- 2023-1-26
- インタビュー, 俳優, 女優, 日本映画, 第35回 東京国際映画祭

映画『あつい胸さわぎ』
主演・吉田美月喜 インタビュー
人生でたったひとつの初主演映画を通じて得た自信と新たな目標
「吉田美月喜がいるから安心だよね」って言ってもらえる女優になりたい
演劇ユニットiakuの横山拓也が作・演出を務め、各所で大きな話題を呼んだ舞台「あつい胸さわぎ」を、映画『恋とさよならとハワイ』(2017年)で第20回上海国際映画祭アジア新人賞部門で脚本賞と撮影賞を受賞したまつむらしんご監督と映画『凶悪』(2013年)で第37回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した髙橋泉の脚本で映画化!“若年性乳がん”と“恋愛”をテーマに、揺れ動く母娘の切実な想いを繊細さとユーモアを持って描いた、映画『あつい胸さわぎ』が1月27日(金)より劇場公開を迎える。
千夏の母親・昭子役の常盤貴子とのW主演で、主人公・武藤千夏役を演じたのは、Netflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」(2020年)、ドラマ「ドラゴン桜」(TBS/2021年)などで注目を集める若手女優、吉田美月喜。今作で映画初主演となった彼女に、今作への出演から今後の展望に至るまで話を聞いた。
―― 今回主人公の武藤千夏を演じることが決まり、この役をどのように演じようと思ったのでしょうか。初めに感じたこの作品への印象などもお聞かせください。
映画の企画書には乳がんの話があったり、ちょっと暗いイメージの役なのかなと思っていたんですけど、脚本を読んでみたら全然暗く思わなくて。とても明るく温かさを感じたのがすごく印象的でした。
撮影が終わった後に原作の舞台を監督と観に行ったんですけど、初めに感じた温かさはこの舞台から来ていたんだということをすごく感じました。いい意味でそのあたりを意識せずに演じることができたというか。病気と関わりながらも、青春とか甘酸っぱい恋とか、18歳の少女の成長の物語なので、そこは深く考えすぎずに演じていたのかなと思います。
―― 吉田さんから見た千夏の印象はどのような感じでしたでしょうか。
オーディションの時に監督がすごく私自身のことを聞いてくださったのですが、私がどういうふうに生まれて、どんな家族で、母とどんな関係なのかと、この映画の母娘像が重なる部分や共通点が多いなと思いました。千夏は私のそのままの姿が出ているなという印象です。
私も撮影当時18歳で、高校を卒業して大人になったと思いながらも結局は親がいないと何もできないという、浮ついたドキドキしたような感じはすごくわかるなと思いました。
どこに当てたらいいのかわからないモヤモヤを抱えているところとか、それがわからないからこそいろんなとこに当たってしまうところもとても共感できる役でした。
―― 千夏について共通点が多いとのことですが、具体的にはどのあたりが似ているなと思ったのでしょうか。
まずこの作品の中で母娘関係がとても大切な部分になると思いますが、私も母と仲が良くて、頻繁に喧嘩もします。千夏も母といろいろぶつかったり、すれ違いが起きたりしますが、それまではきっと千夏と姉妹のようなシングルマザーの母娘で、二人三脚でやってきたようなところがあるんだと思います。私も母と「姉妹みたいだね」って言われることが多かったり、お互い気が強いのでぶつかっても私も母も絶対に負けないようなところがあって、何か勝手に似ているなと共感していました。
―― 母・昭子と千夏の関西弁のシーンが印象的でした。関西弁で演じるのは苦労はしませんでしたか。
監督とは方言に気を取られすぎてしまうと演技が疎かになってしまうのでそれは違うよねって話をしていました。
