松坂桃李×白石和彌監督 インタビュー
「桃李くんは他の役者さんと違うんですよ」by 白石和彌
昭和末期の広島を舞台に繰り広げられる暴力団同士の抗争に介入する孤高のマル暴刑事・大上省吾の生き様を圧倒的な熱量と戦慄ほどばしる描写で描き切った柚月裕子のベストセラー小説「孤狼の血」がこれまで数々のハードボイルド作品を世に送り出してきた東映により実写化。5月12日(土)に公開を迎えた映画『孤狼の血』で、広島県警より出向し、役所広司演じる主人公・大上とバディを組むことになる新人刑事・日岡秀一を演じた松坂桃李と本作のメガホンをとった白石和彌監督との時折爆笑に包まれた対談インタビューをお届けする。
―― 松坂さんが白石監督と一緒に組むのは本作が2回目ですが、改めて監督に新しい自分を見せられたなと思えるところはありましたか?
松坂: 監督にはだいぶおもちゃにされましたね(笑)。けどそれがすごく僕の中では心地良い思い出しかないんです。撮影も朝まであった日もあって、朝までの撮影の日は本当にきつかったですね。
白石監督: 朝までの日はきつかったよね。桃李くんがロケ場所から外に出てくるのを期待して 300人ぐらい外で待ってたんですけど、最後2人になっていました(笑)。2人なら桃李くんハグしてあげれば良かったね(笑)。
松坂: そうですね(笑)。呉の人たちはすっごく温かかったですね。
白石監督: 僕の桃李くんに対するスタンスですが、『かの鳥』をやった時にも思ったんですけど、「この人は一緒に勝負できる人なんだ」ということに気づいたので、変わったというよりは、前作は一緒にいる時間も短くてガッツリではなかったので、今回はどっぷり仕事ができて、僕がむしろ桃李くんの魅力に気づいていった感じですね。
―― お二人から見て、日岡と松坂さんの共通点は何かありますか?
白石監督: 桃李くんの、向かっていく物事に対して嘘がなく、無理もしないという姿勢は日岡に共通するものを感じましたね。
松坂: 同じかどうかは自分ではなかなか判断できないですけれど、日岡がガミさん(役所さん)に真っ直ぐ向かっていくところなんかはすごく共感できる部分ではありますね。
白石監督: 美人局をしなさそうなところとかね。しないですよね。え、するの?(笑)。
松坂: しないですよ(笑)。
―― 今までにやったことのなかった役どころだったと思いますが、今回撮影をしていく中で、一番テンションが上がったシーンはどこですか?
白石監督: テンションが上がったのはやっぱりファーストカットのパチンコ屋のシーンですかね。あれで一気に本作の世界観が見えたんですよ。役所さんがファーストカット撮り終えた後に「ああ、緊張したあ〜」っておっしゃっていて。役所さんも緊張するんだなあと。「ちゃんとヤクザに見えましたよ」って僕も役所さんに言って。役所さんの役は実際は刑事ですけどね(笑)。
そこからずっとテンション上がりっぱなしでしたね。ほぼほぼ最終日に近い日に真珠をとあるところから引き抜くシーンとかの撮影があって、「ああ、まだ撮影残ってたんだこんなシーン」って思いました(笑)。
松坂: 衣装合わせの時に自分の中で本作に対するモチベーション、テンションがすごく上がりましたね。クランクインがとても待ち遠しかったです。シーンで言えば、牛乳をぶっかけるシーンが個人的に好きでしたね。あまりやらないですし(笑)。あと真珠を取り出すシーンも興味深かったですね(笑)。「すごいなあ、絶対これ使えないだろうな」というシーンだと思ってたんですけど、試写を観たら「わー使ってる(笑)」と。 とても楽しかったですね。
―― 役所さん演じる大上に関しては昭和のアウトロー感があり、松坂さん演じる日岡に関しては清廉なイメージを持ちましたが、後半に進むにつれてその様相ががらりと変わっていきます。その辺りの演出はどう役作りをしていったのでしょうか?
