映画『星くず兄弟の新たな伝説』
ヴィジュアリスト・手塚眞監督インタビュー
「新たな伝説」を生む天才ヴィジュアリストの想像性!
脳内絵コンテによる自由で大胆なオリジナル作品!
映画『星くず兄弟の新たな伝説』は、80年代をリードしたロックンローラー・近田春夫の架空のロックミュージカル『星くず兄弟の伝説』(1985年)を『白痴』(1999年)、『ブラックキス』(2004年)の手塚眞監督が学生時代に映画化したロックミュージカル映画を元に新たにパワーアップされたオリジナル作品である。
本作は近未来を舞台に、三浦涼介と武田航平演じる若返ったスターダスト・ブラザースが歌やダンスを交えたパワフルで痛快な大冒険を繰り広げる物語である。荒川ちか、藤谷慶太朗ら脇を固める気鋭の若手俳優はもちろん、谷村奈南と田野アサミのスターダスト・シスターズに加えて、前作に引き続き、高木完や久保田慎吾、ISSAYも再登場。井上順や夏木マリ、浅野忠信、野宮真貴(元 ピチカート・ファイブ)、ラサール石井、内田裕也といったロック魂全開の超個性派豪華メンバーが大集結している。
―― 33年前の『星くず兄弟の伝説』(1985年)の監督をされたときのことをお尋ねします。近田春夫さんの頭の中にあるイメージを映画化されたそうですが、どうして近田さんは若手の映画監督の中から手塚眞監督に声をかけることになったのでしょうか。
実際に近田春夫さんにお会いしたのは、テレビの番組なんですね。そのときに、僕が大学生のときに作った『MOMENT』(1981年)という8 mm映画を近田さんが観てくださっていて、すごく気に入っていただいて、その話をしたり、お互いの好きな話をしました。そこで、『ファントム・オブ・パラダイス』(1974年)の話になって盛り上がったんですよ。とにもかくにも意気投合してしまったというところです。それで、「じゃあ、やってくれない?」という話になったんです。近田さんもそんなに深く考えないで、「やってくれるんじゃないか?」みたいな軽いノリだったんですけれど、こちらもあんまり深く考えず、「良いですよ」っていう感じだったんです。
―― そのお話が展開して商業映画になったのですね。
結果的にはそうなんです。本当に当初は友だち同士の軽いノリの話でした。僕が監督として選ばれる前に、別のプロデューサーが別の若い監督さんでやろうという企画が1回あったらしいんです。それについて僕は知らないのですけれども、それは成立しなくて、その後に僕に声がかかったという感じなんです。
―― 今回の『星くず兄弟の新たな伝説』の映画化は、監督以上に前作の出演者の方やスタッフの熱意で製作がはじまったそうですが、どのような想いで映画を作ろうと最終的に決意をされたのですか。
いつも最初は、他の人から振られるんですけれども、1回頭の中で進みはじめてしまうと自分の頭が止められなくなるんですよ。ですから、ストーリーもどんどん考えてしまうし、キャスティングのアイデアなども考えてしまって、つい真剣になってしまうんですね。そうすると、やれるかどうか可能性にかけてみようという感じになって。だいたいいつも、考えるのは良いのだけれども、可能性はないって思うんですね。ただ、そういうときに限って、「お金を集めてあげる」という人が現れるんですよ。それで、余計にやる気になってしまうのですけれども。でも、そんなに上手くは進まなくて、途中からは自分でお金を集めてみることになってしまうので、結局、どんどん苦労をしていくわけですね(笑)。分かってはいるんだけど、止められないんですよね。
―― クリエイティブにどんどんアイデアなどが出てくる感じなのでしょうか。
ものすごくやる気があっても、出てこないときもあるんですよ。途中で色々な理由で、製作が止まってしまうときもあるんですけれども、できるところまではやってみようと思いました。ただ、今回は結構豪華な方々に出ていただいて、その出演者のみなさんが快く出てくれるという話を受けて、これはやり遂げたいなという気持ちになりましたね。
―― 今回は、手塚監督が脚本を書かれて、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが協力をされたオリジナル作品だと聞いています。前作を観たことがある人も、初めての人も楽しめて前作も観てみたくなる作品だと思います。出だしからパワフルですごく新鮮さもあって、手塚眞監督は永遠の新人類じゃないかと思うほどなのですけれども、どんな風に生み出されたのでしょうか。
