悠久の時を繋ぎ、夏木マリとジュリエット・ビノシュが踊る
河瀬直美監督作品の魅力の1つは映像美である。映画『Vision』でも冒頭、電車がトンネルを抜ける瞬間の映像にはっとさせられた。真っ暗なトンネルの先に見えるまばゆい光。息をのむような美しさに、「その先が見たい」と引き込まれる。
本作で河瀬監督が舞台に選んだのは、生まれ故郷の奈良だった。主演は『あん』(2015年)、『光』(2017年)に続き、永瀬正敏。奈良・吉野の山深い森を守る男を演じる。その森に幻の薬草を探しに訪れたフランスの女性エッセイストを演じたのが、ジュリエット・ビノシュ。『光』がエキュメニカル審査員賞を受賞した第30回カンヌ国際映画祭で河瀨監督とジュリエット・ビノシュが出会ったことをきっかけに製作された。
男と女が出会い、惹かれあっていく。シンプルなストーリーが吉野の自然を際立たせる。森の息遣いまで聞こえてくるようだ。ところどころに挟み込まれる時系列から外れたシーンは、森が持つ記憶の交錯だろうか。監督が抱く自然に対する畏敬の念がうねるように絡まってくる。それを体現したのが、河瀨組初参加の夏木マリ。目が見えない老女役だが、全てを見通すかのような鋭い眼光を感じさせ、圧倒的な存在感を放つ。中盤に見せた森の中でのダンスは圧巻だった。根が生えたように自然と一体化し、魂の叫びが聞こえてきた。そして、ジュリエット・ビノシュの躍動感あふれるダンスがそれを引き継ぐ。
自然の中で命が育まれ、生き、そして地に還る。人間は小さな存在だが、繋いでいくことで悠久の時となるのだ。
映画『Vision』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》紀行文を執筆しているフランスの女性エッセイスト・ジャンヌ(ビノシュ)が奈良・吉野の山深い森を訪れる。彼女は、1000年に1度、姿を見せるという幻の植物を探していた。その名は“Vision”。旅の途中、山守の男・智(永瀬)と出会うが、智も「聞いたことがない」という……。ジャンヌはなぜ自然豊かな神秘の地を訪れたのか。山とともに生きる智が見た未来とは―。 |
企画協力: 小竹正人
エグゼクティブプロデューサー: EXILE HIRO
プロデューサー: マリアン・スロット、宮崎聡、河瀨直美
配給: LDH PICTURES
2018年 / 日本・フランス合作 / 110分 / PG12