映画『孤狼の血』永川恭二役 中村倫也 インタビュー
永川という人物を、“絶対に埋もれさせてはいけない”という覚悟で臨みました。
「躰が痺れる、恍惚と狂熱の126分」―― メガホンをとった白石和彌監督が「長らく途絶えていた東映のプログラムピクチャーの血脈を受け継いだ作品。その中でも一等賞を獲る気持ちで撮影に臨みました」というほどの想いのもと作り上げた、「警察小説 ×『仁義なき戦い』」と評される柚月裕子の原作を実写化した東映映画最新作『孤狼の血』。
昭和63年、暴力団対策法(暴対法)成立直前の広島の架空都市・呉原を舞台に、刑事、やくざ、そして女が、それぞれの正義と矜持を胸に、生き残りを賭けて戦う生き様を描いた本作において、老舗暴力団組織・尾谷組の若頭である一之瀬守孝(江口洋介)の直属の部下で、狂犬的な暴れぶりを見せる若手組員の永川恭二を演じた中村倫也のインタビューをお届けする。
―― 今回、キレキレの演技で魅せてくれましたが、永川役を演じるにあたり、どのようにご自分を持っていきましたか?
僕が演じた永川という人物は、物語にある刺激物を入れなきゃいけない役だったので、自分のこの器で、この猛者たちの中にいて、そういう存在感を出すにはどうやったらいいのかな、と。そんなことを考えながら現場で演じたら、白石監督が“ニヤッ”としたので、“ああ、良いんだな”と思ってそのまま演じていきました。
最初の喧嘩のシーンで、監督から「じゃあちょっとここで(相手の)耳、食ってみようか」って言われたので、「耳か…」と思いながらも、じゃあ耳を食った後に「まっずい耳じゃのう」って言ってみようかと。そんな感じで一緒に作って行きましたね。そんな現場でしたが監督とは終始ニコニコしながら作っていきましたよ(笑)。
―― 永川がシャブ(覚せい剤)を打つシーンとか、先にお話されていた耳を食べるシーンなど、過激なシーンが沢山ある役でしたが、ご自身でも印象に残っているシーンはありますか?
電話ボックスのシーンが僕は好きですね。台本上では日岡(松坂桃李)の「・・・」で終わるシーンなんですけど、それまでの流れでしたり、永川と日岡という、わりと同学年だけど立場も正義感もまったく違う二人のシーンで。永川の着地点、帰結点であったあのシーンを、日岡のその「・・・」で終わらせるにはどうしたらいいのかなと。
永川がどんな人物かをしっかり考えぬいた上で、日岡にどんなものを渡せばいいのかなと思いました。それ以降あのシーンがきっかけかどうかは別にして、日岡もだんだんと変わっていきますし、丁寧に渡さなきゃいけないシーンだなと思って演じましたね。
最後は電話ボックスの中で座り込んでやりたいと監督に提案したところ、監督が“ニヤッ”とされたので座り込むシーンとなったわけです。監督とはきっと見ているものが同じだった気がしますね。そのシーンの纏う雰囲気とか。それこそ自分が何を出せばいいのかというのは同じものが見えていたのかは監督が“ニヤッ”としたかどうかで僕は判断していました。
―― 白石監督からは“ニヤッ”というリアクション以外に何か特別な指示などはありましたか?
