映画『アイ アム ア コメディアン』日向史有監督 インタビュー
【写真】第35回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『アイ アム ア コメディアン』日向史有監督 インタビュー

映画『アイ アム メディアン』
日向史有監督 インタビュー

村本大輔という男の「熱量」の源を追って 

漫才コンビ・ウーマンラッシュアワーの村本大輔は、独特のマシンガントークと歯に衣着せぬ物言いで人気スターダムを駆け上り、2013年のM-1グランプリ優勝。以後劇場のみならず、TV番組でも引っ張りだことなる。しかし社会問題に斬り込んだ2017年あたりから、テレビでの露出頻度が激減。村本は新たな活路を求め、アメリカに武者修行に出かける決意をする。

そんな村本を取材したのが、『TOKYO KURDS/東京クルド』(2018年)など、社会的マイノリティを追ったドキュメンタリー監督として評価の高まる日向史有監督だ。なぜ監督は村本大輔に興味を持ったのか?そしてコロナ禍をはさみ、3年間密着取材してできたこの映画『アイ アム ア コメディアン』(英題:I AM A COMEDIAN)に込めた思いとは?

【写真】第35回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『アイ アム ア コメディアン』日向史有監督 インタビュー

なぜ村本大輔を取材しようと思ったのか

「取材のきっかけは、村本大輔さんがアメリカのスタンダップ・コメディに挑戦するという話を小耳に挟んだことです。実は私、アメリカのスタンダップ・コメディの大ファンでして。マズ・ジョブラニさんというイラン系のコメディアンがいて、9.11以後アメリカに広がったイスラム教徒やアラブ中東地域の人たちへの差別・嫌悪に対し、彼は笑いで立ち向かっているのですが、この人がめちゃくちゃ面白くて。当時、彼を取材できないかと動いていたその過程で、村本さんのアメリカ武者修行の話を聞いたというわけです。初めて村本さんの独演会を観たのは、ルミネtheよしもと。圧倒されました。もちろん、ネタも面白いんですけど、まずその熱量ですよね。話すスピードもすごい。でもやっぱり熱量。彼のエネルギーに圧倒され、すごく惹きつけられて、この人を取材してみたい、と思い企画が始まりました」

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』(英題:I AM A COMEDIAN) 場面カット (村本大輔@アメリカ)

2019年、監督は村本の短期渡米に帯同する。この時の取材をベースに、まずは『“消えた”ウーマン・村本、アメリカお笑い修行を独占密着「明日死ぬなら、今話したいことを話したい」』(2020年/Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム)を、次に『村本大輔はなぜテレビから消えたのか』(2021年/BS12スペシャル)を制作。その後も取材を続け、本作『アイ アム ア コメディアン』が出来上がった。

「私は村本さんの中にすごくたくさんのテーマを見出し、最初のうちはどれにフォーカスしていくか絞りきれず、企画もなかなか通りませんでした。それでもプロデューサーの石川朋子(ドキュメンタリージャパン)が、『面白いから取材は続けていこう』と言ってくれて、それを原動力に取材をしながら企画内容を練り直し、こうした作品に仕上げることができました」

「コメディアン」の中の「メディア」がある!という発見

タイトル「I AM A COMEDIAN」は、ポスタービジュアルでAMEDIAだけ色を変えている。

「このビジュアルのアイデアを出してくれたのは、アートディレクションをしているsomeone’s gardenの西村大助さんと津留崎麻子さんです。編集段階から参加してもらって、内容を見ながらデザインを決めてもらいました」

本編オープニングのアニメーションテロップでは、アルファベットの出現順を替えたり、I AM A COMEDIANと色替えの箇所を変えたり、と観客が目で追いやすいよう静止画のポスターとは別の工夫もしている。こうして映画が冒頭から提示する「コメディアン」の中に「メディア」があるというコンセプトは、映画終盤で重要な意味を持つこととなる。

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』(英題:I AM A COMEDIAN) タイトル

「村本さんのやっているスタンダップコメディは、村本さん自身が独立したメディアとして力を発揮している。では既存のメディアとどう対峙していくのか?お二人はそのような発想で、このビジュアルを作ったそうです。すごいですよね。また音設計として、モールス信号をモチーフに使うことになったのは、プロデューサーの一人・ゲイリーさん(Gary Byung-seok Kam)の意見。村本さんの『モールス信号でも熱量が伝わる』という言葉から、全体のテーマで使おうということになりました。オープニングとエンディング、そして、その言葉を言った場面で」

