- 2019-10-17
- インタビュー, シッチェス・カタロニア国際映画祭, フランス映画, フランス映画祭, 映画監督
映画『スクールズ・アウト』
セバスチャン・マルニエ監督インタビュー
不穏な空気にじわじわ浸食される、地球滅亡への恐怖。
6月に横浜・みなとみらいにて開催された「フランス映画祭2019 横浜」でプレミア上映され、話題を集めた映画『スクールズ・アウト』(原題:L’heure de la Sortie/英題:School’s Out)が10月11日(金)~11月15日(金)より東京、10月26日(土)~11月15日(金)より名古屋、11月8日(金)~11月21日(木)より大阪で開催の「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」で上映される。
監督・脚本を務めたのは、フランス人監督セバスチャン・マルニエ。
小説の執筆、アニメ脚本の共同執筆を経て、3本の短編映画を監督。初の長編映画であるサイコスリラー『欲しがる女』(2016年)では、主演のマリナ・フォイスがセザール賞の主演女優賞にノミネートされた。
最新作『スクールズ・アウト』は、フランス発の学園ミステリー・ホラーとして名門中学校を舞台に、教師が生徒たちの目の前で飛び降り自殺をするという衝撃的なシーンから始まる。
以前と変わらない学校生活を淡々と送る生徒たち。そこへ臨時で赴任してきた新任教師ピエールが主人公だ。やがて6人の生徒たちのある企てに気づき、真相に迫っていく…..。
映画の中では、地球に生きる私たちが直面している問題の映像が次々と目に飛び込んでくる。環境問題、テロ、さらには東日本大震災まで。
来日したマルニエ監督にインタビューし、製作に至った経緯やフランスの現状、日本に関わりのあるエピソードなどお話を伺った。
“大切なテーマ”が描かれていた原作
―― 映画『スクールズ・アウト』の製作に至った経緯についてお聞かせ下さい。
脚本も監督が手がけられていますが、物語の発想はどのようなところから考えられたのでしょうか?
脚本は、2002年にフランスで発表された小説を基に作成しています。その小説は教育問題がテーマかと思いきや、読み進めていくうちにスリラーの要素が深くなっていくというフランスでは珍しい内容でした。そして、読みながら「こういうカットにしよう」と思いつくなど、映画としての映像や音が思い浮かんできたのです。最初に小説を読んだ時から紆余曲折ありましたが、2年前にようやく映像化の夢が実現し、晴れて公開に至りました。
―― 小説を読んですぐにイマジネーションが浮かんできたのですね。
そうですね。小説を読んでいる時からこういう映画にしようという気持ちは湧いてきました。私は様々な本を読みますが、全ての本に対して映像化したいという気持ちが湧くわけではありません。ですが、この映画の原作は私にとって大切なテーマや私自身が実際に経験したことが描かれていたので、この小説を原作として自分の作品を作りたい、映画として自分の作品にしたいという気持ちが強く湧きました。
―― 原作における、監督にとっての“大切なテーマ”とはどういったものだったのでしょうか?
私にとって大切なテーマは、映画の製作過程で気付き、徐々に明確になっていきました。原作を読んだ時点では、主人公のピエールや登場人物の子どもたちに似ている部分があると自己投影し、原作に描かれていた子どもたちの“世界に対する恐怖”という題材を使って、観客がとても不安になるようなホラー映画を作りたいというイメージが湧きました。
登場人物である子どもたちと同様の暗い時代を過ごした経験があることと、ピエールの大人になりきれていない性格は私も持つ側面だったので、とても共感したのです。また、他国には子どもの集団を使った恐怖映画はありますがフランスにはあまりないので、良作になるのではないかと考えたことも映像化したい気持ちを後押ししました。
地球滅亡への恐怖は世界共通
―― 映画には、“世界に対する恐怖”の要因として、テロや環境問題といったテーマも描かれていましたが、そういったテーマは監督のアイデアですか?
