映画『誰かの花』村上穂乃佳 インタビュー
【写真】映画『誰かの花』村上穂乃佳 インタビュー

映画『誰かの花』

長谷川里美 役
村上穂乃佳 インタビュー

善意から生まれる悲劇とは…… 
映画が描く”現実の葛藤”と全身で向き合う 

横浜の映画館「シネマ・ジャック&ベティ」の30周年企画映画として製作され、第34回東京国際映画祭「アジアの未来」部門にてアジアの新人監督10作品に選出された映画『誰かの花』が1月29日(土)にユーロスペース、シネマ・ジャック&ベティほかにて全国公開された。

【画像】映画『誰かの花』メインカット1

強風吹き荒れるある日、団地のベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃する。認知症の父の安否を心配した息子とヘルパーが部屋に駆け付けると、ベランダの窓は開き、父の手袋には土がついていた……。事故か事件か。「誰かの花」をめぐり繰り広げられる偽りと真実の数々。キーパーソンの一人であるヘルパー・長谷川里美を演じた注目の若手俳優・村上穂乃佳に本作の出演について話を聞いた。

【画像】映画『誰かの花』メインカット2

「あのときどうすれば」ゆれる心を繊細に演じる

―― 本作は第34回東京国際映画祭にて「アジアの未来」部門に選出されました。おめでとうございます。

ありがとうございます。奥田監督とお会いしたはじめの頃に「この作品は、東京国際映画祭で流れるイメージがわきました!」と勝手にわたしがお話していたこともあり、現実になって嬉しかったです。

―― ご出演はどのように決まりましたか?

事務所を通してオファーをいただきました。わたしは奥田監督の長編第一作『世界を変えなかった不確かな罪』(2017年)を観ていたので、すぐに出演したいと思いました。

【写真】映画『誰かの花』村上穂乃佳 インタビュー

―― 前作から引き続き、奥田監督のテーマである「善意から生まれた悲劇」「不確かな罪」というものが本作でも描かれています。団地のベランダから落ちた植木鉢をめぐり、誰が加害者で被害者なのか。人間模様とその感情の揺れが交錯していきます。

誰にでも起こり得る目を背けられない題材で、脚本を読んでいて思わず「もし自分だったら」と置き換えてしまいました。そしてこの「善意から生まれた悲劇」という言葉はすごいですよね。ここまで大きな事件ではなくても、よかれと思ってやったことがその一方で誰かを困らせてしまうということは日常でもよく起きていると思います。そして本作は奥田監督の実際の経験から着想が得られたというお話を聞いて、その想いを一心に受けて望まないといけないなと思いました。キャストの皆さんも一緒になって同じ方向に進んだ作品だったと思います。

【写真】映画『誰かの花』長谷川里美 (村上穂乃佳)

―― ご自身が演じたヘルパー・長谷川里美という役はいかがでしたか?

私の役は第三者的な立場でしたので、映画を観る人たちと近い目線だなと思って演じていました。もし事故が起きたときに、ニュースなどで感情移入されるのは被害者側のことが多いです。けれども、本作は加害者側の立場にも立って、どちらのことも考えさせられるつくりになっています。植木鉢が落ちた原因は明確に描かれていません。結局植木鉢のあった部屋の持ち主が厳しい目を向けられるということになっていますが、里美はヘルパー先の主人公一家の父・忠義が触って落ちた可能性があるとも思っています。冤罪のようなままにしてはいけないという気持ちと、主人公一家に対する気持ちと、複雑な気持ちをたくさん抱えて演じていました。

【画像】映画『誰かの花』場面カット3

―― どうすることがよいことなのか、観ている側も揺さぶられました。

忠義の不審な動きを里美と一緒に見ていた主人公が口を閉ざそうとするのに対して「おかしいでしょう」という気持ちはやっぱりあります。里美は誰かのためになりたいとヘルパーの仕事を始めたまじめな人だと思いますし、主人公一家の一員というわけではありません。あの事故を客観的に見られる立場として言いたいことはあります。だけど当事者たちと距離がある分、他人がどう口出しをしていいのかが難しくて、里美は葛藤を続けます。脚本を読んでいる私自身も、色々なポジションにいるキャラクターの顔と気持ちが何度も頭をよぎり、今でもあのとき里美はどうすればよかったのか、悩んでしまいます。人間の複雑な心をあらわした、なかなか踏み入れない感情に迫った脚本だったのだと思います。

