映画『望郷』主演・大東駿介インタビュー
映画『望郷』主演 大東駿介

映画『望郷』主演・大東駿介インタビュー

『望郷』は、自分の1ページ1ページを読み返すことができた大切な作品です。

瀬戸内の白綱島(因島)を舞台に、湊かなえ原作の「夢の国」と「光の航路」の二編を菊地健雄監督が完全映画化した『望郷』が、2017年9月16日(土)から全国で順次公開され反響を呼んでいる。「光の航路」の亡き父との確執を抱えたまま大人になり、教師として故郷へ帰ってきたことで父の思いを知ることになる主人公・航(わたる)をそのまま体現された主演の大東駿介さんに、因島での撮影中の秘話や想いについてお話を伺った。

映画『望郷』主演 大東駿介

―― 大東さんは、この作品を「ご自身の31年に初めて向き合えた気がする」「自分の過去をたどることができた」と完成披露や初日上映の舞台挨拶にてお話されているのが印象的でした。航を演じられてどんな風に向き合われて、どんなことを感じられたり、気づかれたのでしょうか?

初日上映の舞台挨拶で緒形さんとお話をさせてもらっていて、撮影中や台本をもらった段階で31年を振り返ったんじゃないんだなと気づいたのですが、緒形さんの保健室でのシーンを現場で拝見させていただいた以降に考えたのではないかなとふと思いました。

自分自身の人生と今までの役とかを照らし合わせて真正面で向き合って芝居をしたことが意外となくて。結局、自分の思考って、自分の今まで生きたこととか考え方をベースに自分とは違うとか、似ているとか、そういうことが無意識のうちに自分のデータの中から描かれていくと思うので、そんな真正面にならなくても良いのじゃないかなって感じていたのです。でも今回は、がっつり向き合った感じがしましたね。

自分も連載を書いているんですが、連載でもインタビューでも自分の家族についてなど色々話したこと一度もなかったんです。がっつり自分の手で自分の父親についての想いを書いてみる事が出来た作品でした。

それはなんでだろう。緒形さんとのシーンがやっぱり印象深かったです。航は子どものときに父親と接した記憶が少なくて、最終的にわだかまりを残して別れてしまう。とはいうものの、父親と同じ仕事を目指している。それがわりと自分と重なったんですよね。

そう思うと、因島という場所もあると思うのですが、色々フラッシュバックするかのように思い出しましたね。

映画『望郷』大東駿介

―― 菊地監督も撮影中に因島のレモン農家の方とご飯に行かれたり、謎の会議に出席されたという大東さんが因島と一番奥深くまで馴染まれたとお話しされていました。島と馴染まれたり、深くつながりをもたれたりしたことが航を体現するにあたって影響はありましたでしょうか?

大きくありますね。主観的でいっても自分の役に影響を与えたことはすごく大きいし、客観的にみても俯瞰でみても、なぜ因島でやるかっていう意味がそもそもただ因島の景色を撮らしてもらうとか、そういうことじゃ勿体ない気がしたんですよね。

『望郷』という作品を湊さんの故郷で撮影して、その『望郷』のモチーフになっている因島で撮影をするなら、そこに自分の中のノスタルジーを重ねないと意味がないと思ったんですよ。だから、限られた時間ですけれども、因島の過去を自分の中に入れたかったし、最低でも航の知っている過去を想像できるぐらいの町並や人並みなど、そういう情報はその環境にいれる限りは入れたいというのが大きくありましたね。

やっぱり航の周りには、同世代で因島で頑張っている人やそういう人がいるのだろうし、本当に今はさびれてしまっているけれども、造船のときに栄えた町並みというのは、きっと子どもの頃に実際に航が見た景色だろうし、通学路をそこで撮影で使っていたのですけれども、そういうものを全部キャッチして、それがちょっとでも入れば良いなという気持ちではありました。

映画『望郷』大東駿介

―― それを映像から私たちは感じたのだと思います。

それは、菊地監督の力だと思います。僕は菊地さんが作ってくれた環境の中でできることを精一杯やりたいなっていうことはあったけど、そもそも監督が因島で撮れないといっていたら、この『望郷』の形も大きく変わっていたと思いますよ。

