音楽家 林ゆうき 独占インタビュー in 秋葉原国際映画祭2024
劇伴作家にフォーカスが当たるようにしていきたい
11月9日(土)~11日(日)に開催された秋葉原国際映画祭2024の正式招待作品 TVアニメ『青のミブロ』の音楽担当として、映画祭初日のオープニングイベントではレッドカーペットを歩き、2日目には舞台挨拶、3日目には一流映画人としてスペシャルトークショーに登壇した音楽家 林ゆうき。2009年から約15年間に渡り、錚々たる映画、ドラマ、アニメ作品の劇伴の制作に携わってきた彼に、当メディアは単独インタビューを行った。
人生初のレッドカーペットは秋葉原国際映画祭で
今後もこのような機会を増やしていきたい
―― この度、第1回目の開催となる秋葉原国際映画祭に参加されましたが、レッドカーペットを歩いてみていかがでしたか。
レッドカーペットは非常に光栄なことですね。人生でそんなことあるとは思っていなかったですから。僕は京都の出身で神社に行くことが多いのですが、神田明神は今回が初めてでした。『青のミブロ』チームとして和装で揃えて、参加できたことは自分の人生の中でも貴重な経験でした。
アニメのコンベンションなどで海外へ行ったりすることは多いのですが、日本国内ではイベントに参加することはそんなに多くないかもしれません。アニメ関係では声優さんにフォーカスされることが多いと思うので、劇伴作家として呼んでいただくことは日本では希少です。
今回呼んでいただけたことはとても嬉しいことですし、今後もこのような機会を増やしていって、劇伴作家という人達にフォーカスがあたるようにしていけたらいいなと思っています。
『青のミブロ』での新しい挑戦
―― 秋葉原国際映画祭で上映された『青のミブロ』についてもお聞かせください。上映前に行われた舞台挨拶では、「日本の古風なイメージにこだわり過ぎず、今の若い世代にも受け入れられるような曲にした」とお話しいただきましたが、今までの作品で近しい雰囲気の曲を作ったことはありましたか。
曲調だったり楽器編成という意味では近しいものはありましたが、作品ごとにオートクチュールで制作しているため、ちょうどピッタリ合うものというのはありません。強いていうなら、和楽器を使っていたという部分で、TVアニメ「SHAMAN KING」(2021年/テレビ東京)で尺八や琴を使っていました。
楽曲の方向性でいうと、ミブロはバトルものというよりは、青春群像劇というか、幕末のアオハルという感じが強いので、そこにフォーカスして音楽を作りました。
中田博也プロデューサーから、部活っぽさを意識して欲しいというオファーがあったので、「ハイキュー!!」のような楽曲のチョイスをしつつ、使っている楽器は「SHAMAN KING」のような和楽器というようなミックスになりました。そういった意味では今まで作った楽曲にはなかったかと思います。
―― 『青のミブロ』は、後に新選組となる壬生浪士たちが主人公の物語ですが、作曲するにあたって、彼らの歴史についても調べたりしたのでしょうか。
僕、割と幕末好きで、新撰組とかもすごく好きなんです。うちのスタジオには模造刀もあります。それは永倉新八モデルで。レコーディングの時にそれを持っていったりしました。新撰組っていろんな作品に出てくるじゃないですか。担当させていただいた連続テレビ小説「あさが来た」(2015年/NHK)も幕末から明治にかけての作品でしたので、新撰組が登場するシーンがありました。
(『青のミブロ』の主人公ちりぬにお役の)梅田修一朗さんも言っていましたが、新撰組は作品によっても描かれ方が違います。良い人達に見える時もあれば、ヤクザみたいな活動をしている人達と扱われる時もあります。『青のミブロ』ではまた独自の観点から描かれています。先入観なく『ミブロ』での新撰組をそのまま音に落とし込んだという部分が大きいですかね。なので、特に新撰組に関して掘り下げましたという感じではなく、今僕にある情報と、『ミブロ』での描かれ方を元に作りました。
―― 『青のミブロ』で新しくチャレンジした点などあれば教えてください。
他の作品でもヒップホップやラップが入った曲は制作したことがありましたが、それを和のテイストでやったというのは初めてでしたね。
メインテーマの「モノノフ」では、Ozworldさんに世界観をお伝えして、作詞をまるっとやっていただいたのですが、それは僕にとっては新しい経験でした。あれほど綿密な歌詞や、世界観をとらえたものはこれまでなかったので、素晴らしいなと思いましたし、サウンドトラックの可能性が広がったと思える経験でした。
