映画『木靴の樹』(L’ Albero degli zoccoli) レビュー

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映画『木靴の樹』
(原題: L’ Albero degli zoccoli)

「貧しいけれど幸せな生活」は本当にあるのか

《ストーリー》

19世紀末の北イタリア。ある農場にバチスティ、アンセルモ、フィナール、ブレナの4家族が共に住み込んでいた。畑を耕しタネをまき、夜には皆で集ってささやかなひと時を楽しむ。しかし土地、住居、家畜、そして樹木の1本に至るまで、ほとんどすべては地主のもので、収穫の3分の2を地主に納めなくてはならない。「貧しい人ほど神様に近い」そういって、彼らは小さな共同体を営み、助け合いながらつつましく生きていた。

ある日バチスティ家の息子ミネクの木靴が割れてしまう。村から遠く離れた学校に通う息子の為に、父親は河沿いのポプラの樹を伐り、新しい木靴を作ろうとする。だが、その樹木もまた領主のものであった。

《みどころ》

画面に映る光景は、少し前の時代のヨーロッパの農村の日常だ。家畜を世話する、畑を耕し収穫する、子供が中庭を駆け回る、夜は集って口達者な者の話しを楽しむ、そうしたシーンが淡々と飾り立てることなく描かれる。

懐かしさが心地よい。国も自然も風習も日本のそれとは違うのだが、ましてや農村に暮らした経験などなかったとしても、観る者誰もがそう感じるだろう。

劇中の彼らは余裕がある生活ではない。しかし見ていると安心感に包まれる。今日の生活に精一杯で明日のことを考える暇はなく、いや、むしろ明日のことを考えたらやっていけないような状況なのにだ。働いて・食べて・話して・育て・祈って・眠る、このシンプルな繰り返しによって生まれる何かが、生き物としての私たちの心を癒し、そう感じさせるのかもしれない。

私たちたが追い求め作り上げてきた豊かさを取り払った時、人に残される喜びは何であろうか。彼らの生活はご馳走を食べることもなければ買い物を楽しむこともなく、別の人生を考えることすらない。それゆえに見えてくるもの、それこそが今日を生きる力であり知恵であり幸福なのではないだろうか。

この映画は1978年に製作・公開され、四半世紀ぶりに再公開されることとなった。公開当時よりもはるかに社会そのものが変わってしまった今、生物としての人間すら変わってしまったように感じる今、私たちが見失っていそうな何かをいっそう強く呼び覚ますだろう。決して現代的な生活を嘆くわけではない。郷愁を呼び起こすだけのものでもない。生きるということに対する歓びの源泉が、私たちの心を共鳴させる。

[ライター: 高橋 輝実]

© 1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO – ISTITUTE LUCE Roma Italy.

映画『木靴の樹』予告篇

映画作品情報

1978年 第31回 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール、エキュメニカル審査員賞
1978年 第3回 セザール賞 最優秀外国映画賞
1979年 第24回 ヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 作品賞
1979年 ニューヨーク映画批評家協会 最優秀外国語映画賞
1979年 第33回 英国アカデミー賞 ドキュメンタリー賞(ブラハティ賞)
1979年 第53回 キネマ旬報 外国映画ベストテン第2位(第1位『旅芸人の記録』)
 
邦題: 木靴の樹
原題: L’ Albero degli zoccoli
 
監督・脚本・撮影・編集: エルマンノ・オルミ (Ermanno Olmi)
 
出演: ルイジ・オルナーギ、フランチェスカ・モリッジ、オマール・ブリニョリ
 
1978年 イタリア / カラー / スタンダード / 187分 / DCP / 日本初公開 1979年4月28日
配給: ザジフィルムズ
© 1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO – ISTITUTE LUCE Roma Italy.
 

2016年3月26日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー!

映画公式サイト
 
公式Facebook: @kigutsu

この記事の著者

高橋 輝実

高橋 輝実ライター

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