篠原哲雄監督インタビュー
映画完成から日本公開まで4年!
絶対にあきらめなかった篠原監督の熱き思い
篠原哲雄監督は『はつ恋』(2000年)、『地下鉄(メトロ)に乗って』(2006年)など、恋する男女が思い合う心の強さを描かせたら右に出るものがいない。そんな篠原監督が、世界的中国人女優リン・チーリンを主演に迎え、日中合作で製作した『スイートハート・チョコレート』。同作品は2012年の第25回東京国際映画祭「アジアの風』部門で上映、その後2013年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭クロージング作品として上映、同年出品した第13回光州国際映画祭(韓国)で、最高賞である審査員大賞を受賞した。中国では同年中に公開されたものの、日中の政治的な状況に影響され、日本での公開が遅れていた。そんな『スイートハート・チョコレート』が、3月26日(土)にシネ・リーブル池袋で、いよいよ念願の公開へ。この映画に寄せる熱い思いを、監督に聞いた。
―― 光州国際映画祭で上演したときの反応は?
韓国では受賞後に記者会見する機会がありました。この映画祭では岩井俊二監督の『Love Letter』(1995年)も受賞しているので、同じ雪の中のラブストーリーだから『Love Letter』を彷彿としました、と言う人もいましたね。北海道の雪景色には、人の心を動かす力があるのではないかと思います。
―― 雪のある風景で表現したかったことは?
まず、今申し上げたように、雪自体に人の心をそそるものがあって、映画がファンタジックに美しくなるということがあります。でも雪は美しいだけではない。人々は、雪の中で暮らしている。この作品には雪山での遭難というのも大きなトピックスとして出てきます。
3人がふかふかの雪の中で寝そべるという、リンユエ、守、総一郎の3人の関係を象徴的に表すシーンがあります。これが物語の中で重要なチョコレートにも反映していく。台本では雪合戦のシーンになっていたんです。でもアクションの様が想い出のチョコレートの図案になるわけもなく、彼らの姿を象徴的に現わす手段として雪の中に寝そべることにしたんです。そして、それが重要なチョコの場面につながっていく。
ちなみに大ラスでゲレンデに現れる巨大なハートのチョコは、東京の美術スタッフが作った物を、夕張まで持って来てくれました。これが活きるのも雪山の一面でなくてはならない。まさにそういうタイミングで撮影中に雪が降ってくれました。まるで奇蹟が起きているかのような雪景色。僕個人が勝手に奇蹟と思うことにしました。大騒ぎはばちあたりの元ですから(笑)。
―― 映画の神様が雪を降らせてくれた?
ふつう夕張は、3月の上旬で雪は止み溶けるのを待つだけになります。案の定、ロケが始まる前に乗り込んだ際に雪は解けつつあり、撮影もままならぬと思いました。それなのに、クランクインの3月15日の早朝に雪は降ってくれたのです。撮影はその後28日まで続くのですが、まるで「映画の神様」がいるようでした。
先ほどのキーポイントになるチョコレートの原型になる3人の戯れのシーンも雪がなくてはならない。ところが町中ですから雪が解けたら町の人たちも綺麗にしたがる。もう駄目かと思った本番前に雪が降ってくれました。まさに奇蹟です。こういう風に夕張の撮影は進行していきました。撮影休暇が一日もないのですが、僕らは休んでいられない。雪があっての撮影ですから。結果は観てのお楽しみに(笑)。
―― 各シーンのロケ地はどこですか?
