映画『Vision』完成報告会見
河瀨直美監督作品通算10作目の長編映画が遂に完成!
「演じる」ではなく、「生きる、暮らす」俳優達の姿がスクリーンに。
18歳の時、初めて8ミリカメラを手にしてから約30年。今や、世界中で高い評価を受ける河瀨直美監督が、生まれ故郷である奈良県を舞台に、『イングリッシュ・ペイシェント』(1997年)で米アカデミー賞助演女優賞、世界三大映画祭すべてで女優賞を獲得したフランスの名女優ジュリエット・ビノシュ、そして、『あん』(2015年)、『光』(2017年)と河瀨監督作品2作に連続主演、日本が世界に誇る国際派俳優 永瀬正敏をW主演に迎えた映画『Vision』が完成し、6月8日(金)に全国公開が決定した。
3人の映画人の出会いは、世界最高峰の映画祭だった。
河瀨直美監督は2017年5月、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に『光』を出品。公式上映では約10分にも及ぶスタンディングオベーションが監督、キャストに贈られ、エキュメニカル審査員賞に輝いた。そんな映画祭の期間中、河瀨監督と主演の永瀬正敏が公式ディナーで、後に『Vision』のプロデューサーとなるマリアン・スロットと同席となり、ジュリエット・ビノシュを引き合わせてくれたのだ。やがて、国籍や言語の違いを越え、意気投合。ビノシュが河瀨監督の次回作の出演を熱望したことから、翌6月に制作が決定。河瀨監督はすぐさま、ビノシュと永瀬を当て書きし、オリジナル脚本を執筆。全編を奈良県・吉野で撮影した。
世界中が注目している河瀨監督渾身の最新作の完成を記念し、4月26日(木)に東京・目黒(ホテル雅叙園東京)にて、ジュリエット・ビノシュと共にW主演を務めた永瀬正敏、河瀨組初参加となる夏木マリ、岩田剛典、美波、そして河瀨直美監督を迎え、完成報告会見が実施された。
《イベントレポート》
まず、全編ロケが敢行された奈良県・吉野町の北岡篤町長が最初に登壇し、吉野山で撮影がされたことへの喜びを語り、映画『Vision』の完成を祝った。
登壇者より冒頭挨拶
永瀬: どうもこんにちは、永瀬です。本日はありがとうございます。昨日、映画が誕生(完成)しました。昨日二回試写があったのですが、二回目の遅い方の回を観させていただいて、毎回河瀨監督とご一緒すると観た後すぐに席から立ち上がれなかったりするのですが、今回は家に帰ってから心がどんどん震えてきてしまって、結局眠れずに徹夜でここにきました。その作品が皆さんに少しでも届きますように。本日はよろしくお願いします。
夏木: 鋭い感覚を持つ女・アキを演じさせていただきました夏木マリです。今日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。河瀨直美監督の新しい作品が、ファンタジックに出来上がりました。昨日私も初めて完成版を観させていただきまして、ストーリーがめちゃくちゃ新鮮でございました。初めて観る映画でございまして、脚本と全然違っておりました(笑)。それが河瀨組の作り方なんだなと思いました。私たちが現場で演じたパーツを本当に素敵に繋いでいただいて、生きることとか、日本の自然とか、全部入っていて、河瀨監督の映画がバージョンアップというのは私から言うのはアレですけど、また素敵に広がっていると思います。私はこの作品の中で、初日に監督から「1000年生きた女を演じて」と言われまして、まあ1000年生きたかどうかは是非ご覧いただいてご判断いただければと思います。どうぞこの映画をよろしくお願い申し上げます。
岩田: 謎の青年・鈴を演じました岩田剛典です。本日はお集まりいただきありがとうございます。今回自分は、河瀨直美監督作品初参加だったんですけど、撮影の中で色んな洗礼を受けました。本当に鈴として、まさに演じるのではなく、生きるということを監督から教えていただきまして。昨日初号を観させていただいたんですけど、とても美しい映画になりました。観ている方もきっと森の中にいるような錯覚に陥ると思います。それぐらい臨場感のある美しい映像です。この作品に出演出来たことを誇りに思います。是非この作品をよろしくお願いします。
美波: 本日はご来場いただきありがとうございます。私はジュリエット・ビノシュさん演じるジャンヌを永瀬さん演じる智に託してフランスに帰っていった花を演じました美波です。完成版を観て、私はこんなジャンヌについていったんだということを知って、とても驚きました(笑)。深い森にさまよって、でもどこか温かくて、こんな匂い、嗅いだことがあるような、過去に戻るような自分を振り返ることができる素敵な時間でした。是非よろしくお願いします。
河瀨監督: 1000年は生きてないんですけども10本の長編映画を作ってきたその30年の歴史の中で、この時代にこの映画を誕生させたことを誇りに思っています。吉野という土地。再生の土地で、皆んな、何か抱えながら引き寄せられ集まってきた。そしてまた離れていった。この度出来上がり、ここでもう一度会えた。そのことが私にとって宝物です。本当にこの映画を共に運んでいきたいと思っております。本日はよろしくお願いします。
ここからはMCによる各登壇者への質疑応答が繰り広げられた。
―― 吉野の森を再現した今回のステージ、永瀬さんいかがでしょうか?
