第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニーレポート
【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (フォトセッション)

第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー
各受賞作品&受賞者発表!

最も沸騰して観客と審査委員をトリコにしたのは果たしてどの作品か――

全ての映画ファンへの大感謝祭――
創り手より渾身の情熱を届け続けた10日間もいよいよグランドフィナーレを迎えようとしている。

11月2日(金)、東京・六本木の「EX THEATER ROPPONGI」で第31回東京国際映画祭(TIFF)のアウォード・セレモニーが開催された。

注目の各部門各賞の受賞結果を発表。レッドカーペットの先にあるゴールのテープを切った今年のトップランナーは、実に多彩でバラエティ豊かなメンバーだった。受賞結果とともに、セレモニーの模様をピックアップする。

東京ジェムストーン賞

昨年新たに設けられた賞。宝石のような輝きを放つ気鋭の俳優が今年も選出された。国内からは木竜麻生(『鈴木家の嘘』『菊とギロチン』)、村上虹郎(『銃』)、海外からリエン・ビン・ファット(『ソン・ランの響き』)、カレル・トレンブレイ(『蛍はいなくなった』)がそれぞれ受賞した。

木竜は初々しく「(東京国際映画祭は)初めて参加させて頂いて―私が関わった2作品を上映して頂きました。作品に携わった皆さんと頂けた賞だと思っております」と謙虚に喜びを語った。一方、村上は「こんなキラキラしていて重みのある賞を頂けて光栄、この重みを自分に課していきたい」と彼らしい独特の表現で、改めて決意を宣誓した。

日本映画スプラッシュ部門

今年から新設された監督賞は2名が受賞。武正晴監督(『銃』)と田中征爾監督(『メランコリック』)の2名が栄光を分かち合った。

 

審査委員による講評でも触れられていたが、ベテランと若手監督という対照的な選出。それぞれの持ち味が十分に発揮された結果と言えるかもしれない。武監督は「3年前に『百円の恋』という作品で東京国際映画祭に来た時に、プロデューサーの奥山さんと久し振りにお会いして。その後、まさか一緒に作品を創りここに戻ってこられるとは思っていなかったので感激しております」とTIFFでの奇縁を懐古した。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (日本映画スプラッシュ部門 監督賞:武正晴監督)

作品賞は『鈴木家の嘘』が戴冠。ややフライング気味に発表されるハプニングもあった(フライング元のフジテレビ笠井アナウンサーは終始平身低頭で会場の笑いを誘う)が、野尻克己監督は「読書感想文でも賞はもらったことがない、受賞を嬉しく思っています。4年前からコツコツ書き上げた脚本であり、インディペント映画で魂をゆさぶる映画を撮りたいとずっと思っていた」と熱のこもったコメント。助監督として長年様々な映画に関わってきた職人気質らしい一面が垣間見えた。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (日本映画スプラッシュ部門 作品賞:野尻克己監督)

アジアの未来部門

国際交流基金アジアセンター特別賞はホアン・ホアン監督(『武術の孤児』)が受賞。今年北京電影学院を卒業したばかりの若き逸材でイケメンでもあるホアン監督。その端正なルックスにも目が魅かれる。スピーチでは、はっきりとした日本語の挨拶から入り、スタッフやキャスト、制作会社など全ての人に感謝をささげていた。『武術の孤児』は、中国武術を教える学校をテーマとした中国らしい作風の中に、ヒューマニズムを描いた快作で春夏秋冬のパートに分割された構成も特徴的だ。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (アジアの未来部門 国際交流基金アジアセンター特別賞: ホアン・ホアン監督)

作品賞は『はじめての別れ』が見事に射止めた。こちらのリナ・ワン監督もまだ30歳を超えたばかりの新進気鋭の監督。凛とした精悍な面立ちが印象的な美人だ。舞台となった中国ウイグル自治区は人権問題などとかくネガティブな印象が強い街だが、本作では同地の美しい風景と市井の人々の日常があるがままに描かれており、ウイグルの陽の面を見せてくれる映画だ。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (アジアの未来部門 作品賞: リナ・ワン監督

