土屋太鳳×芳根京子
W朝ドラヒロインの演技のぶつかりあいで描く、女優の業
《ストーリー》
幼いころから醜いといじめられ、容姿にコンプレックスを持つ淵 累(芳根京子)。伝説の大女優・淵 透世を母に持ち、その演技力を受け継ぐが、芝居への情熱を持ちつつも表に出ることに恐怖を抱いていた。
親戚からも疎まれ孤立する累のもとに、生前の母と遺品の口紅のことを知る、羽生田(浅野忠信)が現れる。
透世の遺品である一本の口紅。その口紅には、キスした相手と12時間だけ顔を入れ替えることができるという不思議な力があった。
羽生田がマネジメントする駆け出しの女優・丹沢ニナ(土屋太鳳)は、演技力は人並みだが、他を圧倒する美貌を持っていた。羽生田は累の口紅の能力でニナと顔を交換し、累にニナの替え玉となるよう提案する。
世界的に活躍する演出家の舞台のオーディションがあり、どうしても役を勝ち取りたいニナと、人前で思い切り演技をしたい累。二人のニーズは合致し、ニナの美貌と累の演技力を兼ね備えた「丹沢ニナ」は、女優として注目を集めていく。
しかし、次第に芽生えていく互いへの嫉妬心や不信感、先の見えない焦燥感が二人の関係を崩壊へと導いていく――。
《みどころ》
ダークな世界観が、清純派女優の演技に幅を与える
現在、若手女優の未来を左右する存在としてNHK連続テレビ小説(通称:朝ドラ)のヒロインがある。幅広い年代の視聴者が毎日目にする作品の影響は大きい。その役柄や作品の人気は、出演者のイメージを固定してしまう。本作でW主演を務める土屋と芳根は、それぞれ「まれ」と「べっぴんさん」の朝ドラヒロイン。元気いっぱいな土屋、真面目で落ちついた芳根という朝ドラでのイメージは、なかなか拭いきれない。これまで優等生的な役柄を演じることの多かった二人だが、本作では嫉妬に狂うダークな役柄に挑戦している。
丁寧な人物描写が与える、ファンタジックな設定への説得力
単純に考えれば累のコンプレックスは「整形手術すれば解消するのでは?」と思いがちだ。しかしコンプレックスとはそう簡単なものではない。
ニナの顔を手に入れてもなかなか自信を持てない累、累の顔となっても堂々とふるまうことのできるニナ。性格は顔で決まるわけではなく、積み重ねた自己肯定感や人間関係が形作る。周りから疎まれ続けた自分のままでは意味がなく、「他人」となることで初めて満たされる累の複雑な心中をあぶりだすことで、ファンタジックな口紅の存在に必然性と説得力をもたらしている。
キャラクターの心情の高ぶりを演出する劇中劇「サロメ」
ニナと累の運命を決定づける舞台として劇中劇の「サロメ」が効果的に使われている。
王女サロメは、自分を拒む預言者ヨカナーンを手に入れるため、首を切り、その唇に口づけをする、という物語だ。
欲望を満たすために手段を選ばない役柄に同調することを恐れる累だったが、劇中劇のサロメの感情の高ぶりとシンクロするように、かみ合わなくなったニナと累の関係は次第に狂気を帯びていく。情熱的なサロメのダンスは身体表現の得意な土屋の真骨頂。累本人としてニナと対峙する芳根は、それまでの自分の行為に引け目を感じていた累と一転、サロメの物語を象徴した衣装の赤と累の口紅の赤。鮮やかな色彩設計が血塗られた物語を印象づける。
累というキャラクターとの出会いが、二人の女優をいかに変えるか
ニナは女優の仕事を自己実現のための手段としてとらえている一方、自分以外の存在を演じることに喜びを感じる累は女優の仕事こそが生きる目的であり、同じ道に見えて、目的が違うところが興味深い。
女優として役を演じるということは、その役の考えや行動を理解し、舞台上でその役として生きるということ。その快感に取りつかれ、他人を蹴落とすことになっても女優でありたいと思う女優の業ともいえる演技への渇望を、二人の女優は優等生の殻を脱ぎ捨ててがむしゃらに表現している。
累を演じたことで切り開かれた二人の演技の新境地。今後の芝居にどのような影響を与えていくのか、楽しみだ。
[ライター: 金尾 真里]
映画『累-かさね-』予告篇
https://youtu.be/ilJDJNVTm5M
映画作品情報
脚本: 黒岩勉
音楽: 菅野祐悟
監督: 佐藤祐市
配給: 東宝
2018年 / 日本 / カラー
© 2018映画「累」製作委員会 © 松浦だるま/講談社