第30回 東京国際映画祭(TIFF)「歌舞伎座スペシャルナイト」レポート

【写真】市川海老蔵 & トミー・リー・ジョーンズ

第30回 東京国際映画祭『歌舞伎座スペシャルナイト』 

4Kリマスター版でよみがえった名作『地獄門』と歌舞伎のコラボ
市川海老蔵と審査委員長のトミー・リー・ジョーンズが登場!

今年で30回を数える東京国際映画祭(TIFF)で、日本開催ならではの特徴を如何なく発揮するのが「歌舞伎座スペシャルナイト」だ。クラシック日本映画と歌舞伎のコラボで、今年は第7回カンヌ国際映画祭でグランプリ他複数賞を受賞した日本映画の巨匠・衣笠貞之助監督の『地獄門』(1953年)の4Kデジタルリマスター版を上映。歌舞伎には市川海老蔵の『男伊達 花の廓(おとこだて・はなのくるわ)』上演された。

開場前、歌舞伎座正面玄関前で挨拶した海老蔵は、「本日歌舞伎を初めてご覧になる方も多いと思いますので、懸命演じたい」と意気込みと語った。

「海外の方が歌舞伎をすぐに理解できるかというと、たしかに言葉の壁もありますし、難しいかもしれません。でも歌舞伎はオペラやバレエを同じように形が決まっていて、様式美や所作(マイム)仕立てで見せるものです。私が外国の演劇を拝見するときもそうですが、意味が多少わからなくても通じるものがあるはず。また、長唄やお囃子など、生の邦楽にも触れられる機会です。また、本日上演する『男伊達 花の廓(おとこだて・はなのくるわ)』は、男の粋(いき)、立ち回り(殺陣)、色気を表現する舞踊仕立ての歌舞伎となっています。舞台が江戸時代の吉原なので、その風情も味わっていただきたいですね。」

フォトセッションには、コンペティション国際審査員長のトミー・リー・ジョーンズも登場、数々の主演映画の他TVCMでもおなじみのトミー・リー・ジョーンズと市川海老蔵との2ショットが、国際的な雰囲気を一層盛り上げていた。

圧倒的な日本文化の奥深さと色彩美絵巻に酔う!
戦後8年目に出現した奇跡の映画を4Kリマスターで再現

第7回カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞、第27回アカデミー賞で名誉賞と衣装デザイン賞。『地獄門』は、日本が世界に誇る映画の一つである。カンヌ国際映画祭の審査委員長だったジャン・コクトーに「これこそ美の到達点」と言わしめた、その映像を、さらに4Kリマスターで今味わえる至福に、まず感謝したい。

何といってもその色彩美には、冒頭から圧倒される。金蒔絵の施された文箱のクローズアップ。そこから取り出された巻物に描かれた平安貴族たちの典雅な風俗、そしてその絵巻物のから抜け出たように、寸分違わぬ色彩の衣裳をまとった人々や、舞台装置が出現する。この完成度にして大映初の総天然色映画。平安時代の色彩(和色)の再現に努めたという。太平洋戦争の敗戦からまだ10年も経たぬ1953年、日本人はいかにして、世界最高峰の映画を世に送り出したのだろう。

【画像】『地獄門 [4Kデジタル修復版]』

原作は菊池寛の戯曲『袈裟の良人』。一目惚れした人妻・袈裟(京マチ子)を諦めきれないストーカー武者・盛遠(長谷川一夫)の話で、この「袈裟と盛遠」の逸話は平安時代から様々な日本文化や芸能の中で語り継がれてきた。『平家物語』や『源平盛衰記』がベースとなっているので、一見勇ましい戦記物のように思われるが、戦争中に作ったら非国民扱いされただろう、不毛な色恋が題材だ。

単に「人妻だから愛してはいけない」というだけだはない。当の女・袈裟も「イヤだ」と言っている。相愛ではないのだ。それなのに、盛遠は「天下の清盛公が褒美は何でも好きなものを、と約束した」の一点張りで、絶対に譲らない。対して袈裟の夫・渡辺渡(山形勲)は、穏やかで礼節を重んじる貴人。葵祭での馬比べに臨む心持ちの違いなど、対比が鮮やかである。

人品卑しからぬ夫と情熱だけで押しまくる盛遠の間で、苦悩する袈裟を演じる京マチ子が絶品!夫にとっては秘蔵で自慢の美人妻、盛遠にとっては男を惑わすファムファタル。いくら身持ち正しく毅然と相対しても、本能的に無防備さが身に現れ、眼差し一つ、態度一つが艶かしい。眼血走るストーカー盛遠に絡め取られ、愛する家族の命まで危うくなった袈裟の決断の行方を、映画は合戦続きで疲弊した都の無常のひとコマとして、淡々と描いていく。

