- 2016-10-27
- イベントレポート, 歌舞伎座スペシャルナイト, 第29回 東京国際映画祭
第29回 東京国際映画祭(TIFF)
歌舞伎座スペシャルナイト開催!
歌舞伎座で映画と歌舞伎を観る一夜限りのスペシャルイベント
歌舞伎座で映画を観る、そして日本の伝統芸能である歌舞伎も楽しむという東京国際映画祭ならではのイベント「歌舞伎座スペシャルナイト」も今年で3回目となった。今回の歌舞伎は尾上菊之助による女方の舞踊「鷺娘」上演、映画は昭和初期の無声映画『忠臣蔵 デジタル最長版』『血煙高田馬場』を、弁士と生演奏付きで上映するという、一味違った構成である。特に『血煙高田馬場』は、“しゃべり屋”を標榜するフリーアナウンサー・古館伊知郎が初めて弁士に挑戦するということで、話題を呼んだ。
上演に先立って歌舞伎座前で行われた会見では、まず尾上菊之助が「鷺娘」について「歌舞伎の女方の美がギュッとつまった作品です。鷺の精が、娘の姿をして現れるところから始まり、人間の男に恋をして思い悩む姿を見せます。そして最後は娘から鷺の姿に戻って雪の舞い散る中で死んでいく、という舞踊です。早変わり・引き抜き・ぶっ返りなど、衣裳が一瞬にして変わる趣向があるので、お楽しみいただけるのではないでしょうか。今回の舞台のために、坂東玉三郎のお兄さんにご指導いただきました。この東京国際映画祭の歌舞伎座スペシャルナイトで、お兄さんの踊られる「鷺娘」が表す究極の美に向かって、初めて鷺娘を踊らせていただく機会をいただけるのは大変光栄です」と語った。
続いてあいさつをした古館伊知郎は歌舞伎座に入るのが今回初めてということもあり、「歌舞伎座の雰囲気うまく説明をできるのか。まだよくわかりませんが、今日はスーパー話芸を全力で見せて、同時通訳も追いつかないくらい、脱線必至でポンポン行きます」と力強く宣言した。
最後に弁士の片岡一郎が「活動写真とも呼ばれていた無声映画のナレーションをする弁士というものを、ご存じない方々も多いかと思います。弁士の在り方は、観衆の皆さまとコミュニケーションをとりながら、映画のすばらしさを伝えていくお仕事だと考えています。活動写真と弁士の醸す面白さというのは、常に現代の人間が過去の作品を語る、つまり、昔の作品が今のものとしてよみがえってくるというところです。本日上映するのは『忠臣蔵』ですが、『忠臣蔵』が今、私たちにどう響くかということをお伝えできればと思います。そして、日本独特の語りというものを、存分に味わっていただければと思います」と締めくくった。
歌舞伎座内では最初に古館伊知郎が、トークセッション「トーキング忠臣蔵」の後、6分間の無声映画『血煙高田の馬場』を、実況風のナレーションで臨場感たっぷりに語った。続いて片岡一郎が約52分にわたり『忠臣蔵 デジタル最長版』の弁士を務めた。古館伊知郎の実況風ナレーションも緊迫感があったが、プロの弁士の語りはナレーションのほか各登場人物の語り分けなども鮮やかで、歴史ある技芸としてたしかな実力を示した。フィルムそのものも、つい最近完全な形で見つかった貴重なものであり、52分という短い時間に忠臣蔵のストーリーや名場面が凝縮されていて、戦後に各会社が競うように作ったオールスターキャストの忠臣蔵映画のルーツがここにあることが感じられ、感慨深い上映であった。
そして最後に尾上菊之助が舞踊「鷺娘」を披露。暗闇の中に長唄が流れたその瞬間から、それまでとはまったく異次元の空間を作り出した。白の振袖に綿帽子姿の菊之助が現れると、いよいよ劇場の空気は引き締まる。場面場面で色とりどりの衣装に次々と変わっていく美しさに加え、三味線などお囃子の音の響きもあって、菊之助の豊かな表現力が一層輝いて見えた。
東京国際映画祭が、東京の、ひいては日本の文化の力を海外に発信していく場だとすれば、今回の菊之助の舞踊は、世界に誇れる品格と技芸、日本ならではの美を備えていた。それだけに、菊之助の舞踊を待たずに劇場を後にしたプレス関係者が多かったことが非常に残念だ。前回は、最初に歌舞伎舞踊、後から映画を上映した。今回、無声映画の上映のほかに、40分間にわたる古館伊知郎のトークライブが必要だったのかどうか。少なくとも、順番を逆にしていれば、日本が誇る伝統芸能美を堪能してもらい、映画関係者の創作意欲を刺激したのではないだろうか。
[記者: 仲野 マリ]
イベント情報<第29回 東京国際映画祭(TIFF)「歌舞伎座スペシャルナイト」>舞踊「鷺娘」(製作・松竹)
特別上映:『忠臣蔵』デジタル最長版、『血煙高田の馬場』 ■開催日: 2017年10月27日(木)
■会場: 歌舞伎座 ■登壇者: ・舞踊「鷺娘」<出演>: 尾上菊之助 ・映画『血煙高田の馬場』<喋り屋>: 古舘伊知郎 ・映画『忠臣蔵 デジタル最長版』<弁士>: 片岡一郎 |