江口カン監督 インタビュー
「頭を空っぽにして楽しんで貰いたい」
原作を大切にしつつ、映画ならではのリズム感で惹きつける
週刊ヤングマガジン連載中で、単行本累計部数400万部突破、2017年度講談社漫画賞<一般部門>を受賞し、今、一番面白い作品と呼び声が高い南勝久原作のコミック「ザ・ファブル」が実写映画化!6月21日(金)に全国公開となる。
主人公・ファブル(佐藤アキラ)役には、日本映画界を代表する演技派俳優・岡田准一。「殺してはいけない殺し屋」をアクション全開でコミカルに演じる。ファブルの相棒・ヨウコ役には、木村文乃。ファブルを幼い頃から指導し、プロの殺し屋に育てあげるボス役には佐藤浩市。ファブルが初めて出会う一般人の女性、ミサキ役に山本美月。ファブルを狙う殺し屋・フード役には福士蒼汰。その他アキラと深く関わる裏社会の人間に柳楽優弥、向井理、安田顕。ファブルを雇うバイト先の社長に佐藤二朗など、今の日本映画界屈指の豪華なオールスターのキャスティングで、超一級のアクションエンターテイメントが誕生!
そして、監督を務めたのは、数多くのCMの演出を手がけ、カンヌ国際広告祭で3年連続受賞。東京五輪招致PR映像のクリエイティブディレクションや、映画『ガチ星』(2018年)、『めんたいぴりり』(2019年)で長編映画の監督を務めるなど、エンターテイメント性やリアリティの高い演出に注目の集まる江口カン。今作で漫画原作の実写映画化に初挑戦し、見事なクオリティの作品に仕上げた江口カン監督に原作との関係や映画の見所についてお話を伺った。
ーー 『ザ・ファブル』は人気コミックスが原作ですが、映画化に際して原作のどの部分を一番大切にされたのでしょうか。
いろいろありますね。漫画家の方が長い時間をかけて作ってきたものをお借りするわけですから、ちゃんとリスペクトしなくてはいけないと思っています。登場人物のキャラクターであったり、世界観でいうと「殺し屋」がごくごく普通の社会に溶け込むというのはやっぱり面白いなと思うので、そういうところはできるだけ原作に忠実にやろうと思いました。
ーー 反対に、原作漫画とは異なる印象を持たせたいと意識したところはありますか。
漫画は読む人が自分のスピード感で読めますが、映画の場合はどうしてもリズムを決めていかなきゃいけないですよね。原作の少し間のある面白さは、そのまま映画にしてしまうと保たないと思ったのでそこは映画ならではのリズムで作りました。
2時間飽きさせずにいつもハラハラさせてテンポよくいきたいと意識しました。でも、そんな中でもなんだか間を感じられるような作品になったと思います。
ーー 『ザ・ファブル』は、「殺し」と「笑い」という2つの全く異なる面が絶妙に描かれている作品ですが、映画では2つの要素をどのようにミックスさせたのでしょうか。
日常の平穏と非日常の緊張感みたいなものが、常に裏と表みたいな感じで行ったり来たりしながら進むというのがそもそも原作の持ち味でもあるので、そのリズムを上手いこと調整して映画向きに対応させていきました。
ーー 岡田さんの演技で、殺し屋ファブルの時々見える優しさがとても上手く表現されていました。演技に関して岡田さんに求めたことはありますか。
彼(ファブル)は人を殺す殺し屋ですけど、プロとしてやっているわけで、恨んだりなんてことは一つもないんですよ。学生なら学校で勉強するのが当たり前なのと同じように彼は殺し屋だから殺しをしているだけなんです。ボスからの命令なんだけども、日常に溶け込んでいく中で人間らしさのようなものをいつの間にか学んでいきます。それはまるで野生の動物がだんだん人と触れ合っていくような感じですね。岡田さんは脚本を読んだ時点でそれを分かっていたと思います。なので殊更何かを要求したということはないですね。逆に言うと、それが俳優・岡田准一としてのプロの部分なのかなと思います。
