ウエダアツシ監督 インタビュー
自身がファンであるからこそのこだわり
その再現度に原作ファンも喜ぶこと間違いなし!
浅野いにおの傑作漫画「うみべの女の子」が衝撃の実写化!思春期の繊細で残酷な“恋”と“性”。海辺の小さな街に暮らす少女と少年の胸をしめつけられる青春譚が描かれる。
石川瑠華(佐藤小梅役)と青木柚(磯辺恵介役)が主演を務め、ほか前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴など、期待の若手俳優陣が顔を揃えた。
メガホンをとったのは、長編初監督作である『リュウグウノツカイ』(2014年)が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で北海道知事賞を受賞、『桜ノ雨』(2016年)、『天使のいる図書館』(2017年)、『富美子の足』(2018年)とコンスタントに話題作を発表している気鋭の映像ディレクター・ウエダアツシ。
自身も原作のファンだというウエダアツシ監督に、映画化する上での“こだわり”など話を聞いた。
主演2人のキャスティングの決め手
「中学生にしか見えなかった」
―― 浅野いにおさん原作の漫画「うみべの女の子」は元々ご存知でしたか?
どのようなきっかけで映画化することになったのでしょうか?
原作は、発行されて2年後くらいに今回一緒に脚本を書いた平谷(悦郎)に教えてもらいました。「これ好きじゃない?」って勧めてくれて、そこで映画の企画にどうかなと思ったんです。
当時、同世代のプロデューサーたちと「自分たちの世代の映画作りたい」という話をし始めたころだったので、企画会議にこの漫画を持って行って、みんなに読んでもらいました。そうして映画化に向けて動き出したのが今から5年ほど前になります。
―― キャストはオーディションで決められたのでしょうか?
主演の2人の“決め手”を教えてください。
小梅に関しては、肌を見せるようなシーンも多いのでそれも込みで募集もかけていて、それでもこの原作に賛同してくれるというのが第一の条件でした。
その中で、石川さんは冒頭のシーンみたいな大きいマフラーを巻いて、自分が学生時代に着ていた制服を着てオーディションに来たんです。もう中学生にしか見えませんでした(笑)。
オーディションではお芝居もしてもらいましたが、「ああ、もうこの子しかないな」と。一緒に見ていた原作の浅野さんも同じように感じられたみたいで、即決でした。
青木君は、僕が磯辺役に良い人はいないかとネットで検索していたら、彼の画像が引っかかったんです。磯辺にすごく顔が似ていると思ったので、プロデューサーに頼んで事務所に連絡を取ってもらって、オーディションに来てもらいました。
実際会ってみても物凄く漫画に似ていたし、あとしゃべり声が年齢の割に高かったのもあってかなり中学生っぽく見えて。
性描写があるので役者さんを18歳以上から選ばなくてはならなかったのですが、「きっと観てる人たちが違和感なく中学生に見えるだろうな」という要素のある2人だったので、石川さんと青木君に決めました。
―― その後撮影を重ねて、2人にはどのような印象を受けましたか?
2人ともすごく真面目で、自分がその役になるための努力をしっかりしていました。
中学生に見えるかどうかもそうですが、役の2人は結構感情が複雑で難しいじゃないですか。その辺りも含めて、2人は休憩中でも必要以上の慣れ合いもなく、ちゃんと距離感が守られいて、プロとしてしっかりしていたので安心して見ていられました。
映画に映らないシーンも演じた役作り美術へのこだわりも
―― 映画公式サイトに掲載されているコメントで、主演の石川さんは「監督と何度も作品について話し合った」と書かれていました。実際どのようなお話をされ、役作りをされていったのでしょうか?
撮撮影は茨城県の大洗町あたりと神奈川県の横須賀市を半々くらいで行ったのですが、石川さんとは撮影前にそのロケ地を車で一緒に見に行ったりしました。
小梅や磯辺が住んでいる“町感”を掴んでもらうため、石川さんを横須賀にある小さい町、各駅停車しか止まらないような駅に連れて行き、「多分小梅は、ここから夏期講習のために電車で大きめの乗換駅まで行って、その駅前にある塾とかに通ってるんじゃないかな」といった話をして。
映画には映らない部分ですが、実際に現地で切符を買ってその動きをしてみてもらい、駅前の雰囲気や駅前のデパートで小梅が見そうなお店などを「探索してきて!」みたいなことを言って、やってもらったり(笑)。
役作りの手助けになりそうなことを色々試してもらいましたね。
青木君は、原作を読んだ時点でかなり磯辺に共感している様子だったので、そこまで詳しく話し合いはしなかったと思います。その分、磯辺の居場所かつお兄ちゃんとの思い出が詰まった彼の部屋のセットだったり美術を充実させて、「この中に入れば、彼なら自然と感じ取って掴んでくれるだろう」と。案の定、スッと入っていけていたんじゃないかなと思います。
原作ファンが喜んでくれるような映画に
時代を超えて愛されるものを「若い方にも観てもらいたい」
―― ロケ地や美術も原作に忠実に拘られているんですね。原作と見比べてみても、その再現度の高さには本当に感動しました。
楽しいですよね。そういうところは観て1回目は目に入らないかもしれませんが、例えば2回観てくれる人や、ソフト化された後に原作漫画と比べながら観てくれる人が、「この漫画のこれ、ちゃんとここにあるんだ」とか「漫画の舞台と同じ場所で撮影してるんだ」とか、分かると嬉しいじゃないですか。
浅野さんの漫画は、自分で写真を撮影してそれを描き起こしている背景が多いので、実際にある場所ならそこで撮るに越したことはないと思って、ロケ地を決めました。
映画化する上で、僕ももちろん原作のファンなので、「僕だったら、こうなら嬉しいな」と思うような、原作ファンが喜んでくれるような要素を極力入れるよう頑張りました。
―― 実写化する上で、忠実に再現しようとすると難しいところもあったと思いますが、脚本・演出を考える過程で“どこまでやるか”といった悩みはありましたか?
