- 2016-12-1
- トロント国際映画祭, 映画レビュー, 映画作品紹介, 第29回 東京国際映画祭
映画『フィクサー』
(英題:The Fixer / 原題:Fixeur)
メディアの凶弾
売春をしていた少女がパリからルーマニアに強制送還された。事件を取材するTVクルーを手伝う記者は手柄を立てようと張り切るが、少女への面会は難航し、記者の前にヨーロッパの闇が立ちはだかる…。
第29回 東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門に出品された、ルーマニアの注目作家が実話を元にヨーロッパの少女売春の闇を描いたルーマニア=フランス合作映画『フィクサー』(英題:The Fixer / 原題:Fixeur) を紹介する。
自分は悪い人間ではない。しかし不意に、自分でも気づかぬうちに、人としての道を踏み外しているのではないかと感じて怖くなる瞬間がある。
主人公がそれを感じたとき、彼は困惑していた。何が正しいのかわからなくなっていた。
そのとき観客は、真実や職業倫理、モラルとは何かを考えてしまうだろう。そしてその問題が事実なら怒りも覚えるだろう。
ジャーナリストである主人公は、未成年者買春について調べている。彼は見習いの立場というだけでなく、家庭でも問題を抱えている。つまりこの事件は、国際的なスキャンダルであると同時に、自分自身の価値を証明するチャンスでもあった。そんな彼が調査を進めていくにつれ、真実や職業倫理やモラルの問題にぶち当たることになり、息子との関係にも影響を及ぼしていくことになる。
監督のアドリアン・シタルは、2007年の短編作品『Waves』(原題:Valuri/2007年)がロカルノ国際映画祭のGolden Leopard of Tomorrow部門で受賞。長編デビュー作『Hooked』(原題:Pescuit sportiv/2008年)が第64回ヴェネチア国際映画祭で上映され、ルーマニア映画界におけるポスト共産主義時代の新鋭として評価を確立。
第66回ベルリン国際映画祭で上映され、CICAE(国際アートシアター連盟)賞を受賞した前作の『lllegitimate』(2016年)と共通して、本作でも“モラルの危うさ”といったテーマを描いている。
アドリアン・シタルの巧みなところは、日常の生活からデリケートな社会問題に発展していく様子が、非常にリアル且つスリリングに描かれている点である。
主人公を通してその事実を知り、迷い、怒り、考えるうちに、いつの間にか自己投影していることに気づくと、それは心地良い満足感になった。
主人公のラドゥを演じるトゥドル・アロン・イストドルは、この役どころを見事に演じている。その眼差しや佇まいに、実に普通で、繊細な人間味を感じさせる演技である。彼の非常に細かい演技も、この作品の魅力のひとつである。
[ライター: 後藤 直樹]
第29回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『フィクサー』記者会見
コンペティション部門 『フィクサー』記者会見
The Fixer [ Fixeur ] Press Conference
■開催日: 2016年10月31日(月)
■会場: TOHOシネマズ六本木 スクリーン6
■登壇者: アドリアン・シタル(監督/脚本)、トゥドル・アロン・イストドル(俳優)
映画『フィクサー』(The Fixer) 予告篇
映画作品情報
第29回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 出品作品
英題: The Fixer
原題: Fixeur
監督・脚本: アドリアン・シタル (Adrian Sitaru)
脚本: クラウディア・セィリシュテアヌ (Claudia Silisteanu)
撮影監督・プロデューサー: アドリアン・セィリシュテアヌ (Adrian Silisteanu)
出演: トゥドル・アロン・イストドル、メフディ・ネボウ、ニコラ・ヴァンズィッキ、ディアーナ・スパタレスク、アドリアン・ティティエニ、クリスティアン・イリンカ、アンドレーア・ヴァシレ