ーー 岡田さんにファブルを演じてもらって良かったと思う点はありますか。
いやもうそれはね、今日本でアクションとコメディとドラマの3つが高いレベルで出来る人と言えば、やはり岡田准一なんじゃないですかね。
ーー 本作は様々なキャラクターの人物が登場しますが、監督の一番好きなキャラクターはどなたでしょうか。
いやぁ~、全員好きになっちゃったなあ(笑)。でも、現場ですごく伸びたキャラは木村了さん演じるコードですね。福士蒼汰さんのフードもそうですけど、フードとコードは原作とは全然違うイメージであえて作ってみたので、どうなっていくかなと思っていました。結果、なかなか面白いキャラクターになったなと思います。
あと、今回に関しては小島(柳楽優弥)の回だなと思います。小島が引っ掻き回したおかげで面白くなったのでそういう意味では小島ですね。
ーー ハリウッドも驚くような超絶アクションシーンも見どころですが、アクションでこだわった点はありますか。
原作は結構渋いアクションなんですよね。それは、プロの殺し屋なら絶対に人目につかないように殺すのでそういう意味でリアリティを追求しているからです。しかし、それをそのまま映画にすると地味になってしまうので、“プロの殺し屋”のリアリティを大切にしつつ、どんな風にしたら映画としての派手さや華やかさを出せるかというのが一番苦労してごだわった点ですね。
ーー この映画を通して、伝えたいことはありますか。
いろいろ自分なりに込めたものはありますが、それは観た方に感じてもらえればいいかなと思います。そういった前提ですが、引き込まれて緊張感のあるアクションがあり、笑いがあり、そして最後にはグッとくるドラマがある。ただそれだけでも映画は十分魅力的になると僕は思います。
“頭を空っぽ”にして楽しんでもらえたら、それが一番僕としては嬉しいです。その中で何となく感じるものがあってくれたらそれで僕は充分ですね。
ーー これから映画を観る方に、メッセージをお願いします。
人間にはいろいろな面があるので、僕は格好良いだけの映画や悲しいだけの映画はあまり好きではないです。もっと面白いのは、格好良いアクションがありながらも笑えるというところで、自分の中でも今回のファブルの好きなところですね。ただ格好良いだけのアクション映画の方がどちらかというと多いと思います。でもそうではなくて、格好良いのに笑える。映画そのものの二面性。そしてそれは同時に主人公の二面性でもあって、そこが僕の好きなところでもあるので、そこを皆さんに楽しんでもらいたいですね。
[インタビュー: 清水 彩帆 / スチール撮影: 坂本 貴光]
プロフィール
江口 カン (Kan Eguchi)福岡出身、KOO-KI所属。 |
映画『ザ・ファブル』予告篇
映画『ザ・ファブル』特別映像
映画作品情報
《ストーリー》どんな相手も6秒以内に殺す――。 “ファブル(寓話)”と呼ばれる謎の殺し屋(岡田准一)は、裏社会で誰もが「伝説」と恐れる存在だった。しかし、ちょっと仕事をし過ぎた彼に、ボス(佐藤浩市)はある指令を与える。 「一年間、一般人として普通に暮らせ。休業中に誰かを殺したら、俺がお前を殺す」 ファブルは、佐藤アキラという偽名を使い、相棒のヨウコ(木村文乃)と共に生まれて初めて一般人として街に溶け込む生活を始める。インコを飼ったり、バイトしたり…。殺しを封じ、《普通》を満喫し始めた矢先、ファブルの命を狙う裏社会の組織や、ファブルに助けを求める者たちが次々に現れ、事態は思わぬ方向へ急発進する!【絶対に殺してはいけない】指令のもと、絶体絶命のピンチを切り抜け平和に暮らせるのか―?! |
脚本: 渡辺雄介
配給: 松竹
2019年6月21日(金)全国公開!