映画『ホテル・ムンバイ』(HOTEL MUMBAI) レビュー
【画像】映画『ホテル・ムンバイ』メインカット

映画『ホテル・ムンバイ』(HOTEL MUMBAI)

テロリストの急襲を受け凄惨な修羅場と化したインド屈指の五ツ星ホテル
途方もないホテルマンたちの【勇気】が観る者の魂を沸騰させる!

2008年、インド・ムンバイで起きた無差別同時多発テロ。5つ星ホテルに閉じ込められた人質たちの奇跡の脱出劇を描いた感動の実話『ホテル・ムンバイ』(原題:Hotel Mumbai)が9月27日(金)全国公開された。

インドの巨大商都として栄え続けるムンバイ。貧困層が溢れかえる喧騒と猥雑の街中。その一角にムンバイのランドマークとしてそびえ立つのが、超高級ホテル「タージマハル・ホテル」だ。

クラシカルで豪華絢爛な建物。宿泊する客は富裕層や欧米人など、そのきらびやかさは、まさにムンバイの象徴と呼ぶのに相応しい。その象徴が無慈悲なテロリストたちの標的となったのは今から10年ほど前にさかのぼる。後にムンバイ同時多発テロと呼ばれる大量殺戮事件において、もっとも過酷な運命にさらされたホテルだ。

【画像】映画『ホテル・ムンバイ』場面カット

宿泊客と従業員合わせて500人以上がテロに巻き込まれ、何日にもわたって占領が続いたが、犠牲者はわずか32人にとどまった。この映画は全身全霊をかけ「善良なる献身」を貫こうとした名もなきホテルマンたちの奇蹟の物語である。

ホテルマンとひとことで言っても、実に多くの職種がある。ドアマンやベルボーイ、あるいはフロント業務に従事する者など― 本作の主人公アルジュン(デヴ・パテル)はレストランで働く生真面目で従順なスタッフだ。時にそそっかしい一面を持つ人間だが、それがかえって彼の善性を際立たせているように思える。

【画像】映画『ホテル・ムンバイ』場面カット

その日、アルジュンは臨月の妻と幼い娘を残していつも通りホテルへと向かった。忙しくも平凡な一日を終えるはずだったが、運命はそれを許さない。テロリストの突入、瞬く間にムンバイが誇る超高級ホテルは死地へと変わった。

【画像】映画『ホテル・ムンバイ』場面カット

鳴り響く犯人の怒号と銃声。阿鼻叫喚があちこちで上がる。人としての理性が吹き飛ぶ極限状態の中、アルジュンやその上役である料理長のオベロイ(アヌパム・ァー)を始めとするホテルマン達は人間であることを決して放棄しなかった。

【画像】映画『ホテル・ムンバイ』場面カット

彼らは一命に代えてでも宿泊客を守り抜く決心をする。自動小銃や手榴弾を携えるテロリストに対し、アルジュンたちは徒手空拳。ホテル内の構造を知っていることが唯一のアドバンテージだった。地元警察の火器はアテにならずテロに対抗できる軍隊は遠くデリーの地にあり、闘いは長期戦を余儀なくされる。その間、ただ一点の曇りもなく、徹底追尾強い信念を貫き続けたホテルマンの姿は、まさに小さな英雄だ。

【画像】映画『ホテル・ムンバイ』場面カット

本作は実話をベースにしているが、主人公のアルジュンは、監督のアンソニー・マラスが創り上げた架空の人物である。但し実際の事件の記録を丹念に調べあげ、何人もの勇気と雄姿を組み合わせて生み出したものだ。それは英雄的であったタージマハル・ホテルそのものを写し出しているといっていい。アルジュンの目を通して、我々はその日何が起こったかを知ることができるのだが、世界はまだまだ極めて不安定な均衡の上で成り立っているという事実も知らしめてくれる。それは果てしなく辛くて哀しい現実だ。ただそうした現実の中で、一筋の光明を見出せた―そう思わせてくれる映画でもある。

[ライター: 藤田 哲朗]

映画『ホテル・ムンバイ』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『ホテル・ムンバイ』ポスタービジュアル

《ストーリー》

怒らせてはいけない人を怒らせてはいけない。
2008年11月26日。インドの五つ星ホテルがテロリストに占拠される。人質は、500人の宿泊客と従業員。特殊部隊の到着は数日後。宿泊客を逃がすため、ホテルに残った従業員たち。部屋に取り残された赤ん坊を救うため、銃弾の中を行く父と母。これは「誇り」と「愛」を懸けた、3日間の脱出劇。極限の状況下で、人はこんなにも人を想えるのか―。

 
原題:HOTEL MUMBAI
邦題: ホテル・ムンバイ
 
監督: アンソニー・マラス
 
出演: デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス
 
配給: ギャガ
 
2018年 / オーストラリア、アメリカ、インド合作 / 英語 / 123分 / カラー / シネスコ / 字幕翻訳:中沢志乃 / 映倫区分:R-15
 
© 2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
 
2019年9月27日(金)
TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー!
 
映画公式サイト

この記事の著者

藤田 哲朗映画ライター・愛好家

大手出版取次会社で20代後半より一貫してDVDのバイヤー/セールスの仕事に従事する。
担当したクライアントは、各映画会社や映像メーカーの他、大手のレンタルビデオチェーン、eコマース、コンビニチェーンなど多岐にわたり、あらゆるDVDの販売チャネルにかかわって数多くの映画作品を視聴。
プライベートでも週末は必ず都内のどこかの映画館で過ごすなど、公私とも映画づけの日々を送っている。

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