第31回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション国際審査委員&受賞者記者会見レポート
【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション国際審査委員&受賞者記者会見

第31回 東京国際映画祭(TIFF)
コンペティション国際審査委員&受賞者記者会見

受賞者が喜びの声や観客からの手応えを語る!!

11月2日(金)、第31回東京国際映画祭(TIFF)は「アウォード・セレモニー」で各賞受賞者を発表した後、コンペティション国際審査委員と各受賞者による記者会見が実施。コンペティション部門の国際審査委員長を務めたブリランテ・メンドーサをはじめ、ブライアン・バーク、タラネ・アリドゥスティ、スタンリー・クワン、南果歩ら国際審査委員と、コンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の各受賞者が登壇した。『アマンダ(原題)』で東京グランプリを受賞したミカエル・アース監督は、すでに帰国していたため欠席した。

コンペティション国際審査委員総評

【写真】ブリランテ・メンドーサ国際審査委員長(映画監督/フィリピン)ブリランテ・メンドーサ国際審査委員長(映画監督/フィリピン)

まずは、審査員の皆さまに心からお礼を申し上げます。本当にお疲れ様でした。ともに素晴らしい時間を過ごすことができました。5人で受賞作品を決める時、特にもめることもなく、楽しく行うことができました。選んだ結果に関しても、非常に満足をしています。

【写真】ブライアン・バーク(プロデューサー/アメリカ)ブライアン・バーク(プロデューサー/アメリカ)

初めて審査委員として参加しました。4人の素晴らしい友に出会い、素敵な作品をたくさん観ました。皆さんがどの作品をご覧になっているのか知りませんが、是非いろんな作品を観て欲しいです。特に受賞された作品をご覧いただければと思います。

【写真】タラネ・アリドゥスティ(女優/イラン)タラネ・アリドゥスティ(女優/イラン)

ここに集まっている5人は、それぞれ異なる国、異なる言語、異なる文化の出身です。出会った瞬間に大親友になれました。この一体感は趣味、指向が、同じだからでしょう。今後、仲間を恋しく思うでしょうし、このまま映画祭が続いてくれたらと思います。

【写真】スタンリー・クワン(監督/プロデューサー/香港)スタンリー・クワン(監督・プロデューサー/香港)

私が安心を感じる瞬間は、2つあります。ひとつは監督として現場に足を踏み入れる時、ふたつ目は劇場で映画を鑑賞している時です。今回は私が安心できる劇場の中で、16本の作品を鑑賞できました。ここにいる5人と共通の認識を持ち、素晴らしい時間を共有でき、とても嬉しかったです。

【写真】南 果歩(女優/日本)南 果歩(女優/日本)

16本の映画を観終え、5人で賞を決め、ホッとしています。素晴らしいフィルムメーカーと時間を共有でき、ひとつの映画に愛情を持って接し、作品について語り合えたことは、大きな糧となりました。人の目で、感性で、賞を選ぶ難しさも経験できました。結局、人の心に訴えかけるものが映画であると、いち審査員、いち観客、いち俳優として感じました。この映画祭を通じ、早く現場に身を置きたいという気持ちが募りました。
 

<国際審査委員Q&A>

Q: どのように受賞作品を選考しましたか?

ブリランテ・メンドーサ: 選考の過程ですが、毎日3本の映画を鑑賞しました。作品を観終った後、特に良かった点について話し合い、最終的に16本の中から5~6本に絞りました。

Q:『アマンダ(原題)』を東京グランプリに選出した理由は?

ブライアン・バーク: 作品全体の演技、脚本、演出のどれもが素晴らしかったです。特に細部の描写が力強い作品で、全ての要素が上手くまとまっていました。ラストの結末には感動させられましたし、全員一致で選びました。

【画像】映画『マチルダ(原題)』メインカット

Q:『アマンダ(原題)』は日本人らしい細やかさがあると評判ですが?

南 果歩: 残された人の心の傷の癒し方が、とても繊細でした。傷を負っても日常生活は続くわけで、ふと蘇る傷口のうずきが、誰の人生にも起こる、誰の心にも潜んでいる共感できる内容でした。人間の心の中の葛藤を優しく、繊細に表現してあり、異論の出ない結論です。

Q: 全部で7つの賞がありますが、受賞したのは4作品でした。その理由は何ですか?

スタンリー・クワン: グランプリ作品は全員一致で選びました。他の賞については、まず作品の良さを考慮し、次に賞にふさわしいのはどの作品かという視点で選出したからです。

Q: ヨーロッパ作品の受賞が多かったことについて議論はありましたか?

