映画『NO CALL NO LIFE』
井樫彩監督インタビュー
こだわり抜かれた“画”
散りばめられたメタファーにも注目!!
高校3年生の夏、携帯電話に残された留守電メッセージに導かれて有海と春川は出会い、そして恋に落ちた。壊れそうなほど脆く不安定な思春期の2人が織りなす、痛いほどに切ないラブストーリー。
W主演にホリプロ期待の実力派優希美青と井上祐貴を迎えたホリプロ60周年記念映画『NO CALL NO LIFE』が、3月5日(金)に劇場公開される。
第37回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞し、映画『GOZEN 純恋の剣』(2019年)でヒロインを演じ注目を集めた優希美青が悲しい過去を背負った女子高生・有海を演じ、第42回ホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞し、ドラマ「ウルトラマンタイガ」(2019年)で主演を務めた井上祐貴が自由きままな不良少年・春川を演じる。さらに犬飼貴丈、小西桜子、山田愛奈、駒木根葵汰と注目のフレッシュな顔ぶれが揃って出演。そのほか、永岡佑、桜井ユキ、篠原篤、熊木陸斗、大水洋介、和田聰宏、木下ほうか、諏訪太朗ら多彩な俳優陣が参加している。
監督を務めるのは、映画『溶ける』(2016年)で日本人最年少での第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門への出品を果たし、初長編作『真っ赤な星』(2018年)でも注目を集める25歳の女性監督、井樫彩。企画・制作プロデューサーともに20代という、次世代を担う若手クリエイターたちによる作品となる。
青春ラブストーリーの新たな金字塔ともいえる今作のメガホンをとった、井樫彩監督に話を聞いた。
『NO CALL NO LIFE』制作にあたって
―― 今作は小説が原作の実写映画という形になっています。まず、『NO CALL NO LIFE』の原作をお読みになった際の第一印象を教えてください。
『NO CALL NO LIFE』の原作は約10年前の小説なんです。それこそ10年前自分はちょうど中学生~高校生くらいだった世代で、時代背景とかあると思うんですけど、その当時に流行っていた小説の感覚を思い出しました。
完全に(脚本・監督を)やるとなってから読んでいるので、時代背景も含めて、10年前のものを今やるとなると変えなきゃいけない、今の人たちに伝わるものにしなきゃいけないなと。それをどうやってやっていこうかなと考えながら読みました。なので、純粋な目線では読めなかったです。
―― 前回のインタビューで、「原作の実写化をやってみたい」と仰っていました。2018年初長編映画『真っ赤な星』から、2020年原作のあるMBSドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」も撮影されて、今作メガホンをとられましたが、 それぞれ実際経験されてみていかがでしたか?
そんなこと言ってたんですね(笑)。
ドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」は漫画原作で、原作の話を考えている岡田麿里さんがドラマも脚本されていて、つまり原作者がドラマもやっていたんです。
それぞれに面白いところがあって、脚本家がいる場合は「提案していく」っていう感じなんです。「こういうのは画的に面白いからどうですか」とか、「こういう風にしてもいいですか」みたいな話をしていく面白みとか、(ドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」は)原作が漫画作品で絵があるので、その漫画で印象の強い部分は映像にも反映したりとか、そういう方向性でした。
『NO CALL NO LIFE』に関しては小説で、脚本も私が書いているので、「荒ぶる季節の乙女どもよ。」のときより自分が考える比重が重かったですね。
―― キャストの皆さんはどのように決まったのでしょうか? 映画『真っ赤な星』にも出演されている桜井ユキさんもいらっしゃいますね。
主演の2人に関しては、ホリプロ60周年記念の映画だったのでホリプロ内で決まりました。その2人以外は、プロデューサーの方々と相談しながらオファーしたり、オーディションを行ったりして決めました。桜井さんは「ぜひお願いします」とラブコールを(笑)。
―― 色々な場所を周りながら撮影されたそうですが、特に印象に残っている場所などはありましたか?
埠頭は、作品に合うところを探すのが大変でした。
関東近郊で探していたんですけど、灯台の大きさが小さいとか、ストロークの部分がないだとか色々あって。下に飛び降りるシーンもあったので、それができるかどうかなど、結構難しかったんですけど、最終的に今の場所が見つかってここなら撮れると思いました。なので埠頭と海は印象が強いです。
状況や心情を、動きや画で表現
―― 物語の面でも演出の面でも、監督の前作である映画『真っ赤な星』と『NO CALL NO LIFE』は類似している点があるように感じました。監督としてはいかがですか?
いやー、そうですよね(笑)。わたしが映像表現として惹かれるものが、自然が伴っているか、身体(からだ)が伴っているかなんです。自然というのは水・火・風とか。身体というのは踊るとか走るとかなんですが、『真っ赤な星』のときはパラグライダー、つまり空を飛ぶということで表現をしていて。
今回は原作に、海と花火という二つのキーワードがあったので、そこを象徴的にやっていこうという意識がありました。波の打ち方とか、花火が燃えてるというだけで登場人物の気持ちがわかったりする、そういう表現が好きなので、意図的に取り入れています。
―― 本作で主人公2人が蛍を追いかける場面では、映画『真っ赤な星』のパラグライダーを連想しました。また、そのあとの有海が自分の部屋の蛍光灯を仰いで手を伸ばしているシーンは、蛍のシーンとリンクしているのでしょうか?
そうです、(蛍のシーンとそのあとの有海の部屋のシーンは)リンクしています!届かないもの、遠くにある光に手を伸ばしてる、という感じです。
―― 撮影で特に大変だったというシーンはありますか?
