映画『世界は美しいと誰かが言った』主演・久保史緒里 インタビュー
【写真】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』主演・久保史緒里 インタビュー in TAXIATER

映画『世界は美しいと誰かが言った』
主演・久保史緒里 インタビュー in TAXIATER

自分の孤独も、命への願いも、すべて映画が抱きしめてくれた――。
乃木坂46卒業後初の主演作で向き合った「母親」という光と、表現者としての現在地。

日本初のタクシー映画祭「TAXIATER」(タクシアター)が開催。8月3日(月)〜8月9日(日)に東京23区内を走行する100台のタクシー車内サイネージで短編映画3作品が上映されるほか、8月15日(土)〜8月29日(土)には都内3館の劇場でも上映される。そのラインナップの1作が、短編映画『世界は美しいと誰かが言った』だ。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里、律)

主人公・藤吉史花ふじよしふみかを演じたのは、2025年11月に乃木坂46を卒業後、現在は俳優として活動し、本作でグループ卒業後初となる主演を務めた久保史緒里。重い病を抱えながら2歳の娘を持つ母親役に挑んでいる。

監督・脚本を務めたのは、映画『四月の永い夢』(2017年)や『静かな雨』(2019年)などを手掛け、第38回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された『恒星の向こう側』の公開も今秋に控える中川龍太郎

「タクシーの日」である8月5日(水)にはTOKYO FMホールで「TAXIATER」の公開記念イベントが開催され、主演の久保と中川監督が登壇した。

イベント直後の久保に、撮影に際して交わした日記の取り組み、長野県信濃町での撮影、そして一人の俳優として向き合う「映画」への思いについて話を聞いた。

【写真】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』主演・久保史緒里 インタビュー in TAXIATER

周りの手と愛に支えられて――「母にしていただいた」という感覚

公開記念イベントでも「言葉が伝わらない幼子と過ごす孤独を経験しようと向き合った」と語っていた久保史緒里。公式コメントで明かされていた「私は母親になれたのだろうか」という想いの背景には、撮影前から築かれていた温かな人間関係があった。

―― 乃木坂46卒業後初の主演映画で、病を抱える母親という難役でした。公式コメントで「『私は母親になれたのだろうか』という想いが史花の根源だった」と明かされていましたが、どのように役に向き合われたのでしょうか?

久保: 事前に律ちゃん(娘役)とはすごく時間を取らせていただいて、ご家庭にお邪魔して生活の様子を覗かせていただいたり、一緒に公園に行ったりスーパーに買い物に行ったり、私が費やせる時間は費やしていました。それ以上にありがたかったのが、律ちゃんのお母様がご自宅で私のグループ時代の映像(MV、ライブ映像、テレビの出演シーン等)を律ちゃんに見せて「母(はは)だよ」と教えてくださっていたことなんです。そのおかげで、現場で律ちゃんが私のことを「母」と呼んでくれました。

自分一人というよりかは、実のお母様や中尾(幸世)さんをはじめ、周りの方々に「母にしていただいた」という感覚がすごく強くて。本来なら母親は世界にたった一人の存在でなければならないけれど、いろんな方のお力をお借りして母になれた感覚だったので、撮影を終えて「母親になれたのかな」という気持ちになりました。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里、律)

対面しない演出と、3人で綴った「日記」のやり取り

作中で描かれる、言葉少なげながらも互いの痛みに寄り添うような人々の交わり。劇中の関係性を構築するため、現場では緻密な演出が施されていた。

―― 中尾幸世さん(民宿の店主・光世役)との共演や、撮影前に行われたという「日記の交換」について教えてください。

久保: 実は中尾さんとは、実際のお母様と中尾さんと私の3人で、各々が好きなタイミングで好きなことを書く独立した日記を共有していたんです。お母様は律ちゃんの日常、中尾さんは本から着想を得た日記、私は日々生きていて感じたことを書くという、3者三様の日記でした。

また、中川監督の演出の意向で、中尾さんとはあえて事前にお会いしていなかったんです。劇中で史花が起き上がった時、光世さんと律ちゃんが遊んでいるシーンが初対面だったんです。それまで日記だけでやり取りしていた相手だったので、あの瞬間に初めてお会いできたことで、あの独特な温かい空気感が生まれたのだと思います。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (光世/中尾幸世)

「明日地球が終わりを迎えるなら」声にならなかった音を言葉に
日常の問いから生まれたセリフ

印象的に差し込まれる詩の朗読とナレーション。劇中で投げかけられる切実な問いには、久保自身のパーソナルな想いや日常の実体験が反映されている。

―― 冒頭の詩の朗読ナレーションや、物語の中で象徴的に投げかけられる問いが印象的でした。朗読やセリフにはどのように取り組まれたのでしょうか?

