映画『私は絶対許さない』
和田秀樹監督、原作者・雪村葉子氏へインタビュー
完全主観撮影でよりリアルにレイプシーンを映し出す!
5人の加害者氏名は原作者の希望で実名に。
精神科医の和田秀樹監督の最新作『私は絶対許さない』が4月7日(土)からテアトル新宿ほかにて全国順次公開される。 原作は雪村葉子の手記「私は絶対許さない 15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由」。作品では、15歳の元旦に集団レイプに遭い、加害者の男たちへの復讐だけを胸に生きてきた原作者の半生を赤裸々に描いた。撮影には、主人公目線ですべてが撮影される完全主観撮影という手法が用いられ、よりリアルにレイプシーンが映し出される。 公開を前に、和田秀樹監督と雪村葉子さんに映画に対する思いを聞いた。
―― 監督がこの作品を撮ることになったきっかけをお聞かせください。
和田: 僕は臨床心理士を育成する大学で教えていますが、性被害者の方もカウンセリングを受けにきます。性被害者の方が抱える問題は必ずしも心的外傷後ストレス障害(PTSD)だけではありません。人間不信に陥る、売春行為に走ってしまうなど、いろいろな人がいます。知り合いのAVライターからはAV嬢の中には性被害者が多いと聞きました。この人たちは性被害で人生が変わってしまったのに、元々セックスが好きだった人という扱いを受けている。その結果、その世界から抜けられなくなってしまった人がたくさんいます。 日本の映画や小説では、性被害者はPTSDや多重人格、引きこもりになるという画一的な描き方をされることが多い。出版社の編集の小宮さんから本作の原作となった手記の解説を依頼され、読んでみると、性被害者がトラウマに苦しめられるだけでなく、人生が変えられてしまうことがリアルに描かれていたのです。なんとか映像化できないかと思って作りました。
―― 作品では性被害だけでなく、親から精神的な虐待を受けていことも描かれていました。
和田: レイプをされたときに、「お前には落ち度はないし、俺はずっと愛し続けるから」と言ってくれる恋人がいたり、「あなたは悪くないのだから、私が守ってあげる」と母親が言ってくれたりすれば、通常のPTSDの範囲くらいで収まることが多い。しかし「お前に隙があったからだろう」とか「夜中にほっつき歩いているからだ」と言われると、それがセカンドレイプのように、被害者をさらに傷つけます。雪村さんの場合も父親が元々暴力的で厳しかったのですが、さらに扱いが酷くなり、人生を変えられてしまいました。
―― 監督から「映画化したい」と言われたときの雪村さんのお気持ちをお聞かせください。
雪村: そんなお話をいただくとは思ってもいなかったので、驚きました。私と同じような被害にあって苦しんでいる方に向けてメッセージが送れればと思いました。
―― 主人公目線で撮影する完全主観撮影が用いられていましたが、レイプシーンのリアルさに驚きました。なぜこの手法で撮られたのでしょうか。
和田: 男性の中にはレイプシーンによって性的興奮を覚えてしまう人がいます。それを考えると、「こんなひどい目にあっているのだ」と伝えるためにはいい方法だと思いました。女性は見ていて怖くなってしまうかもしれませんが、そのくらい怖いものだとわかってもらえます。 レイプシーンのあとも主観撮影で通したのは、主人公が生きてきた世界を観客にできるだけ一緒に経験してもらうことで、突然、援助交際を求められたり、風俗の世界に行ってしまったりしたことが理解しやすくなると考えました。
―― 雪村さんは作品をご覧になると過去を思い出し、辛くなったりしませんでしたか。
雪村: レイプシーンは撮影に立ち会わせていただきました。自分の中で何か紐解かれるようで、最初は立ち会うかどうかを迷いました。行くと決めたのは撮影前夜です。意外と客観的に見れた自分に驚きました。20年という時間が経ったのを感じます。
―― 作品から、主人公の母親も親から愛されていなかったのではないかと感じました。
和田: その可能性はあるでしょう。今のような少子化の時代では子どもに接した経験が少なく、不器用な親が多い。一人っ子は愛情をたっぷり注がれるけれど、子どもの数が多いと愛情をかけてもらえないと思われがちですが、子育ては慣れもあります。悪気はないのだけれど、愛し方が分からない。本当に辛い話です。愛情不足だけでなく、虐待レベルまでいっている人が日本でも増えているのを感じます。
―― 子育てが難しい時代になっているのですね。その結果、子どもたちはどうなってしまうのでしょうか。
和田: 子どもには好きな友だちがいれば嫌いな友だちもいる。ある程度、自我が芽生えたら当然のことです。しかし、親はみんなと仲よくして、1人も仲間外れを作らないように言い、マニュアル的にいい子にさせる。その結果、子どもは好きでもないのに、にこにこして仲よくしなくてはいけない。勉強ができないと努力の足りなさを叱られますが、周りの子と仲良くできないと人間性が否定されます。子どもの傷つき方はこちらが想像しているよりも辛いでしょう。親の気持ちを忖度する子になってしまいます。
―― 雪村さんご自身は親の気持ちを忖度したことはありましたか
雪村: 子どもにとって親の愛情がすべて。やはり、親に気に入られたい。気を引きたくていろいろなことをしました。しかし、母は愛情が希薄な人。「周りの子は親から無償の愛を受けているのに、なぜ私だけ誰にも守ってもらえないんだ」という思いはレイプの前から強く感じていました。そういう人はこちらがどれだけアピールしても興味がないと気がついて、悲しい思いをしたことがあります。
