吉岡里帆インタビュー
パルバース監督と出逢えたことがとても大きかった。
第二次世界大戦終盤の1945年の沖縄の小さな島を舞台に繰り広げられる非暴力と愛のストーリー「星砂物語」が、原作者でもあるロジャー・パルバース氏の手により日豪合作映画として映画化された。
1967年から日本に滞在し、約半世紀にわたって日本文化に親しみ、文化人との交流を重ねてきた作家であり、脚本家であり、演出家であるロジャー・パルバース氏が72歳で初監督を務めた映画『STAR SAND -星砂物語-』は、2017年に第9回沖縄国際映画祭と第21回キャンベラ国際映画祭での招待上映、全国各地での劇場公開を経て、DVDセル・レンタルが同時リリースされ、iTunes、Google play、Amazon Prime Video、U-NEXT、Video Market、DMM. COM、ひかりTV、J:COMオンデマンド、dTVでも現在配信中。
シネマアートオンラインでは、この映画を現代に生きる一人でも多くの皆様へ是非届けたいと思い、主要キャストを演じた織田梨沙と吉岡里帆、そしてロジャー・パルバース監督の3名にそれぞれインタビューを行った。
映画『STAR SAND -星砂物語-』特集インタビューの第3弾として、物語の現代パートのキーパーソン、卒業を間近に控えた大学生・保坂志保を演じた吉岡里帆さんのインタビューをお届けする。
―― 本作で吉岡さんは現代パートの主役・保坂志保を演じましたが、出演のお話をいただいた際に感じた本作に対する印象をお聞かせください。
台本を読んだときは、ああ、こういう戦争映画もあるんだと、新鮮な風が吹いたような気持ちになった作品でした。日本の戦争映画って、もっと残虐なシーンが盛り込まれていて、日本兵とアメリカ兵の相容れない姿を映し出すものというイメージがありました。すごく悲しい物語だったら撮影するのが苦しいだろうなと思いながら台本を読んでみたのですが、蓋を開けたら全然違う物語でした。戦争は題材なだけで、愛の話、ラブストーリーです。16歳の洋海(織田梨沙)のとてもピュアでまっすぐな、一生懸命生きた証が恋として現れていて、ロマンチックな脚本だなと思って読んでいました。
―― パルバース監督とは、どのようなお話をしながらこの作品に臨んだのでしょうか?
まず脚本を読んですごく興味が沸きました。一回マンツーマンで話をしてみようという形になって、皆さんで食事会をしたんです。お会いした瞬間から「あ、この人と映画を撮りたい」って思うパワーを感じて、どういう想いで日本と向き合ってこられたのか、日本に対する愛、戦争に対する苛立ちや悲しさをすごく強く持っていて、意志の強さを監督から感じ取ったんです。
「戦争は絶対にダメだから!」と思っても、それに対して行動に移す人は私たちの世代では少ないんじゃないかなと思いますが、監督はそういった気持ちに駆り立てられている人というか、使命感のもと、「この映画を撮りたい!」って、70歳を超えて監督をされている。その熱量に背中を押されて、「ああ、やっぱりこの人と映画を撮りたい」と改めて思いました。
―― 吉岡さんがこれまで出演された様々な作品を拝見し、とても深い考察をされながら作品作りに取り組まれていると感じました。本作で演じた志保はいかがでしたでしょうか?
志保が何にも興味がなくてダラダラと過ごしていたこと。卒論間近になってもまだそんな状態であったことに、すごくがっかりした気持ちになったんですね。でも、誰かが与えれば若者の学びたい気持ちだとか、好奇心というのは刺激されていくんだなというのを感じました。彼女はそういうものに出会えたのだと思います。
―― 本作で緑魔子さん、石橋蓮二さんの2人と共演されてみていかがでしたでしょうか?
共演した緑魔子さんと石橋蓮司さんも監督と同じ世代を生きていらっしゃって、銀幕の世界を知っていらっしゃる。映画の役割みたいな話もしてくださいました。それが私にとっては特別な時間でした。本作で演じた志保も過去に生きた人たち、そして生き残って今を懸命に生きている人たちに出会って、その人たちから教えられる。それと同じ心が動く体験を私も現場でさせてもらいました。今のSNSの時代だと誰でも世界中に向けて発信していけると思いますが、洋海は日記の中でしか、何かを表現することができなかったんだろうなと思いました。「だからずっと文字で書いていたんでしょうね」とか、魔子さんとはそんなお話をしました。短い時間でしたけど濃くて、すごく優しい撮影期間でした。
―― 主人公の洋海を演じた織田梨沙さんはいかがでしたでしょうか?とても仲が良さそうですね。
撮影中は同じシーンがなかったので会えなかったのですが、初号試写を皆さんと観たとき、本編で観る洋海が本当に素敵で、洋海が梨沙ちゃんだったから、みずみずしくって、優しい空気が流れているんだなと思えるぐらい彼女のパワーを感じる作品でした。
梨沙ちゃんが演じる洋海は儚さもありますが、その中に芯の強さもあって、パルバース監督が描きたかった戦時中の日本人女性の強さみたいなものをすごく体現されていて、かっこいい姿だなと思って観ていました。目力がすごくて、私は何を観て欲しいかと訊かれたら、織田梨沙が演じた洋海の強さ、ピュアさを観て欲しいと言います。素晴らしかったです。
私、梨沙ちゃんのことを本当に可愛いと思っていて、もう愛おしいですね、お姉ちゃんとして(笑)。
―― 本作の完成版を観て、撮影手法など、これまでに出演した作品と決定的に何か違うと感じるところはありましたか?