久保: 本読みの段階で監督と模索していたのですが、(日記を)書いているのは史花でも読み上げる声は律なので、母の日記という思いを抱えながらも生命力に溢れた形で表現しようと現場で話していました。冒頭の朗読は、この世界で声にならなかった音を史花が読んだらどうなるんだろうね、と話し合いながらやらせてもらいました。

劇中の「明日地球が終わりを迎えるなら、あなたならどうする?」という問いは、実は撮影の直前に私が友人と実際にしていた会話だったんです。私の周りは「何もしない」「いつも通り過ごす」という人が多くてモヤモヤしていて、「私は生きたくてしょうがない」と答えてしまう自分が幼く思えるという胸の内を日記に書いていたんですね。それを監督が読んで拾い上げてセリフにしてくださったんです。だから、もし私自身にそういう状況が来ても、抗い続けるんだろうなと思います。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里、光世/中尾幸世)

信濃町の自然と「世界は美しい」と感じる自分づくり

ロケ地となったのは、野尻湖のある長野県上水内郡信濃町。澄んだ空気と豊かな自然の中で、久保自身も感情を大きく解放させて撮影に挑んだ。

―― ロケ地となった長野県信濃町での撮影はいかがでしたか?

久保: 環境が心に与える影響はすごいなと思いました。史花の日記を握りしめてあの場所に行って、走るシーンはとにかく解放的でした。監督から「自由に叫んでいいよ」と言われて、自分の中で気持ちを解放した瞬間がありました。信濃町の静けさと神聖な空気が、史花としても自分自身としても気持ちを解放させてくれました。

―― 本作では自然の情景が映される美しいシーンも印象的です。作品のタイトルにもありますが、「世界は美しい」と実感した瞬間はありましたか?

久保: 私は普段から自分の目に映る世界をどれだけ美しく感じながら生きられるかをすごく大事にしていて、些細なことでもそれを感じられるように自分で自分を育ててきた感覚があります。以前は大きな(特別な)出来事に美しさを感じがちでしたが、そうじゃない時間の方が人生は長いから、いかに自分で日常を彩るかと思って。だから今は家にいても外に出ても、日常の中で美しさを感じています。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里)

“その瞬に放てるエネルギー”
短編映画ならではの課題を実感

これまで映画やドラマ、MVなど数々の映像作品を経験してきた久保にとって、約30分という尺の短編映画での表現は新たな挑戦となったという。

―― 今作は短編映画(約30分)の作品でしたが、短編ならではの取り組みや課題と感じた部分はありましたか?

久保: 単純に撮影日数も完成作品の尺も短いので、撮影が終わってから監督には「いかにその瞬間しか出せない爆発力みたいなものを見出せるかが今後の課題だね」というお話をいただきました。

短い物語の中で言葉で補えない部分も出てくるからこそ、その瞬間に放てる大きいエネルギーを持てるかどうかが短編ならではの難しさであり大切さだと感じました。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里、光世/中尾幸世)

自分と深く向き合う「修行の場」
映画と歩む俳優としての未来

乃木坂46を卒業し、一人の俳優として歩み始めた久保史緒里。彼女が考える映画の存在、そしてこれからの展望について語った。

―― 久保さんにとって「映画」とはどのような存在ですか? また、今後俳優として挑戦してみたいことを教えてください。

久保: 映画は、お芝居をする時に一番自分と会話する時間や機会が長い場所だなと感じています。現場で監督やキャスト、スタッフの方々と作品や役柄について対話する時間がすごくあるのがありがたくて。映画は自分にとって「修行の場」であり、向き合う場であり、勉強になるのですごく好きですね。

これからもジャンルや形式にこだわらず、映像作品も舞台も積極的に挑戦していきたいです。全ての経験が繋がっていると実感しているので、どんどん色んな作品に触れていきたいと思っています。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里)

最近観た映画『四月の余白』に重ねる想い
『世界は美しいと誰かが言った』へ通じる子どもたちの未来への願い

日常的に様々な作品に触れている久保。最近観たという一作にも、本作『世界は美しいと誰かが言った』に通じる温かな眼差しと願いが込められていた。

―― 普段から映画をよく観られるとのことですが、最近観た作品や印象に残っている映画はありますか?