僕の場合は、自分で脚本を書いて作るオリジナルの作品の場合は、最初から出来上がりがみえているのですよ。もちろん、俳優とかは決まってはいないんですけれども、まず脚本があって、その文章を映像にする作業ではないんですよ。脚本を書いているときには、もう完成されたシーンになっているのです。ただ、そこに今回はケラさんがまた違うニュアンスを持ち込んでくれました。そうすると、今まで自分が思っていたところにそれをどういう風に入れて膨らませていこうかというところが、逆に楽しみになりました。映画の内容や演出を考えることは、自分にとってはものすごく自然で、嫌になるとか苦になるとかは全然ないのですね。もちろん、とても考えるのですけれども、それを大変だと思ったことはないんですよ。僕の作品は少ないのですけれども、それはなかなかこういうインディペンデントの映画というのが作りにくいという状況が日本にはありますから、どうしても進めていった話が途中で止まってなくなるということもあるので、結果的に劇場公開までたどり着けた作品は少ないのです。かといって、そのぐらいしか思いついていないわけではなくて、その何十倍も頭の中にはアイデアがあるんですね。だから、仮に「お金を無尽蔵に出しますから、今回の『星くず兄弟の新たな伝説』みたいな映画を次から次へと作ってください」と頼まれたら、20~30本は平気で作れますよ。そのぐらいは、全然思いつけると思います。
―― 映像がまず浮かぶのでしょうか。
映像というよりも、映画そのものが浮かびます。それを誤解されることがあって、ビジュアリストと言っているので、「映像が浮かぶのですか」って言われるのですけれども。それは正しくなくて、やっぱりストーリーがあって、役者がいて、そのキャラクターが生きていて、それが最終的に映像になったトータルな状態なのです。
―― 完成された映画のような状態なのですか。
そうですね。それは本当に具体的なテンポとか、編集を入れるとどのくらいの編集にしてみせようとかも決まっているんですよ。
―― それはすごいですね。
前の『星くず兄弟の伝説』はそれをガチガチにやっていたんですね。全部絵コンテを描いて、完璧に計算がなされて、ほぼ絵コンテ通りに作っていたのです。もちろん俳優さんが自由に演技をするという自由度はあるのですけれども、映像のつなぎ方などは全部決めてやっていたのですね。今回は、自分でわざとそこにもっと隙間を作って、自分でもその現場で作れる自由度というのを入れて、全部絵コンテというやり方とは違う形にしました。実は、今回の映画では絵コンテを1枚も描いていないのですよ。全部現場で作りました。だけど、頭の中では出来上がりがあるので、現場で作っていても何を撮れば良いのかということが分かっているんですよ。必要なもの全てが 。
―― 監督の頭の中に絵コンテがある状態なのですか。
そうです。極端な話、俳優の演技もそうなんですけれども、見ていて自分の映画の中に当てはまる演技の幅があって、その幅におさまっていれば、どんな演技をしていてもOKなんです。外れた場合は、「そこがちょっと違うから」ということを言いますね。
―― 今回はオリジナル作品なのですが、新作をご覧になられた近田春夫さんはどんなご感想だったのですか。
試写会で最初に観ていただいたのですけれども、ずっと大笑いをされていて、一番笑い声が大きかったのです(笑)。僕のところに飛んで来られて、「これ最高だよ、手塚!本当にくだらないよ!」って言ってくれたんですよ。それは、近田さん流のほめ言葉なので、すごく楽しんでいただいたのだとわかりました。それで、近田さんはしばらく音楽活動をあまりされていなかったのですが、またこの『星くず兄弟の新たな伝説』を機会に、色々な人々と活動をされるようになって、そういうキッカケにもなってくれた作品です。だから、すごくうれしかったですね。映画だけじゃなくて、近田さんご自身も復活していただいて(笑)。
―― 高木完さんと久保田慎吾さんの役に三浦涼介さんと武田航平さん、女性版に谷村奈南さんと田野アサミさんを起用されていますが、不思議なことに全く違和感がありません。キャスティングはオーディションと聴いていますが、どういう点を重視されたのですか。
これは一種のアンサンブルなので、最終的に決めたのは全員のバランスですね。他にも良い人がいっぱいいたのですよ。でも、この人を選んでしまうと、こっちの人が違うかなとか。最終的に6人がこういう顔ぶれになって良かったです。
―― すごく6人が共鳴していますよね。
そうですよね。それにプラス、歌の部分もあったので、そこら辺はミュージシャンの人にも、オーディションのときに来てもらいました。実際に歌ってもらって聴いてもらって、どのぐらいの歌唱力があるかなどを確認してもらった上で、総合的に考えて選びました。
