映画『生きてるだけで、愛。』レビュー
【画像】映画『生きているだけで、愛。』メインカット
 

映画『生きているだけで、愛。』

華奢な体からは想像もできない熱量を放つ趣里 

趣里、菅田将暉主演の映画『生きてるだけで、愛。』が11月9日(金)に公開された。原作は本谷有希子の同名小説で、芥川賞・三島賞候補作となった。ドラマ「ブラックペアン」の切れ者の看護婦・猫田麻里役が記憶に新しい趣里が、鬱による過眠症で、自分自身をコントロールできない主人公寧子を演じる。恋人の津奈木役には映画『あゝ、荒野』(2017年)で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた菅田将暉。メガホンを取った関根光才監督は本作が劇場長編映画デビューとなる。

《ストーリー》

寧子(趣里)と津奈木(菅田将暉)は同棲して3年になる。寧子はもともとメンタルに問題を抱えており、過眠症で引きこもり状態。週刊誌の編集部でゴシップ記事を書いている津奈木が会社帰りに2人分のお弁当を買って帰る。しかし、感情をコントロールできない寧子は津奈木に当たり散らしていた。

ある日突然、津奈木の元恋人・安堂(仲里依紗)が寧子を訪ねてくる。津奈木に未練を残す安堂は、寧子を自立させて津奈木の部屋から追い出そうと、強制的にカフェバーのアルバイトを決めてしまう。寧子は戸惑うものの、思いがけないチャンスを得て、今の生活から抜け出そうと次第に前向きになっていくが…。

【画像】映画『生きているだけで、愛。』場面カット

《みどころ》

津奈木の部屋に転がり込み、家事もせずに布団の中で眠りこける。食事は津奈木が仕事帰りにコンビニで買ってくるお弁当で済ます。そんな寧子に最初から共感するのは難しい。鬱による過眠症に苦しんでいるとはいえ、甘えているようにしか見えない。津奈木の元恋人・安堂が寧子を非難するのを聞くと同調してしまう。

【画像】映画『生きているだけで、愛。』場面カット

では、安堂や津奈木は真っ当に生きているのか。安堂は寧子の自立を支援するが、それは津奈木とよりを戻したいから。一歩間違えればストーカーである。津奈木はやり甲斐のない仕事を続けるため、判断を放棄して、機械のように仕事をこなす。前に進もうとするものの、できずに負のスパイラルに陥って自己嫌悪する寧子の方が(生活費は男に依存しているものの)自分に向き合っているといえるのではないか。

現状を変えたいと思う者、厄介なことになるよりはそっとしておきたい者。人それぞれだが、多かれ少なかれ、みな、もがくように生きている。

【画像】映画『生きているだけで、愛。』場面カット

主人公の寧子を演じる趣里は脚本を読んで、寧子に強く感情移入したという。怠け者のように見えるが、内面では激しい葛藤を繰り返す寧子を煮えたぎるマグマのような熱量で演じている。そして、冬の夜、火山が爆発するように走る寧子に心を揺さぶられ、いつの間にか思いっきり共感している自分に気づいた。華奢な趣里の体のどこにそんなエネルギーがあったのだろう。趣里の代表作になることは間違いない。

【画像】映画『生きているだけで、愛。』場面カット

ところで、原作では寧子が葛飾北斎「冨嶽三十六景」の神奈川沖浪裏について語る。表紙にもなっているモチーフだが、映画ではその辺りが全部カットされている。しかし、津奈木が寧子に惹かれたきっかけとなった青いスカートで走るシーンで、スカートが足に絡みつくことなく、きれいになびく様はまるで「冨嶽三十六景」の波飛沫のよう。青は暖色系の服装が多い寧子には珍しく、印象に残る

また、夜のシーンが多い中で唯一まぶしいくらい輝いているのが寧子のシャワーシーン。窓から入る日光が立ち上る湯気で拡散して、寧子を神々しく映し出す。この2つのシーンは必見である。

[ライター: 堀木 三紀]

映画『生きてるだけで、愛。』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『生きているだけで、愛。』ポスタービジュアル

 
出演: 趣里、菅田将暉、田中哲司、西田尚美/松重豊/石橋静河、織田梨沙/仲 里依紗
 
原作: 本谷有希子「生きてるだけで、愛」(新潮文庫刊)
 
監督・脚本: 関根光才
製作幹事 : ハピネット、スタイルジャム
企画・制作プロダクション: スタイルジャム
配給: クロックワークス
 
© 2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
 

2018年11月9日(金)
新宿ピカデリーほか全国ロードショー!

映画公式サイト
 
公式Twitter: @ikiai_movie 
公式ハッシュタグ: #生き愛
公式Facebook: @映画生きてるだけで愛
 

この記事の著者

ほりき みきライター

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。

主に映画監督を中心にインタビューを行っており、これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、阪本順治、岸善幸、篠原哲雄、大九明子、入江悠、本広克行、荻上直子、吉田照幸、ジョン・ウーなど。

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