映画『ANIMAを撃て!』
堀江貴大監督 インタビュー
商業長編デビュー作に込められた“一歩前へ向かう”強い気持ち
横浜藝術大学大学院の修了製作『いたくても いたくても』が絶賛された新時代の才能、堀江貴大監督の商業長編デビュー作『ANIMAを撃て!』が、2018年3月31日(土)より公開された。
「夢に迷うダンサーと夢をあきらめたドラマーとの出会いが生み出す“ANIMA=魂”の躍動」
本作は、若手映像クリエイターの発掘・育成を目的とした企画の第3弾として、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017」のオープニング上映を飾った。シネマアートオンラインでは、堀江貴大監督にインタビューし、その作品の魅力を伺った。
―― 前作『いたくても、いたくても』は、通販番組の中で商品を紹介しながらプロレスをする「通販」×「プロレス」映画でした。今回は「コンテンポラリーダンス」×「ドラム」がテーマの映画です。「何か」×「何か」というのが好きなんでしょうか?
そう言われると、そうなのかもしれません(笑)。もちろん、ただ奇をてらったという意識はなくて、ギリギリ接点のあるものを組み合わせることで、「ん?」と思うようないい意味での戸惑いと、見た時の爽快感が生み出せる映画をつくりたいといつも思っています。前作は、商品をよく見せるために技巧を凝らす通販会社と、己の闘う肉体を見せることで人気を得るプロレスに重なる部分を見つけて脚本を書きました。
―― 今作の「コンテンポラリーダンス」×「ドラム」については?
この二つについては、その身体性に近いものを感じました。コンテンポラリーダンスは型のない自由なダンスで、ドラムを叩いている人の姿はそれ自体がまるで躍動的なダンスのように見えます。この二つを舞台上で共演させたら何かすごい科学反応が起るんじゃないかと思い、かけあわせてみました。それと、ダンスとパーカッションのリズムの相性がいいことも理由の一つとしてあります。
―― 元々「コンテンポラリーダンス」と「ドラム」は好きだったんですか?
コンテンポラリーダンスについては、そうですね。昔横浜に住んでいた時に、横浜はダンスが盛んな街だったので、横浜ダンスコレクションなどのダンスイベントに通ううちにコンテンポラリーダンスに興味を持ちました。その中でも特に印象に残っているのが、コンタクトゴンゾさんというダンスカンパーです。彼らは喧嘩のような、殴りあいや身体のぶつけあいをダンスにする人たちなんです。心と身体をぶつけあい、全身で自分の存在を表現する。それを見て、いつかコンテンポラリーダンスを題材にした映画を撮りたいと思うようになりました。
ドラムについては、僕は音楽はからっきしダメなので、一から勉強しました。ダンス一辺倒ではアート映画のようになってしまうかもしれないと思い、脚本を練る上で「音楽」「ドラム」という要素が思い浮かびました。
―― 劇中のダンサーとドラマーによるパフォーマンスは、心を通わせあうような、お互いが競りあうような、得も言われぬ緊張感があって、見ていてとても興奮しました。振付師と作曲家の尽力に依るところが大きかったかと思います。
そうですね。振付の北川結さんとドラム作曲の守道健太郎さんには大変お世話になりました。お二人はもともと「コンテンポラリーダンス」×「ドラム」のパフォーマンスを実際にダンスイベントで披露されている人たちなんです。僕がこの映画の初稿を書き終えた時に、たまたま立ち寄ったイベントでお二人がパフォーマンスを披露されていて、それがあまりにも衝撃的で、感動する作品だったので、その後の打ち上げに何とか参加させていただき、その場でオファーさせてもらいました。あの時はまさか今から自分がつくろうとしている映画の完成形みたいな人たちが急に目の前に現われるとは思っていなかったので、とにかく驚きました(笑)。その後、本作の制作にお二人がご参加くださり、企画が一気に具体化していきました。演目づくりや演技指導では多大なご協力をいただきました。
―― あのパフォーマンスは、ちなみに踊りが先に決まってからドラムが音をつくるのか、その逆か、制作工程を教えてください。
まず、ドラマーが即興でドラムを叩く。それにあわせてダンサーが踊りを探りながら「あのフレーズがよかった」というふうに伝えて、それを受けたドラマーがまた叩く。北川さんと守道さんは実際にそうやって曲づくりをされていると仰っていました。そうした制作工程はそのまま脚本に反映させていただき、キャラクター設定や演奏シーンに組み込ませてもらっています。
―― 終盤のパフォーマンスシーンは張り詰めた空気が画面のこちら側にまで伝わってきました。テイクはどのくらい重ねたんでしょうか? まさか即興ではないですよね。
あそこは、パートを二つか四つに分けて、それを2回ずつ、2台のカメラでアングルを変えつつ撮影しました。割と見た人たちから「あれって即興なの?」と言われることが多いので、画面の中で舞台上の緊張感を表現することは多少なりともできていたのかなと思います。あとは、すごく分かりづらい部分ではあるんですけど、最初ダンサーが一人で踊っていて、その後にドラマーがやってきて、お互いが顔を見あわせた時に、「今回は準備してきたフリではなくてお互い即興でやろう」と意思疎通を交わす場面があるんです。そこは見ている人に伝わるかどうかという微妙な演出だったんですけど、意外と分かってくださる人も多くて、そういうあまり言葉を差し挟まない、身体で想いを伝える部分がダンスシーンでもドラマパートでもうまく伝わっているみたいで、よかったです。
―― あのドラムの位置(ステージ左奥)には何か特別な理由があるんでしょうか? 例えばステージ中央に配するなど他の選択肢もあったと思います。
これは、北川さんと守道さんのお話を伺って、舞台上のどこであればドラマーがダンサーの踊りを一番よく見られるのかということを考慮した結果、あそこの位置に決まりました。僕が初めてお二人のパフォーマンスを見た時も、ドラムはほぼ同じ位置にありました。ドラムを中央に配置しなかったのは、もしかしたらパフォーマンスがドラム中心の踊りに見えてしまうかもしれないという恐れがあったからです。今回は「ダンス」と「ドラム」が対等に、お互いがぶつかりあう、引っ張りあう関係性をしっかりと描き出したかったので、あそこの位置にしました。
―― 自身初の商業長編映画を撮り終えて、何か感じたことはありましたか?