性描写や台風のシーン、原作にも出てくるはっぴいえんどの「風をあつめて」、その3つの要素は最低限、映画化するなら絶対入れないと原作ファンの自分も納得できないというのはありました。
台風のシーンなんかは、風を起こして雨降らして看板を飛ばしてと大変でした。なかなか何回もできないので一発で上手くいくように特に緊張感を持って臨みました。
あとは、中学生が主人公の映画なので、若い方に観てもらいたくて。
はっぴいえんども1970年代に活躍したバンドですけど、2021年に聴いても良い曲だし、そういう“時代を超えて愛されてきた”音楽や漫画、サブカルチャーっていうものをまたさらに若い人たちにも伝えたいという思いがありました。
今こういう映画はあまりないと思うので、実際若い子たちが観たらどんなことを思うのかも気になりますし。そういう意味で、15歳以上なら観れるような表現に抑えて(R15+で)映画化しました。
―― 脚本・演出について、作品の世界観を作る上で意識した柱・コンセプトのようなものがあれば教えてください。
実は、今回はあまりそういうのはないんです。柱になるべきものは、浅野さんの漫画(原作)だと思うんですよね。やっぱり、原作が好きで映画化したいと思ったし、原作が好きなスタッフが集まってくれて、役者さんたちもそれに共感してオーディションに来てくれて、参加してくれたわけなので。
だから、原作のファンとして「自分の好きな『うみべの女の子』にしたい」という気持ちは、みんな持っていたと思うんですよね。それだけに、「そこがブレなければきっと良いものになるだろう」と確信していました。
中には「原作と全然違う」と原作ファンから言われてしまう映画もあると思いますが、そういうものにはしたくなかった。そういう意味で、今作は上手い塩梅にできたと思います。
王道ではないが嘘のない青春映画
今仕様にアップデートされた「うみべの女の子」を劇場で!
―― 完成した作品を客観的に観て、いかがでしたでしょうか?
10代の細かい心情だったり、仕草だったり、喋る言葉の癖だったりって、40歳を過ぎた僕にはもうわからないから、今作は結構キャストの皆さんに任せた部分もあったんです。そこはもう原作も気にせず、キャストさんたちが自分たちのやりたいようにやってもらって。
その辺りも含め、原作は10年以上前の漫画ですが、今の映画にアップデートし、原作の良さは残しつつちゃんと“今観る映画”になっていると思っています。
例えば、「今ならブログよりTwitterのほうが身近だよな」「メールよりLINEでやり取りするよな」とか。でも、「今でもここは手紙だよね」というところも大切にして。
そうして映画を作っていて、たった10年しか経っていないのにやっぱり時代は変わってるんだなと感じました。そこを原作通りにやることで、今観るお客さんが違和感を感じたらいけないし、そういう意味で上手く新しい時代に沿った形にできたんじゃないかと思います。
―― 特にお気に入りというシーンがありましたら教えてください。
正直どこも気に入っているんですけどね(笑)。
でもやっぱり、小梅と磯辺が学校とは別の顔を見せる、2人が磯辺の部屋にいるシーンは良いなと思います。
ひと夏くらいのお話ですけど、時間や2人の気持ちの変化だったりが感じられる、撮っていた僕も見惚れてしまったお芝居がたくさん生まれた場所です。
―― 最後に、シネマアートオンラインの読者の皆様へメッセージをお願いします。
映画『うみべの女の子』は、王道な青春映画ではないと思います。でも、こういう青春って嘘がないというか、2人のやっていることは決して褒められるようなことではありませんが、「こういう子たちもいていいんじゃないか」とも素直に思える。
恋愛に体の関係はつきものだし、これは中学生のお話ですけど、大人になってもずっと変わらない部分でもある。そういう意味では普遍的な恋愛映画になったと思います。
普段観ている映画とは毛色が若干違う映画かもしれませんが、自分の経験だったりと照らし合わせて、色々感じてもらえる部分があると思うので、是非観ていただけたら嬉しいです。
プロフィール
ウエダ アツシ(Atsushi Ueda)長編初監督作である『リュウグウノツカイ』(2014年)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014で北海道知事賞を受賞し、以後も『桜ノ雨』(2016年)、『天使のいる図書館』(2017年)、『富美子の足』(2018年)とコンスタントに話題作を発表している気鋭の映像ディレクター。 |
映画『うみべの女の子』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》海辺の小さな街で暮らす中学生の小梅(石川瑠華)は、憧れの三崎先輩(倉悠貴)に手ひどく振られたショックから、かつて自分のことを好きだと言ってくれた内向的な同級生・磯辺(青木柚)と身体を重ねてしまう。 初めは興味本位だったが、何度もセックスを繰り返す二人。磯辺を恋愛対象とは見ていなかったはずの小梅は、徐々に磯辺へ想いがつのるようになるが、小梅のその想いに反し、小梅に恋焦がれていたはずの磯辺は、小梅との関係を断ち切ろうとしてしまう。二人の気持ちすれ違ったまま、磯辺は過去にイジメを苦に自殺した兄への贖罪から、ある行動に出ることとなる・・・。 |
2021年 / 107分 / DCP / シネマスコープ / 5.1ch / カラー / 日本 / R15+
© 浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開!