指示というよりも、「永川は“狂犬”だと思います」というキーワードを衣装合わせの際に言われたのと、「台本には書いてないんだけどシャブ打つシーンを撮りたいんだよね」とも言われました。
あとは、舞台も平成になる直前の昭和63年という時代で、未だ「熱を残していた時代」というのが設定としてはありました。永川の役作りに関しては明確には書いてないですけど、20代でヤクザの世界に憧れか何かを抱いて飛び込んだけど、上から何からブレーキをかけられて、黙っているものの鬱憤は溜まっている若いヤクザの役であると。そういう意味では、いつの時代も若者って狂犬たり得るのかなと思いました。
現代の若者も、社会に出て色んなことを試したり、やりたいことがあるけれど、なかなかさせてもらえなかったりするじゃないですか。その中で上のやってきた成功体験や教えなどを突き破りたいって思いを抱いて鬱憤溜まっている若者は社会のどんな職業の方も持っていると思うんですね。そんな現代の若者と永川も、立場や、正しいか悪いかは別にして、通じるものがあるのではないかなと。
それが爆発した時に、みんな狂犬というか、牙を出すのかなと。時代は変わってもそういうものはきっとあって、だからシンパシーとして永川という人物を理解することができましたね。真っ当に育ってきて、まっすぐな正義を持ってきた日岡という同年代の男と、アウトローにひたすらヤクザの道を突き進む永川との対比。そんなことを意識しながら演じていきました。
―― とにかく若手構成員の中で、永川の存在感は群を抜いている印象を受けました。永川のボスにあたる一之瀬を演じた江口洋介さんや、今回共演機会は少なかったかもしれないですが、主演の役所さんなど、大ベテランの先輩方との現場で気づいたことなどはありましたか。
江口さんとは実は3回現場をご一緒させていただいていて、刑事役でしたり、大河 信長と信忠の親子役を演じさせていただいたんですけれども、僕が言うのも失礼かもしれないんですけど、あの江口さんですら張り詰めて、現場に入ってくるというか、ピンと張って、撮影も待ちの時間が長いですから、それを切らないように切らないように、基本ずっと一之瀬守孝という役の状態を保つというのを目の当たりにしました。そんな風に江口さんをも入念に準備させる作品なのだなというのを感じて、その張り詰めている緊張感、テンションというものが現場全体に伝わっているのも肌で感じましたね。
役所さんは僕にとってはとにかく大きい山で、ひたすら横にいる桃李がずっと羨ましかったですね。彼は同じ事務所の後輩なんですけど、そこ代われって思いました(笑)。
―― 役所さんが演じた大上のように、出会っただけで他人の人生までをも動かすような影響を受けた人はいますか?
仕事を通してですと、僕にとっては堤真一さんとかがそれに近いものがありますね。堤さんは僕にとって芸能界の叔父貴的なところがある方なんです。気にかけてくださいますし、先人の言葉としていつも刺激といい影響をその背中で見せてくれています。そういう意味では堤さんだったり、ぱっと浮かぶのは古田新太さんや阿部サダヲさんでしたり20代前半の頃に皆さんご一緒させていただいたんですけど、今でも時々自分が主役をやらせていただく上ですごく大きい背中として影響を受けていますね。
―― 原作者の柚月先生が、「登場人物の誰かに必ず惚れますよ」とおっしゃっていました。中村さんがこの男の中で惚れるとしたら誰でしょうか?
これは悩みますね。だって皆んなヤクザですもんね(笑)。でもやっぱり僕は大上(役所広司)さんですかね。孤狼、ですよね。やっぱり責任とかある使命とか、独りで抱える男、荷物を背負ってる男って魅力的だと思うんですよね。しかもそれに耐えうる体力と行動力があり、きちんと結果も出している。それがあるヒーローとして作品の中で存在している、と。そして大上さん、なんだかんだ優しいじゃないですか。女を傷つけないですし。いや、傷つけてるのかもしれないですけど(笑)。
―― 本作のティーザーでも永川のシーンが沢山使用されているものに仕上がっていますが、どう思いましたか。また、この白石組での楽しかった思い出などあれば聞かせてください。
ティーザーに関しては、「俺がこんなに出ていいの??」って思いました。やたら使ってくれていますね。白石組ですが、先輩方もそうですし、関わっている人みんなが楽しそうでしたね。それが良い循環といいますか、作品にも残るんですよね。
自分なんかは若者ですけど、先輩方同様ニヤニヤさせてもらいながら、役者としても、人間としてもお仕事をしていけるのが、白石組の頼もしさでもあるのかなと思うんです。ニヤニヤは確かにしていましたけど、その分自分が楽しんでるだけじゃダメなので、1年後にこの作品を観る方のニヤニヤに繋げるためには繊細に、ただこういう作品ですから大胆に作っていかなきゃと思うので、ニヤニヤが大きい分、怖さも同じ量だけあるなと。とにかくこの作品を撮っている時は必死でした。
プレッシャーというよりも、自分がこれまで演じたことのないタイプだったということもありましたし、この作品の中で、永川という人物を埋もれさせてはいけないという使命感もありました。
あとは永川が役として跳ねたら、この作品に与える影響もあるかなという思いもありましたので、それは越えていかねばいけませんし、白石監督から与えてもらった役であるからには、監督に恥をかかせるわけにはいかない。そんな使命感というか覚悟みたいなものを持って撮影に臨みました。
プロフィール
中村 倫也 (Tomoya Nakamura)
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映画『孤狼の血』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》「わしは捜査のためなら、悪魔にでも魂を売り渡す男じゃ」昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが……。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく――。 |