- 2018-10-27
- イベントレポート, 第31回 東京国際映画祭, 記者会見
第31回 東京国際映画祭(TIFF)
コンペティション部門『ホワイト・クロウ(原題)』記者会見
俳優レイフ・ファインズが監督として来日!
第31回東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門に選出されたイギリス映画『ホワイト・クロウ』(原題:The White Crow)の記者会見が、10月27日(土)にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、来日した監督のレイフ・ファインズと、プロデューサーのガブリエル・タナが登壇した。司会進行はフジテレビの笠井信輔アナウンサー。
ロシア文化に深い造詣を持つファインズが、20年前に伝説的バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの伝記を読んで以来、構想を抱き続け3本目の監督作品として映画化。『ホワイト・クロウ(原題)』はヌレエフの半生を描いた作品。日本語で“白いカラス”を表すタイトルは、“類まれなる人物”や“はぐれ者”を意味する。監督兼俳優のレイフ・ファインズは、『ハリーポッター』シリーズ(魔法使いヴォルデモート卿)や『イングリッシュ・ペイシェント』(第69回アカデミー賞主演男優賞ノミネート)で知られるイギリスの実力派俳優。原作は、イギリスのバレリーナ、ジュリー・カヴァナ著(Julie Kavanagh)の「ルドルフ・ヌレエフの人生(Rudolf Nureyev: The Life)」。脚本は、アカデミー賞脚色賞にノミネート経験を持つデヴィッド・ヘア(『めぐりあう時間たち』『愛を読む人』)が担当している。
若い頃のヌレエフに感銘を受け制作までに20年
R.ファインズ: 皆さま、本日はお越しいただきありがとうございます。東京国際映画祭(TIFF)という名誉あるイベントに参加でき光栄です。私どもの人生をたっぷりと投入し、映画を作り上げました。この場でご紹介いただけることを嬉しく思います。
G.タナ: 皆さま、お招きいただきありがとうございます。素晴らしい経験にワクワクしています。日本の皆さんに映画を紹介できるのが楽しみです。
―― この作品はどこに一番力を入れて制作しましたか?
R.ファインズ: 一番強調したかったのは、ヌレエフのキャラクターです。若い男の子の、アーティストとして自己実現したいという意志と決意に感動しこの映画を作りました。ヌレエフの3つの時代(貧しい少年時代、レニングラードでの修業時代、パリを舞台にした西側への亡命劇)を組み合わせ、ポートレイトを描きました。一生懸命に闘ってきたものが、亡命の場面へと集約され、ラストの “I want to be free.”(自由になりたい)というセリフに導かれていきます。
バレエダンサーのオレグ・イヴェンコに白羽の矢
―― ルドルフ役のオレグ・イヴェンコ氏をどのように選びましたか?
R.ファインズ: このキャラクターを演じられる人物を探すことが、最も大事なことでした。バレエは幼い頃から習い、体に染みついたジェスチャーが外に溢れだす感じの踊りです。キャスティング後にバレエを習わせる事をやりたくなかったので、監督として神経質になっていました。ダンスシーンを代役にすると時間がかかり、スケジュール的にも難しい。演技もできるダンサーが見つかれば、その人を使おうと思い、ロシアで大オーディションを行いました。オレグ・イヴェンコは、最後に残った4~5人のうちのひとり。身体的にヌレエフに似ていました。ヌレエフは有名な人で逸話や記録が残っている人です。脚本にはドラマのシーンがたくさんあり、演技力のある人には凄く良いチャンスになるとも思っていました。オレグは知的で、人の話をよく聞き、スクリーンの演技を理解できる才能もありました。スターの資質として言われる「カメラに愛されている人」だと思いました。演技テストでは、さまざまなクォリティの感情を描けることもわかり、彼に決めようと思った次第です。
まるで本当の師弟のように
―― レイフ監督が直接オレグの演技指導をしたのですか?
G.タナ: オレグはトップダンサーですが、演技ができるかどうか最初はわかりませんでした。その中でレイフがオレグの才能をどんどん引き出していくのを見るのは、とても刺激を受ける出来事だったんです。オレグの方もドンドンとレイフから吸収をし、今ではダンサーよりも俳優になろうかなと方向転換を考えるほどに成長しました。実際に毎日英語のクラスを取り、一生懸命勉強をしています。それほどまでに変容的な出会いがあったということです。以前にはなかった自信もついたし、大きなギフトをレイフはオレグに与えたと思っています。二人のやり取りを見ることができ、とても有りがたい経験となりました。レイフは実に素晴らしい教師だったんですね。また私だけではなくクルー全員が、オレグの変容を遂げていく姿にとても感銘を受けていました。
―― レイフさんは俳優兼監督でしたが、監督に専念する提案をしましたか?
G.タナ: 元々のアイデアとしては、監督に専念しましょうということでした。ただ映画の商業的な価値として、やはりレイフが演じた方がいいという結論になりお願いをしました。彼は教師(プーシキン)の役でした。若いダンサーを実際に俳優として育てていく教師の役目を見るのは、ある種の詩的な部分があり、最終的に全部やった甲斐がありました。
亡命シーンに込められた思い
―― 亡命シーンには、レイフさんの政治に対するメッセージは入っていますか?
R.ファインズ: 特に政治的なメッセージをこの映画に込めたつもりはありません。私が興味を惹かれるのは、人間の内なる精神の発露です。そういう意味で作家のドストエフスキーにも興味があります。若いヌレエフが西側に亡命したという話を聞き、とても魅力的な映画になると思いました。背景には冷戦があり、イデオロギーの葛藤の中で個人とはどういう意味を持つのかなど、面白いテーマがゴロゴロあると思いました。ヌレエフは自分勝手で有名な人でしたが、純粋な精神が宿っているのだと思います。醜い部分と美しい部分とがあり、それが全ての核だと思うんですね。あの亡命シーンは事実ですが、友情というテーマもありました。「誰にも頼らない人は、いないんだよ!」と言われるシーンです。クララ・セイント(資産家の女性)は、ヌレエフに傷つけられましたが、彼を許し、移民、つまり自由にする手伝いをしました。また冷戦下のイデオロギーの表れとして、官僚のシーンがあります。ヌレエフに「誰が君の教育にお金を払ったんだ!お金を払ってくれた故郷の人を君は捨てるのか!」と諭します。あのシーンは、とても説得力があります。レニングラードという土地はヌレエフに教育を与え、闊達なヌレエフの精神がシステムに恩恵を受けた。けれども彼は、システム自体を挑発する精神の持ち主でもあったのです。あの状況でアーティストとは一体何なのか、個人とはどういう意味を持つのかを、ヌレエフのキャラクターや自己実現への強い意志を通して描けると思いました。
《イベント情報》第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
|
第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『ホワイト・クロウ (原題)』記者会見