
映画『シャオ・メイ/ローマ大決戦』
ガブリエーレ・マイネッティ監督 インタビュー
カンフーとイタリアン・ドラマが融合した“クレイジーなハーモニー”
『鋼鉄ジーグ』の異才が語る、女性ヒーローと映像言語の真髄
長編初監督作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年)の独自の作家性で、日本の映画ファンやサブカルチャー愛好家を熱狂させたイタリア映画界の異才、ガブリエーレ・マイネッティ監督。同作で第61回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀新人監督賞と最優秀プロデューサー賞を含む7部門を受賞し、続く長編第2作『フリークスアウト』(2021年)でも第67回同賞で最優秀プロデューサー賞を含む6部門に輝いた。そして長編第3作となる映画『シャオ・メイ/ローマ大決戦』が、5月29日(金)に日本公開を迎えた。

長編3作連続となる日本での劇場公開に先立ち、本作は東京と大阪で開催された「イタリア映画祭2026」でも上映され、マイネッティ監督自身も来日。Cinema Art Onlineでは、2017年の『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』日本公開時以来、9年ぶりとなる単独インタビューが実現し、監督と再会を果たした。
現代のローマを舞台にした物語は、行方不明の姉を探す中国人女性シャオ・メイ(リウ・ヤーシー)が、圧倒的な身体能力と切れ味鋭いカンフーで、立場の弱い移民を搾取する犯罪組織や人種差別主義者たちに立ち向かっていくアクション・ノワール大作。マイネッティ監督が敬愛するブルース・リーや香港映画の巨匠たちへ並々ならぬオマージュを捧げつつ、異文化の軋轢や現代社会の不協和音をエンターテインメントの枠組みで見事に調和させている。

フィルムメーカーとしてさらなる進化を遂げたマイネッティ監督が、今作であえて女性主人公を据えた意図から、独自の映像表現論、言葉の通じない二人が携帯端末の翻訳機能を用いて会話を重ねる演出の裏側、ローマの食文化へのこだわり、そして多大な影響を受けたという日本文化への愛まで、ユーモアを交えながらたっぷりと語ってもらった。
強い女性主人公に込めた“直感”と映画的インパクト
前作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』での「孤独な男の覚醒」から一転、今作では「復讐を誓う女性」へと主人公がシフトした。マイネッティ監督が敬愛するブルース・リーという男性的な象徴を意識しつつも、あえて女性を主人公(復讐の女神)に据えた背景には、どのような意図があったのだろうか。
―― 前作から一転し、今作で女性主人公の復讐劇を描くに至った物語や表現上の意図を教えてください。
マイネッティ監督: 現代の映画界や社会において、女性を前面に押し出すいわゆる「多様性(ダイバーシティ)プログラム」のような動きがありますが、正直なところ、私はそういった政治的なステートメントにはあまり興味がありません。私はただ、自分の直感に従って生き、映画を作っているだけです。私のこれまでの人生は、常に非常に強い女性たちに囲まれていました。だからこそ、映画的(シネマティック)に考えても、強い女性を主人公にする方がはるかに面白いと感じたのです。

前作の『フリークスアウト』でも、一番強力な力を持つキャラクターを美しい少女に設定しました。今回も、中国から屈強な男性の達人がやってくるのではなく、小柄で美しい女性がやってきて、ローマの古典的な家長社会(男性中心社会)の悪党たちを次々と張り倒していく方が、意外性があってインパクトがあると考えました。私は男性ですから、女性の本当の気持ちを100%代弁することはできませんし、これは男性の目から見た女性像かもしれません。しかし、私よりはるかに強い私の妻との関係性など、実人生での学びやリスペクトが作品に大いに反映されていることは間違いありません。

比喩と象徴で描く、異文化とジャンルの「ラブストーリー」
劇中では、不法移民の現実や、極右・左翼の対立を想起させる厳しい描写も含まれている。これらは現代の社会情勢に対する映画監督としての社会批評なのだろうか。
―― 作中では、移民街の混沌とした情勢やイデオロギーの対立も垣間見えます。これらは現代のイタリア社会に対する批評として意識されたものですか?
マイネッティ監督: 私の人生の捉え方やスタンスが、作品に反映されるのは当然のことです。私は明確に人種差別(レイシズム)に反対しています。しかし、映画の言語というのは「感情の言語」であり「絵画の言語」です。単なる説明的なイメージではなく、深みのある比喩的、象徴的なイメージを通じて、観客にメッセージを「匂わせる」ことこそが良い監督の仕事だと思っています。