永瀬: 僕と岩田くんは山守という山を守る役をやらせてもらったので、こういう会場でこういう会見をやらせていただくのは初めてだと思うんですけど、この作品でも世界で絶賛されている河瀨グリーンという世界にいさせてもらって、ここに帰ってきてまたみんなと会えているのがちょっと幸せな気分ですね。ジャンヌことジュリエットさんとかはいないですけどね。次の機会にきっと会えるんじゃないですかね。
―― 『あん』、『光』と続き、三度目のタッグとなりますが今回はいかがでしたか?
永瀬: 毎回違います。多分、監督は異次元からいらっしゃったんだと思います。僕が脚本読ませていただいて、役を生きていく過程で、最後の最後まで監督との到達点は絶対に一緒。それは自信があります。昨日観させていただいたら、それよりもはるかに遠くから見られている監督の目線というのが出来上がった作品にあって、こりゃまだまだだなと、もっともっと頑張らなきゃと思いました。
河瀨監督: 「まだまだじゃの」ってセリフが夏木マリ演じるアキから永瀬さん演じる智に放たれてますね。
永瀬: そうです(笑)。まだまだですね本当に。毎回本当に違うので、一回ゼロに戻していただいて、もう一回産んでもらったという感覚があります。河瀨メソッドと言いますか、智として山の中で暮らさせていただいて、血液を入れ替えるような、心を入れ替える作業を丁寧にやらせていただいて、チェンソーの練習もしまして。岩田くんはあっという間に二日ぐらいでそれをやっちゃいましたからね。
河瀨監督: 芸能人辞めたら山守やればいいのよ。
岩田: すごく筋肉痛になりました(笑)。
―― 夏木マリさんは唯一「Vision」の存在を知る女性として出ていますが―。
夏木マリ: 役というよりも、演じることは置いておいて、先ほど永瀬さんが仰った通り、私は2週間ぐらい吉野の山に住みまして、生きている、暮らしている間にドキュメンタリーのカメラが入ってきているなという意識でいました。智がよもぎ団子を食べているシーンについてなのですが、皆さん聞いてください。河瀨組はまず、よもぎを摘みに行くところから始まります。よもぎ団子のプロくらいになりましたよね。でも河瀨組は切り取るところは本当に一瞬で、山で暮らしている設定であれば、それを全部やらせていただくんですね。
河瀨監督からノルマをいただきまして、アキの住んでいるお家から一時間かけてお地蔵さんのところへ行き、花と水を替えるようにと。全部2週間やらせていただきまして、山で暮らせるようになりました。薪割りも上手くなりましたし、ご飯はおかゆを作っていました。iPhoneを取り上げられ、SNSも禁止で、1000年生きてますから、持ってるわけないだろうとなりまして。
すごくいい経験をさせてもらいました。死にそうになりましたけどね。監督と相談して、アキは何を食べているんだろうということになり、ご飯はおかゆを2週間食べたんですね。他の組ではない経験をさせてもらいました。
何歳になっても、新しい経験があるのだなと思いました。ありがとうございました。
―― 岩田さん、初めての河瀨監督作品に初参加することで
岩田: 初参加だったのですが、河瀨メソッドの洗礼をたくさん受けましたね。演じるではなくて、生きる、暮らすということで。衣装合わせで夏木マリさんや森山未來さんなど他のキャストの方と一緒になっても、ご挨拶に行くことができないんですね。役の中で絡まない人とは口を聞くなと。目も合わせてはいけないという河瀨組ならではのメソッドに驚きました。
俳優としてご挨拶させていただきたいところでしたが、本番のカメラが回ってるところで初めて鈴として智として、最初の初対面を撮りたいと。そういう部分を一番大事にされている監督だということを初日に即理解しました。
本当は1ヶ月ぐらい前から森に住んで欲しいと言われたんですけど(笑)、さすがにツアー中でしたので物理的に難しかったのですが、でも劇中に出てくるジュリエット・ビノシュさんも寝ている設定の納屋に住まわせていただきまして、寝起きと共に顔にカメムシが3匹ほどついているような、虫と共存していましたね。ですが僕は早々に風邪を引いてしまいその期間も終わり、その場所からはちょっと下山した民宿に滞在させていただきました。
河瀨監督: ありがとうございます。岩田くんは鈴になっちゃってて撮影後、東京に戻った時に三代目JSBのメンバーの人たちから心配されたんだよね。
岩田: そうですね。顔つきがだいぶ違っていたようで、「大丈夫?本当に森の人になってるよ?」って心配されました(笑)。
美波: そんな皆さんにとっても申し上げにくいんですけど、私はジュリエットとフランスから日本に来て、お醤油工場に行ったり、ボタニタルガーデンに行ったりして、すごく楽しくて(笑)。元々ビノシュさんのすごくファンで、役者といえばジュリエット・ビノシュというぐらい、彼女の背中を見て育っていたので、フランスで河瀨さんとのオーディションをスカイプでして、それだけでも痺れたんですけど、合格したことを聞いて、ビノシュさんと共演ということを聞いて、もう本当に街で携帯を見て号泣して、実際ビノシュさんと真に役を追求する姿とか役者のイデオロギーというものを生で感じることができたので、とってもとってもしびれました。ただ、言葉の難しさとか感覚の難しさはありました。ビノシュは神道とか古事記とかいろんな日本の歴史とかに興味を持たれていて、それらを翻訳するのが本当に難しくて、毎日しびれた日々でした。
―― この物語の着想はどのようなところから得られたものなのでしょうか?
