藤井道人監督 インタビュー
茉莉と和人の10年を人間ドラマとして描く
第43回日本アカデミー賞において映画『新聞記者』(2019年)で最優秀作品賞含む6部門受賞を受賞した藤井道人監督が初めて恋愛映画に取り組んだ。切なすぎる小説としてSNS等で反響が広がり続け、すでに65万部を突破している同名小説(小坂流加著/文芸社文庫NEO刊)を原作とした映画『余命10年』である。
数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知り、恋はしないと誓った主人公が同窓会をきっかけに再会した青年と恋に落ちる。主人公・茉莉役を小松菜奈、その茉莉と恋に落ち、茉莉を変えていく青年の和人役を坂口健太郎が演じている。小松と坂口はW主演で初共演を果たした。
藤井道人監督にメガホンを取ることになったきっかけから、撮影コンセプト、主演2人のキャスティング、RADWIMPSが手掛けた主題歌について聞いた。
1年掛けて撮ったので四季が変わると空気が変わり、色が変わる
—— これまでに監督が手掛けていらした作品とは雰囲気がかなり違うので驚きました。監督オファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。
2018年にオファーをいただきました。恋愛映画というジャンルは初めてでしたし、余命ものは避けてきたというか、自分が選んでやりたいと思っていたジャンルではなかったので、最初はなぜ自分にオファーが来たんだろうと思いました。ただ、ワーナーの関口大輔プロデューサーと楠千亜紀プロデューサーから原作者の小坂さんの人生をお聞きし、原作をそのまま映画化するのではなく、小坂さんが生きた証と小説が混在するような、ノンフィクションとフィクションの境目みたいな作品が撮れたらという言葉をいただき、難しそうだからこそやり甲斐があると思い、お引き受けしました。
—— カメラマンの今村圭佑さんにもお話をうかがったのですが、最初はドキュメンタリータッチで撮ろうとしていらしたそうですね。
脚本に書かれているニュアンスから今村が感じ取ったのでしょうね。今村には脚本を渡すだけなんです。俳優部にラブレターのように脚本を渡すのと同じ。彼はただの撮影カメラマンではなく、アーティスト。僕は彼に「引き」「寄り」「手元」としか言いません。彼が持っている感覚をなるべく尊重したいと思っています。彼がチョイスした引きが自分のものとは違っても、まずはそれを撮ってもらう。その後に「こっちからの引きも撮ってほしい」と伝えれば、彼も「それが欲しいのね」と理解してくれます。15年一緒にやっていますから。
—— 15年もご一緒していると、この脚本ならこう撮るみたいなことがお互いにわかってしまうものなのでしょうか。
この2~3年はチャレンジを意識しています。“今までだったら、これはこう撮るだろうな”ということはしない。今村は変わりたいと思っているし、僕自身も「藤井さんの脚本はいつもこんな感じ」と思われないように毎回、手を変え、品を変えて出しています。僕たちにはそれを受け止められる信頼関係があると思っています。
—— 今回はどんなチャレンジがあったのでしょうか。
1年掛けて撮影したいとワーナーさんに伝えましたが、それがいちばん大きなチャレンジでしたね。四季が変わると空気が変わり、色が変わる。それをカメラマンの今村がどう調整し、衣装はどういう風に変わっていくのか。まずはみんなに宿題として考えてもらい、それを僕が受け止める。 撮り方で言えば、まずは自然に映っているもの。雪、桜、銀杏、夏の海の日差し。生きているものたちをキャラクターの心情にどう寄り添わせて撮るか。それをすごく考えましたね。
—— 桜が美しかったです。ロケーションにはかなりこだわられたのでしょうか。
制作部がロケ地を探してくれるのですが、いくつも見て、ここでは広い、ここは狭い、ここは桜が少ないといろいろな条件をクリアして、やっとあそこに決まりました。
—— 映画はスタッフみなさんの総合力ですね。
監督は「これを撮りたいんです」というだけ。各部署のリーダーたちが責任持ってクリエイティブに向かってくれるので、それをしっかり受け止め、まとめ上げるのが僕の仕事なのかなと思っています。
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