映画『スイートハート・チョコレート』レビュー
映画 スイートハート・チョコレート
 

映画『スイートハート・チョコレート』

 

心に棲む元カレを超えられるか?
上海×夕張×トリュフのほろ苦トライアングル

《ストーリー》

上海の町中に建つチョコレートショップ「甜心巧克力(Sweet Heart Chocolate)」は、10周年を迎える人気の店。リンユエ(リン・チーリン)が亡き恋人・星野守(福地祐介)の味を引き継ぐ思いで始めたチョコレートショップである。とはいえ、10年経ってもまだ、彼女は“守のあの味”を探していた。教わったとおりに作っても、初めて守の手作りトリュフを口に含んだときの感動には及ばない。「大切な人をやさしく守ろうとするように」。守が遺した心のレシピと格闘するリンユエ。

新年の朝、彼女は守のふるさと夕張へと旅立った。夕張市民にトリュフチョコレートを配るという守が始めたイベントを、彼女は引き継いで続けているのだ。10年前この地で守と出会ったとき、彼女は絵の勉強のため日本に留学していた。山頂付近で油絵を描くリンユエに、レスキュー隊の守が下山するよう注意したのをきっかけに、二人は恋に落ちていく。守の親友・総一郎(池内博之)もリンユエに惹かれるが、二人の気持ちを知って身を引いた。

しかし守は死んでしまう。それから10年経っても彼女を見守るだけの総一郎が、母親の千恵子(左時枝)や守の親代わりだった加藤(山本圭)には歯がゆくて仕方がない。しかしリンユエには、総一郎の気持ちに気づきながらも守から容易に気持ちを移せない理由があった。

© 2012 MZ Pictures
 

《みどころ》

『レッドクリフ』(2008年)のリン・チーリンを主演に迎え、ヒューマンドラマを得意とする篠原哲雄監督が描く男性二人と女性一人の物語で、雪の北海道・夕張と、上海の街並みを舞台に10年前と今とを行き来する。三角関係の話ではあるが、純粋ゆえに過去にとらわれ、幸せをつかみ切れずにいる若者たちのせつなさを描いている。

死んでしまった人の思い出は、どんどん美化されていくのが常だ。一粒一粒心を込めて作るリンユエの店のチョコレートは、食べた人々がしあわせになれると大人気だが、守の味を忘れられないリンユエ自身は、果たしてしあわせなのだろうか? 絵を学ぶために日本にまで来たのに、死んだ恋人の夢を引き継いでチョコをつくる人生でよいのか?

一方、総一郎は自室にリンユエが描いた夕張の風景画を飾り、ギャラリーまで開いてしまう。彼の想いは、リンユエに届いているのだろうか。

目の前のしあわせをつかむための一歩を踏み出すためには何が必要か。狂おしいまでに相手を思いながらすれ違う“素朴な愛”も、やがて動き出す。真っ白なゲレンデに出現する大きなピンクのハートに注目だ。 

[ライター: 仲野 マリ]
 
© 2012 MZ Pictures

映画『スイートハート・チョコレート』予告篇

映画作品情報

第13回 光州国際映画祭 審査員大賞受賞、お蔵出し映画祭2014 グランプリ作品

邦題: スイートハート・チョコレート
原題: 甜心巧克力 Sweet Heart Chocolate
 
出演: リン・チーリン、池内博之、福地祐介、山本圭
 
監督: 篠原哲雄 
音楽: 久石譲 
プロデューサー: 米子、龐洪、顔安
脚本: 米子、湯迪
製作: MZ Pictures 
製作協力: K&Q株式会社 
配給: アークエンタテインメント株式会社 
2015年 中国・日本合作/カラー/16:9/5.1ch/105分
© 2012 MZ Pictures
 
2016年3月26日(土)
シネ・リーブル池袋より、
全国順次ロードショー!
 
映画公式サイト

この記事の著者

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

YouTube Channel

【バナー画像】日本アカデミー賞
ページ上部へ戻る