現場に入る前にボイスサンプルをいただいたりしていましたが、私自身がそれまでに何回か関西弁の役をやらせていただいていたのもあって、できるだけ無理せず自然に出せる関西弁でいこうということになりました。ちょっと違うなというところは現場で常盤さんに直接直していただきました。劇中で千夏が関西弁を使っているのは母とのシーンだけですが、関西弁だからこそ家族ならではの距離感を表現できているのかなと思っています。
―― 常盤さんとの掛け合いがまさに流れるようでしたが、実際に常盤さんとの共演シーンの撮影はいかがでしたでしょうか。
常盤さんとは衣装合わせの時に少しお会いしたんですけど、ちゃんと話したのは現場に入ってからでした。常盤さんは現場に入った時から“関西のおかん”感をすごく出していて、「あっ、関西のお母さんだ」という感じですっと入ってきました。でも初めは緊張もしていましたし、ちゃんと母娘に見えるかなという不安もあって、それこそ映画の一番初めの、「焦げてて食べれるとこないやん」というシーンは、現場で一番初めのテイクでしたけど、それが終わった後には監督に「ちゃんと母娘に見えてたよ」と言ってもらえて、一つほっとしたというか。その後も安心して演じることもできました。
―― 常盤さんの印象はいかがでしたか。
私自身がずっと芯のある女性になりたいと思っていて、母からもずっと言われていることがあるんです。まさにそういう女性像というか、常盤さんがいるだけで、現場に安心感があって、すごい引き締まる感じでした。そういう雰囲気が私の憧れる女性像のまんまだなという印象でした。
大先輩から直接演技を受けて演技で返せるという経験は、とても貴重な経験だったと思います。
特に好きな常盤さんのシーンで、母の失恋のようなシーンがあります。一見暗くなっちゃいそうだけど、なんかクスッと笑っちゃいそうな雰囲気に持っていく間のとり方とか表情とか、本当勉強になることばかりで、良い経験になりました。
―― 常盤さんともそうですが、川柳光輝役の奥平大兼さんや花内透子役の前田敦子さんなど、千夏はそれぞれ対峙する相手によって少し違う顔が見えるところがあります。同年代の奥平さんと、ちょっとお姉さんの前田さんですが、2人との芝居はいかがでしたか。
前田さんは現場ですごくフレンドリーで話しかけてくださる方で、それこそ千夏にとって憧れのお姉さんという役でしたが、本当にそのまんまという感じでいてくださりました。私が主演映画の撮影が初めてだから、そう思わせてくださるようにそうしてくださっていたのかなとも思ったりはするんですけど。
千夏が母(昭子)とぶつかるシーンと、トコちゃん(花内透子)とぶつかるシーンは、それぞれ違うように演じたいなと思っていて、トコちゃんとのシーンは女と女のぶつかり合いでした。その時も前田さんがお姉さんでいてくれながら、対等な目線で会話をしてくださる方だなとすごく感じて、もどかしい気持ちも共感しながら演じることができました。
奥平君は私の一つ年下ではあるんですけど、全然年下とは思えないぐらい堂々としていて、雰囲気もあって自分を持ってらっしゃる方です。千夏が光輝に抱いている頼もしいなという気持ちと重なる部分はあるなと思っていて、人としてすごく魅力的な方です。光輝というキャラクターもそうなので、ちょっと大人に、ちょっと背伸びして接してるところも全然違和感なく演じていたので、そこが彼の魅力だなと思います。
―― 奥平さんとは事務所が一緒ですが、以前から顔見知りだったのでしょうか。
奥平君とはドラマ「ネメシス」(2021年/NTV)で共演しました。その時にちょうど私が『あつい胸さわぎ』への出演が決まって、奥平君は「今度監督と顔合わせというか、会ってみるんだ」という感じの状況でした。それから光輝役に奥平君も決まって、まつむら監督と3人でワークショップをやらせてもらった時、奥平君の人柄やこういう演技をされる方なんだなというのはそこで初めて知った感じです。
お互い演技のことに関して、どういう価値観を持ってやっているのかというのはいっぱい話しました。そこはすごく勉強になりました。