この映画の核心にあるのは、異なる二つの文化の間に生まれる「ラブストーリー」です。また技術的な面で言えば、中国の伝統的な武術ジャンルである「カンフー映画」と、イタリアの大衆ドラマ(喜劇・悲劇)という、異なる二つの映画ジャンルの融合(ラブストーリー)でもあります。
この一見すると不協和音に見える二つの要素が交差することで、非常にクレイジーで奇妙な、しかし全く新しい響きが生まれる。そこから美しいハーモニーを創り出すことこそが私の役目でした。観客は劇場や自宅のソファで、人生の中の貴重な2時間という時間を私に信頼して預けてくれます。だからこそ私は彼らを退屈させたくないですし、エンターテインメントとして楽しませながらも、自分なりのニュアンスをしっかりと伝えたいのです。

シネマティックではない携帯端末を、文化の橋渡しへ
言葉の通じないシャオ・メイとマルチェッロが、スマートフォン(携帯端末)の翻訳機能を通じて会話を重ねていく姿は、非常に現代的でありながら、どこかコミカルで温かいコミュニケーションとして描かれている。
―― スマートフォンの通訳アプリを介したやり取りがとても印象的でした。現代のデジタルツールを演出に取り入れた理由を教えてください。
マイネッティ監督: 本作は現代(コンテンポラリー)を舞台にしているので、言葉の通じない2人がボディランゲージだけで完璧に意思疎通できたり、不自然に同じ言語を話したりするのはリアルではないと考えました。だから、現代の生活において彼らに提供されている道具として、ごく自然にスマートフォンを取り入れたのです。
ただ、本音を言うと、多くの映画監督は映画の中にこうした携帯端末を出すのが大嫌いです(笑)。画面に映しても全く美しくないですし、平面的な画面に文字が出るというのは、本来の映画の映像表現とは真逆のもの。シネマティックな意味や奥行きをすべて削ぎ落としてしまうからです。ですから、これをどうにか映画の延長線上で機能させ、2つの文化を繋ぐ「架け橋」として昇華させられないかと苦労しました。
映画の終盤には、互いを理解し合うことでそのデバイスが不要になり、同じ言語(感情)で話し始める、というプロセスを作りたかった。今思えば、翻訳機能が誤訳をしてしまうようなユーモアをもっと盛り込んでも面白かったかもしれませんね(笑)。単なる昔のカンフー映画のノスタルジーで終わらせず、現代の観客に通じる新しい表現にするための重要なツールでした。

ローマの食文化へのこだわりと「アマトリチャーナ」への愛
「ベーコンを使う人がいたら、撃ち殺してください(笑)」
本作では伝統的なローマ料理店と中華料理店が対比され、文化の混ざり合いを表現するメタファーとして「食」が巧みに使われている。
―― 伝統的なローマ料理店が舞台になるなど、「食」が異なる文化の実験的ツールのように登場します。監督にとって「食」はどのような意味を持っていますか?
マイネッティ監督: 本当は、映画の中でもっとガストロノミー(食文化)の要素を深く探求したかったのです。ただ、本作は2022年9月に企画が立ち上がり、2023年3月には撮影という非常にタイトなスケジュールでした。限られた短い期間の中でベストを尽くしましたが、もし脚本に丸1年かけられたら、もっと登場人物たちがたくさん食べるシーンを入れられたと思います。
イタリア人にとって、日本人と同じように「食」は文化そのものであり、非常に重要なものです。私も今、妻と一緒に日本に来ていますが、わずか2日の滞在なのに、素晴らしい食と文化に魅了されて、もう1週間以上いるような濃密な感覚を味わっています。
ローマの料理は非常にシンプルで、使う食材も多くありません。だからこそ作り手の繊細なニュアンスが味に出ます。劇中のレストランでも、ローマを代表するカルボナーラやアマトリチャーナといったお馴染みのパスタが登場しますが、これも異文化を組み合わせる実験的な比喩(ローマのパスタと中国の素材の融合)として登場させています。なぜアマトリチャーナを強調したかというと、単純に僕が一番大好きな料理だからです(笑)。
ちなみに一つだけ覚えておいてください。もしカルボナーラやアマトリチャーナを作る際に、ベーコンを使う人がいたら、“撃ち殺して”ください(笑)。あれは絶対に豚のホホ肉(グアンチャーレ)でなければなりません。全くの別物になってしまいますからね。

