映画『海辺の生と死』完成披露上映会舞台挨拶
満島ひかり、誰かを愛することで世界が変わる。
6月27日(火)、満島ひかりが約4年ぶりに単独主演を果たした映画『海辺の生と死』の完成披露上映会が東京・テアトル新宿にて行われ、主演の満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種、監督 越川道夫の豪華キャストが舞台挨拶に登壇した。
本作の主人公は、傑作「死の棘」を世に放った小説家・島尾敏雄と、その妻、島尾ミホ。舞台は太平洋戦争末期、ふたりが出会ったのは自然と神と人とが共存し、圧倒的な生命力をたたえる奄美群島・加計呂麻島。後年、互いに小説家であるふたりがそれぞれ描いた鮮烈な出会いと恋の物語を原作に、映画『アレノ』(2015年)で監督デビューし、本作が長編2作目となる越川道夫監督が奄美大島、加計呂麻島でのロケーションを敢行し、映画化を果たした。
島尾ミホがモデルのヒロイン・大平トエを演じるのは、奄美を自身のルーツと語る満島ひかり。映画・テレビ・舞台において、唯一無二の女優として圧倒的な存在感を放ってきた満島は、2017年6月に大沢伸一のソロプロジェクトである MONDO GOROSSO のニューアルバムに歌い手として参加するなど、活躍の場を広げている。
トエの恋人で島尾敏雄をモデルとした朔(さく)中尉を演じるのは、3月に放送終了した NHK 朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」でヒロインの夫役を演じ、お茶の間の好感を集めた永山絢斗。島で慈父(うんじゅ)と慕われるトエの父親役に『かぞくのくに』の大ベテラン津嘉山正種。朔中尉の部下、大坪役に今年『帝一の國』、『あゝ、荒野』(2部作連続公開)と話題作に出演の期待の俳優 井之脇海。自分より若い上官に鬱屈した表情を見せる兵士に川瀬陽太と、実力派が揃い、作品に厚みを加えている。
《イベントレポート》
沖縄出身であるが奄美大島にルーツがある満島は、満島家の故郷での撮影ということもあり「撮影の合間に泊まっていたホテルのロビーに祖母の弟が座っていたり」といったエピソードを嬉しそうに交えつつ、方言や島の風習についての取り組みや撮影時に感じたことなどを振り返った。
また自身が演じたトエのモデルとなった島尾ミホについては「愛に生きた方だと思います」、「彼女の居場所はずっと“愛”だけだったのではないか」と言及し、彼女の書いた「死の棘」と「海辺の生と死」を読んで、そして演じてみて「私自身、同じようなところがあって近いなぁと。誰かを愛することによって、こんなにパワーが眠っていたとは知らなかった、自分が誰かを愛することによって世界が変わるなんて思わなかった」と自身との共通点や愛について新たに気づいたことを語った。
一方、島尾敏雄がモデルの朔中尉を演じた永山は、役が決まり現場に入ってからも「島尾敏雄の詩集が本屋にたくさんあったので買いまくって、よく浜辺で読んでいました」と話し、また現場入りする前、東京で台本を読んでいても入ってこないからと、頭を丸坊主にして形から入ったことを明かした。これに対し津嘉山は「(今日)お会いしたとき、わからなかったんです、髪が伸びていて(笑)」とコメントした。
朔中尉の部下・大坪役を演じた井之脇は、普段はしゃいだりするほうではないが、奄美の自然と触れ合えるのが嬉しくて共演の永山、川瀬の二人と一日中海で遊んだり、釣りに行っていたというエピソードや撮影現場に行くと自分の周りに必ず蝶々が飛び始めるというメルヘンな一面があることも披露し、満島をはじめ登壇者一同話に花が咲いた。
本作のメガホンをとった越川監督は「この原作を映画化するにあたってまず何に心を砕いたか?」という質問に対し「戦争を背景にしてるのですが、この映画は軍隊のほうから観る映画ではなく、島のほうから観る映画で、島の在り方が中心にあって映画を作っていきました」と本作映画化の主軸や在り方について教えてくれた。
最後に登壇者を代表して、越川監督と主演の満島ひかりから、これから映画をご覧になる方に向けてのメッセージで舞台挨拶が締めくくられた。
越川監督: 僕はずっと島とお話をしながら、この映画を撮っていたように思います。それに今日ここにいる5人だけが東京から行った俳優で、それ以外は全員奄美の地元の人たちが、子供たちも含め出演してくれました。ぜひ奄美の子供たちの姿を観ていただければと思いますし、それが戦争というもの対する反発だったかとも思っています。ぜひそういうところをご覧いただければ嬉しいです。
満島ひかり: 島尾敏雄さんミホさんは自分たちが出会った頃から最後の時まで綴ってきた夫妻ですけれど、これまで皆さんおそらく島尾敏雄さんの作品を目にすることが多かったのではないかと思います。島の側から描いたミホさんの作品はみんなに共通するようなおとぎ話のような世界で、今は色々な映画がありますが、自分の祖母の世代の方や戦争を知っている方、昔の秘密ごとを知っている世代の方たちがどんどんいなくなっている中で、その方々に話を聞けて、少しでも触れて直接感じることができるうちに、その方々の記憶の中にある世界をどうにか映画の中に映せないだろうかと思って、越川監督と始めた企画でもあります。
私は最初からこの映画に参加していますが、映画には他では映らない、綺麗ではなくて美しい、怖いではなく恐ろしいものが映ると信じています。そういうものをみんなで優しく撮ろうとした作品です。島の人たちのお芝居も素晴らしく、子供たちに、「トエ先生は、好きな人のために死のうとするんですか?」と聞かれたので「そういう話だね」と返したら「ダメだよ、そんな男はやめなさい」というような、そんな感受性豊かな子供たちも出てくれました。
越川監督が島の時間を大切にして作った映画です。蝶々も鳥もたくさん映っています。最後まで楽しんでいただけたらと思います。
[スチール撮影・編集: Cinema Art Online UK / 記者: 瑞慶山 日向]
イベント情報<映画『海辺の生と死』完成披露上映会>■開催日: 2017年6月27日(火) |
映画作品情報
満島ひかり×永山絢斗共演/戦後文学史に残る伝説的夫婦の出会いの物語
《ストーリー》昭和19年(1944年)12月、奄美 カゲロウ島(加計呂麻島がモデル)。国民学校教員として働く大平トエは、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の隊長 朔中尉と出会う。朔が兵隊の教育用に本を借りたいと言ってきたことから知り合い、互いに好意を抱き合う。島の子供たちに慕われ、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていく。やがて、トエは朔と逢瀬を重ねるようになる。しかし、時の経過と共に敵襲は激しくなり、沖縄は陥落、広島に新型爆弾が落とされる。そして、ついに朔が出撃する日がやってきた。母の遺品の喪服を着て、短刀を胸に抱いたトエは家を飛び出し、いつもの浜辺へと無我夢中で駆けるのだった・・・ |
脚本/監督: 越川道夫
原作: 島尾ミホ「海辺の生と死」(第15回田村俊子賞受賞・中公文庫刊)島尾敏雄「島の果て」ほかより
脚本監修: 梯 久美子
参考文献:『狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社刊)
歌唱指導: 朝崎郁恵
企画/製作: 畠中鈴子 製作: 株式会社ユマニテ 制作:スローラーナー
配給: フルモテルモ、スターサンズ
2017年 / 日本 / 155分 / DCP / 5.1ch / 16:9 / カラー
2017年7月29日(土)より
テアトル新宿ほか全国順次公開!
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