第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&Aレポート
【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

第31回 東京国際映画祭(TIFF) 
コンペティション部門『ホワイト・クロウ(原題)』Q&A

伝説のバレエダンサー、ヌレエフの若き日を描きたかった理由

第31回東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門に選出された映画『ホワイト・クロウ』(原題:The White Crow)のQ&Aが、10月27日(土)にEX THEATER ROPPONGIで行われ、監督のレイフ・ファインズが登壇した。司会進行はコンペティション部門プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦氏。Q&Aは『ホワイト・クロウ』の上映後、続いて行われた。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

レイフ: 皆さん、暖かくお迎えいただき、わざわざ観に来ていただいてありがとうございます。私にとっても、プロデューサーのガブリエル・タナにとっても非常に光栄なことです。本当にありがとうございます。

矢田部: 3本目の監督作品ということで、1本目『英雄の証明』がシェークスピア悲劇「コリオレイナス」を現代風にしたもの、2本目『ジ・インヴィジブル・ウーマン(原題)/ The Invisible Woman』がチャールズ・ディケンズを愛した女性の物語、そして3本目がルドルフ・ヌレエフの物語。題材の選び方がバラエティに富んでいて驚かされました。今回、どうしてルドルフ・ヌレエフを取り上げたのか教えていただけますか?

レイフ: これは若きヌレエフのお話しです。有名なヌレエフの伝記映画ではなく、若いアーティストが、人間として自己実現をしたいという強い欲望の物語。ダイナミックで、生き生きとした精神に感動しました。ヌレエフは、時には人を怒らせても、自分が自分になりたいと言い張ったことで有名です。ダンサーとして完璧を目指すという、強いアーティスティックな欲望が勝ったのです。背景に冷戦というイデオロギーの対立もあり、その中で「自分は自由になりたい」と主張します。それは人間的な自由を獲得するという事で、本当に勇気ある行動だと思いました。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

来場者からのQ&A

―― レイフ・ファインズさんは出演と監督と制作をしていますが、立ち位置の違いはありますか? 編集や他にも分野があると思いますが、手を伸ばしたい分野はありますか?

レイフ: 監督としては、まだまだ勉強している段階だと思います。これは私の夢ですが、もう一本作る事があれば、今度は俳優をやらず監督に専念したいですね。俳優と監督をやるのは、大変すぎます。編集も他もそうですが、独特で特殊なスキルなんですね。今回は多くの方のスキルに恵まれました。撮影監督もそうですし、デザイナー、エディターの方、そしてもちろん俳優さんたち、オレグ・イヴェンコさんを始めとする素晴らしい俳優さんたちに恵まれました。今回の映画ではプロデューサーにも名前を連ねていますが、実績のあるガブリエル・タナさんのような素晴らしいプロデューサーに恵まれたからできたわけなんです。ですからプロデューサーとしての心配をすることなく監督に専念したいというのが、次作への希望です。

―― 主人公のオレグ・イヴェンコさんをどのように選びましたか? 演技経験のない方をどうやって指導しましたか?

レイフ: 最初からはっきりわかっていたのは、演技ができるダンサーが欲しいということでした。そこでロシア中で大ががりなオーディションをして、最終的に残ったのが4~5人。オレグさんはかなり最初の段階から注目をしていました。いくつかの決め手になったことがあります。皆さんが顔を知っている人の映画を作る際、やはり似ているかどうかは問題になると思います。オレグさんはかなり似ている顔だと思いました。カザンの舞踊団に所属しているウクライナ人ですが、タタール人っぽいところも。演技指導に関して一番大きかったのは、元々彼がスクリーンにおける演技の才能を本能的に持っていたことでした。私が才能を育てていった部分もありますが、とても理解が速かったです。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

―― 一番印象に残っている国と印象に残っている出来事は?

