映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督インタビュー
【写真】映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督

映画『修道士は沈黙する』
ロベルト・アンドー監督来日インタビュー!

ある1人の人間の権力に対する挑戦を描いた物語
鬼才ロベルト・アンドー監督がリアリズムを追求した社会派サスペンス

バルト海に面したリゾート地の高級ホテルで開かれるG8の財務相会議の前夜に事件が起こる。天才エコノミストである国際通貨基金(IMF)のダニエル・ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)専務理事は、自身が招いた厳格な修道士ロベルト・サルス(トニ・セルヴィッロ)に告解をした後に死亡した。自殺か他殺か。貧富の差を残酷なまでに拡大する世界市場の再編成の決定の行方を『ローマに消えた男』(2013年)のロベルト・アンドー監督が「物質主義 vs 精神主義」の構図とリアリズムを追求して描いている。

【画像】映画『修道士は沈黙する』メインカット

日本での公開に際して来日したロベルト・アンドー監督に本作の背景について話を伺った。

―― 『修道士は沈黙する』の作品情報を拝見して、かたや厳格な修道士、かたやG8に集まる各国の財務大臣たちという、少し遠い世界の物語かと思って観ました。

『修道士は沈黙する』は、難しく考えなくても楽しめる作品になっていますので、「西部劇」を観るような気持ちで観ていただけたらと思います。

―― 今回、この『修道士は沈黙する』という社会派サスペンスを描かれた経緯をお聞かせください。

世界の裏側にいる人物について描きたいと思いました。経済や世界を動かしている人間たちの映画を撮りたいと思ったのです。また、彼らだけを描くのではなくて、彼らを驚かせるような人物も登場させようと思いました。それが、彼らの前に突然現れる旅人の訪問者です。その訪問者というのは、彼らのうちの1人に告解をするために呼ばれた人物であるというところから、この映画作りがはじまりました。

【写真】映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督

―― 修道士ロベルト・サルス役のトニ・セルヴィッロに脚本が当て書きされています。彼は俳優として役を演じるだけではなく、映画作りにも初期から深く関わっています。どういう風に修道士の人物像を作り上げられたのでしょうか。

トニ・セルヴィッロとの関係は親しい友人なんです。この修道士の人物像を作るに当たって、色々と修道士に関して調べました。本を読んだりして、彼と一緒にアイデアを出し合ったり、それについて話し合ったりしながら、修道士の人物像を作っていきました。この役は沈黙を守る修道士なんですけれども、役者にとって沈黙は特殊なことになります。通常では、役者は語ることで表現するわけですから。ところが、この修道士は沈黙を通じて表現をしていきます。修道士の視線を通じて、彼の人間性を現していくという役柄です。ですから、いつものように書籍を読んだり、他の映画を参考にしたり、直感に導かれたりしながら、人物造形を行ないました。トニ・セルヴィッロは役作りのために断食も試みているのですよ。撮影のときも食事の量を減らして、少ししか食べていませんでした。

【画像】映画『修道士は沈黙する』場面カット1

―― この『修道士は沈黙する』を観ると、観客は俳優のトニ・セルヴィッロが本物の修道士のように見えるのではないかと思います。フィクションなのにドキュメンタリーのようにも感じました。私たちの知らない世界を垣間見ることができます。サスペンスでは、大きな動きがある作品もある中、事件が淡々と起きているような印象を受ける背景を教えてください。

そういう風に冷たいトーンで描きたかったのです。実際に悲劇的なことが起きるのですけれども、この作品に登場するG8の大臣たちは非常に感情が欠けています。そういった冷たい世界を描きたかったので、こういう淡々としたトーンになっています。

【写真】映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督

―― 冷たいトーンの中にも、ときには鳥や動物たちが存在し、修道士を理解しようとする人間も現われてきます。冷たい世界の中から、人としての暖かさも見えてきます。こういった寒暖のコントラストはどういう理由から描かれたのですか。

この大臣たちは、大きなキーパーソンであるロシェの死に対して適応力がありません。どう対応して良いのか分からないわけです。彼らはロシェと修道士の告解をコントロールするために、2人が何を話したのか非常に気になって知ろうとします。一方、女性の登場人物たちは、修道士に好奇心をもって人間的に近づいて、最終的には他の大臣たちとは違う道へ向かいます。動物に関しては、強い生命力を現しています。動物たちの存在によって、「この世界に生きている生き物は人間だけではないんだ」ということも現しているのです。ですから、人間ではないものという意味の生き物としての動物なのです。

【画像】映画『修道士は沈黙する』場面カット6

―― 今のお話を聴いて、ラストのシーンにグッとくるものがあります。

どうしてグッときたのでしょうか。話してください。

―― はじめの修道士が登場するシーンから、ずっとサスペンスの緊張感が続いていたのですけれども、ラストのシーンでは、その緊張感がホッと解れて、この映画の物語を全て受けとめられる余裕が生まれたからです。ホッと息が吸えました。

そうですか、それは良かったです(笑)。

【写真】映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督

―― このロケ地は実際にG8が開催された場所(2007年にG8が開催されたドイツのハイリゲンダム)だと聞いています。海や建物などがこの作品を支えているように感じました。この場所を選ばれた理由を教えてください。

