映画『少女邂逅』枝優花監督インタビュー
【写真】映画『少女邂逅』枝優花監督インタビュー

映画『少女邂逅』

枝優花監督インタビュー

チャンスが巡ってきて「今しかない!」と思って撮りました。

「君だけでよかった。君だけがよかった」
いじめられたことがきっかけで声が出なくなってしまったミユリの唯一の友達は、一匹の蚕。ミユリは山の中で出会ったこの蚕に「紬」と名付け大切に飼っていた。しかし、いじめっ子にその存在を知られ、蚕を目の前で捨てられてしまう。唯一の友達を失い絶望するミユリ。そんなある日、ミユリの学校に蚕と同じ名前を持つ「富田紬」という少女が転校してくる。蚕のように容姿も中身も変容する少女たちの残酷で美しい青春映画『少女邂逅』が現在公開中である。

【画像】映画『少女邂逅』メインカット

自身が14歳の頃の経験を軸に本作を初長編映画として完成させ、映画×音楽の祭典<MOOSIC LAB 2017>での観客賞受賞、第42回香港国際映画祭と第21回上海国際映画祭に正式出品されるなど、国内外から注目を集めている24歳の新鋭・枝優花監督に話を伺った。

―― 紬がミユリのことを「君」と読んでいるのは何故ですか?

唯一無二感が欲しくて。日本は海外と違って一人称や二人称が多いので、そういう所での個体差をつけたいなと思った時に、オーディションでモトーラ世理奈(紬役)を選んだ時から、なんて呼べばしっくりくるかをずっと考えていて。色々言って貰った中で「君」がしっくり来たので、そうしました。

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―― このシーンの為に映画を作ったと言っても過言ではないというような場面はありますか?

私は映像作品を作る際に特に最初と最後のカットを大事にしています。今回の『少女邂逅』も最後のシーンが魅力的に観えるためには他をどう足し引きするかを考えて撮りました。

―― 本作は監督が18歳の時に一度制作を試みたが断念、23歳になりもう一度挑戦して完成させたとのことですが、18歳の時に無くて、23歳の時にあったものは何だったのでしょうか?

単純に言えば経験ですかね。5年間の間にいろんな現場のスタッフをやったり、お芝居の勉強をしたり。やっぱり映画って1人では撮れないので、5年間の中で人脈を作ったり、長編映画はショートフィルムとはわけが違うので経験値を上げたりしました。でも、これで準備が揃ったから撮ろう!となった訳ではなく、たまたまいろんなチャンスが巡ってきて「今しかない!」と思って撮りました。

【画像】映画『少女邂逅』場面カット

―― 自分の辛い過去を自分自身で見つめ直し、作品にするのはかなり覚悟が必要ですね。

この仕事をしている人って多分身を削って何かを産み出さないとやっていけないというか。0から1を創り出すのって本当に大変な事だなと毎回思うんですけど、どの監督も自分の中での経験だったり考えを削り取って脚本に落とし込んでいると思うので、そういった部分では他の監督と変わらないんじゃないかなと思います。確かに他のショートフィルムやMVを作る時の方が精神的に楽ですけど根本は変わらないと思いますね。自分の考えや想い、人に見せたくないものと変わってしまうんですけど「どの場所にいても結局自分がどうありたいかとかどう生きていきたいか。どこに行ったって自分次第だし、自分の価値は自分で見つけなさい」って言うことを凄く伝えたかったですね。

【画像】映画『少女邂逅』場面カット

―― 映画では蚕(カイコ)が出てきますが、何故蚕だったのでしょうか?

私は群馬県出身なんですけど、群馬県は蚕の名産地なんですね。丁度、富岡製糸場が世界遺産に認定された年が18歳くらいの時で関心を持ちました。私にとっては昔から割と馴染みのある虫だったんですけど、もう一度蚕について調べ直してみたら蚕の生体が結構歪であることに気づいて。なんか映画と絡められないかな〜と思ったのがきっかけです。そこからは図書館に通って調べて、必死に映画と絡められるところを探してたら5年経ってました(笑)。

【画像】映画『少女邂逅』場面カット

―― 日常のシーンを撮る中で大事にしていることはありますか?

そういうのは説得力だと思っていて。「この人はここにいないだろう」って思わせちゃダメで。特に映画は嘘のメディアというか、ドキュメンタリーでは無いので1から嘘を作りますけど、その嘘を本当にすることは出来ると思っていて。(主演以外の)役者さんに関しては映っていようと無かろうと、凄く話し合いました。例えば、ただ何となく教室で一緒にご飯を食べているってことは絶対無くて、みんなお弁当だけど1人だけコンビニで買ったパンだとしたら、いつもパンなのか、それとも今日はたまたまお母さんが寝坊したからパンなのかとか、掘り下げていったらその子の人生が1個1個あるなかで、主演は2人だから2人に入れ込むけども、周りを蔑ろにするとシーン自体が地に足着かないなと色んな映画を観て感じていたので、エキストラみたいになっちゃうと困るので細かいバックボーンなど色々話しましたね。