白石監督: 桃李くんの役どころが、昔の映画にはなかなか無い裏設定がなされていて、それが日岡の役どころを超絶難しくしているところなんですよね。どこからそれを見せていくのか。桃子(阿部純子)を“そこ”に置いているということは、大上はどこからそれに気づいていたのか。桃李くんに演じてもらって感心したのは、やっぱり後半にいろいろなことに気づいていく過程において日岡が変わっていく様子についてですよね。
ガミさん(役所さん)の真実を知っていくという過程は桃李くんの演り方が正解だったんだ、と試写や編集中に気づいたんですよね。桃李くんは普通の役者と違うんですよ。普通の役者だったら僕は現場で気付くんですけど、桃李くんの場合は編集中や試写を観ている時に気付くことが多いんです。「なるほど頭良いな〜」って思っています。
松坂: 初めて言われました(笑)。嬉しいですね、ありがとうございます。僕の意識としては、物語の前半から後編にかけて日岡が変わっていく過程を徐々に見せていきたい、ガミさんのことも含めて、色んなことを知っていく過程を自分の中で溜めていきたいな。ということは意識していました。じゃないと、最後の方に突然バッと変わっても「は?」って感じになりかねないので、自分の中ですごく気をつけながら演じていましたね。
―― 松坂さんは役所さんと一緒に行動するシーンが多かったと思うのですが、役所さんとご一緒されて気づかれたことなど、役所さんについてのお話をお聞かせください。
白石監督: 何から何までこの作品での役所さんは他の映画とは違う感じがありましたね。役所さんは剥き身な自分で演じられている感じがするんですよ。変な小細工をされない、ちゃんと腰を据えて演じている感じがものすごいあるんですよね。
是枝監督とこの前の日本アカデミー賞(授賞式)でご一緒して、役所さんについての話をしたんですけど、共通の意見でしたね。特別なことをしようとしないのに役所さんは凄いことになると。存在感とか生き様というものをそんなにご本人は意識しないで、結構な部分ができ上がっている感じなんですよね。
僕は桃李くんからもそれを感じるんですよね。小細工をそんなにしないで勝負できる役者だなって僕はずっと思っているんですよね。前貼りはよくしているけどね(笑)。
松坂: 前貼りほど究極のモザイクはないですからね(笑)。役所さんについては僕も思ったことがあって、『日本のいちばん長い日』(2015年)の現場では撮影期間中、役所さんって誰とも話さなかったんですよ。お話をされてもせいぜい一言二言ぐらいで。ピリッとした空気をずっと纏っている感じだったんですよね。
でも、『孤狼の血』の時はキャストさんやスタッフさんと何気なしに普通に会話もしているし、温かい感じでコミュニケーションを取られているところなどが、ガミさんを感じさせるんですよね。「現場での愛され方」を変えている感じがしたんですよね。印象が全然違った。
ご本人に直接伺ってはいませんけど、もしかしたら最初から作品の全体図が見えているのかなと。ですので、2作品で全然違う役所さんでしたね。『日本のいちばん長い日』の時は近寄りがたいイメージがあったのに、こんなに仲良くしていいんですか?ご飯一緒に行っていいんですか?って(笑)。そんな感じだったんです。
―― 本作を観ると久々に本物の日本映画を観たという思いがあります。撮影中に監督から無茶振りとかはされなかったですか?
松坂: 無茶振りではないんですけど、濡れ場っぽいシーンの時に毎回茶化すのやめてほしいですよね(笑)。妙なハードルの上げ方をするんですよね。
白石監督: 桃李くんほど服の脱がし方の上手い俳優はいませんからね(笑)。
松坂: いますよ(笑)。
―― 特にお気に入りのシーンはありますか?
松坂: この映画一発目のシーンが僕は好きですね。すごくワクワクするじゃないですか。あれで、お客さんに対して「『孤狼の血』はココが入り口だよ」というものになったのかあという気がしています。
白石監督: (映画のシーンではなく)僕はロケハンが好きでしたね。松坂くんとピエール瀧さんが一緒のとあるシーンで、マルカツ水産の牡蠣の漁師の方が全面的に協力してくださって。ああ、じゃあ桃李くんに牡蠣を食べてもらおうかなって思ったんですけど、撮影時期が牡蠣を食べれる時期じゃなくて、「口に含んだら食べないで全部吐き出してください」って言われちゃって(笑)。「何だ食えないのかよ〜」って(笑)。
―― 男のダーティな色気や凄みというものをどうやって出していますか?