久保: 最近、一ノ瀬ワタルさん主演の映画『四月の余白』(2026年/𠮷田恵輔監督)を観ました。ものすごく心に響く、素敵な作品でした。

私自身が本作『世界は美しいと誰かが言った』で向き合ったのは2歳という幼い子ども(律)でしたが、映画『四月の余白』では少し大きくなって物心がついた、傷を抱える少年少女たちと大人とのやり取りが描かれています。

実は、この『世界は美しいと誰かが言った』の撮影をすべて終えた後、中川監督と「子どもたちが見る世界って、本当に美しいよね」という話をずっとしていたんです。そうした背景もあり、この撮影を終えたタイミングで観たからこそ、より一層「これから子どもたちが生きていく、見ていく世界が、明るく美しいものであってほしい」という強い願いが重なり、深く共鳴させられた作品でした。本作ともすごく通じ合う部分があると感じています。

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里、律)

―― 最後に、作品を楽しみにしている読者やファンの皆様へメッセージをお願いします。

久保: 毎日いつでも「世界は美しい」と思えるわけではない中で、監督と「子どもが見る世界、これから見ていく世界が明るく美しいものであってほしい」という願いが撮影中から強くありました。観てくださる方にとって、世界の見え方が変わるとまでは言わずとも、新しい選択肢や色、温度が増えるきっかけになれば嬉しいです。中川監督が切り取る瞬間の美しさに惚れ惚れする作品ですので、ぜひお楽しみください。

[スチール撮影・取材・文: Cinema Art Online 編集部]

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プロフィール

久保 史緒里 (Shiori Kubo)

2001年7月14日生まれ、宮城県出身。

2016年に「乃木坂46」3期生オーディションに合格しデビュー。2022年よりニッポン放送『乃木坂46のオールナイトニッポン』のメインパーソナリティを務め、グループ在籍中よりNHK大河ドラマ「どうする家康」(2023年)、連続テレビ小説「あんぱん」(2025年)のほか、ドラマ「クロサギ」(2022年/TBS)など多数の作品に出演。

主な映画出演作に、映画『左様なら今晩は』(2022年)、『探偵マリコの生涯一番最悪な日』(2023年)、『リバー、流れないでよ』(2023年)、『ネムルバカ』(2025年)、『ほどなく、お別れです』(2025年)などがある。

2025年11月に乃木坂46を卒業し、現在は俳優として活動中。公開待機作に、第38回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された中川龍太郎監督の映画『恒星の向こう側』(2026年秋公開予定)がある。

【写真】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』主演・久保史緒里 インタビュー in TAXIATER

短編映画『世界は美しいと誰かが言った』冒頭映像

映画作品情報

【画像】短編映画『世界は美しいと誰かが言った』場面カット (藤吉史花/久保史緒里、律)

《ストーリー》

重い病を抱える史花(久保史緒里)は、2歳の娘を抱き抱えて、行く宛もなくタクシーに飛び乗る。辿り着いたのは木々が生い茂り、風がそよぎ、光が溢れる湖のほとりの集落。そこで、幼い娘を亡くした経験を持つ光世(中尾幸世)と出会う。史花と律は彼女が営む民宿に、一晩だけ泊まることに。その一晩を通して、史花・律・光世、3人の女性の人生が交差する。その先に待っているものとは―――――。

 
出演: 久保史緒里、中尾幸世、三浦貴大
 
監督・脚本: 中川龍太郎
プロデューサー: 廣瀬直紀
協賛: 衣料用洗剤「アタック」(花王株式会社)
制作プロダクション: 株式会社青火舎
製作: 株式会社ENGINE
 
© TAXIATER
 
2026年8月3日(月)〜8月9日(日) タクシー先行上映!
 
2026年8月15日(土)〜8月29日(土) 
都内3館(池袋HUMAXシネマズ、ユーロライブ、下北沢トリウッド)にて劇場上映!
 
公式リンク集:https://linktr.ee/taxiater
公式X:@taxiater_movie
公式Instagram:@taxiater
 

タクシー映画祭「TAXIATER」公開記念イベント レポート

この記事の著者

Cinema Art Online編集部

本記事を読んでくださりありがとうございます。

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