―― 田野アサミさんが公開記念の舞台挨拶で役作りの工夫について話されていましたが、谷村さんと田野さんも本当に違和感がなかったです。谷村奈南さんはご自身から出たいということを聴いていますが、どういうところに興味を持たれて起用されたのですか。
もともと彼女は歌手で俳優ではないわけで、それでどこから彼女に話がいったのかは分からないのですけれども、かなり早い段階で「この作品に出たい」とアプローチしてこられたのです。その理由は自分も音楽活動をやってきて、色々なことがあって今に至るの、脚本を読んでものすごく今の自分に重なることなどを考えて、「これはやらなければいけないと思った」ということを言われていました。本人の胸に刺さる台詞とかも結構あったみたいで、「どうしても出たいんです!」というすごく熱い想いがありました。他の人はみんなお芝居がすごく出来るので、そこに新人を1人混ぜるのはどうかなとも思ったんです。その熱い想いと共に、何回かオーディションに来てもらって、最終的には6人のバランスの力になるので、まあ大丈夫じゃないかなと思いました。もちろんただの素人じゃないですからね。ちゃんと歌の方で活躍されてきた方だから。それを言ったら、前の映画のカンちゃん(高木完)とシンゴ(久保田慎吾)も俳優ではなかったわけですから、大丈夫じゃないかなと思いました。彼女は本当にすごく真面目で、しかも本当に純粋なんですね。撮影がはじまってどんどん良くなっていくんですよ。それを見ているのがとても楽しくて、本当に日々上手くなっていく感じが伝わってきました。実際にこの作品では、本当に良い芝居をしてくれて、すごくホッとしているんですよ。やっぱり彼女で良かったなって思います。
―― 女性版のカンとシンゴが西部劇を繰り広げることがあることも、この作品の肝かと思いました。
ある意味で、そこの部分が一番のオリジナルのところです。近田さんの原作というか、音楽があって、前の映画があったわけですから。それの延長なんですけれども、女性2人の物語というのは、僕の思いついたアイデアなので、そこは自分でも気に入っているところですね。
―― 女性版カンとシンゴの登場には周りの反対もあったと聴いています。
反対があったのは、単純に映画が長くなってしまうからなんですよ。長くなると、その分の予算もかかるということなのです。主役がひとりであれば、衣装も1着で済むのですが、2人増えてしまうわけなので。でも、女性になってからの後半の世界は、根本的にはぶっ飛んだ世界なんですが、わりと映画としては王道の撮り方をしていまして、そんなに変な撮り方はしていないんですよ。前半は、わりとトリッキーな演出があるのですけれども、後半はものすごくストレートな演出をしているんですね。それがむしろ良かったんじゃないかと思います。
―― 彼女たちの登場によって、観客たちが一連のストーリーの流れの中で、深く入り込めたり、感情移入などもできるように思います。
多分、何かストレートな映画って、みなさん観たいんだろうと思います。ただ、今はストレートな演出を恥ずかしがってやらないんですよ。本当に今の若い人の演出をみると、ぶっきらぼうな演出が多くて、感情的にそれを盛り上げるための演出をみなさんやりたがらないんですよね。あえて、ちょっと良い意味で、昔の映画の作り方をしてみたのですが、やっぱりそこにみんななんとなく惹かれるというのは、根本的にはストレートな映画をみんなが好きなんだろうなっていう風に思いますよね。映画は映画らしくあってほしいという。
―― 作品の最初から最後までパワフルさや力強さ、熱意が感じられて非常に惹きつけられました。
エネルギーは強力だと思いますよ。一人一人のもっているエネルギーがすごいですよ。夏木マリさん1人だけでも相当なエネルギーをもっています。普通の映画に夏木さんが1人だけ出てきただけでも、すごいと思うんですよ。そんな人たちがいっぱい出演しているわけですからね。少ししか出ていない内田裕也さんにしても、それだけでもものすごく迫力のあるエネルギーをもっていますよね。それだけのものが詰まっていますから、それはものすごく強いですよね。
―― 遊び心も満載で監督ご自身も楽しむことを心がけたとうかがっています。
僕が若い頃に観ていた海外のエンターテイメントの映画のようなところがすごくあるんですね。だから、この作品は今のスタイルで新しい映画として作ったのですが、実は、もとのネタになって心がけていることは、昔ながらの映画のスタイルをきちんとやっていることで、そこは大きく外したつもりはないのです。パッと見はすごくとんでもない映画に見えるのですが、よく観てみたら、実は意外とまともな映画だったという風に自分で思っています(笑)。
