映画『名前』主演・駒井蓮インタビュー
笑子として、駒井蓮として、ダブルで芝居にむきあった。
映画『名前』が6月30日(土)に新宿シネマカリテで公開され、全国の劇場で順次公開されている。嘘を重ねて生きてきた主人公が心に秘密を隠した女子高生と出会い、彼女が自分の殻を破って一歩踏み出していくまでを父親のように見守る。親子の在り方や思春期の心の揺れ動きを描き出した切なくも温かな余韻を残すヒューマン・ミステリーである。直木賞作家・道尾秀介が書き下ろしたオリジナル原案を元に、戸田彬弘監督がメガホンを取った。
主人公・正男を演じるのは、北野武監督『ソナチネ』(1993年)で映画デビューを飾り、メジャー・インディペンデント問わず数多の作品に出演し、今や日本映画界に欠かせない存在となった名バイプレイヤーの津田寛治。女子高生・笑子には『セーラー服と機関銃-卒業-』(2016年)で映画デビューし、CM やドラマで鮮烈な印象を残している若手注目度 No.1 女優、駒井蓮。笑子の大人びた表情や隠された激しいもがきを見事に演じきった駒井蓮さんに本作への思いを聞いた。
―― 本作に出演することになったきっかけをお聞かせください。
オーディションを受けて、笑子役をいただきました。
―― オーディションではどんなことをしましたか。
まず、事前にいただいた脚本でお芝居をし、その後で監督の面談を受けました。この作品は笑子が津田さん演じるおじさんに会いに行くところから始まりますが、「ラストについて、どう思うか」と聞かれたのです。「周りに対して素直でいられない笑子がおじさんといるうちに変わっていったことを考えると、2人にとって一番いい終わり方だと思う」と伝えました。私の答えが意外だったようで、後からプロデューサーに「いいラストと言われるとは思っていなかった」と言われました。
ただ、笑子ではなく駒井蓮としては、ラストは振り返って、おじさんの顔を見たいという気持ちがあったのです。それを監督に伝えると、「そこは振り返らないで」とはっきり言われました。笑子には振り返らない強さがあると感じるラストになったと思います。
―― 戸田彬弘監督はどんな方でしょうか。
話しているときでも、頭の中でいろいろなことを考え、情報を整理してから私に伝えようとしていました。怖い感じではないのですが、慣れるまでは「何を考えているんだろう」と、ちょっと心配な気持ちになることもありましたね。
でも、それは撮影中のこと。普段は朗らかな方です。最近、戸田監督の舞台を見に行きましたが、「おお、蓮ちゃん」と気さくに声を掛けてくださいました。
―― 正男がいくつもの偽名を使っていることに対して「大人は見栄とか体裁のためにいろいろな装いという嘘が必要」という言い訳をしました。この答えをどう思いますか。
おじさんは偽名を使い分けていましたが、笑子も普段からお母さんに対しても友だちに対しても、本当の自分を見せずに演じています。しかし、それは誰にでもあること。決して悪いことではないと思います。
笑子もおじさんの前では無邪気でやんちゃな姿を見せています。正直になれない自分がいるなと思っている方にとって、この作品が心を開くきっかけになればいいなと思います。
―― 正男の家や自宅での料理シーンがありましたが、手際よく作っていましたね。実際に家でも料理をされているのでしょうか。
時々、自分でカレーを作るので、じゃがいもを剥いたりしています。でも、撮影のときはみなさんから「大丈夫?」と心配されて、とっても緊張しました。慣れているように見ていただけてうれしいです。
―― オープニングに手書きで25名の出演者の名前が映し出されました。あの文字を駒井さんが書いたそうですね。料理と同じくらい緊張したのではありませんか。
緊張して、ぶるぶる震えながら書きました。
きっかけは撮影中に誕生日を迎えた津田さんに、プロデューサーの提案で色紙を書いて贈ったことでした。色紙を書くときに私が書道をやっていた話になり、プロデューサーから「オープニングに出演者の名前を手書きで出したい」と言われたのです。書道を習っていたとはいえ、まさか自分の文字が映画に出るとは、撮影前には思いもしませんでした。オープニングに名前が出ても、それが出演者の直筆の作品ってないですよね。
