- 2019-11-2
- イベントレポート, 第32回 東京国際映画祭, 記者会見
第32回 東京国際映画祭 (TIFF)
コンペティション部門『ジャスト 6.5』記者会見
サイード・ルスタイ監督「現実に近づけて撮ろうとずっと頑張ってきた」
ナヴィド・モハマドザデー「尊敬する俳優は三船敏郎」
第32回東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門に選出された映画『ジャスト 6.5』(英題:Just 6.5/原題:Metri Shesh Va Nim)の記者会見が、11月2日(土)にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、来日した監督・脚本のサイード・ルスタイと主演のナヴィド・モハマドザデーが登壇。イラン警察が麻薬組織を追い詰める驚異のアクション娯楽大作の製作秘話を語った。
作品本編の上映後、会場全体はある種の興奮状態に包まれていた。麻薬中毒患者のあふれる留置所、ジャンキーのたまり場、イラン警察の捜査など見たことのない映像がノンストップで描かれ、結末の展開に言葉を失ってしまうからだ。
司会者の呼びかけで監督のサイード・ルスタイと麻薬王役のナヴィド・モハマドザデーが登壇。映画とは異なり、2人とも普通の青年で優しい顔をしている。最初にルスタイ監督が「美しい日本に初めて来られて嬉しいです」と挨拶し、続けてナヴィド・モハマドザデーが「皆さまに作品をご覧いただけて嬉しいです」と挨拶した。記者からの質問は最後まで途切れることなく続いた。
なお、タイトルの『ジャスト 6.5』の意味は、部長刑事(ペイマン・モアディ)が「俺が警察に入ったころに麻薬中毒者は100万人だったが、長年にわたって逮捕して刑を執行しつづけたあげく,今じゃ650万人だ!」と嘆くセリフから来ている。
2人で作り上げた「悪役」のイメージ
―― ナヴィドさんの悪役像は自分で作り上げたのですか?
ナヴィド: ルスタイ監督との仕事は2回目になります。今回の役については、監督と1年以上前から話し合い、役への見解が次第に同じに。ふたりの協力によってドラマチックポイントを含めキャラクターを作りあげることができました。
―― ナヴィドさんと役との共通点は?
ナヴィド: 僕は12人兄弟の末っ子として育ちました。ですから、お父さんの立場の人が大きな家族を養うことになります。自分は成功していたし、兄弟がたくさんいるという点が、主人公と同一でした。その意味で主人公の気持ちを理解しやすかった。もちろん僕は麻薬とは関係ありませんけどね。
突然、ナヴィドは会場にいる日本の記者に向かって「私の尊敬している俳優は三船敏郎さんです。自分の役を自分で判断するということを学んだからです」と、自身の俳優としての在り方を伝えた。
海外メディアも巻き込んだハイウェイでのロケ
―― ラストのハイウェイ大渋滞のシーンはどうやって撮影しましたか?
ルスタイ監督: 自分たちでいろんな車を投入し、ワザと大渋滞を引き起こしたのです。ラジオまで「このハイウェイはどうなっていますか?」と渋滞のニュースが流れるほどでした。携帯で写メを撮っていた人たちがSNSで流したら、海外のマスメディアが反応し、「イランでは大変なデモが起きています。それはアメリカの制裁があるからです」と流れたんですよ。その日に撮影をしなければ無理だったので、頑張って撮影をしました。
―― 国や警察からお咎めや制裁はなかったのですか?
ルスタイ監督: 実は警察には「あと5分だけください」とお願いしました。実際には5分では撮影が終わらず、「あと5分だけ」と言いながら一日中だましだまし撮影を行っていたのです。
イランの現実とフィクションの間で
―― 取引の相手がジャポネで驚きましたが、なぜジャポネなのですか?
ルスタイ監督: ワザとではないです。この役に選んだ俳優が日本人っぽい顔をしていただけです。そのキャラクターはカットされたけど、名前がそのまま残りました。ペルシャ語の発音で“ジャポネ”という音が優しく響き、発音しやすいからです。
―― イランの貧困と麻薬問題の解決に向けて何が必要だと思いますか?