コンペティション部門

各賞の受賞結果は以下の通り。

観客賞: 『半世界』
最優秀脚本賞 Presented by WOWOW: 『アマンダ(原題)』
最優秀芸術貢献賞: 『ホワイト・クロウ(原題)』
最優秀男優賞: イェスパー・クリステンセン(『氷の季節』)
最優秀女優賞: ピーナ・トゥルコ(『堕ちた希望』)
最優秀監督賞: エドアルド・デ・アンジェリス(『堕ちた希望』)
審査員特別賞: 『氷の季節』
東京グランプリ/東京都知事賞: 『アマンダ(原題)』

 

観客賞を受賞した『半世界』のメガホンをとったのは、名匠・阪本順治監督。ステージでトロフィーを受け取った阪本監督は「不意打ちの受賞です」と語り「父の遺言でスピーチは短めにと言われております」とうそぶく。ベテランらしい巧みな話術で会場を盛り上げたが、最後は「たくさんの方が投票してくださったおかげです。みんなでお祝いします。ありがとうございます」と全ての人へ感謝を捧げた。主演はSMAPを卒業して新たなスタートを踏みだし始めた稲垣吾郎。この先楽しみな一本と言えよう。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (コンペティション部門 観客賞:阪本順時監督)

最優秀芸術貢献賞を受賞したのはイギリス映画の『ホワイト・クロウ』。実在した名バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描いたレイフ・ファインズ監督のヒューマンドラマだ。スタッフを代表してプロデューサーのガブリエル・タナが登壇。「この映画は“愛の結晶”ともいうべき作品なので、本当にこのような栄光ある賞を頂けて大変嬉しく思います。(若くして早逝した)ルドルフ・ヌレエフに捧げたい」と神妙な面持ちで語った。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (コンペティション部門 最優秀芸術貢献賞:ガブリエル・タナ プロデューサー)

夫婦での受賞(東京国際映画祭史上初?)となった『堕ちた希望』のエドアルド・デ・アンジェリス監督。最優秀女優賞受賞の奥方ピーナ・トゥルコさんは妹の結婚式へ出席するため会場には来れず、いわば比翼ならぬ片翼の出席となったが、2人分の喜びをたっぷりと語ってくれた。特に「自分が幸せになれないかと思ったとき、また新たな人生が見えてくるという物語」という言葉が印象的だ。映画には絶望を希望に変える力があることを具現化した作品と言えよう。

 

『氷の季節』は最優秀男優賞と審査員特別賞の2冠を達成。ダニエル・クレイグがボンドをつとめる現007シリーズのホワイト役での好演が光るイェスパー・クリステンセンが主演の作品だ。マイケル・ノアー監督は「私の父は4カ月前に亡くなった。この作品を見ずして亡くなったが父から多くを学んだ。(実は父をモデルにしている作品でもあるのだが、クリステンセンには)私の父をモデルにしていると一度も言ったことがないので、それを伝えたい」と振り返った。続けて「彼は偉大な役者だけでなく私の親友。人生で最も重要な人物を描いてくれた」と万感の思いを込めて語ってくれた。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (コンペティション部門 最優秀男優賞&審査員特別賞:マイケル・ノアー監督)

 

栄えある東京グランプリを受賞した『アマンダ』のメガホンをとったミカエル・アース監督はすでに帰国していたため、脚本賞の受賞コメントと共にビデオメッセージを寄せてくれた。「受賞に慣れていないのに2つも受賞、しかもひとつはグランプリ。非常に幸せです」と喜びを語りながら「作品上映後に、観客と素晴らしい議論が交わせました。地球の反対側でも映画が人々を感動させる、ということを知る以上のご褒美はありません」と真摯なコメント。映画に対して常に誠実に向き合おうとしている監督ならではの言葉だろう。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (コンペティション部門 東京グランプリ&脚本賞:ミカエル・アース監督)