全部大変でした(笑)。言い過ぎるとネタバレになってしまいますけど、ベランダで花火をした後のシーンなどはフレーム外で花火をして、花火の光と煙を画面に入れ込むということをしていて、プラス水を流すというような演出で、それらを全部やらなくてはいけなかったのが大変でした。
―― 雨のシーンが多かったと思いますが、そこは大変ではなかったでしょうか?また、物語中の季節の関係以外で雨のシーンを多く入れた理由はありますか?
たしかに、雨も大変でしたね(笑)。先程の話に付随してくるんですが、雨が降っているだけでその子たちの心情の描写になるというか、雨がポツポツ降っているときとザーッと激しく降ってる時の気持ちって違うと思うんです。本人たちの感情も違うし、観た人の印象も違うと思ってて。なので、登場人物たちの気持ちが暗いときは雨が降ってるとか、意図的に入れていました。
―― 雨のシーンもそうですが、本作は青いシーンが多かったですね。
2人が海に包まれてるみたいな、海をイメージしています。
―― 監督は「オレンジの街頭の、真っすぐに伸びた道」のカットについてツイートされていました。あのシーンはお気に入りですか?
あのシーンは道の真ん中に線があって、最初春川はその線の上を歩いてるんですが、有海は春川の左側を歩いている。やり取りの最中に春川が<1歩踏み出して線を超えて有海側に入ってくる>という動きにしています。
線を越えてくるというのはその関係性も表現していて、その線を越えて春川が「付き合う?」と言う。そのあと「付き合わない」と言われて、また(線の上に)戻る、と。本人たちの関係性や、その時の気持ちなどを線や高低差を使って暗喩しています。
―― 作中、色々なシーンで有海は(ペットボトルの)水を持っていましたが、そこは何か意識されていますか?終盤のシーンでは空のペットボトルを片付けるシーンもあり、水の量も変化していました。
意識していなかったです。でもそういう、私は意識してないけど観た人がそう思うということは良いことだと思うので、そう思ってくれたならそういうことです!…意識してるって書いといてください(笑)。
――有海が最初に航佑と例のアパートに向かって歩いているシーンと、最後のほうのシーンで有海が春川と一緒にアパートに向かうシーンは同じ構図で後ろから撮影されていますね。
そうなんです。最初に有海が航佑と誰からの電話かわからない状態で行ったアパートと、もうわかった上で(春川と)行ってるアパートということを見せる時に、同じ画角で見せるほうがそのシーン個体で存在してるんではなくて、繋がりがあるなと。
「オレンジ髪の男の子と、女の子」が『NCNL』
―― 映画で春川はオレンジの髪色をしています。原作の「金茶色」の髪色とは少し異なっていますが、映画のこの髪色を選んだのは何故ですか?
例えば、『ホットロード』(2014年)とか『溺れるナイフ』(2016年)とか、「金髪の男の子と、女の子」っていう構図はセオリーとしてありますよね。被るのが嫌で、ちょっとはずしてオレンジにしましょうかという話になったんです。金髪少年の話、多いですからね。
――原作の設定では、春川は留年していて年齢的には有海より年上という設定ですが、映画では春川と有海は同い年という設定になっていると思います。どういった意図があってこのようにされたのですか?
昔(原作小説が書かれた頃)はわからないですけど、時代的に今はあまり高校で留年はしないよなと。
あとは、映画は限られた尺で作らなくてはいけないので、その事柄を説明するメリットがどれだけあるかということなどを考えた時に、そこは重要視しなくても、話の本筋は成立するなと。
監督のこれからと皆さんへのメッセージ
―― 今後どのような作品に挑戦したいですか?
めちゃくちゃポップな作品とか。ブラック寄りのちょっとポップな感じのものをやってみたいです(笑)。
―― 最後に、これから作品をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
“キラキラ映画”じゃないですよっていうのをお伝えしたいです。結構キラキラに思われるんですが、違うというか(笑)。どちらかというとヒリヒリする、若い2人の刹那的な恋愛を描いているので…。誰かを好きになったり、思ったり、そういうことは多くの人が経験していることだと思うので、何かしらリンクしてくれるといいなと思っています。
プロフィール
井樫 彩(Aya Igashi)1996年、北海道出身。学生時代に制作した『溶ける』(2016年)が、第 70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門正式出品。初長編映画『真っ赤な星』(2018年)で劇場デビュー。山戸結希プロデュース『21世紀の女の子/君のシーツ』(2019年)にも参加し、TVドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」(2020年/MBS・TBS系)でも監督を務めた。その他、監督作にPARCO 2019SSショートムービー、マカロニえんぴつ「ブルーベリー・ナイツ」「恋人ごっこ」のMVなどがある。 |
映画『NO CALL NO LIFE』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》運命と呼ぶには静かすぎる出会いで、愛と呼ぶには幼すぎる2人だった。 高校3年生の夏、携帯電話に残された過去からの留守電メッセージに導かれ、佐倉有海は学校一の問題児・春川と出会い、そして恋に落ちた。親の愛を受けることなく育った有海と春川。似た者同士のような2人の恋に、恐いものなんて何もないと思っていた。明日、地球に隕石が衝突して世界中の人類が滅んで2人きりになったって、困ることは何もないような気がした。無敵になった気分だった。それはあまりにも拙く刹那的で欠陥だらけの恋なのに…。やがて、時を越えた留守電が有海の衝撃の過去を浮かび上がらせる。2人には、あまりにも切ない衝撃の結末が待っていた――。 |
公式ハッシュタグ: #NCNL / #NOCALLNOLIFE