映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』レビュー
【画像】映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』メインカット

映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(VIOLET EVERGARDEN the Movie)

想いを綴った手紙が繋ぐ物語、ついに完結!!
―「愛」を知った少女の最後の手紙 ―

映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(英題:Violet Evergarden : the Movie)が9月18日(金)に遂に劇場公開され、大きな反響を呼んでいる。

2014年に開催された「第5回京都アニメーション大賞」で大賞を受賞し、2020年の現在まで唯一の大賞受賞作品となっている暁佳奈の小説を原作にオリジナルアニメーションが制作され、2018年1月にTVアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(全13話)がABCテレビ、TOKYO MX、BS11ほかで放送。Blu-ray&DVDに未放送話数 ExtraEpisodeが収録。2019年9月に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』が劇場上映されて以降、ファン待望の最新作にして最後の物語となる。

ヴァイオレットの成長譚が結末を迎える——

主人公のヴァイオレット・エヴァーガーデンは、幼い頃から戦うための「道具」として育てられ、心を育む機会が与えられなかった。南北による大陸戦争にも出兵し、激化する戦場で手りゅう弾を受け、両腕を失うほどの重症を負う。

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また、彼女を引き取った上官のギルベルト・ブーゲンビリア少佐も戦場で負傷してしまう。ギルベルトは最後の力を振り絞り「心から、愛してる」と彼女に伝え、戦場で行方知れずとなった。

戦地から帰還したヴァイオレット。指先まで自在に動く金属の義手が彼女の新たな両腕となった。

少佐が残した「あいしてる」という言葉の意味を知るため、彼女の面倒をみることとなった元陸軍中佐のクラウディア・ホッジンズが経営するC.H郵便社で手紙の代筆をする自動手記人形(ドール)として働くことになる。

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最初は依頼人の言葉をそっくりそのまま報告書のように書き上げ、送り主も貰い主と傷つけてしまうなど失敗続きだったが、自動手記人形の育成学校で、同級生ルクリアの兄への手紙を代筆したことをきっかけに、オペラの歌詞、王女の公開恋文、劇作家の台本、などを手掛けられるようになった。何通もの手紙の代筆を通して多くの人の気持ちに触れ、様々な形の「あいしてる」に出会ってきたヴァイオレットの物語が劇場版でフィナーレを迎える——。

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受け継がれていく物語——

デイジー・マグノリアは、亡くなった祖母が大切に保管していた手紙を見つける。それはデイジーの祖母、アン・マグノリアの誕生日に毎年送られてきたという手紙。アンが幼い頃に亡くなった母(デイジーの曾祖母)クラーラが死期を悟った際に、ヴァイオレット・エヴァーガーデンに依頼して書いたアンに宛てた50年分の手紙であった。

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アン・マグノリアは、TVシリーズの第10話に登場する小さくて、寂しがり屋で、母クラーラが大好きな少女。アンのエピソードを知っていると、冒頭のシーンから涙腺崩壊である。

デイジーが手紙を見つける部屋には、アンがヴァイオレットと出会った頃に大切にしていた思い出の品などがいくつか見られる。当時は無かった道具なども時間の経過を物語っており、幼い頃のアンへの想いを高ぶらせる。

デイジー役のキャストは、アン・マグノリア役も務めた諸星すみれ。デイジーの姿にアンを重ねて見ることができる。

また、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に出てくるキャラクターの多くは「花の名前」がつけられており、デイジーも花の名前である。花には花言葉などもあるので、調べてみるとまた違った楽しみ方や見え方ができるかもしれない。

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デイジーの登場する時代には通信手段が発達しており、手紙を出す人も少なくなっている。自動手記人形の仕事が無くなっていたこともあってか、デイジーは祖母が大切にしていた手紙を代筆したヴァイオレット・エヴァーガーデンに興味を抱き、彼女が働いていたC.H郵便社があったライデンへ赴く。

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『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、ヴァイオレットの生きた時代と、デイジーの生きる時代を織り交ぜて展開される。デイジーを通して、ヴァイオレットを紐解くような構図になっているのだ。