―― 主人公の千夏は若年性の乳がんを患ってしまう役ですが、同年代でもある千夏を演じて吉田さん自身の心境の変化はありましたでしょうか。
私もこの作品の話が来るまで、乳がんというものは正直まだ先のことだと思っていました。実際に役作りのためにいろいろインターネットで調べてみても、いろんな情報がありすぎて結局どれが正しくてどれが間違えなのかよくわからなかったです。千夏もきっとそういうところですごく不安に思っていたのではないかと思います。千夏は周りのいろんな人から支えられて、ずっと見守られている役だと思っていて、演じる上で私自身も温かく感じていました。
乳がんとか病気だけに関わらず私にもコンプレックスがあるし、人に言い難いこともあります。そういう時に時間をかけてゆっくりでもいいから、見守り続けてあげるというのは、すごくその人の支えになると思います。それをこの作品の撮影を通して感じました。
―― 千夏は病気以外にも、恋愛のことや将来のことをいろいろ考えなければいけない状況にあって、いろんな感情があったと思いますが、その感情をどのように表現して演じようと心がけたのでしょうか。
千夏は、周りから支えられているからこそ、自分の恋も、母の恋も、病気のことも、思いっきり悩むことができています。それは周りがちゃんと見守って支えてくれているからこそ、千夏はずっとぶれずに生きていけると思っていました。他人や周りに頼りすぎな部分はあるんですけど、私自身千夏を演じる上で全部に平等に思いっきり悩もうと思っていました。
―― 千夏の恋愛面についてもお聞きかせください。初恋の相手である幼馴染に再会し、なかなか想いが伝えられない千夏ですが、恋愛についてはどのように思われましたか?
そうですね、甘酸っぱい感じで、観ている側も緊張しちゃうような感じなんです。人としても頼りになる光輝に惹かれる気持ちもよくわかります。その中で母の恋愛も関わってくるので、いろいろ浮ついていたり、感情のぶれだったりがすごく繊細に出ているのがこの作品の特徴だと思います。
―― では、自分が千夏の立場だったらこうしたいとかはありますか。
そうですね、どうしたいんだろう….難しいですね。同い年ぐらいなのであんまり言えないんですけど、やっぱり恋愛の正解ってどうしてもわかんないじゃないですか。だから難しいところがあるんですけど、まだ人生は長いと思うので、千夏が経験した“この夏の出来事”は将来のための大きな経験になっているんじゃないかと思います。
―― 千夏は病気になったことがきっかけで将来のことを考えるようになったと思いますが、吉田さんは自分の将来についてはどのようなことを考えていますか。
『あつい胸さわぎ』のほかにも2作の主演映画をやらせていただいていますが、どの作品でも主演らしくいようと思いながらも、結局誰かに支えられてばっかりだったなという反省点や新たな気づきがありました。
現場で「吉田美月喜がいるから安心だよね」って言ってもらえる女優になりたいという新しい目標ができたんですけど、そうなるためにはいろんな現場の経験が必要かなと思っています。だからこそ、この初めての主演映画で東京国際映画祭に出させていただいたのがすごく貴重な経験でした。初主演映画というのは人生でたった1つだけなので、それを無駄にしないようにこの作品での経験をバネにして、いろんな役を経験して、いろんな引き出しをもっと集めなきゃいけないと考えています。
今後は自分と遠いキャラクターの役にも挑戦したい
映画『あつい胸さわぎ』を通じて得た自信
このインタビューには、『あつい胸さわぎ』のプロデューサーを務めた恵水流生も同席。撮影現場を共にしたプロデューサーの立場からもインタビューが行われた。
恵水: 今回はわりと自分自身に近い役だって言っていましたけど、今度は逆に遠い役を観てみたいですね。
吉田: 新たな発見があってすごく楽しそうですね!
