直っていう(笑)。
―― 作中に春馬が撮影した写真として、中村早さんの写真が使われていますが、その作品を観てどう感じましたか。
芝居もそうですが、写真ってその人がすごく出ると思うんです。早の写真観てるとなんかあまり毒気を感じなくて、すごくきれいな感じがしました。性器の写真が自分の好みかどうかといえば好みではないけど、でもすごく品を感じたんですよね。
―― この作品を通して、どのシーンが印象的でしたか。
この作品はどこをとっても印象的なんですよね。これが長くなってもこの映画だし、もっと短くなってもこの映画だなって思っています。
作品を観たとき、(映画のメインビジュアルとなっている)アトリエのシーンはむちゃくちゃいいシーンになっていたと思いました。すごく素敵だったし。精根尽きて2人とも一時停止している場面で死体に見えるような感覚になるくらい、出し切っていた気がします。矢崎さんが繊細に品を持って撮っているということがどのシーンもいやらしくなくすごく美しいことで感じ取れるというか。光の撮り方もそうだし。ゾッともするシーンと、美しいシーンが共存して、すごいなと思います。
―― 最後に、この作品をご覧になる方へメッセージをお願いします。
この作品は力のある映画です。大ヒットするような作品ではないかもしれないけれど、”異物”として残って欲しいと思っています。
わかりやすく作っていないから、引っかからずに観られないで終わっちゃう可能性もある。でもとんでもない異物感だと思うんですよね。「なんだ、この映画」っていう流れでありながらも、愛を感じるんですよね。不思議でした。そしてなんだか観た後に怖くなるくらい、残るんですよね。しょっちゅう観たいような映画ではないかもしれないけれど。すごく疲れるし。でも、「なにこれ?」っていう感覚は大事だなと思います。
どう観てもらっても構わない映画ってこういうことだなって思うんです。つまんなかったでもいいんですよ。全然感じ取れなかつたし、なにこれ変な映画、でもいいし。答えを求めたりわかりやすく誘導して欲しい人にはつまらないかもしれない。でもすごく素敵だったり綺麗な映画だったと感じてくれる人も俺は絶対いると思うし、こういう両極端な作品だからこそ、映画的に後からいろいろ自分が感じたことを話せる作品になっていると思うんですよね。「映画ってこういうことだよ」っていう。説明的描写がなくても自分で観たものを感じて考えることってすごく自由なんだよ、ということを伝えたいです。
すごく美しいって思って観てくれる人は本当にそれが本音だと思うし、観てくれた人の感想が全て嘘じゃない映画だなと思っています。
[インタビュー&スチール撮影: 堀 清香]
プロフィール
安藤 政信 (Masanobu Ando)1975年神奈川県生まれ。1996年に北野武監督『キッズ・リターン』でデビュー。日本アカデミー賞をはじめとする映画賞を総なめにした。『バトルロワイヤル』(2000年)、『亡国のイージス』(2005年)など、数々の日本映画やTVドラマで存在感を放っている。近年は写真家としても活動し、2016年にはレスリー・キープロデュースで、作品「憂鬱な楽園」を発表した。矢崎監督作品への出演は、『ストロベリーショートケイクス』(2006年)に次ぎ2作目となる。 |
映画『スティルライフオブメモリーズ』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》東京のフォト・ギャラリーでは、新進気鋭の写真家、春馬(はるま)の個展が開催されている。山梨県立写真美術館のキュレーターの怜はたまたま入ったギャラリーで、春馬の写真に心を奪われる。ギャラリーを出るとき、すれ違った春馬の眼差しに心を惹かれた怜は、翌日、春馬に連絡をとり、撮影を依頼。「何も訊かないこと」「ネガをもらうこと」を条件に、自分の性器を撮ってくれと怜は春馬に切り出す。突然の依頼に戸惑う春馬だったが、アトリエが夕陽につつまれたとき、春馬は怜の性器に向かってシャッターを切る。次の週も怜から撮影依頼が入る。 春馬は、いままで自分が撮っていた植物写真と女性性器写真の関連に気づき、怜がこのような写真を依頼する謎を解くため、しだいに撮影を待ち侘びるようになる。 二度目の撮影が終わったとき、これでもうこの女に会えない……と思った春馬はひそかに怜のあとを尾ける。怜は山梨県立写真美術館に入ってゆく。そこでは怜が企画した評論家・四方田犬彦による「芸術史における女性性器の表現」についての講演が行われていた。 春馬は四方田のレクチャーを聞き、怜が春馬の写真と出会った瞬間、自分の体を使ってマッケローニと同じことをしようと思い立ったことを知る。一方、約束を破り、自分の素性を探った春馬にいったんは腹を立てた怜だったが、「やっと自分の被写体を見つけた」「作品を完成させたい」という春馬の真摯な思いに魅せられ、撮影を再開する。 春馬には夏生(なつき)という妊娠中の彼女がいる。やがて怜の存在を知ることになる夏生は、春馬と怜の創作作業に立ち入れない自分に対し、しだいに歯がゆさを募らせていく。春馬、怜、夏生。交錯する3人の愛は、果たしてどこへ向かうのか――。 |
伊藤清美、ヴィヴィアン佐藤、有馬美里、和田光沙、四方田犬彦
製作: プレジュール+フィルムバンデット
プロデューサー: 伊藤彰彦、新野安行
原作: 四方田犬彦「映像要理」(朝日出版社刊)
脚本: 朝西真砂+伊藤彰彦
写真: 中村 早
撮影: 石井 勲
照明: 大坂章夫
音響: 吉方淳二
美術: 田中真紗美
衣裳: 石原徳子
ヘアメイク: 宮本真奈美
編集: 目見田健
助監督: 石井晋一
キャスティング: 斎藤 緑
企画協力: 生越燁⼦
配給: 「スティルライフオブメモリーズ」製作委員会
2018年 / 日本 / カラー / 5.1ch / 107分 / 映倫区分:R-18