レイフ: 私はロシア文化にとても愛情を持っています。その中でもサンクトペテルブルグ(旧レニングラード)が非常に印象深いです。建築が素晴らしい、またエルミタージュ美術館も有名ですよね。あのサンクトペテルブルグで撮影できたことは、私にとって感動的な意味がありました。気持ちが一番興奮したのは、サンクトペテルブルグのロッシ通りのテイク。バレエ界では憧れの有名な通りです。

ヌレエフがバレエ学校に入るために素朴な木の扉を開けたシーン。実際にあった出来事ですよ!撮影したあの朝を今でも印象深く覚えています。何度もあの場所に通いました。エモーショナルな瞬間は、他にもあります。レンブラントの絵画「放蕩息子の帰還」を見上げるシーンがあります。あのシーンは象徴的な意味でとても大事です。放蕩息子が外に行って、また戻って来たところと関連しているわけです。エルミタージュ美術館で実際に撮らせてもらいました。

エルミタージュ美術館では、長編映画には使わせないというポリシーがあります。ですが、ソクーロフ監督の映画『エルミタージュ幻想』の時に使われていたんです。それ以降なかなか使わせてもらえなくなったらしいです。エルミタージュ美術館の館長さんと偶然お話しができました。これはヌレエフの映画であること、美術館全体を美しい背景として撮るのではなく、レンブラントのこの絵について撮りたい、という事で説得することが出来ました。

その日はエルミタージュを閉館してもらい、その部屋を我々だけで撮れたんです。特別な瞬間でした。それからパリのルーブル美術館でも、誰もいない閉館日に撮りました。ジェリコの絵を見上げるシーン、あれは実際に展示されている美術館で、本物のジェリコの絵を撮ったんです。その現場を曲がった角に、なんと「モナリザ」の絵がありました。私のアシスタントが「ちょっと来て!見た方がいいわよ!」って呼ぶので、行ってみたら本物の「モナリザ」の絵画がありました。じっくりと自分一人で「モナリザ」を堪能できたのも非常に印象深い出来事でした。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

―― どうしてあんなにロシア語がお上手なんですか?

レイフ: 実は、そんなに流暢ではありません。ちょっとはしゃべりますが。一生懸命練習をしました。素晴らしいロシア語通訳の方に助けてもらい、撮影後にかなり修正をいたしました。

―― サンクトペテルブルク以外にお好きな街はありますか?

レイフ: セルビアは何度も行き、多くのシーンを撮りました。セルビアが映画制作に対して友好的な国だからです。ベルグレード(ベオグラード)では映画を撮った事もあり、とても居心地が良く幸せに感じます。パリはロケーションと撮影、俳優さんやプロダクションとのミーティングでも訪れます。ロンドンからも近いのでよく知っている街です。クロアチアでは映画を撮影していないと思いましたが、舞台をやったことがあります。クロアチアのビーチに夏に何度も行きました。ここはお仕事以外で良く知っているということですね(笑)。

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

―― 次回の監督作品の構想はありますか?

レイフ: そう言っていただけるとありがたいのですが、今のところ何も予定はございません。来年、俳優としての素晴らしい仕事が何本かあります。これから数か月後、何かアイデアや心惹かれるストーリーが見つかったらぜひ挑戦したいです。

[スチール撮影&記者: 花岡 薫]
 
 

イベント情報

第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
<映画『ホワイト・クロウ (原題)』上映後 Q&A>

■開催日: 2018年10月27日(土)
■会場: EX THEATER ROPPONGI
■登壇者: レイフ・ファインズ(監督/俳優)
■MC: 矢田部吉彦(コンペティション部門、日本映画スプラッシュ部門 プログラミング・ディレクター)

【写真】第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『ホワイト・クロウ』Q&A (レイフ・ファインズ)

第31回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『ホワイト・クロウ (原題)』Q&A

映画作品情報

【画像】映画『ホワイト・クロウ(原題)』メインカット

第31回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 出品作品
 
原題: The White Crow
 
監督: レイフ・ファインズ
 
キャスト: オレグ・イヴェンコ、アデル・エグザルホプロス、ラファエル・ペルソナ
 
2018年 / イギリス / 英語 / カラー / 127分
 
© 2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS
 
映画公式サイト

IMDb: www.imdb.com/title/tt5460858/

この記事の著者

花岡 薫ライター

自分にとって殿堂入りのスターは、アラン・ドロン。思い起こせば子どもの頃から、愛読書は「スクリーン」(SCREEN)と「ロードショー」(ROADSHOW)だった。朝から3本立てを鑑賞し、英語のリスニング対策も映画(洋画)から。お腹が空くまで家には帰らなかったあの日々が懐かしい。
今も変わらず洋画が大好きで、リチャード・ギア、ロブ・ロウ、ブラッド・ピットとイケメン王道まっしぐらな性格も変わらず。目下の妄想相手はアーミー・ハマー。カッコいい俳優さんたちが、人生の好不調に耐えて充実した50代を迎えられる姿を、陰ながら応援をしていきたい。

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