監督の代わりとしてトロフィーを受け取ったローラン・ピック駐日フランス大使も「アース監督は、フランスの若手監督のなかで最も日本人らしいと言われています」と語っていたが、是非また同作が公開される来年に足を運んでいただきたいものだ。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (コンペティション部門 東京グランプリ&東京都知事賞:多羅尾光睦東京都副知事、ブリランテ・メンドーサ国際審査委員長、ローラン・ピック駐日フランス大使、金川宏美)

 

2020年のオリンピック開催地に東京が選ばれた理由の一つにコンパクト開催が高く評価されたと言われているが、それとは対称的に東京国際映画祭は日比谷や池袋まで巻き込み、年々その領域を広げている。まさに名実ともに“東京”国際映画祭として成熟してきた証と言えよう。そして、昨年は第30回のメモリアル・イヤーであったが、今年は新たな30年の幕開け1年目となる年だ。新時代への第一歩、赤色に染まった六本木ヒルズで実に多くの映画の花が咲き溢れた。この盛況を糧に、更なる発展と隆盛に期待したいところ。きっとまた来年、新たな素晴らしい出会いがあるだろう。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (コンペティション部門 国際審査委員)

[記者: 藤田 哲朗 / スチール撮影・編集: Cinema Art Online UK]

31th TIFF アウォード・セレモニー/審査委員&受賞者記者会見動画

31th TIFF アウォード・セレモニー概要

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) アウォード・セレモニー (ステージ)

■開催日: 2018年11月2日(金)
■会場: EX THEATER ROPPONGI
■登壇者: コンペティション国際審査委員(ブリランテ・メンドーサ(審査委員長)、ブライアン・バーク、タラネ・アリドゥスティ、スタンリー・クワン、南 果歩)、日本映画スプラッシュ部門審査委員(パオロ・ベルトリン、ノア・コーワン、入江 悠)、アジアの未来部門審査委員(ジェレミー・スゲ、ピート・テオ、山下敦弘)、須永達雄(東京国際映画祭みなと委員会 委員長)、多羅尾光睦(東京都副知事)、金川宏美(セイコーホールディングス株式会社 取締役)、久松猛朗(フェスティバル・ディレクター)
 
【東京ジェムストーン賞受賞者】
木竜麻生、リエン・ビン・ファット、カレル・トレンブレイ、村上虹郎
 
【日本映画スプラッシュ部門 受賞作品及び受賞者】
作品賞: 『鈴木家の嘘』
監督賞: 武正晴(『銃』監督)、田中征爾(『メランコリック』監督)
 
【アジアの未来部門 受賞作品及び受賞者】
作品賞: リナ・ワン監督(『はじめての別れ』監督)
国際交流基金アジアセンター 特別賞: ホアン・ホアン(『武術の孤児』監督)
 
【コンペティション部門 受賞作品及び受賞者】
観客賞: 『半世界』
最優秀脚本賞 Presented by WOWOW: 『アマンダ(原題)』
最優秀監督賞: エドアルド・デ・アンジェリス(『堕ちた希望』)
最優秀男優賞: イェスパー・クリステンセン(『氷の季節』)
最優秀女優賞: ピーナ・トゥルコ(『堕ちた希望』)
最優秀芸術貢献賞: 『ホワイト・クロウ(原題)』 
審査委員特別賞: 『氷の季節』
東京グランプリ/東京都知事賞: 『アマンダ(原題)』 
 
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第31回東京国際映画祭 動員数 <速報値・3日は見込み動員数>
劇場動員数/上映作品数: 62,125人/181本(第30回: 63,679人/231本)
JCS、レッドカーペット・アリーナ等イベント: 155,246人
共催/提携企画動員数: 164,000人
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