映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) レビュー
【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour)メインカット

映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour)

崖っぷちのイギリスが国家の存亡を託したのは、英国一不遜にして傲岸な男
悪の枢軸には決して屈しない― 誇り高き理想を追求した宰相が下した世紀の決断とは?

1939年のナチス・ドイツのよるポーランド侵攻後により勃発した第二次世界大戦。瞬く間にヨーロッパはナチスに蹂躙された。連合国の主力である英仏両軍はドーバー海峡のダンケルクまで追い詰められ、その運命は風前の灯火。兵力は英仏あわせて35万人で、これを失えばナチスのハーケンクロイツの旗が欧州全土を覆いつくすことは火を見るよりも明らかであった。

【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) 場面カット

そのような状況下、奇跡の大逆転劇を演じた英国の首相チャーチルをクローズアップしたのが本作『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』だ。昨年、クリストファー・ノーランによって映画化されたダンケルクの撤退戦(通称ダイナモ作戦)。世紀の大救出と呼ばれたダイナモ作戦を丁寧に描いた傑作はまだ記憶に新しいが、その前日譚とも言うべき本作も震えの止まらない圧倒的なドキュメンタリーとなっている。

【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) 場面カット

ただ、チャーチルは聖人君主と呼べるような一筋縄の英雄ではない。いや英雄と呼んでいいかどうかすら怪しい。その経歴と行動を見ると、軍人としては凡将ともいえるし、権謀家としては巨魁ともいえるし…そして政治家としてはある種の大奸物ともいえる。そのような明快で実直な善人とは言い難い人物が、結果としてファシストからヨーロッパを救うことになった― このあたりが本作の面白さではないだろうか。

【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) 場面カット

そんなアクの強い宰相を演じたのはハリウッドきっての演技派ゲイリー・オールドマン。チャーチル本人とは似ても似つかないスマートな風貌の彼が、特殊メイクの助けを借りて完璧にコピーした演技は非常に高い評価を受け、数々の映画賞を総ナメにした。

【写真】Gary Oldman, winner of the award for best performance by an actor in a leading role for "Darkest Hour", poses in the press room at the Oscars on Sunday, March 4, 2018, at the Dolby Theatre in Los Angeles. (Photo by Jordan Strauss/Invision/AP)

つい先日行われた第90回アカデミー賞®でも、みごと主演男優賞を戴冠したのは記憶に新しいところだ。(ゲイリーは、意外にもこれがオスカー初受賞)本人とウリ二つのビジュアルだけでなく、貴族出身独特の横柄さ、大きな特徴であった猫背、長舌をふるう演説…ゲイリーは、チャーチル当人以上にチャーチルであり続け、歴史の激動期を泳ぎ、転換期を導き出した傑物を見事に私たちの前に再来させた。

【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) 場面カット

本作を観ていると、国家の最高権力者がナチスの巨大な戦力を直視せず、妄信的に自己を信じあるべき論に固執する姿は非常に危うく見え、一歩間違えばイギリスという国は現在に存在しなかったかも…と思ってしまう。実際、物語の後半は自信家のチャーチルといえど迷いが生じ、“和平という名の降伏”を選ぶべきか否か、苦悩する。それを打破したのが他ならぬイギリス国民の声であり、徹底抗戦とダンケルク救出作戦の決行を決意するのだが…わずか120分のフィルムに収められた1ヵ月足らずの出来事なのに、とにかく浮き沈みが激しい。まさに失敗と成功を繰り返したチャーチルの人生の縮図であり、生半可な役者がこの役を務めるのは困難であったはずだ。

【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) 場面カット

わざわざ特殊メイクを駆使してまでゲイリー・オールドマンを起用したのは、集客のため彼の名声が必要だったからではなく、その卓越した演技力が不可欠であったからに違いない。様々な顔を持つチャーチルには、数多くの役を演じてきたゲイリーのキャリアがまさにうってつけであり、最高の結合だったのだ。

 [ライター: 藤田 哲朗]

映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(Darkest Hour) ポスタービジュアル

第75回 ゴールデン・グローブ賞
主演男優賞<ゲイリー・オールドマン>受賞!
 
第90回 アカデミー賞® 
主演男優賞<ゲイリー・オールドマン>、メイクアップ&ヘアスタイリング賞<辻一弘他3名>受賞!
 
第71回 英国アカデミー(BAFTA)賞
主演男優賞<ゲイリー・オールドマン>、メイクアップ&ヘア賞<辻一弘他3名>受賞!
 
 
原題: Darkest Hour
監督: ジョー・ライト 
出演: ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン
2017年 / イギリス / 125分 / ユニバーサル作品
配給:ビターズ・エンド/パルコ

© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

2018年3月30日(金)
TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @churchill_movie
公式Facebook: @churchill.movie

この記事の著者

藤田 哲朗映画ライター・愛好家

大手出版取次会社で20代後半より一貫してDVDのバイヤー/セールスの仕事に従事する。
担当したクライアントは、各映画会社や映像メーカーの他、大手のレンタルビデオチェーン、eコマース、コンビニチェーンなど多岐にわたり、あらゆるDVDの販売チャネルにかかわって数多くの映画作品を視聴。
プライベートでも週末は必ず都内のどこかの映画館で過ごすなど、公私とも映画づけの日々を送っている。

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

YouTube Channel

【バナー画像】日本アカデミー賞
ページ上部へ戻る