デイジーの時代では、C.H郵便社は「C.H郵便記念財団 郵便博物館」として残っており、展示してある郵便社員の集合写真に、『外伝』に登場する少女・テイラーが写っていたり、博物館にいた老婆がかつてC.H郵便社の受付で働いていたキャラクターであったりと、細かいところまでしっかりと時間が、そして物語が進んでいるというエッセンスがちりばめられているところも見どころの1つである。

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大切なのは「想いを伝えること」

デイジーの時代から遡り、電波塔も完成が近づき、電話(C.H郵便社のアイリス・カナリー曰く、いけ好かない機械)が普及してきてきた頃。ヴァイオレットはある代筆の依頼を受ける。

依頼人は少年ユリス。家族や友人に素直になれない彼は、家族へ「読んだら元気になって頑張れる、そんな手紙を書きたい」とヴァイオレットに伝える。しかしユリスが払えるのはごくわずかな金額であった。ヴァイオレットは、機転を利かして“お子様割引”の制度を提案し、ユリスの満足のいく手紙を書けるよう対応する。

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ユリスの熱意を受け、“お子様割引”を提案し、しっかりと代金をいただき仕事として対応するヴァイオレットの姿は、それまで様々な人たちと関わってきたことで育まれた彼女の人間性をよく表している。こんなにも人の心に寄り添った対応ができるようになったヴァイオレットの成長に胸が温かくなる。

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手紙が無事に完成した日、ユリスはもう一人、手紙を書きたい相手がいることを明かす。自身の矜持が先立ち、親友のリュカに酷いことを言ってしまったこと、その想いを伝えたい。ヴァイオレットは「想いは伝えられるときに、伝えるべきだ」とユリスの想いを受け取る。しかし、リュカへの手紙は書くことができず、次にヴァイオレットが訪ねてくる時に代筆することを約束する——。

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母なる海が様々な表情を魅せる

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の魅力の1つに圧倒的に美しい映像表現が挙げられる。

どのシーンを切り取っても素晴らしく、街並みのシーンなどでは「実際にそこに自分がいるのでは!?」と思うほどである。

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シリーズを通して、雨なども含めた水の表現も美しく、出てくる度にうっとりしてしまうのだが、今作は特に海が出てくるシーンが多かったように感じた。日中の穏やかな海や、夕陽に照らされた海、星に囲まれ優しく輝く海。時には灰色の空を映し不安を煽るように飛沫を上げたりと、様々な表情を魅せている。

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また、ギルベルトの兄であり、ヴァイオレットを戦うための「道具」として連れてきたディートフリートの想いを聞いたのも海の上である。

船上でギルベルトとの思い出話をする2人。TVシリーズでは、「これは武器だ」とヴァイオレットを乱雑に扱うなど、冷血非道であったディートフリートの変化に、時間と共に変わったのはヴァイオレットだけではなかったのだと考えさせられた。

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強く想えば願いは叶う——

戦争で消息不明の「未帰還兵」となっていたギルベルト。激しい戦いのなか一命をとりとめていたのだった。

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ある日、C.H郵便社の倉庫で一通の宛先不明の手紙が見つかる。ホッジンズは筆跡からギルベルトが書いたものではと推測し、真実を確かめるべく、ヴァイオレットを連れてエカルテ島へ向かうのだった。

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この事実には、心躍るものがあった。

ヴァイオレットが少佐の死と向き合い、どう生きていくのかといったストーリーを想像していた人も少なくないだろう。

ずっとずっと会いたかったギルベルトについに会えるかもしれないと思った時、ヴァイオレットの表情がとても豊かに変わっていることに驚くはずだ。かつて、兵器だ、道具だと言われ、感情の起伏に乏しく無表情だった彼女が喜怒哀楽を表現できるようになるなんて。

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しかし、エカルテ島に赴いたヴァイオレットは、長年探し続けていたギルベルトにたどり着くが、「会いたくない」と突き放されてしまう。

ヴァイオレットが涙を流しながらギルベルトに今の想いを伝える姿は心に刺さるものがあるだろう。

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これまで、たくさんの人の想いを手紙の代筆を通じて届けてきヴァイオレットであるが、本人の想いは届かないなんて、「こんな悲しいことがあっていいのだろうか」という気持ちが沸き立つシーンである。