私、海外の監督さんとお仕事をするのは今回が初めてだったのですが、日本人的考え方というものを意識しました。日本人的考え方を意識したことはこれまで一度もなかったのですが、普通こう思うとか、ここで恥ずかしいと思うとか、申し訳なく思うとか。日本人の持つ機微みたいなものを自然と感じることだったり、日本人同士の共通認識としてあるようなことも、パルバース監督とお仕事をする時は一つ一つ確認作業がありました。
「このとき、日本人はどれぐらいお辞儀をするのだろうか?」とか、「ありがとう」はどのように伝えるのだろうかとか。髪型一つもそうなんですけど、オーストラリアで過ごされている監督の持つ日本の若者像と私が持っている若者像が違うので、例えば監督が「お財布はポッケに挿してるいんじゃないか?」とおっしゃるんですけど、「女の子は鞄持ち歩くことが多いですよ」というやりとりがあったり。見た目についてもセリフについてもそうでしたけど、すり合わせ作業があったのは新鮮でした。あとは意外と私の方が日本のことを知らなかったんだなと思いました。それもまた面白かったですね。
―― 吉岡さんは今まさに八面六臂のご活躍ですが、同時期にジャンルもテイストもまるで違う作品に出演する機会というのも少なくないと思います。並行して様々な役を演じ分けるにあたり、どんなメンタルコントロールをされているのでしょうか?
人間誰しも、絶対一面だけじゃないと思うんですね。なので、自分もいろんな面を持ち合わせて生きていると思うと、無理に違う面を見せるのではなくて、初めから存在している違う面にも目を向けています。意外とそのままストンと自然体でいて、ちゃんと台本を読む。やっぱり基本、台本にしか書いていないと思うので台本を読み、自分が誰よりもその世界観を信じるという作業をしています。上手くできているかはわからないですが(笑)。
―― 今までの人生経験も役に活きてくると思いますが、吉岡さんがこれまで人生経験を活かし取り組んだ中で、一番手応えを感じたエピソードなどあればお聞かせください。
なぜかわからないけど切ないという気持ちを、私は人間として大事な感情なんだと今も信じています。
嬉しい瞬間もわっと下から湧き上がるような気持ちを、小さい頃からいろんなシーンで体感させてもらったなと。例えば、弟と喧嘩した時にお母さんが本当に悲しんでいて、自分が産んだ子供がいがみ合うなんて絶対に嫌と、感情をちゃんと表に出す母親だったので、それを見て悲しいと思った瞬間だったり、父親が一人で生きていけるように何か軸を与えてあげなければいけないといつも思ってくれていて、教育の節々に言葉をかけてくれていたり、大人になって今思うことがたくさんあります。
父親、母親、祖父母のパワーといった、家族の与えてくれたものは大きいと思っています。やっぱり育ててくれた人が、この子がしっかり生きていけるようにとくれた言葉が作品に活きている瞬間はたくさんあるように思います。
―― 最後に、シネマアートオンラインの読者の皆様にメッセージをお願いいたします。
[取材・撮影協力: ベリーベリースープ 原宿神宮前店]
プロフィール
吉岡 里帆 (Riho Yoshioka)1993年1月15日生まれ。京都府出身。 [スタイリスト:圓子 槙生 / ヘアメイク: 堀口 有紀]
[衣装: ワンピース「HAN AHN SOON」/ イヤリング「e.m」/ リング「COSMO NOSTALGIA」] |
映画『STAR SAND -星砂物語-』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》1945年の沖縄。戦火から遠く離れた小島に渡り暮らし始めた16歳の少女・洋海(ひろみ)は、洞窟で日本軍とアメリカ軍からの脱走兵、隆康とボブに出会う。隆康とボブ、そして彼らの世話を焼く洋海の間には、不思議な関係が築かれてゆく。 ある日、戦いで脚を負傷し、除隊を余儀なくされた隆康の兄・一(はじめ)が、養生のために洞窟にやって来るが、それは悲劇の幕開けだった── 2016年、東京。大学生の志保は、卒業論文のために教授から一冊の日記を手渡される。それは、戦時中に沖縄の小島で暮らしていた少女のものだった。志保は日記を読み、そこに封印されていた過去の出来事にわれ知らず迫ってゆく……。 |
第21回 キャンベラ国際映画祭(CIFF) 正式招待作品
原作: ロジャー・パルバース「星砂物語」講談社刊
主題曲: 坂本龍一
© 2017 The STAR SAND Team
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