タラネ・アリドゥスティ: そのことに関する会話は、もちろんありました。ここはアジアですし、私もアジア出身、たくさんのアジア作品が出品されています。ですが、私たちが約束したのは、どこの国の作品を鑑賞するのか、どこの国の映画祭に参加しているのか、その全てを忘れ純粋に映画を観るということでした。作品のシノプシス、監督の性別といった情報を排除し、まっさらな状態で選定しました。私たちとは別の5名の方が審査員を務めていたら、全く別の結果になったかもしれません。ですが、今回は私たちの意見が一致しこのような結果となりました。

各部門受賞者記者会見

<コンペティション部門  審査委員特別賞&最優秀男優賞>
『氷の季節』マイケル・ノアー監督、ルネ・エズラ(プロデューサー)、マティルダ・アッペリン(プロデューサー)

【画像】映画『氷の季節』メインカット

Q: この作品を作った契機は、監督ご自身がひとり娘の父親だからと聞きました。主人公は欲望のために大変な結果に辿り着きます。結末へのきっかけは何ですか?

ノアー監督: まずは私に子どもがいなければ、父親であることが複雑であることに気付かなかったので、このようなストーリーは描けなかったと思います。この物語はフィクションですが、家族を支えていくことは犠牲を伴うものなのだと伝えたかったです。私は、父であり、子であり、願わくば祖父になりたいと思っています。その中で常にモラルを意識し、逸脱してはならないということは、普遍的なテーマだと考えています。敢えて時代劇にし、家族の間で生ずる軋轢や対立を描きたかったのです。デンマークは男女格差のない平等な街として知られています。ですが、格差や差別が激しかった時代もあった事を映画を通じ伝えてみたい思いがありました。

Q: W受賞の感想は?

マティルダP: 嬉しすぎて受賞の瞬間、叫び声をあげてしまいました。主演のイェスパー・クリステンセンさんが名演技を見せてくれたので、とても嬉しく思いました。

【写真】コンペティション部門 審査委員特別賞&最優秀男優賞受賞 映画『氷の季節』マティルダ・アッペリン (プロデューサー)

エズラP: デンマークでは未公開作品。ここに来ていない大勢の人と映画を作りました。東京国際映画祭で賞を獲れたことは、映画のプロモーションにも繋がると思います。光栄で謙虚な気持ちになりました。

【写真】コンペティション部門 審査委員特別賞&最優秀男優賞受賞 映画『氷の季節』ルネ・エズラ (プロデューサー)

Q: どうしてイェスパーさんに演じてもらいたかったのですか?

ノアー監督: イェスパーさんはオープンな人柄で愛情深い、国際的なオーラを放つ男優です。クリント・イーストウッドをより甘くチャーミングにしたような、デンマークの西部劇を撮りたかったのです。

【写真】コンペティション部門 審査委員特別賞&最優秀男優賞受賞 映画『氷の季節』マイケル・ノアー監督、ルネ・エズラ(プロデューサー)、マティルダ・アッペリン(プロデューサー)

<コンペティション部門  最優秀監督賞&最優秀女優賞>
『堕ちた希望』エドアルド・デ・アンジェリス監督

【画像】映画『堕ちた希望』メインカット

Q: 映像作りのこだわりと映画の着想はどこから?

アンジェリス監督: 自分でもよくわかりませんが、寒くて死の感覚が漂っている冬の時期に考えていたような気がします。火をつけて暖まりたいという気持ちを抱いていたことから物語が生まれました。

Q: 美しい場所も汚い場所も、とてもきれいでした。映像へのこだわりは?

アンジェリス監督: 美しきものと醜きもののバランスを意識しました。例えば荒廃している景色と再建していく景色の対比です。どちらが勝つかわからない緊張感のようなものです。

Q: 奥様(ピーナ・トゥルコ/最優秀女優賞)との同時受賞をどう思いましたか?

アンジェリス監督: ある人を愛して深く知るようになると、その人間の隠し持った部分にアクセスするのを許してもらえるようになります。他者に対し隠されていた部分は、本人ですら知らない宝物でもあると思います。ピーナは寛大なことに与えてくれて、映画を通じ観てくれた方に一緒に贈ろうと思いました。

【写真】コンペティション部門 最優秀監督賞&最優秀女優賞 映画『堕ちた希望』 エドアルド・デ・アンジェリス監督

<コンペティション部門 最優秀芸術貢献賞>
『ホワイト・クロウ(原題)』ガブリエル・タナ(プロデューサー)

【画像】映画『ホワイト・クロウ(原題)』メインカット

Q: 舞台に観に行くバレエという芸術を映画に落とし込む上で難しかった部分は?

