映画『ビューティフル・デイ』リン・ラムジー監督インタビュー
【写真】映画『ビューティフル・デイ』 リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

映画『ビューティフル・デイ』 (原題: You Were Never Really Here)

リン・ラムジー監督インタビュー

現在をしっかりと生きていることこそ「HOPEのある人生」

行方不明の少女・ニーナを探して欲しいと男の元に依頼が舞い込む。
しかしそれは、いつもと何かが違っていた――

1999年に映画『ボクと空と麦畑』で鮮烈なデビューを飾り、恋人の死に接した若き女性の彷徨を描いた青春映画『モーヴァン』(2002年)、美しき母子の歪んだ関係性に迫った心理サスペンス『少年は残酷な弓を射る』(2011年)でセンセーションを巻き起こしてきたリン・ラムジー監督の6年ぶりの最新作『ビューティフル・デイ』(原題:You Were Never Really Here)が6月1日(金)遂に日本公開された。

【画像】映画『ビューティフル・デイ』 メインカット

アカデミー賞に3度ノミネートされた確かな演技力の持ち主であり、ポール・トーマス・アンダーソン、スパイク・ジョーンズ、ウディ・アレンらとのタッグで類い希な個性を発揮してきたホアキン・フェニックスとの米英の傑出した才能のコラボレーションで実現した本作は、第70回カンヌ国際映画祭で男優賞(ホアキン・フェニックス)と脚本賞(リン・ラムジー)のW受賞に輝いた。

ハードボイルド調のクライム・スリラーというべき物語を、唯一無二の感性が息づく演出、演技で映像化し、観る者にジャンルの枠をはるかに超えた映画体験をもたらす衝撃作として完成させたリン・ラムジー監督に製作の背景など話を伺った。

【写真】リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

―― 本作は実に6年ぶりの新作となりますが、この原作「You Were Never Really Here」(ジョナサン・エイムズ著)を選んだ理由をお聞かせください。

本当に原作がすごく短い短編なんですよね。でもどんどんページを進めたくなる内容で、何よりも惹かれたのはキャラクターね。脚色する時に自分なりに膨らませられるなと思ったのよ。

―― 映画製作にあたって原作者のジョナサンともお話をされたと思いますが、いかがでしたでしょうか?

「ごめんなさい、まったく原作とは違う映画にすると思うわ」と伝えたら彼は笑っていたわ。けれど、原作を読んだ時のあの勢いは映画に取り入れたいと伝えました。彼はとても気に入ってくれて、完成版を7回も観てくれたの。私もびっくりしているわ。「観るたびにまた新しい発見があるから、また観る」って言ってくれたのよ。

【写真】リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

―― 原作者も驚くほどの映像表現をされていたからだと思いますが、ジョナサンの感想はいかがでしたでしょうか?

「自分が綴り始めた物語のオペラバージョンだ」と言っていたわ。その意味は私はよくわからなかったのだけど(笑)。この映画にインスパイアされて、エクステンデッドバージョン(続編)を書く予定もあるらしいのよ。

―― そうしますと、次回作も監督がやらねばですね!

次回作もやりたいわね!
ジョーというキャラクターは本当に自分にとって興味深い魅力的なキャラクターだからやりたいけど、その際もジョー役はホアキン・フェニックスじゃなきゃダメね。色んなタイミングが合致しないと。

―― ホアキンはどのような方でしたでしょうか?

彼自身がジャンルものを作りたいと思っていたわけではなかったと思っているのよね。
むしろ私の過去の作品を観てくれて、私と仕事をしたいと思ってくれた。彼はリスクをいとわないこういう役どころだとどうしてもタフなすべての弱きものを救うような描写が多いんだけど、今回あえてそういった要素は省いたの。キャラクターを作り上げるにあたって、ホアキンとはずいぶん色々な会話をしたわね。

【画像】映画『ビューティフル・デイ』 場面カット5

―― ホアキン自身の魅力と原作のジョー。二人をミックスさせて生み出した映画版ジョーという感じでしょうか?