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果たして、ヴァイオレットの想いの行く末は——。

時代が変わっても、伝える手段が変わっても、変わらないものがあるとするならば「想いを伝える大切さ」であることをシリーズを通してヴァイオレットは私たちに教えてくれた。

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是非彼女の最後の手紙を、そして彼女の物語を見届けていただきたい。

TVシリーズ全13話にExtra Episode、『外伝』と、丁寧に描かれたヴァイオレットの成長を見守ってきた方にはもちろん、劇場版で初めて「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」に触れるという方も胸を打たれることに違いない。

当たり前のように過ごしていた日々の儚さを目の当たりにした今だからこそ「伝えたい想い」を大切な人に届けてほしい。きっとヴァイオレットは貴方の背中を押してくれるだろう。

映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、全国の劇場で大ヒット上映中。

10月31日(土)から11月9日(月)に開催される第33回東京国際映画祭(TIFF)のジャパニーズ・アニメーション部門 「2020年、アニメ映画が描く風景」で上映されることも発表された。

[ライター: 梅田 奈央]

映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』予告篇

映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
本編冒頭シーン10分 特別公開!

映画作品情報

【画像】映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』キービジュアル

《ストーリー》

── あいしてるってなんですか?

かつて自分に愛を教え、
与えようとしてくれた、大切な人。

会いたくても会えない。
永遠に。
手を離してしまった、大切な大切なあの人。

【画像】映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』場面カット

代筆業に従事する彼女の名は、〈ヴァイオレット・エヴァーガーデン〉。
幼い頃から兵士として戦い、心を育む機会が与えられなかった彼女は、大切な上官〈ギルベルト・ブーゲンビリア〉が残した言葉が理解できなかった。
── 心から、愛してる。

人々に深い傷を負わせた戦争が終結して数年。
新しい技術の開発によって生活は変わり、人々は前を向いて進んでいこうとしていた。
しかし、ヴァイオレットはどこかでギルベルトが生きていることを信じ、ただ彼を想う日々を過ごす。
── 親愛なるギルベルト少佐。また今日も少佐のことを思い出してしまいました。

ヴァイオレットの強い願いは、静かに夜の闇に溶けていく。

ギルベルトの母親の月命日に、ヴァイオレットは彼の代わりを担うかのように花を手向けていた。ある日、彼の兄・ディートフリート大佐と鉢合わせる。ディートフリートは、ギルベルトのことはもう忘れるべきだと訴えるが、ヴァイオレットはまっすぐ答えるだけだった。「忘れることは、できません」と。

そんな折、ヴァイオレットへ依頼の電話がかかってくる。依頼人はユリスという少年。
一方、郵便社の倉庫で一通の宛先不明の手紙が見つかり……。

 

タイトル: 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
(英題 : Violet Evergarden : the Movie)

キャスト

ヴァイオレット・エヴァーガーデン: 石川由依
ギルベルト・ブーゲンビリア: 浪川大輔

スタッフ

原作:「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」暁佳奈(KAエスマ文庫/京都アニメーション)
監督: 石立太一
脚本: 吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督: 高瀬亜貴子
世界観設定: 鈴木貴昭
美術監督: 渡邊美希子
3D美術: 鵜ノ口穣二
色彩設計: 米田侑加
小物設定: 高橋博行
撮影監督: 船本孝平
3D監督: 山本 倫
音響監督: 鶴岡陽太
音楽: Evan Call
アニメーション制作: 京都アニメーション
製作: ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
配給: 松竹
 
© 暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
 
絶賛上映中
 

映画公式サイト

公式Twitter: @Violet_Letter
公式Instagram: @violentevergarden_movie

この記事の著者

梅田 奈央シネマレポーター/ライター

様々な人々の想いによって創られる映画。限られた時間の中に綿密に練られた構想。伝えたいメッセージ。無限大の可能性と創り手の熱量に魅了され、作品やそこに込められた想いをたくさんの人に知って貰いたいと活動を開始。インタビューや舞台挨拶などのイベントに至るまで、様々な角度から作品の魅力を発信している。

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