タナP: まずは、このような賞をいただきお礼を申し上げます。レイフ・ファインズさんはこの場にいませんが、伝えたら喜んでくれると思います。質問に戻りますが、ダンスをフィルムでとらえるのは、試行錯誤の連続。再撮影もありました。撮影監督、振り付け師などいろいろな方との協力で、なんとか乗り越えることができました。

Q: レイフ・ファインズさんは、出演される予定ではなかったとのこと。出演された経緯は?

タナP: レイフには、元々役を演じたいという気持ちがあったと思います。それと資金集めの面で、ネームバリューが必要でした。ダンサーからもプーシキン役はレイフでとの要望もありました。それで出演しようかと言ってもらえました。

Q: レイフさんのロシア語の練習とオレグさんのバレエのレッスンの時間のやりくりは?

タナP: レイフは実はロシア語で演じた経験があります。今回は3か月間ロシア語の特訓をし、撮影中はロシア語のコーチをずっとつけていました。オレグさんのバレエに関しては、バレエのレッスンを毎日ハードに組み込みました。レッスンをしながらの撮影です。

Q: 資金集めに苦労されたそうですが、結果予算はいくらでしたか?

タナP: 最終的に1500万ドルほどになりました。

【写真】コンペティション部門 最優秀芸術貢献賞受賞 映画 『ホワイト・クロウ(原題)』ガブリエル・タナ (プロデューサー)

<コンペティション部門 観客賞>
『半世界』阪本順治監督

【画像】映画『半世界』メインカット

Q: “観客からの賞”の意義をどう思われますか?

阪本監督: 海外の映画祭でも設けられています。観た後に投票ということで、羨ましく、憧れていた賞でした。僕の方から稲垣君サイドに出演をお願いしたので、作る映画を良い作品にしなければと責任を感じていました。肩の荷が下りました。長谷川君、渋川君、千鶴ちゃんとは、初めての仕事。公開前の作品で観客賞を獲れたので、大丈夫だったでしょ、ここまでこれたでしょ、と言いたいです。今夜は俳優たちやスタッフと喜びを分かち合うのではなく、僕は僕のために乾杯します。

Q: 東京国際映画祭の印象は?

阪本監督: 荷造りしない映画祭は、大好きです。海外の映画祭では、英語ができないので壁の花。今回の映画祭では、外でお客さんと会話ができたし、感想もいただいたし、自国の国際映画祭ならではの過ごし方ができました。

Q: 今後の作品への展望は?

阪本監督: ここ5~6年、海外へ行くことが多かったです。今回は久しぶりに自分の地元に戻る感覚で小さな作品をやりました。次はどこかへ越境してみたいです。とにかく自分の作品をなぞっていない、自己模倣をしていないことが重要。中身は出会いです。

【写真】コンペティション部門 観客賞受賞 映画『半世界』阪本順治監督

<アジアの未来部門 作品賞>
『はじめての別れ』リナ・ワン監督

【画像】映画『』メインカット

【写真】アジアの未来部門 作品賞受賞 映画『はじめての別れ』リナ・ワン監督Q: 監督とウイグルとの関わりは?

ワン監督: 私自身は漢族なんですが、新疆の映画の舞台で生まれて育ちました。父親がカメラマンだったので自転車の後ろにのせてもらい、ウイグル族の人たちの写真を撮りに出かけていたことを今でも覚えています。ですからウイグル族の人たちとは、気持ちの上で繋がりがあると思っています。

<アジアの未来部門 国際交流基金アジアセンター特別賞>
『武術の孤児』ホアン・ホアン監督

【画像】映画『武術の孤児』メインカット

【写真】アジアの未来部門 国際交流基金アジアセンター特別賞受賞 映画『武術の孤児』ホアン・ホアン監督Q: 子役の使い方、特に脱走をする子どもが印象的です。どんな演出をしましたか?

ホアン監督: 出演している子どもたちは、全員武術学校の生徒さんです。ある日、先生に叱られている生徒さんを見た時に、この子だと閃いて脚本を変え、起用しました。

Q: 受賞した時の気持ちは?

ホアン監督: 名前を呼ばれた時、うれしさと同時に頭の中が真っ白になりました。映画の美学を評価してくれる映画祭だと思っていたので、この場にいるだけでうれしかった。この賞は、私ではなく子どもたちの賞だと思っています。

<日本映画スプラッシュ 作品賞>
『鈴木家の嘘』野尻克己監督

【画像】映画『鈴木家の嘘』メインカット

Q: 外国人のお客さまからの手ごたえは感じましたか?