『望郷』といっているのに故郷と向き合えないというのは、かなりあるべき形からずれてしまいそうで。でも、意外とそれをやらせてくれるのって環境的になかなか出来づらいこともあると思うのです。そういう意味でそれをやり通した菊地監督はやはりすごいなあと思います。

―― だから完成披露のときにも、因島で撮られた菊地監督がすごいと熱く語っていらっしゃったのは、そこにつながるのですね。

あるべき形ってあると思うのですよ。それをこの『望郷』に関しては、絶対に因島で撮るべき作品だなあと思いました。

映画『望郷』大東駿介

―― 父親役の緒形直人さんの現場を見学されていたことについて、菊地監督も大東さんが自発的に見学をされたことが助かったと話されていました。劇中でも、大東さんと緒形さんが本当の親子のように重なって観えたのですが、見学をされたことが演技に影響されたのでしょうか?

めちゃくちゃ影響しましたね。親子の役なんですけれども、一緒にテーブルを囲むシーンとかもなく、空き時間でも一緒にご飯を食べる機会もなく。その距離間というのが航と父との関係でちょうど良かったんですよね。まず、それもラッキーだったかなと思うのです。自分が観た父親のシーンが、教師として生徒に向き合う父の姿だったんですね。そのシーンを観れたことがすごく大きかったです。

結局、航は父が分からないといいながらも、父と同じ教職を志しているので。最終的には、教師として自分が直面した問題を過去に父も同じような経験をしていて、それを父がどう向き合ったのか。それを理解して初めて父を理解するという、そのきっかけのシーンだったので、あのシーンはもう自分にとってもすごく大事なシーンでした。何より、航としてもそうなんですけれども、自分としても本当に緒形さんの呼吸一つ、立ち振る舞い一つにしても、本当に父の背中に見えたんですよね。台詞に対しての責任感だったり、言葉を届けるという。本当に届けているのですよね。それを見れたのがすごく役者としても素敵な経験をさせてもらったとも思います。

これは菊地監督が意図的にやっているのか分からないのですけれども。例えば、母親像というのも、色々な母親が出てくるけれどもそれぞれ違うんですよ。みんなそれぞれ違って、母親というキーワードとして存在していないというか。ちゃんとその人がどういう生き方があったから、こういう考え方になって結果的に母になったという。ちゃんと人物に母という役どころや、位置づけがついている感じがして。人ってそうじゃないですか?

緒形さんも父として見ているのではなくて、父として航の前で存在しているのではなくて、父に対しての実感がないから、どんな人なのか分からないし、深く向き合っていないからぼやけてしまいます。だけど教師としてその背中を追いかけて、初めてそれを見たときに父を見るという。人として認められたときに父として認められていく。それがすごくこの映画の面白いところだと思いますね。

映画『望郷』大東駿介

―― 菊地監督が舞台挨拶をされたカリコレの特別先行上映の際に大東さんは初めて観客席からこの作品を観たと伺っています。完成された作品を劇場でご覧になられてどんなお気持ちでしたか?

自分の中でコンプレックスではないですけれども、フィルムの映画に出たことがなくて、それがなんとなく残念だなあと日々思っていたのですけれど、この映画を観たときにすごく日本映画を観たという実感があったんです。

4Kだ8Kだといっている中で、その技術の向上が果たして進化なのか、進化は退化なのかではないかということを日々感じていたのですけど、この映画は『望郷』という題材に一番ふさわしい色合い、見せ方、ピントの合わせ具合、カット割りなど、とにかくこだわりを感じて、結果的にすごい日本映画を観たなという気持ちになったのですよね。全部デジタルで撮っているのに、懐かしさを感じたというのが感動でしたね。

映画『望郷』大東駿介

―― 『望郷』は大東さんが自分の人生で心に残る作品になるかもしれないと話されていましたが、そういう作品でしたか?