このロケ地も主人公の1人であると言えるでしょう。この場所は非常に重要な場所で、主人公でもあり、大臣たちと修道士が対決をする舞台でもあります。このホテルの特質として、ガラス張りであるとか、差し込む光や海などの自然があります。ここに世界からある意味で隔離された人々が集まってくるわけです。世間から非常に離れたところにいるということも大事だと思いました。海の桟橋も良い味を出しています。こういった場所がサスペンスの場所になっていて、その中を修道士たちが部屋から廊下を伝って動いている様子や会議室やプールなどもとても重要だと思って選びました。

【画像】映画『修道士は沈黙する』場面カット2

―― 大臣たちは8カ国を代表した国や文化が異なる人々ですけれども、映画の中では、経済というテーマで非常に連携している感じや一体感を感じました。同じ建物で寝泊りをして撮影をされていたそうですが、そういった環境から連帯感が生み出されたのでしょうか、それともロベルト・アンドー監督の演出なのでしょうか。

大臣たちのまとまった感じが必要だったのです。彼らが動かす経済の特質として、何らかの決定を下す際には、全員の一致が必要なんです。告解と同じように、彼らも秘密を守らなければならないのです。そういう特質があるために、全体がまとまった感じになっていなくてはいけないのですね。実際に撮影のときには、大臣を演じている役者たちはいつもみんな一緒にいました。そして、トニ・セルヴィッロだけが別行動をしていました。

【画像】映画『修道士は沈黙する』場面カット4

―― 原題が告解(複数形)なのですが、日本では、「告解」について馴染みがない人もいるので『修道士は沈黙する』という題名はこの作品をイメージしやすいと思いました。イタリアや西洋とは少し異なる文化圏の観客に向けて、ひと言メッセージをお願いします。

『修道士は沈黙する』は、「ある1人の人間の権力に対する挑戦を描いた物語」です。ぜひご覧になってください。

―― 今の私たちにとっても必要な作品だと思います。

その言葉をありがたく頂戴いたします。

【写真】映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督

イタリアの鬼才ロベルト・アンドー監督は、子どもから大人まで『修道士は沈黙する』を楽しむための説明を丁寧に語ってくれた。ワンシーンワンシーンの映像美やサスペンスを活かす音楽が、多くは語らない主人公の修道士の表現を描き出している。誰もが、この経済や世界を動かす人々を垣間見ることのできる社会派サスペンスである。今の私たちに重要な示唆を与える貴重な作品である。2018年3月17日(土)より、Bunkamuraル・シネマ他全国にてミステリアスにロードショー中である。

 [インタビュー: おくの ゆか  / スチール撮影: 久保 昌美]

プロフィール

監督・脚本・原案
ロベルト・アンドー (Robert Ando)

1959年、イタリア、パレルモ出身。フランチェスコ・ロージ、フェデリコ・フェリーニなど名だたる映画監督の助監督を務める。2000年にジュゼッペ・トルナトーレ製作の映画『Il manoscritto del Principe』(未)で長編監督デビュー。その後、オペラや舞台の演出を多く手掛け、携わった作品はオペラ17作品、舞台14作品に及ぶ。2000年にはフランチェスコ・ロージのドキュメンタリー映画『Il cineasta e il labirinto 』(未)を監督。その後も、カンヌ国際映画祭のクロージングを飾った『そして、デブノーの森へ』(2004年)や『Viaggio segreto』(2006年/未)と次々に作品を発表。『ローマに消えた男』(2013年)で、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞2013最優秀脚本賞をはじめとした数多くの賞を国内外で受賞。

【写真】映画『修道士は沈黙する』ロベルト・アンドー監督

映画作品情報

【画像】映画『修道士は沈黙する』ポスタービジュアル

《ストーリー》

バルト海に面した高級リゾート地ハイリゲンダムで開催される G8財務相会議の前夜、国際通貨基金専務理事のダニエル・ロシェは各国の財務相に加えて、異色の3人のゲストを招いて自身の誕生祝いを開催する。会食後にロシェはゲストの一人、イタリア人修道士ロベルト・サルスを自室に呼び、告解をしたいと告げるがその翌朝、ビニール袋を被ったロシェの死体が発見される。自殺か他殺か?告解を受けたサルスは口を噤む中、警察の極秘捜査が続けられていく。発展途上国の経済に大きな影響を与えかねない重要な決定を発表する記者会見の時間が迫ってくる。各国財務相の政治的駆け引きに巻き込まれたサルスは、ロシェの葬儀で自らの思いを語り始めるのだった。

 
イタリア映画祭2017 出品作品
第51回カルロヴィヴァリ国際映画祭 コンペティション部門出品
イタリア映画記者協会賞2016 最優秀撮影賞受賞
ゴールデンCIAK賞2016 美術賞ノミネート 
ダヴィッド・ディ・ドナテッロ2017 主演男優・脚本・プロデューサーノミネート
 
原題: Le confessioni
 
監督・原案・脚本: ロベルト・アンドー
 
出演: トニ・セルヴィッロ、ダニエル・オートゥイユ、コニー・ニールセン、モーリッツ・ブライプトロイ、マリ=ジョゼ・クローズ
 
配給: ミモザフィルムズ
後援: イタリア大使館 / 在日フランス大使館 / アンスティチュ・フランセ日本
特別協力: イタリア文化会館
協力: ユニフランス
2016年 / イタリア=フランス / イタリア語・仏語・英語 / カラー / 108分 / シネスコ / ドルビーデジタル / 字幕:寺尾次郎
© 2015 BiBi Film-Barbary Films
 
2018年3月17日(土)より
Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @shudoshi_film
式Facebook: @shudoshifilm
 

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