- 2016-7-18
- インタビュー, 日本映画
- Gray Art Photography
金子雅和監督 & 主演 松岡龍平 インタビュー
現実と空想の境に観た人間の葛藤
北京国際映画祭2016 FORWARD FUTUERE部門で上映された金子雅和監督の長編映画『アルビノの木』がテアトル新宿での緊急限定公開が決まり、7月16日(土)に公開初日を迎えた。
金子雅和監督をはじめ、松岡龍平、東加奈子、山田キヌヲ、増田修一朗、尾崎愛、松蔭浩之、細井学、松永麻里、山口智恵らが集結し、舞台挨拶に登壇した。
同日、Cinema Art Onlineでは、金子雅和監督と主演を務めた松岡龍平氏の独占インタビューを敢行。撮影・制作秘話など貴重なお話を伺い、映画『アルビノの木』の核心に迫った。
物語のない映像作品から監督をスタートした金子監督。これまでも自然の中に人間がいる作品を今までも創ってきているが、今回もまた「自然と人間」がテーマ。決してブレない制作姿勢に雄大な大自然の映像美へのこだわりがありそうだ。
今回の映画の制作過程は、タイトルが先に出ていて、それから想起するものが画になったという。
「アルビノの木」この言葉に秘められた物語が映画の内容である。
その内容を少し紐解いていく。
アルビノ × 白鹿伝説
白鹿は神の化身だと昔から信じられていることから、自然と人間との関わり合いをこの鹿を通してストーリー展開していく内容になっていることがわかった。
言わずもがな、この映画の最大のポイントは「鹿=木」、ここが核である。
さらに、紐解いていこう。
害獣駆除の猟師を主人公を決めたのは、決定的な理由があるようだ。
自然と人間の関係をストーリーにしていくと、様々な解釈が起き、ファンタジーになりすぎる傾向が懸念されたため、現実的なところに落とし込んだとのこと。
ロケハン中、実際に害獣駆除をされている人達に出会い、現代の人間と鹿との関わり方を映画として具体化していこうと考えていった。
では、何を具体化していこうと考えたのか?
人間の立場と獣の立場、お互い生きるための立場
その具体化するためのロケハンは、2008年から始まり、5〜6年探し続けたその舞台は、2014年に画となり始めた。山形、群馬、長野の歴史性を踏まえて違う場所でも、共通している部分があることに気がつき、そこの繋がりを大切にしていき一つ一つ画にしていった。
ロケハン中、偶然見つけた巨大な滝。鉱山跡地からつながる赤い地層の河。自然と人間との関わり方をここでも表現しようと考えていることにこの映画の深さを感じた。
「いい自然は人間にとってよいところ」…
そうではない自然もある。ロケ地を調べていくうちに様々な角度から出てきたことが、この映画で外せないメッセージになった。
宮沢賢治の「なめとこ山の熊」も熊猟師が生きるために熊を殺さないといけない。でも熊たちはその猟師のことが好き。お互いを思いあっているという根底がある。その関係がなかなか上手くいかないもどかしさ。そこからもヒントをもらった。
お互い守る側なのである。守るには理由が必要で、その理由の中にもどかしさがある。
金子監督の特徴の一つ、“広い画”で魅せる
これは、近代日本映画だとあまり見受けられない手法である。自然の中に人間がいる。全てを撮りたい。まさに自然と人間がテーマであることに帰着する。
現在、『アルビノの木』は、海外の映画祭にエントリー中で、審査待ちである。
主演 松岡龍平、映画撮影の裏側を語る
金子監督の作品には何本もご一緒させていただいていますが、短篇映画『水の足跡』(2013年)が一つの伏線になっていました。
自然の中に人が入って行きどうなるかという内容だったので、長篇映画になったときの大きなスケール感を想像してワクワクしながら主演のオファーにお返事しました。
金子監督のロケ地へのこだわりには、いつも感銘を受けていたので撮影が楽しみでしょうがなかったです。
また、脇役をずっとやってきていたので、今回主役に抜擢されたときが自分の成長を実感できた瞬間でした。今までは癖のある風貌に頼っていたところがありましたが、そこから一歩脱却して次の自分と対話する覚悟決めた部分がありました。
金子監督は、構図、配置に特別なこだわりがあり、数cmのこだわりで位置を調整して撮影します。なので、モニターチェックは監督に託し、同じテンションで何回もテイクできるように心がけています。
あえて作品は完成してから観るようにしています。(金子監督への絶大な信頼があると感じられる)