その通りね!ホアキンはなんとクランクインの7週前から現場入りしてくれたの。早すぎるわよね(笑)。色々話し合いながら身体作りをしていってもらったわ。本当は傷跡に関しては最初から見せようと話していたのだけど、体躯に関してはあらかじめ決めていたわけではないの。最初からシックスパック、腹割れてますよみたいなスーパーヒーロー的なキャラクターではなくて、ノートルダムによくいるような無粋な男を目指したわ。最終的にはビースト(野獣)のような体躯になったと思うし。彼以外のキャストのみんなも、役の世界にぐんと入り込むことができる役者たちなのよね。ホアキンは本当に早くクランクインしてくれて、まるで優秀なスタッフの一員みたいだったわ。素晴らしいと思ったし、そうあるべきだと感じたわ。

【画像】映画『ビューティフル・デイ』 場面カット3

―― ヒロイン・ニーナ役にエカテリーナ・サムソノフを起用したのは何が決め手となりましたか?

ホアキンと共にオーディションさせてもらい、彼との相性をみることができた。それがすごく良かったの。ニューヨークで子役を探す時って、結構スレてるキッズが多いのよ。「お前は45歳か!」みたいな(笑)。オーディションに来てくれた時、エカテリーナはすごくイノセントなところがあって、とはいえ身長も高くて、ホアキンとのセリフ読みの時もホアキンがアドリブを始めたんだけど、自然にそれに応えることができた。存在感を感じさせてくれるのはレアなのだけど、彼女にはそれがあった。役柄に対する献身さというのが彼らに共通してみられるところだったわね。

【画像】映画『ビューティフル・デイ』 場面カット6

―― 邦題は『ビューティフル・デイ』(Beautiful Day)ですが、率直にどのように思いますか?

原題が日本語だとちょっと長くなるということはわかってるので、このタイトルの方が短くて良いのだろうなということはわかるけど、監督にとっての映画のタイトルは原作と同じく『You were never really here』以外無いと思っているわ。私の中では夢の中という資質を感じるタイトルだなと。自分の人生にとって、自分が幽霊のように生きているジョーを示唆するタイトルだから個人的には原題がぴったりだとは思います。

【写真】リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

―― ニーナという人物が放った「Beautiful Day」というセリフだからこそ、物語を観てきた方々にとっては非常に重い言葉として受けとめられると思いますが、監督ご自身はこのセリフをどのように感じましたでしょうか?

だから皆さん、タイトルに起用するのかもしれないわね。フランス版もタイトルは「Beautiful Day」なので。すさまじいトラウマを経験していながらも、子供らしさ、観る者にとって予想できない動きをするニーナが、まさに現在、今を生きていると、現在形を感じさせてくれる言葉だと思っているわ。過去のトラウマに縛られて現在を生きることができないジョーを少なくともあの瞬間だけは彼女が引き戻すことができていると。そういうつもりでこの映画の脚本を書きました。

【画像】映画『ビューティフル・デイ』 場面カット1

―― 本作の音楽に関して、ジョニーグリーンウッド(Radiohead)にはどのような注文をされましたでしょうか?

実はアプローチした時にはレディオヘッドはツアー中だったのよね。ホアキンのスケジュールもあって、クレイジーなひと夏をニューヨークで過ごすことになりました。「その期間はツアーだから無理だよ」とは言われていたのだけど、話をしているうちにジョニーがジョーというキャラクターにハマってくれて、インスパイアされながら曲作りをしてくれたのよ。ジョニーはこちらが送った映像のタイムコードに合わせてスコアを書く人じゃないの。画を見ながら、曲を書いてくれるのよ。画を送って、インスピレーションを受けて曲を書いてくれてまた送ってくれる。そんな流れだったわ。普通のやり方とは全く違うやり方で今作の音楽は作られているのよ。この話をしているだけで興奮してきちゃうわね。インスピレーションを元に生み出された楽曲が彼から送られてくるたびに、私が興奮してスタジオで騒いでいたので、周りから観たら変人に思われたかもしれないわね(笑)。

【写真】リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

―― この映画からは一縷の望み、“HOPE”を感じるものがあったのですが、監督が考える“HOPE”のある人生、美しい日々とはどのようなものでしょうか?