この作品は本当にそうだと思います。過去の作品も、自分の人生に少なからず影響があると思うので、それがこの仕事をやっていての幸せなことだなあと思うことなのですけれども。例えば、『クローズZERO』(2007年)をやったときには、若者の中で戦うという熱量に火をつけてくれた作品でもあります。

この『望郷』という映画は、自分と本当に心穏やかに向き合えた、そういうきっかけって意外とないから。意外とないんですよね。意外と友だちの過去とかの方が向き合うことが多くて、相談されたりして。自分のいちページいちページを読み返すみたいなことをしてこなかったのですけれども、本当にそれをさせてくれた大事な作品です。

映画『望郷』大東駿介

―― これから『望郷』をご覧になられる方々へメッセージをお願いします。

本当に人それぞれの生き方や考え方はバラバラだけど、その中枢がどこにあるのかというと、やっぱり過去とか、子どもの頃に生きた環境、場所もそうだし、家族なのか、友だちなのか、そういう自分を構築した子どもの頃などが大きいと思うんですよね。故郷がない人はいないと思うし、転勤をしたといっても、きっと想いの濃い場所はあるだろうし。なんとなくそういう当たり前にある自分のバックボーンみたいなものと改めて向き合える映画じゃないかと思います。

「光の航路」ってすごく良いタイトルだなと思うのですけれども、自分の過去と向き合って故郷と向き合ったときに、初めてこれから先の“光の航路”が見れたような気持ちになって、誰かにとってそういうきっかけのようになれば良いなと思っています。

映画『望郷』大東駿介 × 菊地監督

インタビューを終えて

インタビューでも、言葉を届けることを大切にされている大東さんは、ひと言ひと言、心の内から紡ぐように丁寧に語っていた。

『望郷』は因島を舞台に、島で生まれ育った主人公たちが、それぞれに自分や家族や故郷と向き合い、過去と未来をつないでゆく感動の物語。この作品は、大東さんのようにあなたも自分の過去を振り返り、未来へ新たな人生の舵をとる機会になるだろう

[スチール撮影: Cinema Art Online UK / インタビュー: おくの ゆか]

プロフィール

大東 駿介 (Syunsuke Daito) 

1986年生まれ、大阪出身
2005年に日本テレビ「野ブタ。をプロデュース」で俳優デビュー。
2007年『クローズZERO』、2008年『リアル鬼ごっこ』など話題作に出演。
2010年「タンブリング」以降、舞台にも活躍の場を広げ、2011年劇団☆新幹線「港町純情オセロ」、2015年劇団鹿殺し「キルミーアゲイン」などでも活躍。主演映画『BRAVE STORM ブレイブストーム』(2017年11月10日公開)、2018年『曇天に笑う』も公開を控えるなど、実力派俳優の1人である。

映画『望郷』主演 大東駿介

映画作品情報

主演:貫地谷しほり 大東駿介
家に縛られた娘。亡き父に後悔を持つ息子。
ある島で起こるふたつの親子が贈る感動のミステリー

映画「望郷」

《ストーリー》

古いしきたりを重んじる家庭に育った夢都子(貫地谷しほり)は、故郷に縛られ生活をしていた。彼女は幼いころから本土にある“ドリームランド”が自由の象徴であったが、それは祖母や母(木村多江)の間で決して叶わない“自由”であった。月日は流れ結婚をし、幸せな家庭を築く中、ドリームランドが今年で閉園になる話を耳にする。憧れの場所がなくなる前に、彼女がずっと思い続けてきた事を語り始める―。一方、本土から転任の為9年ぶりに故郷に戻った航(大東駿介)のもとには、ある日、父(緒形直人)の教え子と名乗る畑野が訪問してくる。彼は、航が知らなかった父の姿を語り出し、本当の父親を誤解していた事を知る事となるが―。ある島で起こる、ふたつの親子の過去と未来をつなぐ感動の物語。

 
出演: 貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒形直人 他
原作: 湊かなえ「夢の国」「光の航路」(『望郷』文春文庫 所収)
監督: 菊地健雄
脚本: 杉原憲明
主題歌: moumoon「光の影」(avex trax)
制作/配給: エイベックス・デジタル
公開日: 2017年9月16日
2017 / JAPAN / 112 min / COLOR / 1:1.85 / 5.1ch

© 2017 avex digital Inc.

映画公式サイト
 
公式Twitter: @bokyo_movie
公式Facebook: @bokyomovie/

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