【画像】映画『少女邂逅』場面カット

―― 新宿武蔵野館での公開初日舞台挨拶では年表の話もありましたが。

あれはキャストが決まってからキャラクターを掘り下げて作ったんですけど、モトーラ世理奈と何回か会った時に、凄く変わった子だったので実際に彼女の過去や今、将来の話も聞いたりしながら、等身大の彼女と紬を近づけていきました。でも、難しい役なので凄くモトーラ世理奈が悩んでいたので渡しました。他の登場人物の年表も全部作ってあったんですけど配る必要のある人と無い人が居るなと思って。なので保紫(ミユリ役)には私が手を加えちゃうと役として良い方向に転がって行かないと感じたので、敢えて渡しませんでした。

【画像】映画『少女邂逅』場面カット

―― 『少女邂逅』のアナザーストーリーである「放課後ソーダ日和」(全9話)が配信中ですが、ドラマに出てくるお店はどのように決めたのですか?

すべてのお店を回るのは果てしないので、純喫茶マスターの難波里奈さんにお願いしてオススメのクリームソーダのお店をピックアップして貰い、そのお店を全部回って実際にクリームソーダを飲んで決めました。どこのクリームソーダも美味しいですし、雰囲気だったりお店の造りにも注目して観ていただけたらと思います。

【写真】映画『少女邂逅』枝優花監督インタビュー

―― 最後に、これから映画をご覧になる方にメッセージをお願い致します。

自主映画なのでそんなに凝った事が出来ていなかったり、若いスタッフ・若いチームで新人ばっかりだったので足りない部分だったり稚拙な箇所があって、今観ても反省するところがたくさんあるんですけど、全員が全員泣けて、笑えて、ハッピーで感動する話では無いのでみんなに受け入れられる映画ではない事は分かっているんですけど、観た人が誰か一人でも帰りの電車で「今日はイヤフォンしたくないな」って思って、身体の中に映画で受けたものを保存して持って帰って貰える映画が作れたらと思っているので、何か一つでも感じるものがあったら嬉しいなと思います。

[インタビュー: 梅田 奈央 / スチール撮影: Cinema Art Online UK]

プロフィール

枝 優花 (Yuka Eda)

1994年3月2日生まれ。群馬県高崎市出身。
監督作『さよならスピカ』(2013年)が第26回早稲田映画まつり観客賞、審査員特別賞を受賞。翌年の第27回早稲田映画まつりでも『美味しく、腐る。』(2014年)が観客賞に選ばれる。大学時代から映画の現場へ従事し、山下敦弘監督の『オーバー・フェンス』(2016年)特別映像撮影編集、とけた電球、STU48、高井息吹などのMV監督も務める。その他も、「ViVi」「装苑」などでのスチール撮影、メイキング、助監督とその活動は多岐に渡る。

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映画『少女邂逅』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『少女邂逅』ポスタービジュアル

《ストーリー》

いじめをきっかけに声が出なくなった小原ミユリ(保紫萌香)。ミユリの唯一の友達は、山の中で拾い「紬」と名付けた蚕」窮屈で息が詰まるような現実から、いつか誰かがやってきて救い出してくれる──といつも願っていたミユリだったが、いじめっ子の清水に蚕を捨てられてしまう。そんなある日、絶望したミユリの学校に「富田紬」という少女(モトーラ世理奈)が転校してくる──。

 
MOOSIC LAB 2017 観客賞受賞
第42回香港国際映画祭 I See It My Way部門 正式出品
第21回上海国際映画祭 パノラマ部門 正式出品
 
監督・脚本・編集: 枝優花
劇中歌・主題歌: 水本夏絵
 
出演: 保紫萌香、モトーラ世理奈
土山茜、秋葉美希、近藤笑菜、斎木ひかる、里内伽奈、根矢涼香、すぎやまたくや、松澤匠、松浦祐也
 
撮影: 平見優子
照明: 佐久間周平
録音: 小川賢人
ラインプロデューサー:鄭銓聖
アシスタントプロデューサー: 小峰克彦
スタイリング: 松田稜平
ヘアメイク: 七絵
特殊造形: 土肥良成
整音: mauve
音楽: 大石峰生
美術: すぎやまたくや
映像投影: 阪実莉
スチール: 秋山大峰
企画: 直井卓俊
アソシエイトプロデューサー: 前信介
製作: 「少女邂逅」フィルムパートナーズ
配給・宣伝: SPOTTED PRODUCTIONS
2017年 / カラー / ステレオ / シネマスコープ / 101分
©2017「少女邂逅」フィルムパートナーズ
 
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中!
(劇場情報: http://kaikogirl.com/theater.html)
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @kaiko_girl

この記事の著者

梅田 奈央シネマレポーター/ライター

様々な人々の想いによって創られる映画。限られた時間の中に綿密に練られた構想。伝えたいメッセージ。無限大の可能性と創り手の熱量に魅了され、作品やそこに込められた想いをたくさんの人に知って貰いたいと活動を開始。インタビューや舞台挨拶などのイベントに至るまで、様々な角度から作品の魅力を発信している。

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