和田: 一般的に過干渉というのは、子どもの心理成長に良くないのですが、もっと良くないのはネグレクト。親が子どもに興味を持たないということは辛いことだと思います。
―― 平塚千瑛さん、西川可奈子さんのW主演ですが、キャスティングはどのように行われたのでしょうか。
和田: 基本的にはオーデションです。ただ、オーデションのときには主観撮影にすることを決めていましたので、主演といっても自分が映る場面は少なく、自分から見た世界になってしまうことは納得してもらった上で出ていただきました。普通の女優さんにとって、顔が映らないのは不本意なこと。理解してもらえてよかったと思っています。
―― 主人公の葉子が体験したことは女性としてとても辛いことです。役作りも大変だったと思います。
和田: その人の気持ち、立場になり切ってもらうのが基本。2人とも脚本だけでなく、原作も読んでいたので、基本的には彼女たちが考えてきたことを尊重しました。 役作りで悩んだという相談は僕にはありませんでした。しかし、(主観撮影なので自分の顔は映らず)声と手、足で芝居をするのは大変だったと思います。他の出演者とのセリフのやりとりはいつも目の前にカメラがある状態で撮らせてもらいました。大変な役をやってもらったと思います。
―― 雪村さんから主演の2人に何かアドバイスはされましたか。
雪村: 「本の中のこの部分ではどんな気持ちだったのですか」と質問をいただいたときには、「今だから思うことに変わっているかもしれませんが」と前置きをした上で、そのときの気持ちをお伝えしました。
―― インドで開催された第5回ノイダ国際映画祭で審査員特別賞を受賞されました。海外の反響はいかがでしょうか。
和田: インドは日本以上に性暴力がひどい国なので、そこで評価されたことは私としては光栄なことだと思っています。 このあとも2、3つ映画祭からオファーを頂いています。特別な撮り方をしていることもあって、賛否両論ありますが、いいと思ってくれる方もいるのも確かです。
―― これからご覧になる方にひとことお願いいたします。
和田: 通常ではありえないくらい怖く、見ていて逃げ出す人がいる映像もあります。そこは目をつぶっていただいても構いません。多くの人に見ていただき、この辛い体験を知ってほしいと思います。
雪村: 15歳のときに受けた集団レイプから20年が経過しました。私の半生を書いた本が映画化される機会をいただけたことを感謝しています。因果応報、天網恢恢疎にして漏らさず。天罰はすぐには来ないが、必ず来る。人は自分がしたよいことも悪いこともすべて自分に返ってくるという意味で、私が大好きな言葉です。真理だと思っています。私を強姦した5人の男たちの実名が出ているこの映画を彼ら本人が見て、いかに愚かな行為をしたのかと後悔することを願っています。そして、セクハラや性的暴力を受けたことがある方だけでなく、多くの方に見て、感じていただけたらうれしいです。
[インタビュー&スチール撮影: 堀木 三紀]
プロフィール
和田 秀樹 (Hideki Wada)1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部精神神経科助手を経て、米国カールメニンガー精神医学校で約3年間精神分析とトラウマの理論を学ぶ。現在、国際医療福祉大学心理学科教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書は600冊以上。翻訳書は『トラウマの精神分析』など。映画監督としては第一作の『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞(グランプリ相当)『「わたし」の人生』で人道的作品監督賞など4冠受賞。 |
雪村 葉子 (Yoko Yukimura)15歳の元日、集団レイプに遭う。何度も死のうと思った。加害者の男たちへの復讐だけを胸に、なんとか今まで生きてきた。20歳で結婚。結婚相手には洗いざらいを告白し、受け入れてくれたものの…。現在は、看護師の仕事とともに、SM嬢をやっている。 |
映画作品情報
《ストーリー》15歳の元旦、私は死んだ 東北地方の田舎で育った中学3年生の葉子(西川可奈子)は、メガネに化粧っ気のない素朴な女の子。厳格な父(友川カズキ)と、女々しく意地悪な母(美保純)と、優しいがどこか他人事の様に接する祖母(白川和子)と、小さな弟と妹に囲まれて平凡に暮らしていた。あの日までは・・・。 年末、若い男達に無理やり輪姦されたのだった。元旦に全身傷だらけで帰宅した葉子を待ち受けていたのは、冷たく突き放す家族と親戚だけだった。体のみならず、心もズタズタにされ、天涯孤独の様な気持ちだった。ひょんなことからレイプ犯の一人である若者の養父・早田(隆大介)と出会い、援助交際という名の契約を交わす。どうせ私は傷物なんだから・・・。 冬休み明けの学校でも、瞬く間に輪姦された噂は広まり、イジメが始まった。その間も援助交際でコツコツと大金を稼ぐ葉子。一刻も早くこの地獄から自力で抜け出すために。そしていつか、あの男達に復讐するために・・・。 高校卒業後、大都会東京へ。すぐさま全身整形し、昼間は真面目な学生、夜は学費や生活費を稼ぐべく風俗で働いていた。そんな中、葉子(平塚千瑛)は客としてきた雪村(佐野史郎)に出会う。彼は将来の夫になる人だった・・・。しかし、ある日、彼の真実を知ってしまう・・・。 そんな体験を実際に持つ雪村葉子さんが35歳になって執筆した手記を元に、何に対して復讐しているのか。あの男達への思いは・・・。 |
テアトル新宿にてレイトショー公開ほか全国順次
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