白石監督: あまり意識はしていませんが、男だろうが女だろうが、ヤクザだろうがカタギだろうが僕が思っているのは、怖い面があれば、人間はそれの反対面も振り子のように必ず存在するわけなので。怖いのに滑稽にコケるとか、そういった瞬間を、隙があれば映像に突っ込もうと思ってはいます。役所さんも桃李くんもかっこいいけど、滑稽なところも映したい。そういうのがひいては人間のキャラクター造形に繋がっていくのかなと。
桃李くんに関して言えば、前半ガミさんに相当振り回されてますよね日岡は。放火したりボコボコに殴られたり(笑)。振り回されれば振り回されるほど、後半それが活きてくると思ったんです。
―― 「ヤクザものの映画が段々と時代劇になってきている」と白石監督が以前インタビューでおっしゃっていましたが、昭和63年の広島という抗争の時代を生きている人が持つ凄みある生き様は、現代の人はなかなか持ち得ないものだと思います。そういった時代を知っている方々が今回のキャストの中でも多数いらっしゃいましたが、何かインスパイアされたものはありますか?
松坂: 世の中に対する抗い方が今現在とは表現の仕方からして違うなと思いました。粘り強さや反骨精神だったり、ストレートな感じだったりとか打たれ強さとかが僕らの世代にはなかなかないものだと感じますよね。
白石監督: この物語の舞台設定が上手いなと思うのは、暴対法施行のちょっと前ということと、昭和63年という、昭和の終わりということにすごく意義があると思っていて。それを知った時に、これはアメリカンニューシネマだなと思いましたね。
日岡が血を受け継いで、大上と同じようなやり方を今後やっていくんだろうなと思うんだけど、それはいつまでも続かないんだと。それが作品を観終わって、わかる人によってはわかる哀愁に繋がってると思うんですよね。それがあったからできたというのがあります。
やっぱり『仁義なき戦い』の根幹には「戦争」というものがあって、日本国民が等しく貧しくなって、国土も等しく焦土になって、そこから生まれる暴力でスタートしている。
『孤狼の血』はそうじゃないですよね。その核になるものは何なんだろうということをずっと探していたんですけど、当時の男たちがどう生きていくのかを、僕らは30年経った今だからわかるものがありますけど「昭和63年という時代」と、「その後の暴対法」があったから本作ができたというのがありますね。
プロフィール
松坂 桃季 (Tori Matsuzaka)1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。 主な映画出演作に『僕たちは世界を変えることができない。』(2011年)、『王様とボク』(2012年)、『ガッチャマン』(2013年)、『マエストロ!』『日本の一番長い日』『ピースオブケイク』(2015年)、『秘密 THE TOP SECRET』『真田十勇士』『湯を沸かすほど熱い愛』(2016年)、『キセキ-あの日のソビト-』『ユリゴコロ』『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)、『パディントン2』(声の出演)『不能犯』『娼年』(2018年)がある。 |
白石 和彌 (Kazuya Shiraishi)1995年、中村幻児監督主催の「映像塾」に入塾。その後は若松孝二監督に師事し、同監督の『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005年)などで助監督を務める。2010年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビュー。ノンフィクションのベストセラーを映画化した長編第2作『凶悪』(2013年)で、新藤兼人賞金賞などを受賞し、注目を集める。「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の第3弾『牝猫たち』(2016年)は第46回ロッテルダム国際映画祭に正式招待され、その後も『日本で一番悪い奴ら』(2016年)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)と、人間心理を巧みに描きだす手腕で1作ごとに評価を高めている。 公開待機作に『止められるか、俺たちを』(2018年10月公開予定)がある。 |
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映画『孤狼の血』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》「わしは捜査のためなら、悪魔にでも魂を売り渡す男じゃ」昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが……。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく――。 |