アニメと実写の音楽制作の違い
―― 『青のミブロ』はアニメ作品ですが、アニメ作品と実写作品では音楽制作にどういった違いがあるのでしょうか。また、テレビシリーズと映画作品での違いについても教えてください。
アニメの場合、テレビシリーズと映画では、音量バランスの部分の違いが大きかったりします。特に子供向けの作品だとそれが顕著ですし、例えば「バーン!!」とヒットするところにピッタリと曲の頭を持ってくるとかは、通常テレビシリーズでは意図してやったりするんですが、アニメ映画の場合はワンテンポずらして効果音が「バーン!!」と鳴った後にメロディがフワっと聞こえるようにとか、引き算で考えて音楽を作ったりします。
実写映画の場合は、そこまで音楽で語って欲しくないというオーダーが多い場合もあるので、そういう時は、アンダースコアといって、後ろに引いたような楽曲を作ったりしていますね。
どのくらいわざとらしくメロディを出していいのかという、そういった匙加減を実写では意識しています。
―― やはり作品によって、オーダーのされ方も違うのでしょうか。
アニメでもドラマでもオーダーのされ方が特殊な時はありますが、概ねメニュー表だったり、映画の場合は音楽の線引き打ち合わせというのがあって、「セリフのここから始めて、徐々に音楽入ってきて、このセリフの時にピークを迎えて、主人公がこのシーンに変わった時には消えている」というように、どこに音を当てるかという打ち合わせをします。そうやって依頼通りに作る時もありますし、実際に作ってみたら、ここが繋がっている方がいいなとか、こんなプランはどうでしょうかと提案することもあります。それがみんなで作っていくということかと思います。映画はたくさんの人で作っていくものなので、それが面白いところでもありますね。
―― シーンに合わせて綿密なオーダーがあるとお聞きしましたが、アルバムとして発売されるサウンドトラックでは1曲ずつ楽曲が完成しているかと思います。これは制作の方法が違うのでしょうか。
違いますね。映画の場合は、フィルムスコアリングという方法でシーンに合わせてガチガチに作っているので、起承転結が結構途中で切れてしまったりします。例えば、主人公の少女が窓を開けた瞬間に曲がパッと止まるとか。曲的にはまだ続きそうなんだけど急に終わったりという感じですね。
サウンドトラックCDに含まれるような曲は、日本のテレビシリーズ(ドラマやアニメ)の場合が多いのですが、ほとんどは「選曲システム」という作り方を採用してます。オーダーのメニュー表があって、メインテーマだったら通常バージョン以外に、「静かなピアノバージョン」、「疾走感があるバージョン」、「悲しいストリングスバージョン」などと書いてあります。
他にも「コミカルな曲」、「コミカルでもさらにハチャメチャ感あり」、「アクションシーンで敵に追われてる」、「絶体絶命シーン」、「不穏な空気」みたいなにメニューがバーっとあって、大体20~30、アニメだと50とかそれ以上の場合もあります。
それをメニューに従って、シーンを頭に浮かべて、この作品だったらこういう曲だろうなと考えて、起承転結がある楽曲を作っちゃうんですね。その楽曲を納品して、それを音響監督だったり、選曲家という方々が各話のシーンのこの部分に曲のこの部分を当てて使おうということを選ぶんです。なので、僕らはダビングに行かなければ、自分の曲がどこで使われているか分からなかったりします。
さらにいうと、ステムという形式で納品しています。ステムというのは、「A」という曲があって、ピアノが主旋律で、ギターのバッキングが鳴っていて、その後ろでドラムが鳴っているとします。その楽器毎に別々のデータで納品しますが、ドラムが鳴っているとこのシーンにはマッチしないということがあった場合、選曲家や音響監督がドラムをミュートにします。
ピアノだけずっと鳴っていて、だんだんとギターが聞こえてきて、主人公がドアを開けるとドラムが鳴り出すようにすると、あたかもフィルムスコアリングしたかのように聴こえるので、そういう使い方をしています。
日本の劇伴が海外のものより起承転結が顕著なのは、そういった理由が大きいですね。聴く側としてもしっかりと聴き応えがあって、僕はこのやり方にすごく可能性があるなと思っています。
サウンドトラックの形式を取れているというのは日本の得意なところですので、いろんな人に聞いていただきたいなと思っています。
―― 林さんは音楽を作る(音を入れる)側ですが、“無音の美学”みたいなものも持っているのでしょうか。