今回の役どころのテーマとして、「葛藤」があります。その役作りには、順番にシーンカット撮影があるわけではないので、どのようにコントラストをつけていくか、どのように最終的に持っていくのか、“流れ”に注意をはらいました。
河で争うシーンは、金子監督ともう一人の俳優さん(福地祐介)と夜な夜なこの争うためのテーマ、メッセージ、このシーンが全体的に与える印象などを話し込みました。前日のギリギリまでセリフも考える、このことが映画の醍醐味だと感じています。
撮影時期が寒い時期と重なり、10月終わり頃に山形の奥地。風邪引くどころか、命の危険を感じるぐらいまで過酷な撮影でした。心理描写のところではその甲斐があり、いい画が撮れたと感じています。
見どころは、どこにでもいる若者が山に入っていき、葛藤しながら宿命を受け入れていくところです。描写と大自然が織りなす雄大さを是非楽しんでください。
[スチール撮影&インタビュー: 坂本 貴光 / 編集: Cinema Art Online UK]
プロフィール
金子 雅和 (Masakazu Kaneko)監督・脚本・撮影・編集・プロデューサー |
松岡 龍平 (Ryohei Matsuoka)主演俳優 (ユク役) |
Photographs by Gray Art Photography
映画予告篇
映画作品情報
害獣は、果たしてどっちなのだろうか…
農作物を荒らす害獣駆除に従事する若者が、山の人たちが長いこと大切にしてきた特別な存在の一頭の白鹿を撃つために、山に分け行っていく。自然体系が破壊され、獣たちが餌を求めて人里に下りてくる。動物が生きていく術を無視し、私たちは彼らを害獣と呼ぶ。昨今話題の害獣駆除に携わる若者の苦悩を描いた本作はまた、自然破壊であったり、これまで積み上げてきた文化をないがしろにすることであったり、雄大な自然にエゴイズムだけでしか対峙できない現代日本社会の記録でもある。
監督は金子雅和。東京で生まれ育った38歳。長編映画2作目となる本作で、自然と人間の関係性に対する疑問を集約させ見事に映像化した。厳かな自然は長野県須坂市のほか、群馬県嬬恋村商工会 嬬恋村フィルムコミッション、南牧村役場 村づくり・雇用推進課、小串御地蔵堂慰霊の会、今井挽物工芸社、滑川温泉福島屋の協力によって撮影された。
出演は金子監督作品の常連にプロも。ユク役に松岡龍平、ナギ役にモデル出身の新鋭・東加奈子。羊市役にアジアで活躍する福地祐介。現代美術家・松陰浩之、いまの日本映画界屈指の女優・山田キヌヲは長編映画『すみれ人形』(2008年)に続いての参加。テレビドラマ「ウルトラマン80」(TBS系列)など、テレビ、舞台、映画出演多数のベテラン俳優・長谷川初範は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で出会った金子監督の“映画への情熱”に出演を快諾したという。
《ストーリー》村人が大切にしてきた白い鹿を撃つために、農作物を荒らす害獣駆除に従事しているひとりの若者が、山に入っていく。害獣駆除会社で働くユクの元に、多額の報酬の仕事の依頼が舞い込む。鉱山として栄えた山間の村で「白鹿様」と言われる珍しい鹿を秘密裏に撃つこと。普通の鹿と異なる存在が悪い噂になることを危惧し、過疎化した村を切り捨てようとする町の役人の苦肉の策だった。害のない動物を殺すことに仄かな疑問を抱えつつもユクは村に向かう。山で出会った、故郷に対し複雑な思いを抱いている村の女性ナギ、その婚約者で木食器職人の羊市、山小屋に住み、不本意ながらも仕事を続ける昔気質の罠猟師、山の集落で静かに暮らす人々。連なる山々、生い茂る樹々、ときに赤く色を変える川、白い飛沫をあげる滝壺…圧倒的な自然の中に静かに佇む白鹿がいた。病床の母のために、人々が大切に思っている命を奪うという事は…。 |
FORWARD FUTUERE部門 上映作品
英題: The Albino’s Trees
出演: 松岡龍平、東加奈子、福地祐介、増田修一朗、尾崎愛、細井学、松蔭浩之、松永麻里、山口智恵、山田キヌヲ、長谷川初範
監督・撮影・編集: 金子雅和
脚本: 金子雅和、金子美由紀
プロデューサー: 金子雅和、金子美由紀
協力: 長野県須坂市 / 制作: プロダクション / 製作: kinone
配給: マコトヤ
2016|JAPAN|COLOR|2.0ch & 5.1ch|shot by NIKON D7100|screened by DCP & Blu-Ray Disc|86 minutes
© kinone