夕張にはホテルが「ホテルマウントレースイ」と「ゆうばりホテルシューパロ」の2つがあります。それぞれスキー場があり、撮影はマウントレースイのスキー場でした。リンユエが絵を描く場所は、大夕張ダムの近くです。僕は20年前にシナハン(シナリオハンティング)に来たことがあるんですが、その頃からずっと変わらず美しい景色です。
雪山の遭難シーンの場所は夕張鹿鳴館(旧北炭鹿の谷倶楽部)の裏側で撮影したんですよ。石炭の歴史村があり、石炭博物館もある。山田洋次監督の映画『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)のモニュメントもあったのでそこでも撮影しました。夕張にはいくつも面白いところがあるので、是非夕張に行ったら覗いてみて欲しいです。
―― 夕張に行ったら是非行ってもらいたいところ
まず、「ホテルマウントレースイ」の前の屋台村と「ゆうばりホテルシューパロ」の側の飲み屋街かな。ずいぶんお世話になりました。撮影隊の宿泊はホテルではなくて、旧北海道立夕張北高等学校の校舎を改装したユニークな宿泊施設「合宿の宿ひまわり」です。町全体が観光客に対し、手頃で宿泊しやすい政策をとっているんですよ。「合宿の宿ひまわり」は夏でも利用できます。池内君(総一郎)が宿主だった旅館は、スキー場からは少し離れた温泉でしたが、あそこも良かったな。
―― 主演の3人はどうやって役作りをしましたか?
福地君が演じた守は、自分から積極的に女性にアプローチをする、人の前で「愛してる」と言えちゃう男の子です。総一郎はどこか寡黙で不器用で、人のことを思っているがなかなかそれをわかってもらえない。池内くんは、昔からリンユエに恋心を抱いている総一郎の朴訥さをうまく演じてくれました。二人が対照的な男性としてキャラクターを際立たせてくれました。
リン・チーリンさんは、ほんとに魅力的でチャーミング。10年前の夕張のシーンはリンユエが大学生、つまり20代前半の役。だから上海での10年後のシーンとはルックスの作り方を色々と考えて変えていました。衣装、声の出し方など雰囲気でだいぶ変え、上海では大人っぽい雰囲気です。そういう時間的な人間の変化については、各役者さんとも自ら考えて役を演じてくれました。
―― 日中合作の中、スタッフとのコミュニケーションは?
リンさんは、自分だけ特別だと思っているようなところがなく、フレンドリーな人です。日本語で演出プランを話しても、大方はわかっているようでした。もしかしたら僕に合わせて相槌をうってくれていたのもしれませんが。芝居の作り方も熱心でこちらの思っている以上にリンユエのキャラクターを作り上げてくれたのだと思います。日本が好きで、日本人スタッフのセンスも信用してくれ、衣装やヘアメイクは彼女ご指名の方々が参加してくれました。
―― 日本での公開上映までの苦労
日本での公開までの道のりは苦労がありました。出来上がったのが2012年、そして翌年に韓国の光州映画祭で審査員大賞をもらったのは、大きな励みや弾みになりました。その年の秋にようやく中国での公開。各地に映画館の多い向こうでは5000スクリーンでの上映があり成績も上々でした。これが日本での配給に繋がればいいのですが、そういうわけでもない。
配給が決まってないというのは本当に大変です。劇場もなかなか決まらないのが現実です。日本の劇場はその数自体少なくなっている。日本映画を支えてきた有名な映画館も次々閉館していますし。僕自身最初はこの作品は、単館ではなくシネコンでやる方が良いのかもとも思いました。
―― 「お蔵出し」映画祭で射止めた映画公開
映画を公開するにはエネルギーが必要なんです。一つは「資金回収」。これだけカネを出したんだから、絶対元をとるぞ、というエネルギーですね。この映画は日本サイドが資金を出してない分、そうしたエネルギーに結びつきにくく、この方面から日本公開にこぎつけるのは容易ではありませんでした。