河瀨監督: ジュリエットとマリアン・スロットというプロデューサーとの出会いはまさに去年のカンヌで、その後の3ヶ月ですべての準備を整えクランクインできたのはまさに吉野の人々の熱いサポートがあったからでした。
スタッフたちの宿とか食事とかも全部整えていかなければいけない。ましてやジュリエット・ビノシュさんが来て、どういったアテンドをしなければならないのか。でも世界的に有名な女優さんであったとしても、映画というものを中心に置くと、すごく生身でぶつかってくるプロ意識があります。どんな場所に住もうとも、たとえここで爆弾が落ちようとも私は逃げないということをビノシュさんからはまず言われました。そして山、森というものをテーマにしようと思ったのも、日本の奥深い森に行ってみたかったというビノシュの言葉がありました。
私も森を描こうと思っている時期でした。日本における森林、その意味について吉野の人たちにも取材を重ねて感じているものがあります。吉野の山の歴史は実に500年前に遡ります。勝手に山で杉の木が生えているわけではなくて、ちょんまげを結ってたような人たちが財を出して、そして素晴らしい木目の材を循環してずっと作ってきていた。ただ今現在、その担い手が確かにいるかというとそうではないんですね。こういった産業が衰退していくというのは、何かこう人間にとって財産であったのに、それが失われていってしまうというのはやがて自ら破壊し始めると。今回のテーマでもあるのですが、ジュリエットが、人間というものがどんどん発展しすぎるとやがて自らを破壊し始めてしまうと。それはどういうことがというと現代社会を生きていて自分たち本位で生活をしているとね、やはり自然というものは疲弊するし、地球自体が疲弊する。そんな状況の中で、何をしなきゃいけないのかを考えて、みんなとディスカッションし、この物語を作り上げました作家としての、人間として危機感が、まず原点にあって、それをどう一歩踏み出していけば、豊かなものに変容していくのかというのが根本の、真面目なところのはじまりです。
ここで、スペシャルゲストとして本作『Vision』の音楽を担当した文部科学大臣賞受賞の経歴を持つ国際的ジャズピアニスト・小曽根真氏が登場し、本作のテーマ曲をピアノ伴奏し、監督、キャスト陣はじめ会場内にいたすべての人たちを物語の世界へと引き込むような時間となった。
最後に監督、キャスト陣、そして大曽根さんでのフォトセッションが行われ、完成報告会見は大盛況のうちに幕を閉じた。
[スチール撮影: Cinema Art Online UK / 記者: 蒼山 隆之]
イベント情報
映画『Vision』完成報告会見■開催日: 2018年4月26日(木) |
映画『Vision』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》紀行文を執筆しているフランスの女性エッセイスト・ジャンヌ(ビノシュ)が奈良・吉野の山深い森を訪れる。彼女は、1000年に1度、姿を見せるという幻の植物を探していた。その名は“Vision”。旅の途中、山守の男・智(永瀬)と出会うが、智も「聞いたことがない」という……。ジャンヌはなぜ自然豊かな神秘の地を訪れたのか。山とともに生きる智が見た未来とは―。 |
企画協力: 小竹正人
エグゼクティブプロデューサー: EXILE HIRO
プロデューサー: マリアン・スロット、宮崎聡、河瀨直美
配給: LDH PICTURES
2018年 / 日本・フランス合作 / 110分 / PG12