―― 共演した津田寛治さんの印象を教えてください。
顔合わせで初めてお目にかかったのですが、大先輩なので緊張しました。津田さんはそんな私に優しく声を掛け、緊張が解れるように気を遣ってくださっているのを感じました。とっても素敵な方です。
―― 演劇部に入った笑子が正男に台本読みを付き合ってもらっていましたが、正男の対応がおもしろく、笑子が笑っていました。あれは笑子というより駒井さんご自身が笑ってしまったのではありませんか?とても自然でした。
津田さんが本当に面白くて、現場も大爆笑でした。私も素の自分が笑っていたと思います。これ以上笑ったら笑子になれないと思って、本気で「もういいよ」と持っていたクッションを津田さんに押し付けていました。津田さんのあの素晴らしさを身近で見られたのは、貴重な経験だと思います。
―― 笑子は演劇部で芝居が上手くできず、追い詰められます。駒井さんも同じような気持ちになったことがありますか。
これまで、こんなに長い尺で芝居をさせていただいたことがなかったので、撮影前はすごく不安でした。「本当の芝居とは何なのか、演技とは何なのか」と悩む笑子は私自身だったかもしれません。撮影をしていくうちに、駒井蓮としても、「芝居ってこういうことのなのかな」と芝居の本質を気づいていった気がします。今回の撮影は笑子として、駒井蓮として、ダブルで芝居にむきあった時間でした。
―― 演劇部の先輩から「本当の自分を出し切れていない部分があるから演技が嘘に見える」と言われました。女優として駒井さんご自身はこの言葉をどう思いますか。
あのセリフは笑子としても私として、心に響きました。芝居をする上で、「役を演じるというのはどういうことなのか」という疑問が自分の中でずっとあったのです。
戸田監督には「役を演じるというのは、その人として生きるということ。しかし、あなたが演じるからこそなんだから、切り替えるのではなく、もともとある自分に近づけていってほしい。それがその役として生きるってことなんだよ」と教えていただきました。
笑子を演じながら、本当の芝居について、いろいろ考えさせられた作品になりました。
―― 最後に、シネマアートオンラインをご覧の皆様にメッセージをお願いします。
プロフィール
駒井 蓮 (Ren Komai)2000年生まれ、青森県出身。ティーンズファッション誌「ニコラ」の専属モデルに抜擢される。2016 年からは女優業にも幅を広げ、フジテレビ「キャリア〜掟破りの警察署長〜」に出演し、注目を集める。2017年には日本テレビ『先に生まれただけの僕』にレギュラー出演し、知名度を高めている。『セーラー服と機関銃-卒業-』(2016年 / 前田弘二監督)で映画デビューし、『心に吹く風』(2017年 / ユン・ソクホ監督)でヒロインの少女時代を演じ、鮮烈な印象を残す。今年の公開映画作品に、『CINEMA FIGHTERS』のオムニバス作品『キモチラボの解法』(A.T.監督)がある。また、CM『ポカリスエット 女子マネージャー篇』やフジテレビ『痛快 TV スカッとジャパン』に出演するなど、幅広く活躍の場を広げている。 |
映画『名前』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》行き場のない二人は、家族になった―――― |
原案: 道尾秀介
脚本: 守口悠介
製作統括: 井川楊枝
プロデューサー: 前信介
協力: 狩野善則
音楽: 茂野雅道
撮影: 根岸憲一
録音: 鈴木健太郎
MA: 吉方淳二
音響効果: 國分玲
助監督: 平波亘
制作担当: 森田博之
スチール: 北島元朗
主題歌: 「光」DEN(谷本賢一郎×道尾秀介)
制作プロダクション: グラスゴー15
企画・製作: 一般社団法人茨城南青年会議所
製作: MARCOT / GLASGOW15 / チーズ film / ムービー・アクト・プロジェクト
配給: アルゴ・ピクチャーズ
2018年 / 日本 /カラー / 114 分
公式Instagram: @the_name_2018