映画『緑はよみがえる』
(原題: Torneranno i prati)
塹壕に散った兵士たちの歌
《ストーリー》
1917年冬。イタリアとオーストリアの国境近く、アルプス・アジアーゴ高原。吹雪の中、連隊が積もった雪をかき分け道をつくりながら進む。たどり着いたのはイタリア側の塹壕だ。目と鼻の先にはオーストリア軍の塹壕が。劣悪な環境で病気を発し、あるいは疲弊を極める部下たち。そんな最前線の過酷さも知らず、大本営は地図の上だけで目標を定め、兵を進めろと命令する。
月明かりが照らす一面の白銀は美しいが、兵士たちには命取りでもある。塹壕から一歩でも出れば狙い撃ちだ。沈黙の晩、1発の爆弾が塹壕近くに着弾。とうとう塹壕の場所がわかってしまった。総攻撃の始まりだ。やがて多数の爆音が響き始める。
《みどころ》
青と白のコントラストが美しいアルプスの景色。しかしここで起こった100年前の出来事を知る人には、まさに「国破れて山河在り」の心境だろう。まだイタリアが、「完全統一」を目指していたころ。後になってそれが「第一次世界大戦」と名付けられる未曽有の大規模長期戦になるとも知らなかった若者たちが、「クリスマスまでには帰れる」と思って意気揚々と参加した戦闘の末路である。
神々しいまでに美しいカラマツの大木。雪に遊ぶリス。しかし兵士はモノクロの地下に閉じ込められている。塹壕にあって身動きもとれない。こんな山奥にまで足を運ぶ伝令がもたらす家族からの手紙だけが楽しみだ。しかしそれを受け取れる人も一人、また一人、減っていく。
最前線の兵士が見た本当の戦争の絶望的な手触り。爆音が体の芯まで轟きわたる。百歩譲って必要な戦争というものがあったとしても、この戦闘は無意味である。エルマンノ・オルミが、かろうじて生き残った父親に代わり、命を散らした同僚たちの無念を遺そうとしている。
[ライター:仲野 マリ]
映画『緑はよみがえる』予告篇
映画作品情報
第65回 ベルリン国際映画祭 特別招待作品
原題: Torneranno i prati
監督/脚本: エルマンノ・オルミ (Ermanno Olmi)
撮影: ファビオ・オルミ (Fabio Olmi)
出演: クラウディオ・サンタマリア、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、フランチェスコ・フォルミケッティ
2014年 イタリア / カラー / 1:1.85 / 5.1ch / 76分
配給: チャイルドフィルム / ムヴィオラ
後援: イタリア大使館 特別協力: イタリア文化会館
2016年4月23日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開!