―― 映画館を出た後も地続きで考えさせられる映画でした。

そうした映画がとても好きで、出演できて本当によかったです。

【写真】映画『誰かの花』村上穂乃佳 インタビュー

―― ひとつ前にご出演した『みとりし』(2019年)もずっと考えさせられるテーマでした。俳優として経験を重ねていくうえで、何か心境として変わってきたことはありますか。

役作りにおいて、それは今までもやっていたことではありますが、もっと貪欲に、もっと役について追求することがまだまだ全然できる、終わりがないということを更に感じるようになりました。わたしたちの日常とつながるような映画のなかで、嘘がないようにその世界に馴染みたい、ちゃんと存在できる俳優になりたいと思う気持ちが今は更に強くなっています。

【写真】映画『誰かの花』長谷川里美役 村上穂乃佳

―― 俳優として、一個人として、心に留めている「この一作」というような映画はありますか?

西川美和監督の『ゆれる』(2006年)は定期的に何度も観ていまして、教科書として傍に置いている映画のひとつです。昔観たときと今観たときとでは印象が変わっていることが多くて、それは自分が変わっているということでもあるのでしょうし、そこを感じながら観るのが面白いです。わたしはやっぱり観終わったあともずっと感想が膨らんでいく作品に惹かれることが多いです。本作『誰かの花』も、たくさんの皆様に繰り返し観てほしいと思う作品です。

【写真】映画『誰かの花』長谷川里美役 村上穂乃佳

[インタビュー:大久保渉 / スチール撮影:久保昌美]

プロフィール

村上 穂乃佳 (Honoka Murakami)

1995年7⽉5⽇⽣まれ。愛媛県出⾝。
第15回ロサンゼルス⽇本映画祭(JFFLA)最優秀新⼈賞。出演作は『SCOOP!』(2016年/⼤根仁監督)、『みとりし』(2019年/⽩⽻弥仁監督)ほか。

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映画『誰かの花』予告篇🎞

映画作品情報

【画像】映画『誰かの花』ポスタービジュアル

《ストーリー》

鉄工所で働く孝秋は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義とそんな父に振り回される母・マチのことが気がかりで、実家の団地を訪れる。しかし忠義は、数年前に死んだ孝秋の兄と区別がつかないのか、彼を見てもただぼんやりと頷くだけであった。

強風吹き荒れるある日、事故が起こる。団地のベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが駆けつける騒動となったのだ。父の安否を心配して慌てた孝秋であったが、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。だがベランダの窓は開き、忠義の手袋には土が…。

一転して父への疑いを募らせていく孝秋。「誰かの花」をめぐり繰り広げられる偽りと真実の数々。それらが亡き兄の記憶と交差した時、孝秋が見つけたひとつの〈答え〉とは。

 
第34回 東京国際映画祭(TIFF) アジアの未来部門 出品作品
 
出演者: カトウシンスケ、吉行和子、高橋長英、和田光沙、村上穂乃佳、篠原篤、太田琉星、大石吾朗/テイ龍進/渡辺梓/加藤満/寉岡萌希/富岡英里子/堀春菜/笠松七海
 
脚本・監督: 奥田裕介
撮影: 野口高遠
照明: 高橋清隆
録音: 高島良太
衣装: 大友良介
ヘアメイク: ayadonald、大久保里奈
制作: 佐直輝尚
助監督: 松村慎也、小林尚希、高野悟志
音楽: 伴正人
整音: 東遼太郎
 
エクゼクティブプロデューサー: 大石暢、加藤敦史、村岡高幸、梶原俊幸
プロデューサー: 飯塚冬酒
 
製作: 横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
宣伝・配給: GACHINKO Film
 
2021年 / 日本 / 115分 / 5.1ch / アメリカンビスタ 
 
2022年1月29日(土) 全国ロードショー!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @dareka_no_hana
公式ハッシュタグ: #誰かの花
 

第34回 東京国際映画祭(TIFF) アジアの未来部門『誰かの花』舞台挨拶 レポート

第34回 東京国際映画祭(TIFF) アジアの未来部門『誰かの花』Q&A レポート

この記事の著者

大久保 渉ライター・編集者・映画宣伝

映画活動中/ライター・編集者・映画宣伝/フリーで色々/「映画芸術」編集部/「neoneo」「FILMAGA」執筆ほか/インタビュー・取材奔走/映画祭の運営協力色々/映画宣伝色々/元ミニシアター受付/桃と味噌汁が好きです。

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