二月の黎明号役 朴璐美 インタビュー
1万2000年をかけて地球に来た“未知なる存在”に挑戦
「⽉刊アフタヌーン」(講談社刊)にて連載された今井哲也の傑作SFジュブナイル漫画を劇場アニメ化した映画『ぼくらのよあけ』。舞台は人工知能が普及している西暦2049年夏の日本。小学4年生の主人公・沢渡悠真と仲間たちのひと夏の冒険の物語が描かれる。
⼈⼯知能搭載家庭⽤ロボットのナナコの体を使って悠真たちに語りかけてきた、1万2000年の歳⽉をかけて地球にたどり着いた“未知なる存在”である⼆⽉の黎明号を演じた声優の朴璐美にインタビュー。“とても難しい役”であったという今作での役作りについて話を聞いた。
―― 今作は監督からもオファーを受けてご出演とのことですが、台本を読んだ時の感想を教えてください。
最初に黒川監督から「とても難しい役所なのでよろしくお願いします」という連絡をいただいて、ドキドキしながら台本を開いたのですが、1万2000年という歳⽉をかけ地球に到着した無⼈惑星探査機の⼈⼯知能という、あまりに難しい役所に愕然としました。なぜ私にこの役のオファーが来たのかと少し戸惑いもましたが、台本を読み進めていくうちに物語にぼ没頭していってしまい、責任重大な役だけれどしっかり努めようと思いました。
―― 二月の黎明号の役作りはどのように行われたのでしょうか。
やはり1万2000年という想像のつかない時の流れの中にある孤独、そして人工知能であるということを今の私の度量でどう受け止めたら彼と一緒になれるのかを悩みました。
でも、「(二月の黎明号の)“知りたい”、“繋がりたい”、“伝えたい”という気持ちを持って演じてくれるのは朴さんじゃないかな」と黒川監督の考えがあってのオファーであると後で知りましたが、私もとにかく、そこを大切にしようと思いました。それを表現の上でどう伝えていくかについて、黒川監督とディスカッションを重ねましたね。
―― 監督とすり合わせてみて、自分が思っていたイメージと違っていた部分はありましたでしょうか。
はじめは、もっとナナコのような、悠真たちと年齢感の近い少年のように演じてみたのですが、テストをして悠真たちの声を聴いた時に、もっと異質な感じを出してみたいな、と、ふと思い、今までの自分で出したことも聞いたこともないトーンで喋ってみたところ、黒川監督と「そっちでも面白いかも」という話になり、その方向で進めていくことになりました。
―― これまでの役作りと違った点などはありましたでしょうか。
作品によって役作りのアプローチは違います。意図的に違いを出しているわけではないのですが、自ずと違うアプローチになっていきます。今回は画よりも台本ありきでした。
―― 工夫された点などありましたら教えてください。
二月の黎明号の中に自分がいて、中でキーボードを打った言葉が音として出ているというイメージを持ってみました。
―― 以前にアニメ「NANA」で大崎ナナを演じられた際、「私の中にナナが入ってくるみたい」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。二月の黎明号はいかがでしたでしょうか。
二月の黎明号は、私の今の人生観では追いつかないような役所だったので、一筋縄ではいかないというか、私が追いつかないところだらけで、そこをもう一度やらせてくださいと何回かチャレンジさせていただきながら距離を詰めていきました。
なので、難しかったですね。彼の「知りたい」という知的欲求や、彼が「伝えたい」と言っていた帰省本能….彼自身も答えはまだ見つかっていないと思います。彼の旅はまだまだ1万何千年も続くと思いますので(笑)。
―― アフレコ現場の様子もお聞きしたいのですが、アフレコはどなたかとご一緒もされたのでしょうか。
独りぼっちでしたので、意思の疎通は無かったです(笑)。
杉咲花さんの声は先に入っていたので聴きながら演じましたが、彼女の声は本当に純粋で好奇心にあふれていて悠真そのものでした。
―― 『ぼくらのよあけ』は、感情を揺さぶられるシーンも沢山ありますが、お気に入りのシーンや印象に残っているシーンなどありましたら教えてください。
二月の黎明号の出身星の“虹の根”という名前がとても思いが深くて好きです。あとは水を通じて意志を伝達するという地球の生命体とはまた違う意志の疎通の仕方など設定自体が面白いですよね。それに水の描写がすごく綺麗に描かれていて印象が深いですね。
―― 少年たちのひと夏の思い出の物語でもありますが、記憶に残っているご自身のひと夏の思い出がありましたらお聞かせください。
恋ではないですかね。成就できる恋もあれば、成し遂げられぬ恋もあり、ひと夏の思い出と言えばやはり恋ですね(笑)。
でも『ぼくらのよあけ』は小学生のお話ですから、小学生時代の夏といえば盆踊り大会でした。私の記憶は金魚すくいですね。生暖かい水の中でゆらゆら動く金魚を追いかける背徳感を小学生の自分は感じていました(笑)。
―― 映画のラストは観客に委ねられていると思いましたが、どうなったらいいなと思いますか。
地球で生まれた知的生命体と虹の根で生まれた知的生命体と一緒にまた旅をすることになりますが、いろんな旅をしつくした先で、また悠真が「知りたい、伝えたい、会いたい」という気持ちで何処まで追いかけてきてくれるのかが楽しみですね。
―― 最後に、これから映画を観る方に向けてメッセージをお願いします。
とにかく映像が綺麗なので⼤きなスクリーンで観ていただきたいです。映画が公開される季節は秋ですが、映画の中で思いっきり悠真たちとひと夏を一緒に過ごしていただけたらと思います。
プロフィール
朴 璐美 (Romi Park)1972年生まれ、東京都出身。 桐朋学園芸術短期大学演劇科卒業後、演劇集団円を経て、2017年11月に新たな活動基盤としてLALを設立。 アニメ代表作は「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役、「∀ガンダム」ロラン・セアック役、「進撃の巨人」ハンジ・ゾエ役、「NANA」大崎ナナ役、「BLEACH」日番谷冬獅郎役ほか多数。東京国際アニメフェア2004にて声優賞を受賞、第1回声優アワードでは「NANA」の大崎ナナ役で主演女優賞を受賞。 外国映画作品では、ノオミ・ラパス、ヘレナ・ボナム=カーター、エヴァ・グリーン、レディ・ガガなど多くのハリウッド女優の日本語吹替えを務めている。 2019年東宝ミュージカル「Les Misérables」マダム・テナルディエ役でミュージカル初挑戦。 2022年には舞台「千と千尋の神隠し」で湯婆婆を演じるなど、舞台・アニメ・吹き替え・ナレーション、プロデュースにおけるその活躍は多岐に渡る。 第25回東京国際映画祭 日本映画・ある視点部門出品の映画『あかぼし』(2013年)では実写初主演を務めた。役者として幅広く活躍する傍ら自身が主宰を務めるボイススクール「studio Cambria」では後進の育成にも力を入れている。 |
映画『ぼくらのよあけ』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか︖」 ⻄暦2049年、夏。阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、間もなく地球に大接近するという“SHIII・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。 そんな時、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコが未知の存在にハッキングされた。 「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在は、2022年に地球に降下した際、大気圏突入時のトラブルで故障、悠真たちが住む団地の1棟に擬態して休眠していたという。 その夏、子どもたちの極秘ミッションが始まった― |
第35回 東京国際映画祭(TIFF) ジャパニーズ・アニメーション部門 出品