モールス信号に託した思い

コロナ禍で次々とライブパフォーマンスが中止になっていった時、多くのアーティストがやむなくもリアルからオンラインに切り替えていく。しかし村本は、頑なにリアルにこだわった。

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』(英題:I AM A COMEDIAN) 場面カット (ウーマンラッシュアワー:村本大輔、中川パラダイス)

「村本さんがテレビから離れたのは、もちろんメディアが彼を起用しなくなったという面もありますけど、村本さん自身も、俺はもう劇場で生きていく、と決意したんです。そのたった一つしかない最後の砦をコロナに奪われて、これからどうしようって……あの頃、彼はすごく悩んで、本当に悲しみのどん底でした。そして、あれだけオンラインを嫌がっていた彼が、恐る恐るZoomでの独演会を始めてみると、オンラインでもお客さんと繋がれるんだっていうことを実感した。そこで村本さんが例に出したのが、モールス信号でした」

―― モールス信号のような単なる電信であっても、そこに熱量を込めることができる。 ――

「人との繋がりは、テレビとか劇場とかオンラインとか、そういう媒体が問題なのではなく、自分次第なんだっていうことに、彼は気がついたんです」

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』場面カット1

取材してわかった「青春期の孤独」という原点

この映画は、村本が自分の心と向き合う旅でもある。冒頭こそ先行作品同様「なぜテレビから消えたのか」「言いたいことを言えない国は民主主義と言えるのか」「なぜ日本では、お笑いに政治ネタはタブーなのか」などに重点が置かれるが、中盤以降は家族や生い立ちなどの話題が多くなる。

「村本さんと一緒に過ごさせてもらう中で、いろいろな話をさせていただきました。でも、どんな話を入り口にして話をしても、結局村本さんの行き着くところは、常に17歳の自分のコンプレックスだったり、その頃の家族との関係だったりする。青春期の孤独、みたいな寂しさですね。毎回必ずその話になる。だから、それに素直に従ったまでです」

彼がなぜ福島を訪れるのか、なぜ各地で小さな独演会を催し続けるのか。なぜリアルのイベントにこだわるのか、なぜ現場に行って、直接話を聞こうとするのか。村本がぽろっと口にする言葉の端々に、故郷に対する愛情と反発、自分についてのコンプレックスとプライドが、ないまぜになった叫びのようにして現れる。

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』(英題:I AM A COMEDIAN) 場面カット (村本大輔@福島県)

カメラは村本の父親が他界した翌日、独演会に立つ彼の姿も追っている。

「『悲劇の中に喜劇がある』『暗闇の中で星を見つけていくのが笑いだ』っていうのは、村本さん自身がおっしゃっていたことなので、果たしてお父様のことを笑いで表現するのか、しないのか。そこを見てみたい、という気持ちで、その独演会も撮りにいきました」

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』(英題:I AM A COMEDIAN) 場面カット (村本大輔)

なぜドキュメンタリーを撮り続けるのか

「私は大学を卒業した後、日本映画学校(現在の日本映画大学の前身)に2年ぐらいいました。最初は劇映画フィクションを目指していたんですけど、学生の脚本って大体、主人公が自分と同じぐらいの歳でコンビニで働いてて、恋の悩みがありアイデンティティの悩みがあり、みたいな話がめちゃくちゃ多いじゃないですか。自分も全くそれに違わず、というものを書いていて、やっぱり自分の頭の中で考えるだけの世界は狭い。それに比べると、例え無名であっても、現実に生きている人の歴史や人生の方が、すごく生々しくて、広がりがあって、面白いんですよ。この広さに触れたときに、自分はドキュメンタリーの方が向いている、と思いました」

【写真】第35回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『アイ アム ア コメディアン』日向史有監督 インタビュー