野尻監督: 結果、賞をいただいたので届いたのかなと思っています。日本独特の家族関係、引きこもり、自殺、家族同士の会話がない、などを描きました。オープンな家族関係である外国のお客様の心に届くのかどうか心配でした。

Q: 出演者の木竜麻生さんが東京ジェムストーン賞に。受賞したことについてどう思いますか?

野尻監督: 木竜さんが賞をいただけて、とてもうれしいです。撮影中ずっと悩んでいる姿を見ていたので、これで女優として弾みがつくんだなと思います。絶対いい女優になると期待しています。作品賞については、デカイ賞なので本当にうれしいです。観てもらえる間口が広がったと思っています。

【写真】日本映画スプラッシュ作品賞受賞 映画『鈴木家の嘘』野尻克己監督

<日本映画スプラッシュ部門 監督賞>
『メランコリック』田中征爾監督

【画像】映画『メランコリック』メインカット

Q: 外国のお客さまからの手ごたえは感じましたか?

田中監督: 日本文化としての銭湯で受けを狙ったのですが、単純にストーリーの中のキャラクターや劣等感にさいなまれる主人公に意図した狙いが届いた印象です。

Q: 今日、一緒にいるスタッフや俳優さんの受賞した時のリアクションは?

田中監督: 映画祭の出席は初めてでした。受賞した時にどう振る舞えばいいのかわからず、周りの様子ばかりを見ていました。控室に戻ってから、役者さんやスタッフさんが喜ぶ様子を見てホッとしました。

【写真】日本映画スプラッシュ監督賞受賞 映画『メランコリック』田中征爾監督

<日本映画スプラッシュ部門 監督賞>
『銃』武正晴監督

【画像】映画『銃』メインカット

Q: 村上虹朗さんが東京ジェムストーン賞を受賞しました。村上さんを起用した理由は? 

武監督: 村上虹朗が、たまたま20歳でした。映画はタイミングが大事だと実感しました。彼が、この世にいてくれて良かった。

Q: 村上虹朗さんが存在してくれて良かった理由は?

武監督: 『銃』の主人公は、誰もがやりたくなるような役ではありません。想像したくない部分を持ち、人を銃で殺めてしまう役です。人がやりたがらない役を体現する貴重な俳優のひとりとして、存在してくれて良かったと思います。

【写真】日本映画スプラッシュ監督賞受賞 映画『銃』 武正晴監督

記者会見の取材を終えて

ベテランから新人までフィルムメーカーたちが集い、募る思いを世界へ向けて発信した10日間。観客とフィルムメーカーが、映画を通じて交流し、両者が喜ぶ姿を目の当たりにすると開催の意義を実感する。この魅力ある映画祭をより多くの人に知ってもらい、カンヌ、ベネチア、ベルリンと同格と呼ばれるのにふさわしい国際映画祭に成長するよう、今後もTIFFに注目し、その魅力を発信していきたい。

[記者: 花岡 薫 / 編集: Cinema Art Online UK]
[スチール写真: © 2018 TIFF]
 

記者会見概要

■開催日: 2018年11月2日(金)
■会場: EX THEATER ROPPONGI 2F カフェ
■登壇者:
 
【コンペティション国際審査委員】
ブリランテ・メンドーサ(審査委員長)、ブライアン・バーク、タラネ・アリドゥスティ、スタンリー・クワン、南 果歩
 
【日本映画スプラッシュ部門受賞者】
作品賞: 野尻克己監督(『鈴木家の嘘』)
監督賞: 武正晴監督(『銃』)、田中征爾監督(『メランコリック』)
 
【アジアの未来部門受賞者】
作品賞: リナ・ワン監督(『はじめての別れ』)
国際交流基金アジアセンター特別賞: ホアン・ホアン監督(『武術の孤児』)
 
【コンペティション部門受賞者】
審査委員特別賞/最優秀男優賞: マイケル・ノアー監督、ルネ・エズラ(プロデューサー)、マティルダ・アッペリン(プロデューサー)(『氷の季節』)
最優秀芸術貢献賞: ガブリエル・タナ(プロデューサー)(『ホワイト・クロウ(原題)』)
最優秀監督賞/最優秀女優賞: エドアルド・デ・アンジェリス監督(『堕ちた希望』)
観客賞: 阪本順治監督(『半世界』)
最優秀脚本賞 Presented by WOWOW/東京グランプリ/東京都知事賞: 欠席(『アマンダ(原題)』)

第31回東京国際映画祭 動員数》<速報>

劇場動員数/上映作品数: 62,125人/181本(第30回: 63,679人/231本)
JCS、レッドカーペット・アリーナ等イベント: 155,246人
共催/提携企画動員数: 164,000人
<速報値/11月3日は見込み動員数>

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