主人公・沢渡悠真役 杉咲花 インタビュー
大切な人を思い浮かべながら、それぞれの“よあけ”を観てほしい。
西暦2049年の夏、阿佐ヶ谷団地に住む小学4年生の主人公・沢渡悠真と仲間たちが、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコをハッキングした未知なる存在を宇宙に帰すために極秘ミッションに奮闘する――。
「⽉刊アフタヌーン」(講談社刊)にて連載された今井哲也の傑作SFジュブナイル漫画を劇場アニメ化した映画『ぼくらのよあけ』で小学4年生の主人公・沢渡悠真の声を務めた杉咲花にインタビュー。4作目となる劇場アニメーションのアフレコに挑んだ様子や今作の見どころについてなど話を聞いた。
―― まず台本を読んだ率直な感想を教えてください。
宇宙とのつながりを感じられる夢のあるテーマであると同時に、悠真やナナコが自分の信じるもののために突き進み続けるところは、実はとても身近なテーマでもあって、どこか自分のことのように捉えられる作品なのではないかなと思い魅力を感じました。
―― SF的な設定は理解が難しいところもあったのではないかと思いましたが、いかがでしたか。
台本上の文字だけを追い続けていると、いったいどんな映像になっているのか自分の想像力の限界もあり、アフレコで映像を拝見できることがとても楽しみでした。
―― これまでも何度か声優をされていますが、実写の作品とは違う意識で臨まれているのですか。
一人の人物の心情を想像する、理解するという意味では映像の現場とあまり変わらないのかなと思っていたので、意識としての大きな変化はほとんどなかったかもしれません。
―― アフレコの現場はもう慣れましたか。
慣れないですね。Q(スタートの合図)が出たときに、恥ずかしながらQが出たということに驚いてセリフが遅れてしまい、タイミングがズレていってしまうこともあって、難しかったです。
―― 実写のドラマや映画の撮影に比べるとアフレコの現場は短時間だと思いますが、今回準備期間含めどのように取り組まれたのですか。
事前に軽く台本を読む時間を作ってくださっていたのですが、その時に黑川監督から「声のトーンをなるべく下げてほしい」と指示を受けていました。その他の細かいニュアンスについては、共演者の方々との本読みなどを通じて少しずつ人物像が立ち上がっていき、アフレコに臨むことができました。
一人の収録ではなく皆さんと一緒にアフレコをやらせていただけたことが大きく、台本を読んでいたとき以上に悠真としての高揚や感動を体感することができました。その瞬間にしか感じられないものを共有させてもらうことができたと思ってます。
―― 黑川監督からの指示で印象に残っていることはありますか。
「テクニックではなくて気持ちを通すことが大事だと思うんです」というお話をしてくださったことが印象に残っています。声優としての経験が少ないからこそ不安に思っていた気持ちもあったのですが、その時改めて、この役をいただけた意味について改めて考えさせられました。
―― 悠真は小学4年生ですが、演じる上で難しかったことはありますか。
元気いっぱいではつらつとした悠真という人物をとても静かなアフレコ空間で表現する難しさが大きかったです。実際に映像と同じ動きをすることが難しいな環境だからこそ、どれだけ心の中でエネルギーを蓄えることができるかが大切だなと思っていました。
―― 物語が進むにつれてナナコ(CV:悠木碧)との心の距離感が変わっていきますが、そのあたり意識したことはありますか。
悠木さんの繊細で温かみのあるナナコの声を聴いていると、そこから自然にと悠真として心が動くいてしまう瞬間が沢山ありました。ナナコの存在を軸に悠真が行動を起こしていくようなシーンも多いからこそ、ナナコの声に素直に反応していくことを大切にやらせていただきました。
想像していた領域からはみ出していくような感覚があり、とても刺激的な時間でした。
―― 実際にご一緒できたからこそのシナジーですね。
悠木さんとの共演は勉強になることばかりでした。特にラストのシーンでは悠木さんからいただくエネルギーがすごくて。私自身、やはり物語の中で起こっているスペクタクルな出来事に対して、体の状態と気持ちをひとつにする難しさに直面する瞬間が多かったのですが、悠木さんとご一緒させていただけたことで、より実感を伴いながら嘘のない時間を共有することができたような気がして、本当に感謝しています。
―― 今回悠木さん以外でアフレコをご一緒された方はいますか。
悠木さんのほかには藤原夏海さん(岸真悟役)と岡本信彦さん(田所銀之介役)と水瀬いのりさん(河合花香役)とご一緒させていただきました。
―― 『ぼくらのよあけ』は冒険のお話ですが、何か共感する部分であったり、杉咲さん自身の子供時代に冒険した経験などあれば教えてください。
私自身も活発なタイプで、学校の休み時間などはずっと走り回っているような子供でした。悠真の、夢中になると目の前のことでいっぱいになってしまうところは、なんだか小さい頃の自分にも重なるところがあったような気がします。