そんなに今までやってきたことと変わりはないと思うんですけど、今回はやっぱり周りにベテランのスタッフさんたちが沢山いらしたので、映画を何本もつくってきた人の知恵をお借りできたのは作品にとってすごくプラスに働いたと思います。僕の商業デビュー作だからと言って、僕の好きなようにさせるのではなくて、ちゃんと先輩としてこの映画をよくしていくためには「俺はこういうふうに思う」ということを仰って下さる人が沢山いらっしゃいました。
ただ、それでもやっぱり自分の意見を通したい場面もありますし、人の意見に従うということではなくて、周りとぶつかって、引っ張りあって、それでやっと自分の監督作というものが出来あがるということを今回特に実感したので、何か本作のダンサーとドラマーの、自分たちらしいパフォーマンスがしたいけどなかなか上手くいかない、このままでいいんだろうかという苦悩や葛藤に近いものは、撮影中に感じたことを覚えています。
この映画の中に登場するダンサーの果穂は、人と何かを一緒にやることが得意ではありません。一緒に共演しようと約束したドラマーの気持ちを無視してしまうことも多々あります。それでも、最後には徐々に目の前の相手や周りにいる人たちと向き合うことができるようになり、果穂は人としても表現者としても一歩前に足を踏み出します。その果穂の背中を押すことで、自分も一歩前に進めたらいいなという気持ちはどこかにあったかもしれません。
―― 最後に、読者の皆様に一言ございますか?
僕は割といつも、自分とあまり関係のないものを映画の題材のひとつに選びがちなんですが、それはある種の好奇心と言いますか、知らないものと出会ってみたい気持ちが大きいからなんです。本作は「コンテンポラリーダンス」×「ドラム」、「ガール・ミーツ・ボーイ」の青春ドラマです。僕自身も、スタッフも、劇中の登場人物達もこの先何が生まれるか分からない不安がありましたが、それ以上に新しい何かが生まれるかもしれないことへの大きな期待もありました。そうした“魂”の躍動=ANIMA”が見る人の心に伝わって、何か一歩前に足を踏み出せるきっかけをつくれたらいいなと思っています。
プロフィール
堀江 貴大 (Takahiro Horie)1988年岐阜県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に参加し、短編映画『はなくじらちち』(2016年)を監督。初長編映画『いたくても いたくても』(2015年)は、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016」コンペティション部門にノミネートされたほか、「第16回TAMA NEW WAVE」コンペティションにてグランプリ、ベスト男優賞、ベスト女優賞を受賞。その後、渋谷ユーロスペースを始め、全国劇場公開される。 「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017」のオープニング作品として製作された本作『ANIMAを撃て!』で商業長編デビューを飾る。 |
映画『ANIMAを撃て!』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》クラシックバレエカンパニー「BAN」に所属し、ダンサーとしての将来を嘱望されている果穂(服部彩加)は、留学支援のための試験に挑むものの、クラシックなダンスを踊る自分に違和感を抱いていた。「BAN」の主宰兼振付家の伴(大鶴義丹)にその気持ちを指摘されてしまった果穂は、ホールの倉庫から聞こえてくるリズミカルなドラムの音色に誘われる。 その音の主は、ホール職員で元ドラマーの伊藤(小柳友)だった。 伊藤は一次試験直前に倉庫の中でトウシューズを脱いで思いのままに踊る果穂の姿を目撃し、音楽への情熱を取り戻していた。ドラムを叩く伊藤の前で、ありのままの自分を表現したダンスを踊る果穂は、最終選考の自由演目を伊藤のドラム演奏で、クラシックバレエではなくコンテンポラリーダンスで挑むことを決意する。 その方向転換に反対する伴やライバルダンサーの萌香(黒澤はるか)、その決断を後押しする果穂の姉・由美子(中村映里子)。果穂は迷いを断ち切るために「BAN」を退団し、伊藤と二人三脚で最終選考に臨もうとする。 |
撮影: 村埜茂樹
照明: 川邊隆之
録音: 山田幸治
美術: 畠山和久
音楽: 鈴木治行
編集: 稲川実希
スタイリスト: 宮本まさ江
ヘア・メイク: 大江一代
助監督: 加藤文明
制作担当: 森田博之
振付: 北川 結
ドラム作曲: 守道健太郎
クラッシクバレエ指導: 大岩静江
スチール: 首藤幹夫
製作: 埼玉県 / SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ
製作協力: 寿々福堂
制作: デジタルSKIPステーション
特別協力: 川口市
配給: アティカス
宣伝: ツインピークス 宣伝協力: MUSA
新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!