【画像】映画『地獄門』[4Kデジタル復元版]

この話が単なる「異常者による犯罪」に終わらないのは、夫の渡には一つも落ち度のないように見えながら、ふとした拍子に見せる表情の中に、インテリが労働者を鼻で嗤うような特権階級のいやらしさをのぞかせるからだ。盛遠の理不尽な要求を一笑に附す渡の朋輩たちの「お前ごとき坂東武者が貴人の妻に言いよるとは、そもそも身分をわきまえぬ振る舞いだ」という階級的な差別の匂いが、既得権を持った人々に都合のいい社会の傲慢さと理不尽さを突きつける。

衣食足り余裕あって教養を身につけても、人を見下しているではないか。文化を愛するから正しい人間であるわけではない。武者階級が勃興し、貴族と肩を並べるに至った今こそ、この輝くばかりの宝物を手に入れられる、と思った盛遠の一瞬の幸せを、気がつけば応援したくなってしまう設定と伏線の奥深さに、感服せずにはいられない。

持てる技術の全てを用い、戦争に負けても奪われない日本文化の粋を誇示し、ありったけの予算を使って世界に知らしめた映画のテーマが、女に振られる男の絶望とは! 『地獄門』には、国策により文化芸術がねじ曲げられ押し込められた戦中戦前の鬱憤を晴らすかのように、「国のためではなく、人間のための芸術」「人間が生きる歓びの根源」をとことん突き詰めようとする、映画人たちのエネルギーが満ち溢れている。

歌舞伎『男伊達 花の廓(おとこだて・はなのくるわ)』
市川海老蔵が颯爽と登場!

歌舞伎座スペシャルナイト、後半は市川海老蔵の歌舞伎舞踊である。

【写真】歌舞伎『男伊達 花の廓(おとこだて・はなのくるわ)』市川海老蔵

舞台は江戸の吉原仲之町。「遊郭」というより、「一番の盛り場」「一度は行ってみたい江戸の名所」としての空気感を醸すのは、中央の満開の桜。そこに現れる伊達男・御所五郎蔵(市川海老蔵)をめぐる所作仕立ての舞踊芝居。いなせな五郎蔵が恋する傾城のところへ急ごうとすると、妨げるようにやってくる男たちとの立ち回りで華やかに。粋で強くてイケメンで、女性にモテる「男伊達」を海老蔵が爽やかに演じた。

 

先立って上映された『地獄門』で繰り広げられた平安絵巻の和色の世界が、21世紀の現代の日本でも、連綿と受け継がれていることが見て取れる舞台装置の鮮やかさ。新しいもの・最先端のものと、古きもの・変わらないものが共存する日本文化の特徴を、この歌舞伎座スペシャルナイトでも味わっていただけたのではないかと思う。

[記者: 仲野 マリ]
 

イベント情報

<第30回 東京国際映画祭(TIFF)「歌舞伎座スペシャルナイト」>

特別上映『地獄門 [4Kデジタル修復版]』
舞踊『男伊達花廓』市川海老蔵
 
日時: 2017年10月26(木)
場所: 歌舞伎座
登壇者: 市川海老蔵、トミー・リー・ジョーンズ(コンペティション国際審査員長)
 

映画『地獄門 [4Kデジタル修復版]』作品情報

執念の恋に燃える愛欲の業火。源平盛衰の絵巻を背景に、繰り展げられる人間愛憎の姿を描いた作品。大映第1回総天然色映画にして、「これこそ美の到達点」と審査委員長、ジャン・コクトーを魅了し、第7回カンヌ映画祭でグランプリを、第27回アカデミー賞®で名誉賞と衣裳デザイン賞を受賞した世界的名作である。

監督/脚本: 衣笠貞之助
原作: 菊池 寛
撮影監督: 杉山公平
照明: 加藤庄之丞
録音: 海原幸夫
美術: 伊藤熹朔
音楽: 芥川也寸志
 
キャスト: 長谷川一夫、京 マチ子、山形 勲、黒川弥太郎、坂東好太郎、田崎 潤、千田是也
 
1953年 / 日本 / 日本語 / カラー / 89分
© KADOKAWA 1953

 

★書籍のご紹介

歌舞伎にご興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください。


この記事の著者

仲野 マリ

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

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