もう一つのエネルギーは「思い入れ」です。途中プロデューサーが降りてしまった時も、僕は監督として、簡単にあきらめるわけにはいかなかった。映画に対する思い入れがあるからです。だからこそ、ここまでやれた。この映画を絶対に公開する、たくさんの人に観てもらう、という熱い思いがあったから。ですから「お蔵出し映画祭」(2014年)をきっかけに、本作品の公開が約束されたことはとてもうれしかった。皆さんに選ばれ、皆さんが、これはこのまま「お蔵入り」にしちゃいけない映画だと一票を投じてくれたんですから。
今、日本の映画ファンは、どこかラブストーリーに対して厳しい目があるような気がします。恋愛映画を、誰もが望んでいるとは言いがたいのではないか。社会的メッセージがあるわけではないので、インパクトにも欠けるかもしれません。それがこの映画の公開を困難にもさせたように感じます。でも観てもらえばわかる。心が温かくなるいい映画です。
全国公開支援プロジェクトも立ち上げ、クラウドファンディングで多くのサポーターにご協力いただいています。
Nextwaves《篠原哲雄監督 リン・チーリン主演『スイートハート・チョコレート』支援プロジェクト》
公開を皮切りに、皆さんにどんどんこの映画を好きになってもらって、全国のいろいろな都市で公開できるよう、さらに宣伝に力を入れていく予定です。
[インタビュー: 佐藤 美穂子、藤長 ひろこ / 構成: 仲野 マリ / スチール撮影: 平本 直人]
監督プロフィール
篠原 哲雄 (Tetsuo Shinohara)1962年東京都生まれ。 主な監督作品に『洗濯機は俺にまかせろ』(1999年)、『はつ恋』(2000年)、『死者の学園祭』(2000年)、『張り込み』(2001年)、『命』(2002年)、『木曜組曲』(2002年)、『オー・ド・ヴィ』(2002年)、『昭和歌謡大全集』(2003年)、『天国の本屋~恋心~』(2004年)、『深呼吸の必要』(2004年)、『欲望』(2005年)、『地下鉄に乗って』(2006年)、『山桜』(2008年)、『真夏のオリオン』(2009年)、『つむじ風食堂の夜』(2009年)、『小川の辺』(2011年)、『種まく旅人 くにうみの郷』(2015年)、『起終点駅 ターミナル』(2015年)などがある。 |
映画『スイートハート・チョコレート』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》雪の夕張と美しい上海の街並みを舞台にすれ違う 「初恋のきた道」、「冬のソナタ」・・・ ひたむきな男女がすれ違いを繰り返しながらも純愛を貫く物語は、いつの時代も私たちの胸を焦がしてやまない。アジアを代表するスターとスタッフが集結、2カ国の名所でロケが行われたにもかかわらず、日中関係の悪化で上映が出来なかった本作が2014年に「お蔵出し映画祭」でグランプリに輝き、恋愛映画の決定版としてついに解禁! 一面の銀世界が広がる北海道、夕張。上海から来た留学生のリンユエはレスキュー隊員の守と出会い、恋に落ちる。それから10年、上海に戻ったリンユエは亡くなった守の遺志を継ぎ、チョコレート店を開く。彼女が一粒一粒心を込めて作るチョコレートは食べた人をしあわせにするとして大人気。だがリンユエ自身は、守が作ってくれた“特別な味”を忘れられず、人生を前に進めることができないでいた。そして守の兄貴分であり、ずっと前から密かにリンユエに想いを寄せていた総一郎は上海に渡り、一番の友人として彼女を見守り続ける–。 相手の気持ちに気づいているけれど応えられない。相手の気持ちがいたいほどわかるからこそ、肝心の一言を言い出せない。狂おしいほどにせつない、二人の関係の行方は・・・? |
第13回 光州国際映画祭 審査員大賞受賞、お蔵出し映画祭2014 グランプリ作品
原題: 甜心巧克力 Sweet Heart Chocolate
出演: リン・チーリン、池内博之、福地祐介、山本圭
監督: 篠原哲雄
音楽: 久石譲
プロデューサー: 米子、龐洪、顔安
脚本: 米子、湯迪
製作: MZ Pictures
製作協力: K&Q株式会社
配給: アークエンタテインメント株式会社
2015年 中国・日本合作/カラー/16:9/5.1ch/105分
© 2012 MZ Pictures
シネ・リーブル池袋より、全国順次ロードショー!