恵水: 自分と遠いのってどういう感じの役ですか?めっちゃギャルとか?(笑)
吉田: それ、すごい遠いですよね!あと、ちょっとサイコパスの役とかも(笑)。でも正直サイコパスな役より、私は“陽”の役のほうがすごく難しいなって思っていて。だからギャルとかのほうがすごく難しいです。実は近々、ギャルまでいかないんですけど、すごく明るいキャラの役もあります。ちょっと不安な部分もありながらですが、そういう自分にとって挑戦的な役が来るのはとても楽しみです。
恵水: 『あつい胸さわぎ』の撮影に入る前に僕と(脚本の)読み合わせを一緒にさせていただいたじゃないですか。あの時から撮影現場を経て、クランクアップして、役者として何か変化はありましたか?
吉田: とても大きいと思います。ちょうど千夏は18歳で心揺れる時期という部分で描かれていますけど、ちょうど私も同じ時期だったので、俳優としてどのようにしていけば良いのかとか、演技での悩みだったり、オーディションでなかなか上手くいかないとか、そういう悩みもありながらの撮影でした。
この作品を通じて新しい課題も見つかったんですけど、いい意味で自信を持たせてもらえたと思います。だからこそ、このまま頑張っていきたいと改めて思えたのが大きかったです。しかも映画を観てくださった方から「良かった」って言っていただける声があるのはとても嬉しいことです。
―― 最後に、改めて映画『あつい胸さわぎ』の見どころや注目ポイントをお聞かせください。
吉田: 東京国際映画祭でのワールドプレミア上映を観客のみなさんと一緒に観させていただいたんですけど、その時に(上映中に観客から)笑いが起こったのが私的にすごく嬉しくて。それまでは試写とか自分一人で映画を観ていたので、まさか笑いが起こるとは思いもよらなかったです。笑っていただいた時にすごく安心しました。
この映画は18歳の少女の青春の成長の物語だよっていうのを感じていただけたらすごく嬉しいなと思います。あと同年代の方とかだと、千夏に共感できる部分もあると思いますし、お母さん世代だと自分の娘がという部分でも共感できるし、試写を観た男性の方からも「良かったよ」って言ってくださる方が多くて、それもすごく嬉しいです。なので、どんな世代の方にも共感していただけたり、理解していただけたり、発見がある作品だと思います。ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
プロフィール
吉田 美月喜 (Miduki Yoshida)
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映画『あつい胸さわぎ』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》港町の古い一軒家に暮らす武藤千夏(吉田美月喜)と、母の昭子(常盤貴子)は、慎ましくも笑いの絶えない日々を過ごしていた。 小説家を目指し念願の芸大に合格した千夏は、授業で出された創作課題「初恋の思い出」の事で頭を悩ませている。千夏にとって初恋は、忘れられない一言のせいで苦い思い出になっていた。その言葉は今でも千夏の胸に”しこり”のように残ったままだ。だが、初恋の相手である川柳光輝(奥平大兼)と再会した千夏は、再び自分の胸が踊り出すのを感じ、その想いを小説に綴っていくことにする。 一方、母の昭子も、職場に赴任してきた木村基春(三浦誠己)の不器用だけど屈託のない人柄に興味を惹かれはじめており、20年ぶりにやってきたトキメキを同僚の花内透子(前田敦子)にからかわれていた。 親子二人して恋がはじまる予感に浮き足立つ毎日。 そんなある日、昭子は千夏の部屋で“乳がん検診の再検査”の通知を見つけてしまう。 娘の身を案じた昭子は本人以上にネガティブになっていく。だが千夏は光輝との距離が少しずつ縮まるのを感じ、それどころではない。「こんなに胸が高鳴っているのに、病気になんかなるわけない」と不安をごまかすように自分に言い聞かせる。 少しずつ親子の気持ちがすれ違い始めた矢先、医師から再検査の結果が告げられる。 初恋の胸の高鳴りは、いつしか胸さわぎに変わっていった…
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脚本: 髙橋泉
音楽: 小野川浩幸
配給: イオンエンターテイメント、SDP
制作: オテウデザール