ドキュメンタリーを制作する時、日向監督が常に意識するテーマは何だろう。

「私は一個の人間が、国とか民族といった大きなものに対してどう対峙していくか、そこにすごく興味を持っています。個人と学校でも、個人と会社でも。『東京クルド』なら、クルド民族や日本社会、あるいは入管法っていう大きなものがあって、常に個人の生活と結びついて、その人の人生が翻弄されていく。この『アイ アム ア コメディアン』では、村本さんとテレビメディア、あるいは村本さんと“世間”、あとは、村本さんとSNS、かな。いずれにしても、すごく大きなものに個人が飲み込まれそうになっている。そのときに、村本さんはどう対峙していくのか。そこを描きたかった。村本さんはアメリカに行くときに、『自分は無能ポンコツと呼ばれていたけど、その故郷の福井から都会に出たことでお笑い芸人になった。今度アメリカに行ったら、次は(芋虫から)蝶と思いきや、もうひと化けするんじゃないの?』みたいに言ったんです。この、自分が自分に期待する、他の誰でもなく自分が自分で自分の価値を決めるんだっていう彼の姿勢に、多分私はすごく一番惹かれたし、彼を取材したいと思う大きな理由は、そこにあったと思っています」

第35回東京国際映画祭のオープニングレッドカーペットでは、日向監督とともに村本大輔本人も登場。晴々としたいい顔を見せた。

【写真】第35回 東京国際映画祭(TIFF) レッドカーペット Nippon Cinema Now部門 映画『アイ アム ア コメディアン』(ウーマンラッシュアワー:村本大輔、中川パラダイス/日向史有監督、石川朋子プロデューサー、植山英美プロデューサー)

「コロナも一段落して、村本さんは今はもう、日本全国を回って独演会という居場所を取り戻しています。Zoomもやっていますが、自分の価値をわかってくれて自分を求めてくれる人と、直接会って独演会をすることこそが、村本さんにとってすごく大きなエネルギーになるんだということを、改めて感じました」

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』場面カット2

[取材・文: 仲野 マリ / スチール撮影: Cinema Art Online UK]

プロフィール

日向 史有 (Fumiari Hyuga)

2006年、ドキュメンタリージャパンに参加。東部紛争下のウクライナで、「国のために戦うべきか」徴兵制度に葛藤する若者たちを追った『銃は取るべきか』(2016年/NHK BS1)や在日シリア人“難民”の家族を1年間記録した『となりのシリア人』(2016年/日本テレビ)を制作。

2017年、18歳の在日クルド人青年のひと夏を描いた『TOKYO KURDS/東京クルド』で、Tokyo Docs 2017 Short Documentary Showcase優秀賞受賞。

2018年、第26回 Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭の正式招待作品に選出。2022年、第23回全州国際映画祭特別審査員賞受賞。

2021年、『村本大輔はなぜテレビから消えたのか』(BS12)が第11回衛星放送協会オリジナル番組アワードの番組部門最優秀賞を受賞など、受賞作多数。

2022年、最新作『アイ アム ア コメディアン』が第35回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門で上映。

【写真】映画『アイ アム ア コメディアン』日向史有監督

映画『アイ アム ア コメディアン』予告篇🎞

映画作品情報

【画像】映画『アイ アム ア コメディアン』ポスタービジュアル

《ストーリー》

2013年の「THE MANZAI 2013」で優勝した漫才コンビウーマンラッシュアワーは、コンビの一人・村本大輔の歯に衣着せぬ斬り込み方を人気の源に、以来飛ぶ鳥を落とす勢いでテレビ出演を重ねていった。しかし2017年、ネタに政治的な発言を交えたことがきっかけとなり、マスメディアでの露出が極端に減っていく。

そんな中、村本は観客の顔の見えるライブに活路を見出すとともに、自らが理想とする「真のコメディアン」に一歩でも近づこうと、アメリカ武者修行を決行。アメリカでのスタンダップコメディを目の当たりにして、自分は何を語っていくべきかを再確認するのだった。

ところがコロナが世界を襲い、ライブイベントは中止につぐ中止。村本はどん底でコメディアンとしてのアイデンティティを確立すべく、もがき続ける。

こうした村本に2019年から2021年までの3年間密着取材を敢行した日向史有監督が見た、村本の強さと弱さ、そして最後に見出した一筋の光とは?

 
第35回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 出品
 
原題: アイ アム ア コメディアン
英題: I AM A COMEDIAN
 
監督: 日向史有
出演: 村本大輔(ウーマンラッシュアワー)
 
2022年 / 日本、韓国 / 日本語 / カラー / 108分
 
© DOCUMENTARY JAPAN INC
 
映画公式サイト
 

第35回 東京国際映画祭(TIFF) レッドカーペットイベント レポート

この記事の著者

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

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