ああ、もちろんありますよ。映画のダビングなんかで、自分の作った曲だったけど、ここは音楽いらないだろうと思えば、「カットしましょう」って提案することもあります。声優さんの息遣いだったり、役者さんの演技が素晴らしい時は、新鮮なお魚には何も手を加えず醤油だけでいいみたいな感じです(笑)。
ドラマ「リーガルハイ」(2012年/フジテレビ)では、堺雅人さんがすごく長台詞を全く噛まずにやり遂げるシーンがありますが、そのシーンは音楽がかかっていなくてよかったなとすごく思いました。ここは音楽で邪魔するべきじゃないって感じましたし、そう思える役者さんとご一緒できることはすごく光栄です。
普通の音楽家と違うところが林ゆうきの強み
―― 林さんは、年間に何作品も手がけていますよね。スケジュールはどのように意識しているのでしょうか。依頼のあったお仕事に対しては、とりあえずやりますって言ってしまうタイプなのか、それとも吟味して調整するタイプなのでしょうか。
「やります!」って言っちゃいますね。それで後で困るという(笑)。レコーディングから逆算して、いつどの曲を作ろうかなと考えるのですが、同時期に2~3作品とかそれ以上重なると、1本の作品に使える制作時間は限られてきます。
子供の世話とかしていたら、独身時代と比べて半分以下の制作時間になってしまうので、その中でどのように取捨選択して順位づけて作るかは意識しています。
1日の中でも制作が重なっていることも多いので、「A」の作品をやって、気分転換に「B」の作品をやって、そういえば「C」のチェックはしていなかったなとか、全体のバランスをみながらやっています。
―― ご自身の音楽家としての強みはどこだと思っていますか。
アカデミックなところを通ってこなかったところですかね。多分しっかり勉強していたら普通の発想になってしまうんじゃないかな。雑草畑でよくわからずに始めたから、音楽家が普通は行わないような作曲や編集をしていると思います。
そうでなければなんで僕を使ってもらっているのか、理由がよくわからないです。そこがやっぱり貴重だったのかなって。男子新体操というスポーツを元々やっていて、演技中に流れている伴奏曲が気になって、音楽が好きになって今の仕事をやらせていただいているという、普通とは違う背景から作曲家になったというのは強みだなって思っています。
―― どうしてもやめられないという音楽へのこだわりはありますか。
メインテーマに関しては特にこだわってしまいますね。時間が無い中でもこだわってしまったり。あとは、他の人とこっちの方がいいんじゃないかと意見が割れた時は、自分がいいなと思った方を選択した方が後々後悔しないと思ってますし、結果的に良かったということが多かったように思います。
こだわりというわけではないですが、最終的には自分がジャッジした方を残すようにしています。プロデューサーや監督の意見も大事なんですが、一番大事なのは観てくださるお客さんだと思うので、皆さんがこっちの方が喜んでくれるのかなと思うものを提供するということがブレないようにしています。
―― 最後にお聞きします。直近の目標、そして将来的な展望を教えてください。
んー、まず、将来的な目標のほうはすぐ答えられますね。今やっている劇伴サウンドトラックのフェスだったりコンサートを海外に持っていって、海外のお客さんに楽しんでもらってお客さんを呼べるようにすること。これは目標として決めています。
近々でいうと、、、そうだなぁ。ちょっとお腹が出てきたので痩せたいですね(笑)。
健康第一ということで。
プロフィール
林 ゆうき (Yuki Hayashi)
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TVアニメ『青のミブロ』PV 第二弾🎞
TVアニメ『青のミブロ』作品情報
キャスト
斉藤はじめ: 小林千晃
田中太郎: 堀江 瞬
土方歳三: 阿座上洋平
沖田総司: 小野賢章
芹沢 鴨: 竹内良太
近藤 勇: 杉田智和
永倉新八: 津田健次郎
原田左之助: 岩崎諒太
山南敬助: 河西健吾
藤堂平助: 戸谷菊之介
井上源三郎: 杉山紀彰
新見 錦: 梅原裕一郎
野口健司: 大野智敬
平間重助: 前田雄
平山五郎: 乃村健次
婆ちゃん: 定岡小百合
ちりぬいろは: 夏吉ゆうこ
スタッフ
シリーズ構成: 猪原健太
キャラクターデザイン: 大場優子、西田美弥子
音響監督: 亀山俊樹
音楽: 林ゆうき
制作会社: MAHO FILM
公式サイト: https://miburoanime.com/