―― 映画化への思い入れが強かった前回の出演者の方やスタッフが本作をご覧になられた感想はいかがですか。
もう、みんな喜んでくれています。
―― 色々な人々がさらなる続編への期待をかけているのではないでしょうか。
これは半分冗談だと思うのですけれども、若いキャストの連中が集まる毎に「じゃあ、次は30年後に」と言ってくれるのは、とてもうれしいですよ。もし、本当にそんな機会があったら、きっとまたみんなが集まるんだろうなって思います。
―― 前作を33年前に観たときは新しさを感じたのですが、昨日のレイトショーで再び観たときは、その後に手塚監督が似た作品もたくさん作られていたので見慣れた感じを受けました。本作も今はとても新鮮に感じるのですが、30年後にはさらなる新鮮さを感じる続編を期待してしまいます。
やっぱり何よりも、自分を裏切れないんですよ。もし30年後にもう1回作って、昔よりもつまらないものしか作れなかったら、自分が一番許せないと思うんですよ。少なくとも、「昔の自分には負けない」と、そのつもりで作らなければやる意味はないなって、それはずっと思っています。
―― これからこの作品をご覧になられる人々にひと言メッセージをお願いします。
見どころは、本当にたくさんあるのですが、やっぱり出演者一人一人が本当に魅力的に輝いています。その人たちを観るだけでも元気になれると思うので、出演者を観るためだけにでも来ていただきたいと思っていますね。
インタビューを終えて
常に時代の最先端を歩まれている天才ヴィジュアリスト・手塚眞監督の最新作『星くず兄弟の新たな伝説』の製作やキャスティング秘話、映画作りのプロセスなどについてお話をうかがった。本作は、かつて一世を風靡したロックミュージシャン二人が再起をかけてロックの魂を探し求めることがテーマ。パワフルでエネルギーあふれる豪華なキャストたちが集結し、最高に痛快な物語が展開していく。観た後には一度聴いたら忘れられない、底抜けに明るい挿入歌を口ずさみ活力もわくことだろう。リメイクでも続編でもない星くず兄弟が活躍する本作品は2018年全国順次公開中である。
[Special Thanks: 真名 摩由璃]
プロフィール
手塚 眞(Macoto Tezka) 東京生まれ。ヴィジュアリスト。高校時代から映画・テレビ等の監督、イベント演出、CDやソフト開発、本の執筆等、創作活動を行っている。1985年『星くず兄弟の伝説』で商業映画監督デビュー。1999年『白痴』でヴェネチア国際映画祭招待・デジタルアワード受賞。テレビアニメ『ブラック・ジャック』で2006年東京アニメアワード・テレビ部門優秀作品賞受賞。手塚治虫の遺族として宝塚市立手塚治虫記念館等のプロデュースを行う。
NEONTETRA: http://neontetra.co.jp
手塚プロダクション: http://tezuka.co.jp
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映画『星くず兄弟の新たな伝説』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》近未来、東京の下町―― 月世界で彼らを迎えたのは、どうしようもなくダメな芸能プロダクション「アストロ・プロモーション」。社長のアストロ南北は地球では売れっ子スターだったと自称するが、この事務所にはウサコとチェリー喜美雄というパッとしない二人のタレントしかいない有様。しかも新・星くず兄弟の初ステージは場末のショーパブだった。すっかり意気消沈した二人に酔っぱらいの老人が「スターになりたかったら〈ロックの魂〉を探せ」と声をかける。 こうして謎の〈ロックの魂〉を求めて、スターダスト・ブラザーズ二人の月世界の冒険がはじまる。一方、月の芸能界を支配する組織「フラッシュバブル」の女ボス、ベタール卑美子と片腕チェザーレ伊東は、星くず兄弟の活躍を封じるべく、刺客を送り込むことに。 果たして、スターダスト・ブラザーズ二人は〈ロックの魂〉を手に入れることはできるのか!? |
監督: 手塚眞
脚本: 手塚眞、ケラリーノ・サンドロヴィッチ
原案: 近田春夫 / ストーリー: 手塚眞
音楽: 近田春夫、赤城忠治、江蔵浩一、窪田晴男ほか
プロデューサー: 手塚眞(ネオンテトラ)、石毛栄典(トランスフォーマー)
製作: 星くず兄弟プロジェクト / 企画: ネオンテトラ
制作: トランスフォーマー、ネオンテトラ
配給・宣伝: マジックアワー