- 2018-4-8
- アカデミー賞, ゴールデングローブ賞, 映画レビュー, 映画作品紹介, 英国アカデミー賞
崖っぷちのイギリスが国家の存亡を託したのは、英国一不遜にして傲岸な男
悪の枢軸には決して屈しない― 誇り高き理想を追求した宰相が下した世紀の決断とは?
1939年のナチス・ドイツのよるポーランド侵攻後により勃発した第二次世界大戦。瞬く間にヨーロッパはナチスに蹂躙された。連合国の主力である英仏両軍はドーバー海峡のダンケルクまで追い詰められ、その運命は風前の灯火。兵力は英仏あわせて35万人で、これを失えばナチスのハーケンクロイツの旗が欧州全土を覆いつくすことは火を見るよりも明らかであった。
そのような状況下、奇跡の大逆転劇を演じた英国の首相チャーチルをクローズアップしたのが本作『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』だ。昨年、クリストファー・ノーランによって映画化されたダンケルクの撤退戦(通称ダイナモ作戦)。世紀の大救出と呼ばれたダイナモ作戦を丁寧に描いた傑作はまだ記憶に新しいが、その前日譚とも言うべき本作も震えの止まらない圧倒的なドキュメンタリーとなっている。
ただ、チャーチルは聖人君主と呼べるような一筋縄の英雄ではない。いや英雄と呼んでいいかどうかすら怪しい。その経歴と行動を見ると、軍人としては凡将ともいえるし、権謀家としては巨魁ともいえるし…そして政治家としてはある種の大奸物ともいえる。そのような明快で実直な善人とは言い難い人物が、結果としてファシストからヨーロッパを救うことになった― このあたりが本作の面白さではないだろうか。
そんなアクの強い宰相を演じたのはハリウッドきっての演技派ゲイリー・オールドマン。チャーチル本人とは似ても似つかないスマートな風貌の彼が、特殊メイクの助けを借りて完璧にコピーした演技は非常に高い評価を受け、数々の映画賞を総ナメにした。
つい先日行われた第90回アカデミー賞®でも、みごと主演男優賞を戴冠したのは記憶に新しいところだ。(ゲイリーは、意外にもこれがオスカー初受賞)本人とウリ二つのビジュアルだけでなく、貴族出身独特の横柄さ、大きな特徴であった猫背、長舌をふるう演説…ゲイリーは、チャーチル当人以上にチャーチルであり続け、歴史の激動期を泳ぎ、転換期を導き出した傑物を見事に私たちの前に再来させた。
本作を観ていると、国家の最高権力者がナチスの巨大な戦力を直視せず、妄信的に自己を信じあるべき論に固執する姿は非常に危うく見え、一歩間違えばイギリスという国は現在に存在しなかったかも…と思ってしまう。実際、物語の後半は自信家のチャーチルといえど迷いが生じ、“和平という名の降伏”を選ぶべきか否か、苦悩する。それを打破したのが他ならぬイギリス国民の声であり、徹底抗戦とダンケルク救出作戦の決行を決意するのだが…わずか120分のフィルムに収められた1ヵ月足らずの出来事なのに、とにかく浮き沈みが激しい。まさに失敗と成功を繰り返したチャーチルの人生の縮図であり、生半可な役者がこの役を務めるのは困難であったはずだ。
わざわざ特殊メイクを駆使してまでゲイリー・オールドマンを起用したのは、集客のため彼の名声が必要だったからではなく、その卓越した演技力が不可欠であったからに違いない。様々な顔を持つチャーチルには、数多くの役を演じてきたゲイリーのキャリアがまさにうってつけであり、最高の結合だったのだ。
[ライター: 藤田 哲朗]
映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』予告篇
映画作品情報
主演男優賞<ゲイリー・オールドマン>受賞!
主演男優賞<ゲイリー・オールドマン>、メイクアップ&ヘアスタイリング賞<辻一弘他3名>受賞!
主演男優賞<ゲイリー・オールドマン>、メイクアップ&ヘア賞<辻一弘他3名>受賞!
監督: ジョー・ライト
出演: ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン
2017年 / イギリス / 125分 / ユニバーサル作品
配給:ビターズ・エンド/パルコ
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TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
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