ルスタイ監督: 貧困と麻薬問題は関係が強いかもしれませんが、経済問題の影響があるかもしれないです。隣国のアフガニスタンでは、大量の麻薬を栽培していて、この20年間に100倍以上に増えています。麻薬がたくさん流れてくると、値段が安くなり、みんなが簡単に手に入れて使ってしまう可能性が高くなり、いくら政府が頑張ったとしてもコントロールするのは厳しいのです。
作品はイランの現実を描いたもの
―― イラン人を代表しての質問です。この作品の中で描かれている雰囲気は実際のイランで目にするシーンと異なるので目新しいと感じました。この作品ではどのくらいがディストピアで、どのくらいリアリティを追求しようとしましたか?
ルスタイ監督: 初めて映画を撮ったのが26歳の時です。誕生日が来たばかりで30歳になりました。今まで撮った映画は、現実に近づけて撮ろうと頑張った作品です。ですから、映画を作る時にディストピアを作るつもりは全くなかったんです。社会の中の一部分に自分の目線を置き、現実を描こうとしたので現実から全く離れているということはありません。
映画の中で離婚を取り上げていたら、すべてのイラン人が離婚するとは言えないでしょう。子どもがお父さんに叱られてケガをしたからといってすべてのイラン人のお父さんは子どもを激しく叱るとは言えないでしょう。絶対はなくてイランの映画を観るとこういう批判があるんですが、私たちは現実を描こうと思っています。もしかして、あなたの住んでいるイランでは、私の描く部分に目がいってないだけなんですよね。
低予算の映画では、家の中だけを描いて作る時、「どうしてそんな描き方をするのですか?」と言われますが、答えは簡単なんですよ。お金がなかったからほかのロケに行けなかった。ただそれだけです。ですからこの映画は、自分の考えから生まれているのではないので、現実の一部から描いています。ディストピアを描こうとしたつもりはありません。
―― 最後に一言ずつどうぞ
ルスタイ監督: 短い時間なのでいろいろとお話することはできませんでした。Q&A(公式上映後に行われる観客向けのティーチイン)でお話できると思います。
ナヴィド: 黒澤明監督と三船敏郎を愛しています。
その後開催された公式上映後のQ&A(ティーチイン)の中で、ルスタイ監督は「これからも社会問題を描いていきたい」と力強く語っている。また俳優のナヴィド・モハマドザデーは「撮影のせいで白髪が増えた」と作品に入り込んで役作りをしていくタイプであることを示した。
サイード・ルスタイ監督は、映画『Life and a Day』(原題:Abad va yek rooz/2015年)で第22回ジュネーブ国際映画祭(GIFF)の最優秀作品賞を受賞した実力派。本作『ジャスト 6.5』は第76回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映された作品でもある。部長刑事役のペイマン・モアディはイラン映画『別離』(原題:Jodaeiye Nader az Simin/2011年)で国際的評価を確立。麻薬王のナヴィド・モハマドザデーは『No Date, No Signature』(2017年)の成功で一気にスターダムに駆け上がった俳優。イランが誇る二大実力派俳優の大激突にぜひ注目してほしい。
㊗2冠!!「最優秀男優賞&最優秀監督賞」受賞🏆
11月5日(火)に行われた第32回東京国際映画祭のクロージングセレモニーでコンペティション部門の各賞が発表された。
最優秀男優賞にナヴィド・モハマドザデー、最優秀監督賞にはサイード・ルスタイ監督がそれぞれ選出。最優秀男優賞の受賞理由は「コントロールを失ってしまったような演技を見せたり、ほかの人物とコラボレーションがうまく取れた演技をみせたりと本当に素晴らしい演技だった」、また最優秀監督賞の受賞理由は「リアルな芝居と大胆なカメラワークが優れていた。エキストラの多さにびっくり、日本とのかかわりもあって驚いた」と審査委員から公表された。
[記者: 花岡 薫 / スチール写真: © 2019 TIFF]
イベント情報
第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
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第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『ジャスト 6.5』Q&A
第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『ジャスト 6.5』(原題:Metri Shesh Va Nim) 予告篇
映画作品情報
最優秀男優賞&最優秀監督賞受賞
英題: Just 6.5