やっぱり現在形であることだと思うわ。常にスクリーンを観ているような、忙殺されているような中であっても、立ち止まってその瞬間をしっかり受け止めて楽しむことだと思うの。どんなに周りがクレイジーでもね。

[スチール撮影: 坂本 貴光 / インタビュー: 蒼山 隆之]
[構成・編集: Cinema Art Online UK]

プロフィール

監督・脚本・製作: リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

1969年12月5日、スコットランド・グラスゴー出身。
イギリス国立映画テレビ学校の卒業制作として制作した短編『Small Deathes』(未)で、第49回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。監督第2作目の短編『Kill the Day』(1996年/未)は第18回クレルモン・フェラン国際短編映画祭で審査員賞を受賞。第3作目の『Gasman』(1998年/未)で第51回カンヌ国際映画祭で再び審査員賞を受賞、加えて第52回英国アカデミー賞の最優秀短編賞に輝いた。

【写真】リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

長編映画デビューとなった『ボクと空と麦畑』(原題:Ratcatcher/1999年)は第52回カンヌ国際映画祭ある視点部門で上映され、第53回エディンバラ国際映画祭ではオープニングを飾り、ガーディアン新人監督賞を受賞。批評家を中心に絶賛され、数多くの賞を獲得し華々しい監督デビューを飾った。長編2作目の『モーヴァン』(原題:Morvern Callar/2002年)では、第65回カンヌ国際映画祭の CICAE 賞とユース賞を獲得。美しき母子の歪んだ関係性をサスペンスフルに描いた長編第3作目『少年は残酷な弓を射る』(原題:We Need to Talk About Kevin/2011年)でも第55回ロンドン映画祭作品賞受賞を始め、主演を務めたティルダ・スウィントンの第24回ヨーロッパ映画賞と第83回ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞での主演女優賞受賞、さらには第65回英国アカデミー賞での各賞ノミネートなど各映画賞を席巻した。本作『ビューティフル・デイ』は『少年は残酷な弓を射る』以来6年ぶりの新作となる。

【写真】リン・ラムジー (Lynne Ramsay)

映画『ザ・シークレットマン』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『ビューティフル・デイ』 ポスタービジュアル

《ストーリー》

孤独な男と全てを失った少女。その日、壊れた2つの心が動きだす――

元軍人の主人公ジョーは、人身売買などの裏社会の闇に堕ちて行方不明になった少女たちの捜索と奪還を請け負うスペシャリスト。年老いた母親と静かな生活を送る一方、長年のトラウマに苛まれる彼の心中にはつねに不安が渦巻いている。そん なジョーのもとに新たに舞い込んできたのは、売春組織に囚われた娘ニーナを連れ戻してほしいという政治家からの依頼。仕事を遂行するためなら血生臭い殺しも辞さないジョーは、組織の娼館からニーナを救出するが、心ここにあらずといった様子の彼女は人形のように無反応だった。やがて謎の襲撃者にニーナをさらわれてしまい、さらなる非情な事態に陥ったジョーは、自分が恐るべき陰謀に巻き込まれたことを知る。この極限の悪夢の中で生きる理由を見失ったジョーは、はたしていかなる行動に打って出るのか……。

 
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門
脚本賞(リン・ラムジー)&男優賞(ホアキン・フェニックス)W受賞!
インターナショナル・シネフィル・ソサイエティ・アワード 2018
2017年未公開映画 最優秀作品賞&最優秀監督賞 W受賞
 
原題: You Were Never Really Here
 
監督・脚本: リン・ラムジー
出演: ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット、アレッサンドロ・ニヴォラ音楽: ジョニー・グリーンウッド
原作: ジョナサン・エイムズ「You Were Never Really Here」
2017年 / イギリス / 英語 / カラー / DCP5.1ch / シネマスコープ / 90分 / PG12
字幕翻訳: 金関いな
提供: クロックワークス、アスミックエース
配給: クロックワークス
Copyright © Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved. © Alison Cohen Rosa / Why Not Productions
 
2018年6月1日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー!
 
映画公式サイト

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