大好きな日本食と、温めている新たな映画企画の展望
―― 前回も日本食について「大好き」とお話を伺いましたが、やはり「食」について語る時の目は一際生き生きとしていますね。今後「食」をテーマにした作品を撮るというのはいかがでしょうか?
マイネッティ監督: 実は、これまでの作品とはまた異なるアプローチで、料理の要素を取り入れた新しい企画を温めています。まだ詳細はお話しできませんが、順調にいけば、今年の年末には準備に入りたいと考えているんです。食というのは、人間の文化やルーツを描く上で本当に面白い要素ですからね。
ちなみに日本食のことで言うと、今回の来日には妻も同行しているのですが、彼女が日本でどこのお店に行くか、何を食べるかという計画をすべて完璧に決めてくれているんですよ(笑)。彼女の素晴らしいリサーチのおかげで、すでに美味しい日本食をたくさん堪能させてもらっています。
(今作の)作中にはエスクイリーノ地区の中華料理店が登場しますが、私は中華料理よりも日本料理(日本食)のほうが断然好きなんです(笑)。

日本のファンへのメッセージ:いつかこの地で映画を撮りたい
Cinema Art Onlineの9年ぶりのインタビューに新作を携えて戻ってきた喜びと、今後の映画製作への展望、そして日本のファンへの熱いメッセージでインタビューを締めくくられた。
―― 最後に、本作の公開を心待ちにしていた日本の観客へメッセージをお願いします。
マイネッティ監督: 私の大きな夢は、いつか日本へ来て映画を撮影することです。私は日本の映画、そしてアニメや漫画から多大な影響を受けて育ちました。映画作家としての私のインスピレーションの源泉です。日本食も相撲も大好きなので、力士たちが道場で一緒にちゃんこを食べるような、食と文化にまつわるシーンをこの地で描くのも面白いかもしれません。
今回の『シャオ・メイ/ローマ大決戦』は、手に汗握るスタントやカンフーアクション、環境の不協和音の中に、人間への温かい思いやりやニュアンスを込めた、これまでにない独創的な作品になりました。劇場の大きなスクリーンという最高の環境の中で、このクレイジーなエンターテインメントを心から楽しんでいただけたら嬉しいです。グラッツィエ(ありがとうございました)!

プロフィール
ガブリエーレ・マイネッティ (Gabriele Mainetti)1976年11月7日生まれ、イタリア・ローマ出身。世界各国のサブカルチャーに深くインスパイアされた作品を発表し続ける、現代イタリア映画界のフィルムメーカー。 ボローニャ大学で映画史と映画批評を専攻した後、ニューヨーク大学芸術学部(Tisch School of the Arts)にて演出、撮影、制作、脚本を本格的に学ぶ。また、ローマのワークショップや講座で俳優としての訓練も積んでいる。 2008年、TVアニメ「ルパン三世」へのオマージュを込めた17分の短編映画『Basette』を発表し、シュールなユーモアとビジュアルセンスで注目を集める。2011年に自身の制作会社「グーンフィルムズ(Goon Films)」を設立。 2012年の短編『Tiger Boy』では、第66回ナストロ・ダルジェント賞短編賞を受賞したほか、第86回アカデミー賞短編映画賞のショートリスト(最終選考)にも選出された。 日本のTVアニメ『鋼鉄ジーグ』を題材にした長編初監督作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年)はイタリア国内で大ヒットを記録し、第61回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最優秀新人監督賞と最優秀プロデューサー賞を含む7部門を受賞。長編第2作『フリークスアウト』(2021年)でも第67回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で16部門にノミネートされ、最優秀プロデューサー賞を含む6部門を受賞した。本作『シャオ・メイ/ローマ大決戦』(2025年製作)は長編第3作となる。 |
映画予告篇
映画作品情報

《ストーリー》1995年、中国・福建省。一人っ子政策が厳格に実施されていた時代。幼い姉妹ユンとメイは、父親から武術の訓練を受けて隠されるように育てられていた――。 2025年、イタリア・ローマ。移民街エスクイリーノ地区にある中華料理店〈紫禁城〉。その薄暗い地下室では、密入国させられ売春を強要される中国人女性たちがいた。その一人であるシャオ・メイ(リウ・ヤーシー)は、先に行方不明となった姉ユンを探すためにローマへやって来たのだ。メイは凄まじいカンフーの技で殺到する組織の男たちを次々と叩き伏せ、姉の情報を求めて街へと飛び出す。 メイは姉の恋人だった料理人アルフレードの店へ向かうが、そこでアルフレードの息子マルチェッロ(エンリコ・ボレッロ)や、街を仕切る人種差別主義者のヤクザ、アンニバレ(マルコ・ジャリーニ)らを巻き込む騒動へと発展。やがてメイとマルチェッロは、中国人組織によって殺害されたそれぞれの家族の凄惨な遺体を発見する。怒りと悲しみに震えるメイは、売春部屋にあった深紅のドレスに身を包み、赤いルージュを引いてワン一派への復讐を誓う。遂に、ローマ決戦の火ぶたが切られた――。 |
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