映画と原作の共通点は、思春期の子どもたちが地球滅亡をとても恐れている点と、その子どもたちが物事に意味や目的を見いださないニヒリストであり、その考えを信念として貫いているという点です。
原作には地球滅亡の要因について具体的に描かれていませんでしたし、出版されてから15年後に映像化したので、当時と現在の状況の違いを見直す必要がありました。例えば、環境問題は私のアイデアです。私自身がとても不安に思っている大切なテーマだったので入れました。
―― 本作には東日本大震災の映像が使われていましたね。
東日本大震災は大惨事でしたね。メディアを通して様々な映像を見ましたが、その映像を映画の中で使うかどうかは編集の段階で非常に悩み、結論を出しました。
いくら実際に起きたことだとしても、直接的な人の死に関する映像をフィクション映画に入れていいのかどうか倫理的な問題として非常に悩みました。
しかし、若い人たちもインターネットやYouTubeなどで、いつでも目にする環境にあります。非常に悩んだ末、100万回以上再生された映像は集団意識として、みんなが共有しているものだから入れようという判断基準を設けました。
日本で私の作品を紹介すると聞いた時、映画の内容がとても日本に関係があるものだと思いました。
作品の冒頭では何も起こっていない様子で物語が進んでいきますが、水面下では様々な要因が絡み合い、最終的にはあのようなエピローグにつながるという流れが、皆さんが東日本大震災で経験されたことと似ているのではないでしょうか。
水面下で何かが起きている、そして、一旦その何かが起きてしまうと次々と様々な惨事につながるということがこの作品にも繋がっていると思います。
撮影を通して考え続ける人生の選択
―― 先ほど、監督は暗い子ども時代を過ごしたとおっしゃっていて、映画の中では登場人物の少年ディミトリの「僕たちに未来はない」という台詞がありました。現在のフランスの子どもたちは苦しい状況にあるとお考えですか?
フランスの子どもも他国の子どもも同じ状況に置かれていると思います。作品の中で子どもたちは“世界に対する恐怖”と最後まで戦う姿勢を貫いていましたが、実際のフランスの子どもはそういうことはありません。非常に悲観的な子どもが多く、ある意味病的になっていると思います。国全体が落ち込んでしまっていて、その状況からどう抜け出せばいいかわからないという雰囲気があります。
労働組合もかつてのように活発ではないですし、政治的なことでいうと、最近は論争を収める力も持っていません。みんな内向きになってしまっています。何を手がかりに進んで行けばいいかわからなくなっています。
仕事がないと生きていけないような悲しい状況で、ホームレスが非常に多くいますし、昔のように集団で助け合うという文化が廃れてきていると感じます。
映画の撮影期間は、私自身の今後の人生について深く考える良い時間にもなりました。様々な不安要素があるこの世界で、子どもを持つという選択肢が本当に正しいことなのか、今の世界をこのまま未来に託して本当にいいのだろうかと真剣に考えるきっかけになったからです。子どもを持つか持たないかという人生の選択に対する答えはまだ出ていません。
芸術を通して救われる心
―― 映画の中で、学生たちが歌うコーラスが非常に印象的でした。その場面を入れようと思われたのはなぜでしょうか?
