映画『太陽を掴め』
プロデューサー・髭野 純 インタビュー
裏方としても支え続けた男の真実
第29回 東京国際映画祭(TIFF)日本映画スプラッシュ部門で上映され、12月24日(土)に劇場公開を迎えた新鋭・中村祐太郎監督が描く青春群像映画『太陽を掴め』。この映画の製作、劇場公開の立役者であるプロデューサーの髭野 純さんに映画製作に賭けた思いと製作秘話を伺った。
―― まず、映画『太陽を掴め』が完成し、初めて観た時の率直な感想をお願いします。
室内での撮影も多く、カメラ横に入ることがほとんどなかったため、編集を始めるまで画(撮影した映像)をほとんど確認していなかったのですが、画を繋いでみて初めて観た時「あ…映画だ!」という感動と安堵がありました。
中村監督は、これまでの作品において自身で撮影も担当していましたが、今回は初めてプロの撮影技師の方(ベテランの鈴木一博さん)にお願いして、撮影を務めていただきました。
現場の雰囲気としてはコミュニケーションも取れていて、中村監督もしっかりやれているように見えました。僕自身も現場には行っていましたが、少人数でやっていたこともあり中村監督の近くにいて「あれやれ、これやれ」と指示する立場ではなかったので、現場はすべて監督に任せていました。
僕が現場で一番の素人なのでそれはいろいろ言うべきではなく、現場は監督のものだと思っているので、中村監督には演出に集中してもらって自分はトラブルが起きた時のケアや現場状況の把握とか、基本裏方に回っていました。
自分の中で映画は画の力が重要だと思っていて、中村監督の作品は過去の出演者の方からも指摘されていたのですが、カメラ(撮影)自体が演出みたいな感じなんです。そのため、大ベテランの鈴木さんとはいえ心配もありましたが、結果とても良かったです。そもそも、撮影が終わったこと自体も奇跡的な状況でした…(笑)。
―― そんなに切羽詰まっていたんですか!?
自分自身の力不足が原因ですが、詰まってましたね。
2016年の1月から撮影と言っても、前年の年末くらいまで本当に撮影できるのか…って感じでした。年末年始にいろいろあって、撮影できないかもっていう問題が生じて…。
―― 映画製作に専念するため、在籍されていた会社を辞めたというのはその頃でしょうか?
その頃はまだサラリーマンで、正式には会社を辞める前ですが、映画に賭けるため退職届を出した後でした。やっぱり中には「中止して、また企画を練り直そう」という意見もありました。でも、撮影の鈴木さんは「いや、どうにかしてやろうよ。やる方法を探そう、本当にやれないの?」って言ってくれて、他のメインスタッフからも「ここで髭野さんが諦めたらついていけないよ!」って叱咤もありつつ前向きな意見で。
スタッフからしても助手も付けてないキツキツの状態だったのに、それでも僕なんかのためにではないですけど、お金どうこうというところを超えて、“中村組のために、映画のためにやる”という心意気をぶつけられて、自分も監督もまた立ち上がることができました。
―― そもそも、この映画を製作することに至った経緯はどんなところからですか?
2015年の夏にIndieTokyoという団体のイベントにスタッフとして参加していて、イベントの前座のコーナーで注目の若手監督として紹介される形で中村監督がゲストで来ていたんです。初対面なのに、いきなり到着したら 「ウェイウェイ」とか言いながら、やたら近い距離まで詰めて来られて(笑)。
何だこいつ って思ってたんですけど、この時すでに東京学生映画祭のグランプリを獲ったりしていて注目を浴びていたので、映画祭の打ち上げの時にみんながワイワイしている中、端の方の席でサシで「少し出資するから映画をやろうよ」と提案しました。
その場で「やろうやろう!」と盛り上がって。後日、具体的に中村監督から吉村界人という俳優と映画をやりたいと考えていると言われて、そこから「3人でやろう!」って始まりました。
―― どんな映画を作りたいとかあったんですか?
中村監督からは「吉村界人を尾崎豊みたいなモチーフで歌わせたい」というコンセプトがあって。自分は「中村祐太郎の新作が観たい」という気持ちだけでしたね(笑)。
自分は、良くも悪くも“こういうメッセージの映画を作りたい”というのがあまりないんです。監督とキャスト、スタッフの組み合わせを考えたり、脚本を改訂する上での指摘などはしますが、映画監督になりたいという感覚もあまり無くて。
今回、中村監督とはキャストやスタッフを決めていく上で、意見の相違がほとんどありませんでした。今後も映画を作れるのであれば、監督と価値観が合うかどうかは非常に重要ですね。
―― この映画を主にどんな層の方に観てもらいたいですか?
主に10代、20代の女性に観てほしいです。
中村監督の映画は、その客層の方々が観るきっかけがあまり無いのかなと思うので。今回はキャストをきっかけにでも良いので、是非劇場に足を運んでみてほしいですね。
中村祐太郎と吉村界人、2人の熱量を“ドンッ”と詰め込んだ作品なので、そこから何かを感じ取ってもらえれば成功だと思います!
―― 最後に、これから作っていきたい映画など、今後の展望を是非お聞かせください。
中村監督が『太陽を掴め』の前に製作した中編映画『アーリーサマー』(2016年)がシンプルながら非常に素晴らしい作品だったので、中村監督とまた組むとしたら、原点回帰して多摩美時代に製作していたような小規模な作品も改めて作ってみたいと思ってしまっています。他にもインディペンデントで活躍している若手の監督と、組んでみたいですね。
[インタビュー: 瑞慶山 日向 / スチール撮影: Cinema Art Online UK]
プロフィール
髭野 純 (Jun Higeno)映画プロデューサー |
映画『太陽を掴め』作品情報
《ストーリー》渋谷のライブハウス。場内は熱気に溢れ、楽屋ではヤット(吉村界人)がステージに向かう準備をしている。ユミカ(岸井ゆきの)とタクマ(浅香航大)はその上の階、ひと気のないフロアで親密そうに話をしている。バンドの音色が漏れ聞こえてくる。もうすぐライブが始まろうとしている。ヤットがステージに立つ。叫ぶような歌声が鳴り響く。元子役で現在はミュージシャンとして活動しているヤット、フォトグラファーのタクマ、タクマの元恋人であるユミカは幼馴染み。タクマが撮る写真は評判よくヤットの人気に繋がっている。一方で、ヤットはユミカに好意を持ち、タクマに対して複雑な感情を抱いているのだった。ユミカもまたヤットのことを気に掛けつつも、タクマとあやふやな関係を続けていた。 タクマがサラ(三浦萌)と家に戻ると、プル(森優作)が上がりこんでいた。タクマは、ハッパのブローカーという裏の仕事に手を出しており、ハッパに依存しているサラとプルはしばしばタクマの部屋で狂乱の夜を過ごしていた。ある日、そこにユミカも訪れて…。 |
2016年12月24日(土)より、
テアトル新宿他、全国順次公開!