全米を縦横無尽に駆け抜けた史上最高齢の「運び屋」は、なぜその道を選んだのか?
ハリウッドのレジェンドが復帰作として挑んだのは、かけがえのない一人の男の物語だった。
クリント・イーストウッドはハリウッドの…いや、世界の映画の生ける伝説だ。ハリウッド俳優には、監督やプロデューサーなどを兼業して二刀流をこなす人は多い。だが、彼ほど両刀の切れ味が鋭い人は稀だろう。まさに俳優と監督の両方でテッペンをきり獲った達人だ。
その達人が久しぶりの復帰作として選んだのが、空前にして絶後の自動車狂走劇。実在した麻薬の運び屋をモデルとした作品だ。―と言っても、ド派手なカーアクション映画では決してない。シリアスなギャング作品でもない。そこには家族の愛に渇望し、自己の人生を悔やんでやまない哀愁の男の姿があった。
主人公のアール(クリント・イーストウッド)は、齢九十になろうとする老人だ。家族を顧みることなく、ユリの栽培に半生を捧げてきた仕事人。花の品評会で数々の賞を獲得した成功者だが、それが故に家族の反感を買い続け、孤独な老後を過ごしていた。そんなある日、ふとしたことから積荷不明の運送を依頼されたアール。どんな物なのかわからず、依頼人の素性も一切明かされない。若干訝りながらも、そこは持ち前の楽天的な性格で飄々と職務をこなしていくのであった―—。
突拍子もない話の入り口だが、観客は一旦足を踏み入れると、ドンドンとこの荒唐無稽な話に引きずりこまれていく。法の目をくぐって麻薬を密輸するダーティな話なのに、密輸組織のメンバーたちは皆どこかトボけており、なぜか憎めない存在だ。対峙する麻薬捜査官たちは(当たり前だが)大真面目で、そのコントラストが実に絶妙。その捜査官たちのキャスティングがこれまたスゴい。先日のアカデミー賞でもレディ・ガガとのパフォーマンスで話題を振りまいたばかりの名優ブラッドリー・クーパーを配し、その上役には映画『マトリックス』(1999年)以来、日本でもすっかりとおなじみになったローレンス・フィッシュバーンを起用するなど、この上なく贅沢な布陣だ。(これもイーストウッドならばでは?)
色々な視点で見どころを語れる本作だが、一番のダイナミズムは家族愛の再生だろう。アールは自身が原因で家族から見放されたことを、常に後悔し続けてきた。いつの日か修復を願ってきた彼が一連の騒動の中で辿り着いた結末に、観客は皆心の中で喝采を送るに違いない。じわりと、しかし着実に沁みる作品だ。
映画『運び屋』予告篇 (特報2)
映画『運び屋』本編映像 “Need help sir?”
映画作品情報
《イントロダクション》『アメリカン・スナイパー』(2015年)『ハドソン川の奇跡』(2016年)に続き、全米興収1憶ドル突破! アカデミー賞受賞監督クリント・イーストウッド監督・主演最新作にして、前代未聞の実話。 巨大麻薬組織から一目置かれ、1度に13億円のドラッグを運ぶ“伝説の運び屋”の正体は…90歳の老人だった。 警察と麻薬組織を翻弄し続け、巨額の報酬を得た彼は果たして逃げきれるのか? ブラッドリー・クーパー、アンディ・ガルシア他豪華キャスト共演、実話サスペンスの傑作が誕生した。 |
《ストーリー》90歳になろうとするアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は金もなく、ないがしろにした家族からも見放され、孤独な日々を送っていた。 ある日、男から「車の運転さえすれば金になる」と持ちかけられる。なんなく仕事をこなすが、その仕事、メキシコ犯罪組織によるドラッグの運び屋だった… やがて、気ままな運転で大量のドラッグを運び出し、多額の報酬を得るが、麻薬取締局の捜査官(ブラッドリー・クーパー)の手が迫る…… |
邦題: 運び屋
監督・出演: クリント・イーストウッド
脚本: ニック・シェンク
© 2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
2019年3月8日(金)全国ロードショー!