声変わり以前の子どもたちの歌を聴くことが、すごく好きだということもあります。
フランス映画の『コーラス』(2004年)は日本でもとても有名だと思いますが、この作品でのコーラスの意味は全く違います。
私の作品の中では、非常に厳しい学校生活の中で子どもたちがいつも隠している感情を、唯一吐き出すことができる場として取り入れました。
エマニュエル・ベルコが演じる音楽の先生は、パンクっぽい格好をして学校の中で少し浮いています。子どもたちが歌う曲「Free Money」はロック調で反抗的な内容のパティ・スミス(Patti Smith)という歌手の歌です。音楽という芸術を通じて、彼らがようやく感情を表に出せたというところを描きたかったのです。
―― 映画も感情を豊かにするのに大切な芸術の1つですね。
最後に、これから映画をご覧になる読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。
今回初めてコーラス(音楽)についての質問があって、熱く語ることができたので非常に嬉しく思っています。
映画を観ていただき、気に入っていただけることを願っています。
この作品は非常に日本に関わりが深く、精神的にも非常に深いつながりを持っている作品ですので、ぜひご覧になってその感想をInstagram、Facebookにお寄せ下さい。Google翻訳が上手に翻訳してくれるので、日本語の感想も大歓迎です(笑)。
撮影を通して、自身の人生についても考え続けているというマルニエ監督のお話を伺い、本作が放つ不穏な空気は、決して人ごとではないからゾクゾクし目が離せないのだと感じた。
実は私たちが生きている現実こそが1番ホラーでサスペンスなのかもしれない。
[スチール撮影: Cinema Art Online UK / インタビュー: 大石 百合奈]
プロフィール
セバスチャン・マルニエ(Sabastien Mrnier)
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映画作品情報
《ストーリー》深まる謎…生徒たちの思惑とは…?! 名門中等学校で、先生が生徒たちの目の前で教室の窓から身投げする異様な事件が発生した。 新たに教師として赴任したピエールは、6人の生徒たちが事態に奇妙なほど無関心なことに気付く。彼らの冷淡で気まぐれな振る舞いに翻弄され、やがて6人がなにか危険なことを企んでいると確信するようになり……。 |
シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019 上映作品
出演: ロラン・ラフィット、エマニュエル・ベルコ、グランジ
© Avenue B Productions – 2L Productions
シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019
「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション」は、シッチェス映画祭で上映された作品の中か ら厳選した作品を日本で上映する、シッチェス映画祭公認の映画祭。これまで2012年、2013年、2014年、2015年まで開催され、昨年2018年、日本のホラーファンから復活を求める声が多数集まり、3年振りに完全復活!そして、令和元年の今年も「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」の開催が決定!今年で6回目を迎える。
観客を恐怖のどん底へ叩き落す強力なラインナップをひっさげ、日本に登場!
東京:ヒューマントラストシネマ渋谷、名古屋:シネマスコーレ、大阪:シネ・リーブル梅田にて、10月11日(金)~11月15日(金)に全国開催される。
シッチェス映画祭とは?シッチェス映画祭(シッチェス・カタロニア国際映画祭/Sitges – International Fantastic Film Festival of Catalonia)は、1968年に創設されたスペイン・バルセロナ近郊の海辺のリゾート地シッチェスで毎年10月に 開催される映画祭。国際映画製作者連盟(FIAPF)公認の国際映画祭であり、ファンタジー系作品(SF 映画・ホラー映画・スリラー映画・サスペンス映画など)を中心に扱うスペシャライズド映画祭として、世界でも権威のある国際映画祭のひとつである。 ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、ポルト国際映画祭(ファンタスポルト)と並ぶ世界三大ファンタスティッ ク映画祭の代表格であり、ホラーやファンタジージャンル映画の最先端作品を選定する特徴がある。 歴代の最優秀作品には『狼の血族』(1984年)『死霊のしたたり』(1985年)、日本映画の『リング』(1998年)などがある。最優秀賞受賞者もヴィン セント・プライスからデヴィッド・クローネンバーグ、審査員には『食人族』(1980年)のルッジェロ・デオダートがいたりと、本映画 祭の歴史がホラー映画の歴史を表していると言っても過言ではない。 近年では中島哲也監督の『渇き。』(2014年)が最優秀男優賞、新海誠監督の『君の名は。』(2016年)がアニメーション部門にて、最優秀長編作品賞を受賞するなど、日本ともゆかりの深い。 |
■映画祭タイトル:「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」
■期間: 2019年10月11日(金)~11月15日(金)
■場所: ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマスコーレ、シネ・リーブル梅田
■料金: 通常料金: 1,500 円 / 専門・大学生、シニア: 1,100 円 / 高校生以下: 1,000 円
■公式サイト: https://www.shochiku.co.jp/sitgesfanta/
■公式Facebook: https://www.facebook.com/sitgesfanta/
■公式Twitter: https://twitter.com/sitges_fanta
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