―― 悠真は宇宙が大好きで、目を輝かせて夢中になっているシーンも印象的ですが、杉咲さんが夢中になることは何かありますか。
食に関することに夢中です。お店に行ったり、自分で作ったり、料理本を読むことも好きです。
―― 最近作って美味しくできた料理はありますか。
最近は地方での撮影が続いていたのですが、久々に家に帰ってきて、野菜炒めを作りました。なんだかほっとするものが食べたくて。
―― 完成した作品を観て率直にどのような印象を受けましたか。
宇宙の描写が本当に美しくて、感動しました。
自分にとって宇宙は、空を見上げれば毎日毎晩目にしますが、リアリティのない存在というか。“1億年以上前の光”と言われても、なんだかあまりピンとこないですよね。
一方で団地はよく目にする身近な存在だと思うのですが、等間隔にデザインされた建物の中では一人ひとり全く違う生活があって、その人だけの世界が広がっているということの特別さ、愛おしさが手に取るように感じられるところがとても好きで。そんなリアルなものと、リアルでないものが『ぼくらのよあけ』では不思議に交わっている、そのバランスが面白いなと感じています。
―― 自分の声が入った作品を観るのはどのような感覚ですか。
アフレコの時は完成された映像に声を当てていたわけではなかったので、映像を観て、まずシンプルにとても感動しました。自分の声を聴きながら反省する部分もあるのですが、やはり映像の迫力や美しさにワクワクする気持ちの方が大きかったです。
―― 今作のお気に入りのセリフやシーンがありましたら教えてください。
二月の黎明号とナナコの掛け合いが印象に残っています。
宇宙の中で強くしなやかに生き続けるために必要なことや、隔絶した他者を受け入れるために必要なことについてのやりとりがあるのですが、それはきっと対人関係にも言えることなのではないかなと考えさせられる台詞だったりして。自分にとって大切な存在、または分かり合えないと思ってしまうような相手こそ、そんな気持ちを大切に持つことが大切なのではないかなと思えるような、生活の中でのキーワードをもらえる気がするとても好きなシーンです。
それから、(二月の黎明号を)“助ける”と決めてからの悠真も印象的でした。
日数としては少しの期間しか経っていないはずなのに、そこからの悠真は人として大きく見えるような気がして。ゆるがぬ思いが生まれた瞬間、より輝きが増してとっても素敵なんです。
―― 最後に、これから映画を観る方に向けてメッセージをお願いします。
映像の美しさや力強さに悠真たちと一緒に冒険しているような気持ちでワクワクさせながら、みなさんの中の大切なものについて考えさせられるような時間になったら嬉しいです。
登場人物が大切なものを信じ、守り抜く尊さを目撃できたとき、なにか、この作品を観てくださった方だけが見ることのできるそれぞれの“よあけ”が訪れることを願っています。
プロフィール
杉咲 花 (Hana Sugisaki)1997年10月2日生まれ。東京都出身。ドラマ「夜行観覧車」(2013年/TBS)で注目を集める。 その後、数多くの映画・ドラマ・CMなどに出演。 映画『湯を沸かすほどの愛』(2016年)で第40回日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞するなど多数の映画賞を受賞。 連続テレビ小説「おちょやん」(NHK)、ドラマ「プリズム」(NHK)、映画『青くて痛くて脆い』(2020年)、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年) 、『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』(2021年)など、数々の話題作への出演が続いている。2022年に第30回橋田賞 新人賞を受賞。 声の出演では、劇場アニメ『思い出のマーニー』(2014年)、『メアリと魔女の花』(2018年)、『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021年)などがある。 |
映画『ぼくらのよあけ』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか︖」 ⻄暦2049年、夏。阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、間もなく地球に大接近するという“SHIII・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。 そんな時、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコが未知の存在にハッキングされた。 「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在は、2022年に地球に降下した際、大気圏突入時のトラブルで故障、悠真たちが住む団地の1棟に擬態して休眠していたという。 その夏、子どもたちの極秘ミッションが始まった― |
第35回 東京国際映画祭(TIFF) ジャパニーズ・アニメーション部門 出品